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インドのBtoC市場開拓に必要な現地消費者の理解

~現地の消費者調査から~

2013年7月11日(木曜日)

1. はじめに

インドは人口動態や経済成長に伴う所得の増加といった需要サイドの条件を考えれば、非常に有望な市場である。にもかかわらず、日本企業の進出は現時点で約1,000社にとどまっている。これは中国に進出している企業数が約20,000社あることを考えると、非常に低い水準と言わざるを得ない。背景には、道路や電力などのインフラ不足、複雑な商習慣・税制、政府による規制など、様々な要因がある。しかし、こうした問題は日本企業だけが直面する問題ではない。

日本企業はマルチスズキ、三菱化学など一部の例外を除いて、インド市場で苦戦を強いられているのが実情である。例えば、インドへ同時期に進出しながら、トヨタ自動車は売上や市場シェアで現代自動車の後塵を拝し、パナソニックもLG電子に遠く及ばない状況が続いている。この理由として、初期投資額の違いもあるものの、それ以上に消費者理解の差が業績の差となっていると想像される。

例えば、現代自動車は事前調査の段階で、インド市場では小型車がニーズの中心となることを確信し、小型車「サントロ」を投入する。また、ターバンを巻いた人が乗っても支障がないように車高を高くするなど、消費者実態に即した工夫を重ねた。一方、トヨタ自動車は進出当初、インドネシアで型落ちとなった多目的車を投入し、売上を大きく伸ばすことはできなかった。

また、LG電子は「冷蔵庫は白物家電」という常識を覆し、インド人の好みに合わせ、カラフルな色合いや花柄デザインを揃えて人気を博した。停電時も保冷機能が持続するといった工夫も併せて行っている。パナソニックも2000年代後半になって、現地適合への舵を切る。例えば、インド人主体のボリュームゾーン・マーケティング研究所を作り、消費者理解に努めている。例えば、エアコン「キューブ」の開発において、インド人はエアコンをほぼ一日中つけっ放しなので、リモコンを省略した。しかし、後に節電意識も高いことを悟り、後続機種には付加するといった試行錯誤も行っている。このように、特にBtoC市場においては、現地消費者の理解に基づく商品の開発・投入が不可欠であることがわかる。

こうした中、インド政府は複数ブランドを扱う小売業に関して外資への解禁を決めた。これによって、ウォルマートなど外資の大手小売企業は、店舗展開の準備を進めている。果たして日本の小売企業にビジネス機会はあるのだろうか? これに答えるためには、現地の消費者特性を明らかにすること、およびビジネス環境を検討し克服すべき課題を明らかにすることの両側面が必要となる。本稿では主として前者について検討することとする。

2. インド都市中間層の消費者像

インドは多民族、多言語、多宗教の国家であり、地域差が大きい。例えば言語は、公用語だけでも英語、ヒンディー語を含めて23存在し、ローカル言語を数えると1,600以上あると言われる。このため、食習慣も地域ごとに違いが際立っており、例えば穀類や食用油のような基礎的な食品の売れ筋も州ごとに異なっている。その一方、都市部の中間所得層以上では、ライフスタイルや価値観が均質化しつつあるといった実態も見られる。そこで、多くの日本企業が文化的な親和性が高いとして進出候補とする南インドの2都市(チェンナイ、コインバトール)の中間所得者層以上の320人を対象とした消費者調査を実施した。調査内容は、日常的な消費ニーズ、小売店舗に対する満足・不満の要因、店舗評価の構造(品質、価格、顧客経験の影響)であり、調査結果に基づき特徴整理を行った(*)

明らかになった消費者特性を、日本の消費者と比較して類似点・相違点という観点から整理すると、以下のようにまとめられる。類似点は、インド消費者が先進国化しつつある特徴、相違点はまだ先進国とは乖離している特徴と解釈することもできる。

日本の消費者との類似点
(1)冷凍食品・インスタント食品・中食への旺盛な需要がある
(2)小売店の店頭で様々なサービスニーズがある
(3)店舗評価の上で品質、価格のほか、顧客経験が重要な差別化要因となっている

日本の消費者との相違点
(4)店舗評価は品質、価格、顧客経験でほぼ説明できる
(5)店舗へのロイヤルティは日本と比較すると獲得しやすい
(6)顧客経験プロセスにおいては、いずれの段階でもスピードが主要な評価ポイントとなっている

3. 日本の消費者との類似点

以下、日本の消費者との類似点(1)~(3)について説明する。(1)に関しては、冷凍食品、インスタント食品は都市部の世帯年収が高い世帯から順に、「スーパーなどで日常的な購入対象」となっていることが示された。また、マクドナルドやサブウェイへ納入する地場の食品会社が、朝食を作る時間のない共働きファミリー向けに、冷凍フライドポテトや冷凍オムレツを市場投入するという、ごく最近の動きがある。また、ウォルマートも、プライベートブランドによる冷凍食品の投入を準備中である。また、お弁当のような中食に相当する食品も都市部で売れ行きを伸ばし、ファストフード店が次々と建つなど、都市部の食生活が先進国化していることがわかる。

次に(2)の店頭でのサービス需要に関して、「○○というサービスがあったら使うか?」との質問に対しては、「絶対利用しない」「たぶん利用しない」「わからない」を選択した回答者は少なく、約9割の回答者は、「必ず利用する」あるいは「たぶん利用する」を選択している。「必ず利用する」を選択した割合が高い順に、「電気料金などの公共料金の支払い」「バス・電車などのチケット予約・発券」「荷物の配送・受け取り」となっている。こうしたサービスは、東南アジアや中国ではすでに普及し始めているものの、インドではまだ一般には普及していない。しかし、ニーズは大きいことがわかる。

(3)に関して、まず小売店舗における満足要因と不満要因を自由回答で尋ねた結果をみる。伝統的な家族経営の小規模店(キラナ)とスーパーなど近代的チェーン店で比較すると、キラナ、スーパーとも、品質や価格に関する事項以上に、顧客経験に関する指摘が多い。具体的にみると、満足要因はキラナでは立地、スーパーでは品揃えやワンストップショッピングが挙げられている。これは当然予想された結果だが、不満要因の方は、両者共通の項目もある。「店の雰囲気・美観・混雑」「店員のアプローチ」といった項目であり、スーパーなどでも解消されていないことがわかる。また、「レジなどで時間がかかりすぎること」も、スーパーでの不満要因として上位を占めている。

次に、品質、価格、顧客経験の3要因の各評価値が全体的な顧客満足度(総合評価)に与える影響(相関係数)をみると、総合評価と相関が高いのは、顧客経験、次いで、品質となる。価格は総合評価に大きな影響を与えていない。この特徴は、大卒や大学院卒の専門職・管理職に相当する社会階層の上位層において、より鮮明に表れる。

さらに詳細に分析すると、総合評価が悪い理由は「品質への不満」、逆に良い理由は「顧客経験に対する満足」、換言すれば、品質への満足は必要条件、これを満たした上で、顧客経験に対する満足が十分条件であると解釈できる。

4. 日本の消費者との相違点

以下、日本の消費者との相違点(4)~(6)について述べる。(6)に関しては、総合評価を品質、価格、顧客経験で説明する単純なモデル推定を行うと、日本では3つの要因では総合評価を3割程度しか説明できない。ここで顧客経験の定義は「店舗における購入プロセスに対する満足感・快適性」となっており、立地、店舗内の美観・快適性、店内の経路のわかりやすさ、店員の対応(説明の明快さ・感じの良さ)、商品表示のわかりやすさ、会計の迅速性、挨拶といった項目が含まれている。しかし、日本の消費者の場合、上記のほか、店舗や商品のブランド感、同伴者の満足や不満なども含め、より広義に顧客経験を定義する必要がある。また、「その店に行く自分自身に満足している」といった要因も散見された。これに対して、インドでは上記3要因で総合評価の約8割を説明することができる。インドの消費者は、たとえ厳しい消費者ではあっても、評価軸は明快であることがわかる。

(5)に関しては、総合評価とロイヤルティ(スーパーなど大型チェーン店に「再来店したいか」という意図)の関係をみると、総合評価が明確に良いケースでは明らかにロイヤルティにも好影響をもたらし、逆に総合評価が悪いケースではロイヤルティは得られない。これはインドも日本も同様である。ただ、総合評価が「まあ満足」の水準でインドの方がロイヤルティを獲得しやすいという結果になった。まだ、インドでは食品スーパーなどの数が少なく、先行者利益が得られる段階にあることを示唆している。

(6)に関しては、顧客経験のプロセスを序盤(来店、売り場への移動)、中盤(買い回り)、終盤(会計・配送)に分割して、それぞれの段階で主として何が評価されているかを抽出することにより検証している。日本では、序盤がスピード、中盤で確実性、終盤では共感性となって、認知的要因から情緒的要因へのシフトが見られる。これに対して、インドの場合はすべての段階でスピードが重視される。例えば、レジや配送の際、日本では気持ちのいい挨拶や丁重さが求められるが、インドでは素早い対応が評価される。

5. おわりに:コンビニエンスストアに可能性大

日本の小売各社に対し、インド進出への意向についてヒアリングすると、スーパーはやや消極的であることがわかった。これはもっともであり、競合状態も含め、環境は厳しいと言わざるを得ない。一方、コンビニエンスストアはスーパーと比較すれば、進出の可能性を公言し、実際にチャンスも大きいと見られる。先の都市部中間層の消費者像に照らせば、冷凍食品や中食への需要、サービスニーズ、利便性・快適性などの顧客経験の重視といった要素は、コンビニエンスストアが提供できる要素とマッチしている。地域による多様性も、地域を絞ったドミナント出店戦略なら障害にはならない。また、新しい業態でもあるので、競合状態も食品スーパーやハイパーマーケットと比べて緩やかである。

進出の際は言うまでもなく、道路や電力など不十分なインフラへの対応、現地の商習慣や税制への対応、パートナー選び、州政府と協力関係を築くことなどが重要になる。また、伝統的小売店舗であるキラナとの共存を模索することも必要である。しかし、最も基本的なことは、ニーズの担い手である消費者像を明らかにし、ニーズの内容をきちんと把握することではないだろうか。インドには人口100万人以上の都市が40以上存在し、進出候補地は多数ある。進出に際しては入念なフィージビリティ・スタディが必要となろう。

注釈

(*)現地消費者調査の詳細は以下のレポートをご参照ください。
研究レポート「インドの消費者・小売業の特徴と日本企業の可能性」

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【調査・研究】


長島上席主任研究員写真

長島 直樹(ながしま なおき)
株式会社富士通総研 経済研究所 上席主任研究員
【略歴】東京大学経済学部卒業後、日本経済新聞社にて計量モデルを用いた経済分析を担当。1996年、デューク大学大学院修了。1998年より富士通総研経済研究所に所属し、消費分野の研究に従事。2011年、筑波大学にてサービス評価構造の研究で博士(経営学)を取得。
【執筆活動】論文は「サービスプロセスにおける評価要素の推移」(消費者行動研究)、「情報サーチと消費者行動」(経営情報学会誌)、「消費増へ供給側重視を」(日本経済新聞・経済教室)等多数。また、「ビジネス心理ハンドブック」(共著・中央経済社)が近刊予定。