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ネット選挙法とマイナンバー法の成立に寄せて ―『世界最先端IT国家創造』に“IT based Society”の考え方を―

2013年7月10日(水曜日)

1. 喜んでばかりもいられないネット選挙解禁とマイナンバー導入

今国会で、改正公職選挙法とマイナンバー法が成立しました。これにより、インターネットを活用した選挙活動が解禁され、納税や社会保障給付など社会生活の中で使う実質的な番号制度が導入されます。両法の成立は我が国の情報化を推進する上で歓迎すべきことですが、単純に喜んでばかりもいられません。10年前、世界最先端のIT国家を目指した国として、あまりにも遅きに失するというのが実感です。

ネット選挙に関して言えば、米国では1990年代から選挙運動でインターネットが活用され、現在ではインターネットは選挙活動になくてはならないものとなっています。2000年代に入ってからは、イギリス、フランス、ドイツ、韓国など主な先進国では、選挙活動でインターネットを活用するのは当然といった状況になっていたのです。

マイナンバーについても、同様のことが言えます。個人を特定する番号は、早い国では数十年前から導入され、行政手続きなど、あらゆる分野で共通的に使える番号として機能しています。この高度情報化社会において、個人を特定する番号なくして、正確かつ効率的な事務処理や個人向けのサービスなど不可能です。少なくとも、このことは世界の常識となっていました。

2. ネット選挙が動き出したきっかけとは

ネット選挙については、実はこれまでも公職選挙法改正の機運がありました。公職選挙法の「文書図画(*1)」の規定がインターネット時代に合わず、これを見直して選挙活動を活性化させようという動きが7、8年前に盛り上がったのです。これに対して真っ向から反対運動をするような国会議員がいなかったにも関わらず、なぜが議員の関心は薄く、公職選挙法改正にまで至ることなく、以来ずっとくすぶり続けていたのです。

今回法改正への動きが起きた大きなきっかけは、大阪市の橋下市長(日本維新の会共同代表)が2012年末の衆院選でツイッターを使って挑発したのがきっかけです。弁護士だけあって、公職選挙法違反にならないギリギリのところで発言を繰り返し、候補者がインターネットで発言できない矛盾を訴えたのです。その結果、自民党への政権交代後、安倍首相が「参院選までにネット選挙法案を通す」と宣言したことで急遽動き出すこととなりました。

3. マイナンバーが動き出したきっかけ

番号制度については、グリーン・カード制度の挫折以来30年、住基ネットを構築して住民票コードを導入したものの、日常生活の中で使われる実質的な番号制度の実現には至らなかったという経緯があります。その間、年金納付記録問題で社会保障番号の必要性が叫ばれたものの、住基ネット訴訟や反対運動の影響で番号制度を避ける風潮が広がっており、社会保障番号の議論はいつしか社会保障カードの議論にすり替わってしまいました。

日本では電子申請の利用が進展しないと言われますが、当然のことです。情報を連携するための番号が無いために、電子申請をしても添付書類を別送しなければならないからです。e-Taxの医療費還付申告では添付書類の省略が可能ですが、領収書や病院の住所など詳細情報をすべて手入力しなければなりません。領収書を税務署へ持参した方がはるかに少ない労力で済みます。

日常生活の中で使われる番号制度を導入しようという議論が起こったのは、2009年における民主党政権の誕生がきっかけです。グリーン・カードや住基ネットに対する反対運動のトラウマに支配されていた自民党政権では、番号制度の導入に踏み切ることは難しかったからです。

4. IT時代における法整備の問題

これまで見てきたように、公職選挙法の改正は法律違反ギリギリのところでの挑発行為によってやっと動き出し、マイナンバー法は政権交代という大転換によってやっと動き出しました。今また医薬品のネット販売解禁について議論が起こっていますが、これなどもネット通販事業者が厚生労働省を相手取って行政訴訟を起こし、「ネット販売を一律に禁じた省令は違法」という最高裁の判断を引き出したことがきっかけです。この間、4年の年月が経過しています。

現在の法制度がIT時代にそぐわないものとなっていることは周知の事実ですが、IT時代に合致するよう法律を改正することがいかに困難であるかという事実をこれらの事例が証明しています。ITという最先端技術を日本の成長エンジンにするため、ITの技術開発を推進していっても、それを活用するための法律や制度が整備されていなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。

それに比して隣の韓国では、IT時代に即して法制度の改正を行っています。本人確認の元となる戸籍については、旧態依然とした戸籍法を廃止し、家族関係登録法を制定しました。戸主を筆頭者とする戸籍簿から、個人単位にその家族関係を記載した家族関係登録簿に変更し、謄抄本の交付ではなく、目的別・用途別の証明書を交付する仕組みに変えたのです。さらに、番号制度を活用したクレジットカード促進制度や現金領収証制度を実施し、所得控除によって国民の消費を喚起するとともに、商店等の売り上げを正確に捕捉するという番号制度を活用したイノベーションを実現しています。

5. IT based Societyの基盤整備を

政府は第二次安倍内閣の新たなIT戦略として『世界最先端IT国家創造』宣言を準備しており、5月24日にその宣言(案)(*2)がパブリックコメントに付されました。その宣言(案)を見る限り、ITを活用できるような法制度の整備への熱意が十分に感じられません。もちろん「現行制度は、インターネット普及以前のアナログ社会を前提に構築されたものであるため、時代の変化に合わせ、デジタル社会を前提とした改革を実行する必要がある。…(中略)…一点突破の精神で、集中的に取り組むこととする」という記述があるものの、最終章の推進方策の一部として記載されているのみです。

基本理念として「ITをベースに再設計された社会:IT based Society (ITが社会の隅々に浸透していることを前提に、社会制度を抜本的に再構築した社会)」を目指すという決意が示されない限り、「現行制度に縛られ業務改革(BPR)が進まない」という事態が再び繰り返されるでしょう。また、IT人材育成に関しても、技術者教育に偏向した記述が目立ち、ITの実務や技術知識をもとに社会制度を設計する人材の育成という観点が抜け落ちていることも気にかかります。

マイナンバー法は成立したものの、医療番号については未決着であり、記入済申告制度や給付付税額控除制度についてもこれから仕組みを作っていかなくてはなりません。各省庁ばらばらの文字コード問題も未解決の状態にあり、官民で氏名の電子情報を交換することもできません。戸籍法は旧態依然として、あらゆるところで相続手続きに苦労したという話を聞きます。現状の情報公開法や著作権法で、オープンデータに対応できるのかという疑問もあります。

アベノミクス成長戦略の3つのキーワードとして挙がっているのが、「挑戦:チャレンジ」、「海外展開:オープン」、「創造:イノベーション」です。ITでこれらを実行しようとすれば、必ず現状の法制度が壁となって立ちはだかります。“IT based Society”という考え方のもと、現行の社会の法制度をITの存在を前提に再構築することを最優先するよう提案したいと考えます。

注釈

(*1)文書図画 : 「ずが」ではなく「とが」。辞書によれば、法曹界では「とが」と呼び習わすと書いてある。これだけ見ても、いかに法律が実社会と乖離しているかがわかるだろう。

(*2) : 『世界最先端IT国家創造』宣言(案)(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/info/h250524-public.pdf)

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「マイナンバー法成立!次の課題である医療番号をマイナンバーに!」

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「マイナンバーがやってくる 改訂版 共通番号制度の実務インパクトと対応策」

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【調査・研究】


榎並 利博(えなみ としひろ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】1981年 東京大学卒業、富士通株式会社入社、96年 富士通総研へ出向、2010年より現職。2002年度~2003年度 新潟大学非常勤講師、2006年度~2007年度 中央大学非常勤講師、2007年度~2008年度 早稲田大学公共政策研究所客員研究員、2009年度~2012年度 法政大学非常勤講師。
【著書】「マイナンバーがやってくる―共通番号制度の実務インパクトと対応策」日経BP社 2012年、「マイナンバー(共通番号)制度と自治体クラウド」地域科学研究会 2012年、「自治体クラウド」学陽書房 2011年、「共通番号(国民ID)のすべて」東洋経済新報社 2010年、「市民が主役の自治リノベーション」ぎょうせい 2007年、「自治体のマネジメント改革」ぎょうせい 2005年など