GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. コラム >
  3. オピニオン >
  4. 「美しい中国」は実現できるか

「美しい中国」は実現できるか

2013年6月28日(金曜日)

中国では、「美麗中国(美しい中国)」が流行語になっている。その背景には、環境汚染の深刻化により人々の環境問題に対する関心が高まっていることがある。中国経済の発展とは裏腹に、環境問題は日増しに深刻化しており、環境を保全しなければ、経済成長も持続できなくなる。このため、まず、中国政府がしっかりした環境対策を実行しなければならない。そして、産業界にも協力を求め、官民が一体となって、環境問題の壁を乗り越えていくことが必要である。

1. 「美しい中国」を目指す

2013年5月に北九州市で日中韓環境相会合が行われ、PM2.5(2.5μm以下の微細粒子状物質)等の汚染対策に対する協力を進めることについて共同声明が採択された。この冬、スモッグに覆われた北京など主要大都市の大気汚染が日本でも大々的に報道され、PM2.5に対する関心が一気に高まるようになった。

実は、中国の環境問題に対する関心が高まったのは今回が初めてではない。中国では、一般市民の環境保護意識の向上およびインターネットの普及による情報の伝達によって、人々は環境問題に対してかつてないほど関心を高めている。1996年以降、中国での環境汚染問題に対する抗議活動は年平均30%前後で増えていると言われている。例えば、2012年には遼寧省大連市(8月)と浙江省寧波市(11月)において、石油化学工場の建設に反対する抗議デモが発生した。また、今年の5月、上海市では、電池工場の建設を巡って工場と住民側が対立し、それに反対する住民がデモを行い、建設計画の撤回を訴えた。

振り返れば、過去30余年の中国経済の高度成長の代償として、環境汚染は急速に深刻化している。中国政府は成長一辺倒の経済発展モデルを修正し、環境問題を最優先に解決することが今後の持続的発展のカギとなる。

2012年11月に閉会した中国共産党第18回党大会では、「美しい中国」の建設が目標として掲げられ、経済成長のスピードより質を重視する姿勢が鮮明に示された。長い間、環境対策の強化に関しては、「循環経済」、「低炭素社会」、「グリーンの経済発展」などの言葉が使われてきた。今回の「美しい中国」はこれまでの表現と異なり、具体性には欠けるが、国民の環境改善に対する期待を膨らませるものとなっている。

2. 大気汚染の形成原因を探る

北京市の発表によれば、PM2.5の形成、すなわちその汚染源のうち、自動車排ガス(22%)、石炭燃焼(16.7%)、建築工事の粉塵(16%)およびセメント生産などからの産業廃棄物(16.3%)が大きなウェイトを占めている。拙稿では、自動車排ガスと石炭の使用状況を中心に議論したい。

現在、生産台数と販売台数のいずれも世界一の規模に成長した中国は、自動車の保有台数がすでに1億台を突破した。自動車の増加に伴い、自動車排ガスが大気環境に及ぼす影響も大きくなりつつある。中国の多くの地域では、ユーロ基準を参考に作られた中国国内の自動車排ガス基準「国Ⅲ」が適用されているが、その基準ではガソリンの硫黄分の含有量が欧州や日本の15倍に相当する150ppm(ppm、百万分の一)以下となっている。大気汚染が急速に悪化している中、北京市は今年の2月から全国に先駆けて、より厳しい自動車排ガス基準「京Ⅴ」(北京地域に適用、ユーロⅤ基準に相当、硫黄分が10ppm以下)を導入した。しかし、北京だけの実施では、効果は限定的であると言わざるを得ない。ほかの都市にも同様な基準を早期に導入すべきである。

一方、石炭使用の場合、中国では石炭が1次エネルギー消費量の7割前後を占めており、石炭依存のエネルギー消費構造となっている(【図1】)。

【図1】中国における1次エネルギーの消費構成(1980年-2012年) 【図1】中国における1次エネルギーの消費構成(1980年-2012年)

中国では、石炭が火力発電の燃料のみならず、工場や住宅の加熱用燃料としても使われている。石炭の年間消費量は増加する一方であり、2012年に24億トンに達して、同年の世界の石炭消費量の約3分の1を占めている。また、石炭の消費量の増加とともに、海外からの石炭輸入量も増えている。その数字は2001年の218万トンから2012年の2.8億トンに約130倍にまで増加した。中国では石炭依存のエネルギー消費構造を転換するのに時間がかかる現実を考えると、まず、火力発電所において脱硫・脱硝の環境対策を講じるべきである。脱硫装置については、2011年までに全国稼働中の火力発電所の約9割に整備されたが、稼働時のコスト増などを理由に、実際には機能していないところが多いと見られている。一方、脱硝装置の整備は大幅に遅れており、脱硝設備の容量は2009年までに全火力発電容量の8%前後に過ぎないと言われている。中国政府にとって、石炭消費の抑制と火力発電所の脱硫・脱硝の環境対策の強化が喫緊の課題である。

3. 環境保全へ官民一体の取り組みが必要

これまで中国政府が環境問題を解決するために投入した資金は年々大きく増えている(【図2】)。事実、2001年から2010年までの10年間に投じた費用は約3兆元(48兆円、1元=16円で換算)に達しているが、それでも環境は悪化の一途を辿っている。一方、2013年の中央政府の環境保全関連の予算は2100億元(3兆3600億円)であり、財政支出全体の3%に過ぎない。環境汚染が深刻化している中国を「美しい中国」に変貌させようとするならば、今後10年間の資金投入は10兆元(160兆円)が必要と言われており、財政支出以外の財源確保が急がれる。

【図2】中国における環境保全への投入資金の推移(2001年―2010年) 【図2】中国における環境保全への投入資金の推移(2001年―2010年)

無論、環境問題の解決には、財政だけでなく、様々な面での取り組みが不可欠であり、とりわけ官民一体の取り組みが重要である。

先に民から見てみると、中国では、所得水準の向上および健康意識の向上に伴い、国民の環境保護意識は高まりつつある。環境問題について真剣に考える人が増え、環境NGO(非政府組織)も雨後の筍のように現れてきている。環境保全活動の推進において環境NGOの存在は重要であり、その発展によって、人々の環境への関心をさらに強めることが期待されている。そして、一般市民は身近なところから環境保護に積極的に参加し行動すべきである。

官においては、まず、中国政府は環境汚染の関連情報を完全に公開し、より広範囲な意見を取り入れるべきである。さらに、地方幹部に対する従来の経済成長による業績評価の仕組みを是正することが重要である。

これまでは企業の利益優先の考えと地方政府の経済の優先発展が一致し、企業の環境破壊への取り締まりに地方政府が抵抗してきたと言われる。そのため、企業の環境破壊の法律違反のコストは低い状況である。最近のニュースによると、中国環境保護部(日本の環境省に相当)は華北地方で汚水排出量に違反した88社の企業に対して、総計約600万元(9600万円)の罰金を科したが、1社あたりわずか7万元(112万円)の計算で、環境を破壊する代価がいかに低いか明らかである。無論、高い罰金を科せば、環境保護意識が生まれるという単純な関係ではないが、厳罰は一定の拘束力があると考えられる。今後、環境破壊への取り締まりにおいて厳罰あるいは刑事責任を厳しく追及することが不可欠であり、環境問題で「一票否決制度」(環境問題への対応状況だけで、地方幹部の業績を左右する)を徹底的に実施すべきである。

去る3月に新しく選出された習近平総書記は全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)の閉幕式で「中国の夢」を力強く説明した。「中国の夢」の実現には「美しい中国」が重要な条件であり、環境問題を真っ先に解決すべきである。

関連オピニオン

「全要素生産性の重要性が高まる中国」

関連サービス

【調査・研究】


趙 瑋琳(チョウ イーリン)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
【略歴】
2002年 中国大連海事大学卒業、2002年 株式会社プロシップ入社。2008年 東京工業大学大学院社会理工学研究科修士博士一貫コース修了。2008年より早稲田大学商学学術院総合研究所 助手、研究員。2012年 富士通総研入社。
専門領域:中国における産業クラスター発展の課題、中国等新興国を対象に社会経済体質、産業競争力と持続発展の関係分析、など。