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新たな段階に入る中国自動車産業のチャンスと課題(2)

2013年5月24日(金曜日)

中国自動車産業と自動車市場の発展を振り返れば、様々な課題の存在は明らかです。2001年のWTO加盟以降、中国経済の高度成長とともに、自動車産業も凄まじい成長が成し遂げられました。現在、中国の自動車生産台数と販売台数はいずれも世界一の規模に成長しました。

近年、アメリカ発の金融危機とユーロ圏の債務危機の影響を受け、中国の自動車市場の拡大はいくぶん伸び率が縮小していますが、当面は安定成長が見込まれています。また、沿海都市部では買い替え需要が見込まれ、内陸部では潜在的な新規需要が期待されています。現在、各メーカーは市場シェアの獲得に躍起となっています。一方、大都市部での交通渋滞に加え、北京のスモッグ問題でクローズアップされている深刻な大気汚染により、自動車産業のさらなる発展を妨げる要因も浮上しています。

拙稿では、第1回で説明した中国自動車産業の発展と市場の形成を踏まえ、中国市場における主要外資系メーカーの戦略を概観したうえで、日系メーカーの中国戦略に提案を行いたいと思います。また、中国自主ブランドの育成の状況を考察し、中国自動車産業のさらなる発展のために、最優先に解決すべき環境対応の課題を提示します。

1. 主要外資系メーカーの戦略動向

現在、中国自動車市場において外資系メーカーは約7割のシェアを占め、地場メーカーは約3割を占めています。外資の中で、ドイツ、米国、日本および韓国のメーカーがそれぞれ大きなシェアを占めています(【図1】)。

【図1】中国における自動車メーカーの市場シェア(2012年)

【図1】中国における自動車メーカーの市場シェア(2012年)

これらの外資系メーカーの中国進出は時期が異なりますが、外資系メーカーの単独進出が認められていない中国では、地場メーカーとの合弁が求められています。全国の自動車市場の販売実績を見ると、上海汽車、東風汽車、第一汽車、長安汽車、北京汽車の五大グループは約7割を占め、そのいずれもが外資系メーカーとの合弁企業です。

また、2012年における中国乗用車販売の上位10車種はいずれも合弁メーカーによるものです(【表1】)。

【表1】中国における乗用車販売モデルのトップ10(2012年)

【表1】中国における乗用車販売モデルのトップ10(2012年)

外資系メーカーにとって、中国市場の重要性がますます高まっています。2012年の主要メーカーの世界販売台数に占める中国市場での販売台数の割合を見ると、米ゼネラルモーターズ(GM)は29.3%、独フォルクスワーゲン(VW)は28.8%、韓現代自動車は19.5%、日産とホンダは約15%と、中国市場での販売が世界市場での販売を押し上げていることが分かります。

その中で、VWとGMが比較的早い時期に中国進出を果たしました。それを足場に、両社は現地化を進め、中国市場で培ってきたノウハウを活かしながら、ブランドイメージの向上を図ってきました。現在、両社は内陸部経済の成長を受け、内陸部市場を捉えようと生産拠点をさらに内陸部へ拡張していこうとしています。それに対して、日系メーカーと韓国メーカーの中国進出は大幅に遅れました。韓国の現代自動車は価格戦略をベースに、「スピード」と「量産」を徹底的に実行しました。具体的に、現地化を深め、消費者のニーズに合致するクルマの設計、開発と生産を素早く行い、市場シェアの獲得に成功しました。

一方、日系メーカーは進出した当初は好調でしたが、その後、他のメーカーとの差別化を図れず、価格競争が激化する中で、市場シェアの一部が韓国勢や中国の地場メーカーに奪われました。また、日本車に対する消費者のネガティブなイメージも問題です。例えば、現地生産の車種の少なさから購買選択肢が限られています。そして、省エネを徹底し、車体を軽量化した結果、車体の丈夫さと安全性が足りないのではないかと思われています。さらに、中国市場に投入されている車種のモデルチェンジと新技術の導入が遅れ気味です。これらの諸要因により、日系メーカーの販売は伸び悩んでいます。こうした中で、2012年には「尖閣問題」の影響を受け、日系メーカーの販売が大幅に落ち込んでしまいました。

現在、日系メーカーの販売の減少幅は縮小していますが、本格的な回復になってはいません。もちろん、日系メーカーの実力が失われたわけではありません。2012年に世界販売台数第1位に返り咲いたトヨタが示すように、日本車には十分な実力があります。重要なのは、中国市場を攻略する戦略を再構築することです。その際、中国語では「揚長避短」という言葉があります。すなわち、自らの長所を活かして短所を回避するということを意識し、日本メーカーの強みである燃費のよさ、厳密な品質管理、充実したアフターサービスを活かした戦略を強化すべきです。

WTO加盟から12年が経ち、中国の自動車市場は売り手市場から買い手市場へ変わっています。消費者の消費行動も変化しつつあります。したがって、車種と価格に加え、品質、デザイン、ディーラーの販売力、アフターサービスを含む全方位戦略の構築が求められています。日系メーカーは、まず、中国市場の変化をきちんと捉えるべきです。そして、経営資源を有効に活用しながら、消費者のニーズに合致した車作りと販売戦略に注力し、自分の強みをより一層強化すべきです。

2. 中国の自主ブランドの育成

外資との合弁メーカーを含め、現在、中国には100社以上のメーカーが存在すると言われています。自主ブランドの中、比較的知られているのは、奇瑞汽車、吉利汽車、BYD、長城汽車です。

奇瑞汽車は1999年に乗用車生産を始めました。小型低価格車の「QQ」を発売したことで、比較的有名になりました。2012年の乗用車販売台数は55万台であり、地場メーカーとしては中国国内で最多の販売実績を誇っています。

一方、吉利汽車はもともと冷蔵庫メーカーであり、浙江省の民営企業ですが、1997年に自動車産業に参入し、現在奇瑞汽車と肩を並べ、自主ブランドの一角を占めています。吉利は2010年にスウェーデンの高級車ブランド、ボルボを買収し、今後の技術力の向上が注目されています。

さらに、BYDはもともとバッテリーメーカーであり、バッテリーの開発に強いと言われています。2008年末に発売した「F3」は2009年の中国乗用車販売モデルのトップでした。また米国投資家バフェット氏の出資を獲得し、脚光を浴びました。BYDは新エネ車の開発に積極的に力を入れていますが、中国における新エネ車の普及と推進の問題や政策変更等からの影響を受けかねない状況にあります。

長城汽車は1984年に設立された自動車メーカーです。近年、低価格のSUV(多目的スポーツ車)の開発に注力し、販売実績が堅調に伸びています。2012年の中国での販売台数は前年比31%増の52万台となり、高成長しています。

しかし、自主ブランド車は以前と比べ、成長しているとはいえ、生産規模も技術力も外資系メーカーに対抗できるほど強くありません。それゆえ、地場メーカーのほとんどは価格を抑え、コスト競争力を高めざるを得ません。地場メーカーが抱える課題は、まず、「いかに技術革新に向けてモチベーションを高めるか」です。そして、「研究・開発」(R&D)を強化するために多額の費用が必要ですが、地場メーカーの資金力が弱く、海外の研究機関にR&Dを委託するメーカーが散見されますが、自主開発能力の強化に至っていません。

3. 環境対応の課題と今後の展望

近年、冬になると、中国の東北地方と華北地方を中心に多くの都市がスモッグに覆われます。スモッグの汚染源はPM2.5、すなわち、2.5μm以下の微細粒子です。北京市の場合、自動車排ガスの寄与度は約22%と、大きなウェイトを占めています。そのため、北京では前倒しして今年の2月から厳しい排ガス基準が導入されました。また、自動車の増加に伴う石油消費量の急増がエネルギー不足を招くことも問題視されています。

環境対策の強化が求められている中国の自動車産業は、これから大きな転換点に差し掛かると思われます。エネルギー不足への対応と環境対策の突破口として、新エネ車、とりわけ、電気自動車の開発と普及が推し進められています。国務院弁公庁が公布した「省エネと新エネ車産業発展計画(2012-2020)」には、2015年に新エネ車の生産販売台数の目標として50万台という数字が掲げられています。しかし、中国汽車工業協会の統計によると、2012年に中国新エネ車の販売台数はわずか1.28万台でした。2010年6月から一部のモデル都市において、公共サービス分野および個人による新エネ車購入への補助金支給が始まりましたが、普及していません。充電施設などのインフラの未整備や消費者の認知度の低さが大きな障害となっています。新エネ車発展の難航で、補助金政策がより省エネ車の発展に傾斜する可能性があります。これは省エネ技術に強みを持つ日系メーカーにとって朗報であり、日系メーカーにとっての転機になるかもしれません。

現在、世界最大の自動車市場の中国は自動車メーカーの激戦区となっていますが、自動車販売の拡大が一服しているように見えます。自動車産業のさらなる発展のために、解決しなければならない課題は多くありますが、中国政府は、当面の販売促進よりも交通渋滞の緩和や深刻な大気汚染への対応にプライオリティを置く必要があります。その対策の1つとして、一部の大都市で一般乗用車のナンバープレートの発行規制が取り入れられています。例えば、北京では、抽選制が導入され、上海ではオークションで競売することになっています。このような制度の導入が自動車の保有増を抑える点で評価されます。それに加え、省エネ車の保有を優遇する枠をもっと増やすべきです。そして、政府と業界が表裏一体となって、これらの課題の解決に向けた取り組みを積極的に行うべきです。これらの課題を克服することによって、基幹産業としての自動車産業が新たな発展を成し遂げると期待されています。

シリーズ

「新たな段階に入る中国自動車産業のチャンスと課題(1)」

関連オピニオン

「全要素生産性の重要性が高まる中国」

関連サービス

【調査・研究】


趙 瑋琳(チョウ イーリン)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
【略歴】
2002年 中国大連海事大学卒業、2002年 株式会社プロシップ入社。2008年 東京工業大学大学院社会理工学研究科修士博士一貫コース修了。2008年より早稲田大学商学学術院総合研究所 助手、研究員。2012年 富士通総研入社。
専門領域:中国における産業クラスター発展の課題、中国等新興国を対象に社会経済体質、産業競争力と持続発展の関係分析、など。