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  4. 日本の風力発電ポテンシャルをフルに活用するための電力システム改革

日本の風力発電ポテンシャルをフルに活用するための電力システム改革

2013年5月21日(火曜日)

1.風力発電のポテンシャルは本当に活用できるのか?

環境省が実施した「再エネポテンシャル調査(平成22年度)」によると、日本の陸上風力のポテンシャルは28,000万kW存在する。仮に稼働率を24%と仮定すると、5,900億kWh/年の発電ポテンシャルが存在することとなる。2011年度の10電力会社の販売電力量合計が、8,598.1億kWh(*1)であることを考えると、陸上風力のみで約7割の電力供給のポテンシャルが存在することとなる。

コスト等検証委員会報告書(平成23年12月19日)において、モデルプラントを設定し、各電源の発電費用を算出しているが、陸上風力発電の発電費用は8.8~17.3円/kWhであり、石炭火力の10.3円/kWh、LNG火力の10.9円/kWhと競合するレベルになっており、原子力発電の今後が不透明な現状において、エネルギー安全保障および温室効果ガス排出量削減において大きな役割を果たすことが期待できる。

しかし、実際に活用できる風力発電は下記の理由からポテンシャルよりも少ない、また風力発電の費用は高くなる可能性がある。

現状、日本の送電網は10に分断されており、各送電網間の連系線が脆弱である。一方、風力発電は、北海道および東北に大きなポテンシャルが存在するが、電力需要の大きい関東では、そのポテンシャルは限定的であるという、需給の地域的ミスマッチングが存在する。そのため、既存の送電網のままでは、北海道および東北には風力発電の高いポテンシャルは存在するが、そのポテンシャルを十分に活用できない可能性がある。実際に、北海道および東北で発電し、その電力を関東で消費するには、連系線整備が必要となり、その発電費用は前述の推定よりも高いものとなる。

電力需要は、季節および一日の中でも変動がある。電力は需給が一致する必要があり、需給の一致が行われない場合には停電などを招く。従って、実際の利用はポテンシャルとして見積もられた量よりも少なくなる。風力に関しては、まさに風任せでの発電であり、必要な時にいつでも発電を行うというわけにはいかない。このため、蓄電技術を導入し、風力で発電した電力を蓄電し、電力の必要な時に放電することで、風力発電を活用することも可能である。しかし、この場合には、蓄電技術導入の費用が生じる。

さらに、陸上風力発電と他の再生可能エネルギーとの競合などにより、実際の利用可能量はポテンシャルよりも少なくなる可能性がある。

ここでは、電力需要をある値に固定した場合、費用最小化条件のもとで、再生可能エネルギーと(1)連系線強化、(2)炭素地中隔離(CCS(Carbon Capture Storage))、(3)太陽光発電の低コスト化、(4)蓄電技術導入の相関性を、以下のように組み合わせた場合のシミュレーションを実施した。

【表1】シナリオ・デザイン
ケース名(略称) 連系線強化 炭素地中隔離 太陽光発電コスト低下(*2) 蓄電技術(*3)
1)Ref        
2)CCS      
3)Sol    
4)SolT  
5)Tor  
6)Gex
7)GexC
8)GexS
9)GexST
10)GexSCT

また、シミュレーションでは、原子力発電所に関しては、2013年以降、すべて稼働停止状態にあると仮定する。また、今後、より温室効果ガス削減に関する圧力が高まるとし、US$0~US$1,000/t-CO2の10レベルでの炭素税が導入されると仮定した。シミュレーション実施期間は、2013~2050年とした。

2.シミュレーション結果より言えること

(1)連系線強化による影響

すでに、現在の日本の10に分断された送電網および細い連系線が、風力発電のポテンシャルの活用を阻害する可能性があると指摘した。今回のシミュレーションを行ってみると、現状の連系線では、日本の有する再生可能エネルギーのポテンシャルを十分に活用することができないことが裏付けられた。連系線拡大を行うことによって、現状の連系線で活用できる風力発電利用推定量の約1.5倍の風力発電の活用が可能となる。

【図1】連系線強化による風力発電への影響(2050年までの時系列変化推移)


(注1)緑円:連系線拡大のケース、青円:連系線拡大無しのケース
(注2)横軸:陸上風力(TWh)、縦軸:洋上風力(TWh)

(2)蓄電技術導入による影響

蓄電技術を導入することで、風力発電という発電を行うタイミングを調整できないタイプの再生可能エネルギーの利用の拡大も期待できる。本シミュレーション結果では、陸上風力発電への蓄電技術活用による活用量拡大へはつながらなかった。これは、既存の送電網が風力発電の拡大の大きな阻害要因となっており、まずは連系線拡大を行うことが必要であることを示唆している。連系線拡大を行った上で、蓄電技術の導入を行うと、ようやく洋上風力の活用が増加する。

【図2】蓄電技術導入による影響


(注1)緑円:蓄電技術導入のケース、青円:蓄電技術導入なしのケース
(注2)横軸:陸上風力(TWh)、縦軸:洋上風力(TWh)

(3)CCS導入による影響

火力発電所から排出されるCO2を吸着し地中に隔離するCCSも温室効果ガス削減策として注目されているが、CCS導入するかしないかの陸上風力普及に与える影響はない。しかし、CCSを導入することで、洋上風力の普及は低下する。これは、CCSは炭素価格が上昇する場合、洋上風力に対して競争力を持つことを示しており、CCSと陸上風力発電は、競合状態にあると言える。

【図3】CCSによる風力発電への影響


(注1)緑円:CCS導入のケース、青円:CCS導入なしのケース
(注2)横軸:陸上風力(TWh)、縦軸:洋上風力(TWh)

(4)連系線強化と蓄電技術による地域別陸上風力発電への影響

【図4】は今回行ったシミュレーションのうち、4つのケースに関して2030年時点の各10電力網での陸上風力発電の発電量を示している。連系線強化を行うことで、北海道および東北での陸上風力発電の増加が顕著である。このことからも、現状の送電網では、北海道および東北に豊富にある陸上風力発電のポテンシャルの活用が十分にできないことがわかる。

【図4】地域別陸上風力発電量(2030年)(TWh) 地域別陸上風力発電量(2030年)(TWh)

3.陸上風力を活用するための環境整備

日本の10に分断されている電力網では、陸上風力の活用は限定的になってしまう。これは、費用効率性の悪い地域での風力発電所の建設が行われないことを意味する。各電力網での部分最適が行われているといえ、全体最適となっていないことを意味する。その結果、再エネの普及に関しての費用は高いものとなる。

この分断されている非効率性を蓄電技術の導入で解決しようとの考えもあるが、仮に蓄電技術を積極的に導入したとしても、送電網が分断された状況ではその効果はない。

以上の問題点を解決するには、日本全体での電力網の効率化を目指す広域系統運用機関の早期の設立を確実に進める必要がある。これによって、再生可能エネルギーの導入をより費用効率的に行えると同時に、各電力会社が個別で電力需要を満たす必要がなくなり、安定供給に必要な発電容量の軽減につながる。同時に、地域間での電力融通を行うことが容易となり、今回の震災で生じたような計画停電を回避することが可能となる。

注釈

(*1) : 電気事業連合会、2011年度版電力需要実績(確報)(2012年4月27日)

(*2) : 2030年に現在の50%、2050年に25%まで投資費用と維持管理費用が低下するとした。

(*3) : 蓄電設備は$2,000/kW、効率を75%で無制限に導入可能とした。

参考文献

  • 環境省(2011), 再生可能エネルギーポテンシャル調査報告書
  • コスト等検証委員会報告書(2011), 2011年12月19日
  • IEA/NEA (2010), Projected Costs of Generating Electricity, 2010 Edition.
  • National Institute of Environmental Studies (2011), Path Reviews of Japan Low-carbon Society –towards the realisation of CO2 80% reduction society,
    http://www.env.go.jp/council/06earth/y060-92/ref01-4.pdf
  • Roney, J. Matthew (2011), Time to Rethink Japan’s Energy Future, April 07, 2011,
    http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2011/update94
  • WWF Japan (2011), Energy Scenario Proposal towards Decarbonised Society, Final Report,
    http://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20111117EnergyScenario02.pdf
  • Dale, Lewis, David Milborrow, Richard Slark and Goran Strabac (2004), Total Cost Estimates for Large-scale Wind Scenarios in UK, Energy Policy 32 (2004) Pages 1949-1956.
  • Ibrahim, H., A. Ilinca and J. Perron (2008), Energy Storage Systems – Characteristics and Comparisons, Renewable and Sustainable Energy Reviews, Volume 12, Issue 5, June 2008, Pages 1221-1250.

関連オピニオン

「再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)による再生可能エネルギー導入効果および電力価格への影響」

「原子力発電所稼動停止によるわが国経済への影響」

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【調査・研究】


濱崎 博(はまさき ひろし)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員 MSt (Master of Studies) in Manufacturing, University of Cambridge, Wolfson College, the United Kingdom. MSc (Master of Science) and DIC (Diploma of Imperial College) in Energy Policy, Imperial College Centre for Environmental Technologies (ICCET), Imperial College of Science, Technology and Medicine, University of London, the United Kingdom.
1995年 富士総合研究所(現 みずほ情報総研)入社、1997年 富士通総研経済研究所入社、2007年~2009年 国際公共政策研究センター出向、2009年5月~ 国際公共政策研究センター客員研究員。

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