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  4. 成長戦略としての企業の新規事業創出に向けた7つの提言(2)

成長戦略としての企業の新規事業創出に向けた7つの提言(2)

2013年3月28日(木曜日)

前回は新規事業推進のための7つの方策のうち3つについて述べた。引き続き、残りの方策を提言したい。

4. 新規事業は、新技術開発主導でなく、ビジネスモデル主導で進めよ

壁に突き当たる、新技術主導型新規事業

新規事業を創出する場合、議論の1つは、創出を新技術開発が主導するか、ビジネスモデルが主導するかである。答えを先取りすれば、ビジネスモデル主導でやるべきだ。「技術・製品開発1stから、ビジネスモデル開発1stへシフトせよ」である。それが4つめの提言だ。

一般に日本産業の強さは製造業の強さにあり、製造業の強さはその技術開発力にありとされてきた。日本の競争力を著名なIMDの国際競争力ランキングで見れば、その全体順位の低下傾向には目を覆いたくなる。しかし、かろうじて日本人が心を折らずに済んだのは、同じIMDの「科学的インフラ」の強さの順位である。常時世界2位を維持してきた。また、実際に日本企業の新規事業は、歴史的に生産技術の強さや新製品開発力の強さによって支えられてきたのは事実である。技術立社を標榜する日本の製造業企業では、今もって技術の視点で他社と差異化し、新製品・新事業を創出したいという姿勢は強い。

しかし、現状を冷静に見れば、新規事業を新技術先導で創出しようとすると、技術者の価値の押し付け、自己満足の事業になりがちだ。結果、強い新規事業になりにくい。近年は新技術が提供する機能価値と市場価値とが出会い頭でマッチングする稀有な例は非常に少なくなっている。また、高度な先端技術の成果に溺れると、本当は事業経済性が高い他の低レベルな技術との技術間評価を疎かにしがちだ。また、技術先導で事業化した場合でも、いずれはその技術の優位性が失われる時が来る。したがって、その技術の優位性を維持できそうな時間、優位性が変化した時にそれをカバーする要件は何なのか、などの検討が不可欠だが、強い技術に酔って検討を怠ってしまうことも多い。優位性が変化した時に、一気に沈んでしまう例が近年、エレクトロニクス分野で散見される。

ビジネスモデル主導型で新規事業の創出へ

このため、新規事業の創出では、まず現在使用している技術をベースに新たなビジネスモデルに変え、次の段階で初めて、その新ビジネスモデルを差異化できる新規技術開発に向かうという手順を採るべきである。その意味で、ビジネスモデル優先と言える。手順を間違えると大きな失敗を犯してしまう。

このやり方のメリットは、ニーズに対応しやすく、そのビジネスモデルで差異化に必要な新規技術が早期に見え、事業化のスピードが速まることにある。海外企業の中には、この肝となる技術の目利き力が異常に研ぎ澄まされ、その技術獲得に自前主義などは全く関係なく世界から素早くかき集め、競争力を獲得する手法に長けた企業が注目されている。

しかし、だからといって新技術開発の重要性が失われたと主張しているわけでは決してない。大変重要である。ただし、従来からの「技術そのものの開発が重要」という考えから、「ビジネスモデルを差異化する技術が重要」という視点に変えるべきと主張しているのである。

5. ビジネスモデル構築のための組織構築と人材育成を促進せよ

ビジネスモデル主導はそのとおりとしても、では誰がどうやって強いビジネスモデル(どの顧客の、どのようなニーズにどのように対応し、どのように課金するかの仕組み)を作るのかという課題が残る。技術力が大きく勝っていたこれまでの日本企業に、強いビジネスモデルが重要という発想は少なかったし、こうした捉えどころがない概念的な業務は日本ではなかなか評価されず、価値を置く傾向も少なかった。その証拠に未だにビジネスモデルを作る社内部署が明確でない企業、ビジネスモデルを作るための人材育成も手がけていない日本企業がほとんどだろう。そして今、企業は、ビジネスモデル構築力不足で、おしなべて困っている。

ビジネスモデルの構築では、現場の多様な試みが重要といっても、現場に丸投げはできない。現場で顧客ニーズに寄り添いすぎると、目の前の短期の要請にしか応えられない小粒な事業になってしまう。大きな視点でのビジネスモデル構築には、長期的な視野に立った組織的な取り組みも重要だ。しかし、机の上だけで企画したものが現実的なモデルに成るとも思えない。モデルとして当初から完璧なものを作るのは難しく、走りながら失敗しては原因を探って変えつつ磨き上げるものだ。その点で現場力もまた必要だ。この矛盾した要請を満たすために、ビジネスモデルを専門に考える部署と実践のための人材教育、コーチングの両方が必要になるはずで、企業にもようやく動きが見られ始めた。こうした努力を進めよ、というのが5つめの提言だ。今後、企業評価においては、売上高に占める研究開発費比率より、ビジネスモデル構築費比率を指標にすることも重要になるだろう。

6. 新規事業の推進のルールや指針を開発せよ(「自由にやってみろ」は経営放棄)

次の提言は、具体的な新規事業の推進に関するものである。もちろん新規事業の推進は、以前から経営上の重要な課題なので、この手の教科書には推進方法は多数書いてある。しかし、決してそのとおりには進まないのが、こうした創造的業務の性である。これまでも各社に失敗事例は山と積まれているはずだ。したがって、これまでとは違った新しい推進方法が必要だ。しかし、各社には推進のルールや指針はまだほとんどないのが実態だ。こうしたルールや指針を早期に開発せよ、というのがここでの提言だ。

新規事業の推進に当たっては、経営トップはよく「独立組織で、自由にやってみろ」と言う。しかし、この言葉は、経営放棄の響きを持つ。これまでどおり、ルールも指針もなく無手勝流でやると、またぞろ失敗の山を築くのは明らかだ。例えば「ノーマネー、ノービジネス」だから、新規事業の開始時から、その新規事業で使える資金を準備し、タイミングよくM&Aを実施したり技術を獲得したり、事業推進にスピード感が必要だ。しかし、また従来のように資金も小額しか出さず、技術も自前主義で最初のネタ作りから始めると、タイミングも逸し成功は覚束ない。資金の量、使用するタイミングの権限など、新たな指針、ルールを早く会得することが必要だ。

ルールの1つに、新規市場の事業規模をどの程度に設定すべきかがある。新規事業で最初から大きな市場を狙ったら、そのような市場はなかなかないので失敗する。しかし市場規模が小さいと既存事業の代役を果たせず、やる意味がないと言われ、稟議が通らない。重要なのは、既存事業の売り上げ・利益の減少を徐々に新規事業が埋める形にしないと、過大な負荷は一気に担えない。既存事業と新規事業のシフトをスムーズに行うため、抱き合わせでコントロールし、過度にならない新規事業の市場を設定することが重要だ。新規事業として似た分野の製品・事業をまとめて大きな市場と認識するという考えの会社も見られる。ここでも試行錯誤が続く。 

7. 技術開発努力を無駄にしないため、新規事業のパイプラインを全社で策定せよ

日本企業の研究開発費は、近年、対GDP比率で韓国に抜かれたものの、ICT分野や自動車分野を中心に多額が投じられている。しかし、その投資効果は次第に減少している。その大きな理由は、研究開発努力と新規事業戦略とがリンクしていないことも大きい。

 「それは理想論」と一蹴されるのを承知で7つめの提言をするなら、研究開発活動と新規事業創出のリンクを強めよ、というものだ。一見当たり前そうな提言だが、実はかなり困難である。本来、企業の新規事業向け研究開発活動は、自社に中期経営計画があり、それに基づき達成すべき経営目標が設定され、目標を達成する内容と時間軸で示された「新規事業のパイプライン(時間軸込みのポートフォリオ)」の存在が前提となるべきだ。しかし実態は、結果としての現時点の事業ポートフォリオは存在しても、研究開発活動のターゲットになるような、戦略的に作られた将来の新規事業パイプラインを持つ企業は少ない。これなしに研究開発テーマの可否を検討しようにも、判断の基準がなく、効果的な研究開発活動は望めない。研究開発の投資効果も当然上がらない。

では、なぜリンクが困難なのか? それは将来の新規事業のパイプラインを作る役割の組織が、企業の中で明確ではないためだ。では誰がパイプラインを作るべきか? もちろん研究開発部門だけでは作れない。ここで重要性を増すのがマーケテイング部門と社内シンクタンクである。今後、企業では、新規事業のパイプライン、そのビジネスモデル、そしてそのビジネスモデルを差異化するための技術を、現時点ではまだ日本企業に馴染みがないCMO(最高マーケテイング責任者)、およびCTO(最高技術責任者)が中心となった会議の中で、全社的に検討して構築するという流れになるだろう。そのためのCMOやCTO補佐としての経営層や社内シンクタンクの役割を次第に固める必要がある。当然ながら、その会議の中心に存在すべきは経営トップである。

  

以上、日本において成長・発展戦略を実効あるものにするため、特に大企業レベルでの事業の新陳代謝、すなわち特に新規事業を創出・育成し、企業内の経営資源をより生産性の高い分野にシフトする方策に絞って提言した。当面、これが現実的な日本の新陳代謝の姿である。

しかし、大企業はグローバル化の中で、ますます活動の場を世界の中から選び、事業を日本から海外に移管する傾向を強めるだろう。したがって、同時に、大企業に頼らない新規事業の創出も考える必要はある。困難とはいえ、ベンチャーの支援や大企業と結びつける努力も重要だし、地域の資源を生かした中小企業が、海外のニッチな分野でサービスエンジニアリングを伴って市場開拓することを支援する必要性も高い。

いずれにしても、今後は変わらないことが最大のリスクである。企業が既存事業に依存したい気持ちを変えて、新たな付加価値の高い分野を切り開く気概を持たない限り、第3の矢の成長戦略は、的を外れてしまうだろう。

成長戦略としての企業の新規事業創出に向けた7つの提言(1)

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【調査・研究】


安部 忠彦(あべ ただひこ)
1976年 東京大学理学部、1978年 東京大学大学院修了。学術博士(金沢大学)。
(株)三菱マテリアル、(株)長銀総合研究所を経て、現在、(株)富士通総研 経済研究所エグゼクティブ・フェロー。
専門調査・研究分野は、企業の研究開発活動、国、地方自治体の科学技術政策、産業調査(リーデイング産業、空洞化問題、国際分業問題)、技術経営、サービスイノベーションなど。