GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. コラム >
  3. オピニオン >
  4. 成長戦略としての企業の新規事業創出に向けた7つの提言(1)

成長戦略としての企業の新規事業創出に向けた7つの提言(1)

2013年3月27日(水曜日)

重要性を増す3本目の矢としての「成長戦略」

日本経済の長期にわたる停滞打開に向けて、安倍政権は「経済の再生」を目指し、3本の矢を準備した。すなわち「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」そして「民間投資を喚起する成長戦略」である。現状、前2本の矢に関しては、米国市場の好転や日本の貿易赤字などの環境変化と成長期待が先行し、思惑どおりに円高修正、株高が進んでいる。しかし、やはり重要なのは3本目の矢、すなわち実体経済での成長戦略だ。それも単に成長という量的拡大を目指すだけでなく、生産性向上や競争力強化、付加価値の高い分野への経営資源のシフトなど、中身の変質を伴った、「日本の持続的な発展」が真の目標のはずだ。

その目標実現に向けて、「産業競争力会議」では「産業の新陳代謝の促進」が第一のテーマに挙げられた。しかし、国が産業という実行主体が曖昧なセミマクロレベルで「産業構造の高度化を目指せ」などと方向付けても、これまで幾度も産業政策や成長政策が策定されながら期待を裏切り続けた歴史をまた繰り返す恐れが強い。

日本での産業の新陳代謝は、米国のようにベンチャー等により新産業が突然生まれるのではなく、既存企業、特に大企業内部での新陳代謝の積み重ねとして実現されてきた。現状、日本では、ベンチャーへの期待は現実的でない。新陳代謝を目指すなら、実行主体が明確な個々の既存企業レベルでの「事業構造転換」というミクロ視点まで下り、「なぜ企業は、競争力が無くなった既存事業に経営資源を温存し、付加価値が高い新規事業にシフトできないのか」等の原因追及に基づく緻密な政策立案が必要だ。ただしこれは、国の政策如何にかかわらず、企業が自らの努力で成し遂げなければならない課題だ。

企業レベルでの新規事業の創出・育成がポイント

企業の事業構造転換では、既存事業の大胆なビジネスモデルの転換と、競争力ある新規事業の創出・育成とがある。現状を見ると、これまで長期的に依存してきた既存事業は成熟し、売上高が徐々に低下している例が多い。既存事業の生き残り策も必要だが、最終的には新規事業の創出・育成こそが、より重要な課題と言える。

新規事業創出に、日本企業が手をこまねいていたわけではもちろんない。創出を目指した「イノベーション」に向けて、特に社内の期待を一身に集める研究開発部門は、世界企業に比べ遥かに高い比率で研究開発投資を行ってきた。しかし、その成果に自信を持てる企業は少ないだろう。うまく行かなかった理由は、新規事業創出のやり方が変化したのに、以下に述べる日本企業特有の問題で、それに対応できなかったことが大きい。その認識と解決策なくして、またぞろ「研究開発投資の増加を」「科学技術でイノベーションを」の大合唱では、「研究開発できて楽しかった」「だけど何も新規事業・産業が起こらなかった」の失敗を繰り返し、産業再生も夢に終わるのではないか。

本稿では、以上述べた日本の経済再生の本丸たる「民間投資を喚起する成長戦略」を具体的な形で成功させるために、企業視点に立った事業構造転換、とりわけ新規事業創出・育成の課題と成功に向けた方策を、筆者が参加している各社の技術経営幹部との会議の議論等を踏まえ、2回に分けて提言したい。

1. 新規事業創出の前提として、既存事業の存続価値の評価ルールを持つ

進まない企業内の事業構造シフト

1つめの提言は、「新規事業の創出云々以前に、既存事業の事業存続価値の評価を、ルールをもって行う」である。

企業の経営資源は限られる。新規事業創出には、社内で大きな力を持つ既存事業との資源の奪い合いに勝たねばならない。主力既存事業が成熟し売上高が減少しても、低迷スピードが緩慢だと、事業構造転換の必要性を感じつつも、現実には既存事業の価値を守ろうとする社内勢力が強い。既存事業の維持が本音となり、新規事業の芽は潰されやすい。

ここで、企業における事業構造転換が困難な理由を整理してみると、確かに新規事業創出自体が困難という理由はある。例えば、実は日本企業は歴史的にも真に自社独自で新規事業を立ち上げた経験が乏しい。多くの事業は、有力顧客や国の指導、先行する欧米ライバル社の姿を真似て出来上がったものだ。先頭集団に立った現在、顧客も国も自信を持って次の新規事業のターゲット分野を教えられる状況にない。リスクをとった試行錯誤しかない。

しかし、その他の理由を見ると、企業自身が既存事業依存から抜けたくない、変わりたくない、何とかそれにしがみつきたい、という社内事情が見えてくる。

第一に、主力既存事業は停滞しているとはいえ、売上高は多額で雇用者数は多い。確実性が低い新規事業に簡単にシフトはできず、既存事業依存になりやすい。

第二に、日本企業は外資系より遥かに強く顧客への供給責任を感じている。だから、既存事業は簡単には止められないとなる。

第三に、既存事業が今はダメでも、踏ん張れば必ず良くなる時期が来ると思いたがる。実際そうして復活した経験もないわけではなく、低迷既存事業復活の期待に陥りやすい。

日本企業には、既存事業存続価値の評価基準、対応ルールが少ない

第四の、そして最も大きい理由は、既存事業の存続価値評価に基づく拡大・統合・再編・撤退等のルールを持つ企業が少ない、判断の一貫性が弱いことにある。もちろん日本企業も、誰の目にも明らかに既存事業の存在が絶望とわかれば窮鼠の危機感を共有し、撤退等の判断を下し、死に物狂いの行動に出る底力はある。しかし、徐々に低迷する場合には、判断基準が無いため、ズルズル事業を継続し、手遅れになりがちだ。

海外企業と話してみると、平時から利益性や将来性等の事業の存続価値を評価する基準、対応のルールを持つ企業が多い。もちろん撤退等の判断に正解はないが、事業存続価値評価による対応ルールを決めておけば、いざとなってから泥縄式に話し合って無駄な時間を費やし、適時の売却などの選択肢を失うことを防げる。ルールを持つことは、経営のスピードを高める上でも、正しい危機感を醸成する上でも必要だ。新規事業創出と既存事業からの撤退は抱き合わせ・一体で進めることが現実的だが、既存事業の存続価値を冷静に評価できていないと、真剣に新規事業を検討しようとはならない。事業の撤退前に売却や雇用の社内移転のための再訓練、研究者の分野シフト等を行う必要もある。こうした作業を前もって準備し、時間軸の中で新規事業を並行して創出し、転換しやすくするためにも、ルールは必要である。

2. 新規事業の方向性を明確にする

2つめの提言は、「新規事業創出の方向性を明確にすべき」というものだ。より具体的な方向性について説明したい。

第一は、「バリュー・イノベーション(顧客の経験価値の提供)を目指すという方向だ。

歴史を振り返ると、日本企業は80年代までは、プロセス・イノベーションによる低価格な高品質量産品、また近年までは、市場ニーズの分析とプロダクト・イノベーションによりニーズに合った高機能で多様な製品を提供することで、優位性を発揮してきた。

しかし、現状は、例えば電機産業などで量販店に価格の主導権を奪われたこともあるが、日本企業間での価格・商品の激烈な横並び競争に明け暮れ、利益の出ない事業を続けている例が多い。市場調査で皆が知り得るニーズに基づく製品は、ニーズが誰にも明らかな故に製品開発しやすく、価格競争になりがちだ。こうした競争はもはや限界だ。これからは「そう、これを使ってこんな体験したかった」と思わせる、顧客に新たな使い方を提案し、経験価値を提供し、価格と利益を維持する方向で、新規事業の創出を目指すしかない。

第二は、「技術的差異化による単品の売り切り」から「面的な差異化」を目指すものだ。

これまでの日本企業は、選択と集中で製品を絞り、その絞った製品の高品質・高機能な技術的差異化のもとで、単品を売り切って終わり型のビジネスで生きてきた。しかし、そのやり方では差異化の幅に限界がある。企業の競争力とは、つまるところ、「他社との違いをつくり、それを組み合わせること」とされる。単品製品の技術的な差にシステムやソリューション、サービスを加えて、面的に差異化を構築する方向である。企業が社内に持つバリュー付加機能を横串的に参画させて、バリューチェーン全体の中で他社には真似できないメリハリをつけた多面的な差異化狙いである。

第三は、新規事業といっても全くの落下傘的進出は成功確率が低い。「既存事業とビジネス面、技術面で何らかのつながりを持つ分野」を見い出すべきである。技術面、ビジネス面のどちらの関連性を重視するかは、両者を選ぶ手順が重要となる。それに関しては、項を改めて説明したい。

第四は、その分野に参入しそうなライバルの中に、「過剰な価格競争を仕掛けてきそうな企業がいない分野」への進出である。そのようなライバルが存在すれば、いくら市場が成長しそうでも、誰も勝者がいない潰し合い市場にもなりかねない。市場の大きさを追うことよりも、利益の安定性を重視すべきである。

3. 新規事業シフト、新規事業分野は経営トップが社内シンクタンクを活用して決断

新規事業シフト、新規事業分野決定では、経営トップの役割が決定的に重要

3つめの提言は、「新規事業シフト、新規事業分野は、経営トップがリスクをとって決断する。その判断には社内シンクタンクを活用する」というものだ。

すでに述べたが、事業構造転換は、既存事業と新規事業との経営資源の奪い合いの側面を持つ。転換したがらない既存事業の強力な慣性に対抗するには、すでに提言した事業存続評価と拡大・統合・再編・撤退等のルールを持つと同時に、経営トップこそが、事業の実態をよく見て、「この事業は止める」という辛い決断を下す必要がある。では、新規事業としてどの分野に進むべきかの決断はどうするか? これも社会の変化潮流や自社のミッション、強みを見据えながら、経営トップが広い視野で決断すべき事項である。

このようなリーダーシップのある経営トップは、いかにあるべきか? 一般的にすぎるが、やはり決断力と実行力が備わったリーダーということになる。以前は、新規事業を非常にパワフルな個人社員の熱意で生み出した事例も少なからず見られた。研究所を含め、社員の活動が比較的自由な時代のことである。現状では、社員の管理が厳しく自由度も減り、なかなか個人の努力で生み出せる状況ではない。こうした中で新規事業を生むには、権限を持つ企業トップの役割が非常に大きくなっている。

トップの決断を支援する社内シンクタンク機能とマーケテイング機能の充実を

では、その経営者は、決断の根拠を何に依存すべきか? 勘の鋭い経営者も多いが、近年、生じている変化の1つは、決断の判断根拠に、社内シンクタンク組織を設置し活用する企業が見られ出したことだ。まだ設立から日が浅く、規模も小さく、現時点では、曖昧な有望新規事業分野候補の実態把握の精度を上げる、社会トレンド変化を見据えて大きな変極点を見つけ、新規分野策定に寄与する、などの試行錯誤が続いている。いずれ、こうした機能の設置・活用が他社にも波及するのではないか。

新規事業分野の検討を既存事業部門や営業部門の役割としている企業もあるが、これは困難だ。既存事業部門は本来保守的で、新規事業探索に熱心ではない。営業部門は日々の顧客ニーズをよく知ってはいるが、有望新規分野は必ずしも顧客の短期的な日常業務の課題の延長上にはない。また日々の業績を要請される営業部門には、中長期の広い視点での戦略策定は手に余る業務だ。

また、これをマーケテイング部門の役割とする企業もある。本来そうあるべきと思う。しかし既存事業部が強い日本では既存顧客に密着する営業部門の力が強く、新規市場開拓を大きな役割とするマーケテイング部門はあまり重視されてこなかった。そのため、日本企業には実質的なマーケテイング部門は少なく、新規事業開拓のための訓練もできていなかったという学会からの指摘もある。今後のマーケテイング部門の新規事業開拓機能拡充は大きな課題である。いずれにしても新規事業の開拓は、経営トップが大きな視点で関わり、決断すべき事項である。(以下(2)に続く)

成長戦略としての企業の新規事業創出に向けた7つの提言(2)

関連サービス

【調査・研究】


安部 忠彦(あべ ただひこ)
1976年 東京大学理学部、1978年 東京大学大学院修了。学術博士(金沢大学)。
(株)三菱マテリアル、(株)長銀総合研究所を経て、現在、(株)富士通総研 経済研究所エグゼクティブ・フェロー。
専門調査・研究分野は、企業の研究開発活動、国、地方自治体の科学技術政策、産業調査(リーデイング産業、空洞化問題、国際分業問題)、技術経営、サービスイノベーションなど。