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中国新型都市化実現の虚実

2013年3月26日(火曜日)

2011年から中国都市部の人口が初めて農村部を超え、都市部の人口比率が50%を突破した。1978年の「改革・開放」政策の実施以来、着実に進んできた中国の都市化が、ここに来て新たな段階に入りつつある。2012年末の中央経済工作会議では、新型都市化の建設推進が打ち出され、「現代化国家建設の歴史的なミッション、内需拡大の最重要のポテンシャル」と位置づけられた。

1. 新型都市化の提唱

2012年12月15日~16日に北京で中央経済工作会議が開かれた。政権交代後、新指導部による2013年の経済政策運営の方向を示すこの会議では、内需拡大につながる新たな成長エンジンと目されている新型都市化の建設推進を発表し、習近平新政権の目玉政策にもなると言われる。また、先日閉幕した中国全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)でも、都市化を巡る議論が行われ、都市化が成長の牽引役になることが強調された。

中央経済工作会議の従来の5つのミッション(マクロ経済の安定成長、農業基盤の強化、産業構造の調整、改革開放の深化、民生の改善)に追加された新型都市化の推進は、決して新しいスローガンではない。過剰投資と輸出に依存する中国経済の成長モデルの転換が迫られる中、内需や消費の拡大が急がれる。都市化の推進は、その拡大の重要な原動力と見られている。

今回打ち出された新型都市化は2020年までに都市化率を60%、2030年までに65~70%に引き上げるという目標であり、これから10年間に40兆元(約640兆円、1元=16円で換算)を投じ、約2億人(農村人口)を都市に移住させる計画である。この計画を公表してから、様々な議論が集まる中、不動産開発が進むとの思惑から、鉄鋼、建設や不動産関連の株が上昇し、まず資本市場に歓迎された。

2. これまでの都市化の進展

世界銀行の資料によると、2010年の世界平均都市化率は50.9%であり、先進国の都市化率は大体70%~80%にある。中国の場合、1978年の「改革・開放」政策の実施以降、経済の発展と共に、都市部の人口は1.72億人から2012年の7.12億人にまで増え、都市化率も17.92%から52.57%にまで右肩上がりに伸びた(【図1】中国の都市部人口比率の推移)。先進国には及ばない数字だが、中国の都市化は着実に進んでいる。

【図1】中国の都市部人口比率の推移
(出所)CEICデータをもとに作成 【図1】中国の都市部人口比率の推移

従来の都市化推進と異なり、今回の施策では、「新型」という前提がつけられた。具体的に「集約・スマート・グリーン・低炭素の都市化を目指す」ことである。これは資源の合理的な利用、環境配慮型の経済発展とグリーン成長の実現につながり、都市化の量より質を重視するという意味での「新型」である。大都市(省レベル)は集約しながら、より合理的な都市計画をもって規模を抑制し、都市群としての影響力を十分に発揮させる。また、従来のように、農民を単に都市へ移動させることより、農民が住み慣れた地域(県・郷鎮レベル、日本の市町村に相当、【表1】参照)の行政レベルをアップさせ、産業発展、雇用創出と人口集約を通じ、新たな中小都市を作る。これも「新型」の意味合いである。2011年末に中国は2853個の県があるが、その中で、どのぐらいを「市」にまでレベルアップできるかが注目される。現在、国家発展改革委員会、財政部、国土資源部と住建部によって、「公平同等、集約効率、持続可能」という新型都市化建設の3つの原則を盛り込んだ「全国都市化の健やかな発展を促進する計画(2011-2020)」が作られており、具体的な実施戦略が今年度中に公布される予定である。

【表1】中国の行政区分
中国の行政レベル 個数(2011年末) 日本の行政区分との比較
1.省級(自治区を含む) 34 都道府県に相当
2.(地区)市級 333 県に近い
3.県級 (県級市を含む) 2853 郡に近い (県級市は日本の市に近い)
4.郷鎮級 40466 町村に相当

3. 新型都市化の課題とは

しかし、統計上の人口都市化率が50%を突破したといっても、戸籍登録を見れば、50%の中の約3割が農村での戸籍登録のままになっている。このような状況を抜本的に変えない限り、都市化に新たな進歩は遂げられないと思われる。また、中国では都市部に2.6億の出稼ぎ労働者(中国語で農民工)がいるが、都市部に住居を持っている農民工は1%に過ぎないと言われている。そのような状況で、消費牽引型へ経済成長のモデル転換を目指す中国にとっては、農民を安定的に都市に定住させ、消費意欲を引き出すことが重要である。この流れで考えてみると、これからの都市化進展において、一番難関となるのは、戸籍制度の改革である。中国の戸籍制度とは、1958年に起きた食糧不足の後、農村から都市への移動を制限するために設けられた制度であり、戸籍のない地域では、各種社会保障や公共サービスが受けられない厳格な制度である。戸籍制度により、ある程度、都市部の資源を確保できたとはいえ、都市部と農村部の経済格差は拡大し、都市部住民と農民の間に不公平が生じる原因となった。農民を市民にするのは単なる呼び方の変更ではない。戸籍制度の改革を切り札にして、都市化の進展に大きな一歩を踏み込めるかが極めて重要である。

同時に、これまでの農民の土地を収用して、農民を強制的に都市部に移動させるやり方も限界を迎えている。新型都市化は、発展が遅れた県を市にまでレベルアップするのが得策として重要視されている。その際、雇用機会を作るのが大前提なので、産業育成が不可欠である。産業発展より不動産開発が先に進めば、農村は都市のように様変わりできるだろうが、土地を失った農民たちは仕事があるところに流れ込んでしまい、大都市の「都市病」が更に悪化しかねない。これは明らかに新型都市化推進の趣旨に反する。不動産開発のみ優先する考えをやめ、各地域は産業集積の総合的な視点に立った地域の実態分析に基づき、地域にある資源を十分に認識した上で、新型都市化の実現目標(集約・スマート・グリーン・低炭素)を念頭に入れ、地域の特徴を活かしながら、環境を配慮した産業政策を講じる必要がある。また、今後も大都市部や沿岸部から内陸部への産業移転が起きると予想し、その場合、どのような産業を受け入れるかも真剣に議論すべきである。全人代で新たに選出された李克強首相は、新型都市化について都市と地方の協調した発展も強調した。これも地域の産業育成における重要なポイントとなり、都市化は単なる都市部人口の増加や都市面積の拡張ではなく、雇用創出や充実した公共サービスの提供に力を入れるべきである。

新政権にとっての目玉政策である新型都市化の推進には、確かに様々な課題があるが、商機も沢山潜んでいる。今後も毎年1%前後の都市化率の上昇が実現するとすれば、2000万前後の農民人口が市民になるわけで、内需や消費拡大につながると見られ、新政権が出した2020年までの所得倍増目標の実現に近づくことになる。国内外の企業にとっても様々のビジネスチャンスが発生することになり、今後とも都市化の進展を注意深く見守っていく必要がある。

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【調査・研究】


趙 瑋琳(チョウ イーリン)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
【略歴】
2002年 中国大連海事大学卒業、2002年 株式会社プロシップ入社。2008年 東京工業大学大学院社会理工学研究科修士博士一貫コース修了。2008年より早稲田大学商学学術院総合研究所 助手、研究員。2012年 富士通総研入社。
専門領域:中国における産業クラスター発展の課題、中国等新興国を対象に社会経済体質、産業競争力と持続発展の関係分析、など。