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  4. スマートシティ成功の鍵はプロシューマー化の推進を図る仕組み作りから

スマートシティ成功の鍵はプロシューマー化の推進を図る仕組み作りから

~市民・住民とのミューチュアル・リスペクトを基軸においた展開!~

2013年2月25日(月曜日)

1. 期待されるスマートシティプロジェクト

2008年頃から世界各地でスマートシティ(以下、SC)関連のプロジェクトが登場し始めてきています。それから約5年が経過した今日、SC関連のプロジェクトは、世界35か国以上の国々で取り組まれ、その数は400とも500とも言われています。スマートグリッドに代表されるエネルギー基盤関連のプロジェクト、エネルギーのみならず水や交通等も含めた社会インフラ関連のハードウェア開発とその基盤構築プロジェクト、さらには、SC基盤を利活用した様々なサービスやビジネスモデルの検討プロジェクト等、多種多様な取り組みが行われています。

日経BP社の予測によると、SCの市場は、2015年迄に急速に立ち上がりを見せ、その規模は、SC市場の中核をなすエネルギー分野で2020年に約200兆円、2030年には230兆円に達するものと予測されています。また、水、港湾、交通等の各種インフラ関連や、それらの保守・メンテナンスサービス、SCインフラを活用して提供される医療・介護やセキュリティ等々の各種付加サービスも含めると、その規模は倍以上に膨れ上がり、2030年には500兆円規模になるとしています。市場予測からもわかる通り、SCは多岐にわたる業界が関係し、業界を超えた大きなビジネスチャンスがそこに存在していると多大な期待が寄せられているのです。世界中の様々な都市や地域で、数多くの企業が、SC関連の各プロジェクトに参画している所以は、まさにこうした成長市場への期待の表れと言えましょう。

2. SCプロジェクトは社会基盤の構築整備と新サービスの創造

期待の膨らむSCプロジェクトですが、現在どのような事業領域で取り組みが行われているかというと、概ね8つの領域で40くらいの新たなサービスに関する実証や検討が行われています(【図1】)。

【図1】スマートシティの対象領域例
【図1】スマートシティの対象領域例

SCプロジェクトの中核となる『エネルギー(電力、熱・バイオマス等)』、次世代交通システムや電気自動車(EV)、カーシェアリング等の『トランスポート・モビリティ(マルチモーダル)』、見守りや遠隔診療、健康管理等の『医療・健康』、復興、防犯・防災の『行政サービス』、各種人材育成も含めた『教育・子育て』、ホームセキュリティやホームオートメーション、ホームエンターテイメントの『ホームネットワーク』、生物多様性や環境負荷軽減、環境保全等の『生態系サービス』、さらには『マーケティング』など、市民生活に関わる多種多様な分野に、その対象は及んでいます。

もちろん、個々のプロジェクトを見ると、国や地域、都市等により、置かれているエネルギー事情や環境問題、経済状況や政策スタンス等々、様々な社会的背景が絡んでいることから、国毎、地域毎、また、都市毎に、対象領域もサービス分野も個別性が存在しています。したがって、サービス名が同じだからといって、その提供価値は必ずしも同じものではなく、異なっている場合が多いのも事実です。

さらに、SCへの取り組みに関し、アプローチ面から見てみると、大きく4つの類型に分類することもできます。1つは、現在ある都市環境にSC的な方策を組み入れるタイプの『改良改善適用型』、2つ目は、新規にまっさらな状態からSCとしての新しい都市空間を開発していく『新規創造構築型』、3つ目が、技術パッケージ輸出等を目指して、政府機関等と企業が連携して国外で実証実験を行う『海外輸出型』、最後が、東日本大震災後の復興事業の一環として、SC的な方策を盛り込んだ『復興対策型』です。3つ目の『海外輸出型』に関しては、先進国の一部でも事例がありますが、4つ目の『復興対策型』も含め、この2つのアプローチは日本特有のものと言えます。言い換えると、日本は、世界に類を見ない多様なアプローチが取られているSCプロジェクト先進国であるとも言えるのです。

いずれにしても、SCプロジェクトは新旧の社会生活基盤を構築整備し、CO2の削減や生物多様性等の環境に配慮・適合した社会の実現、また、安心安全で、人に優しい快適な生活を営む環境空間の実現を目指したものであり、社会インフラの整備構築と新たなサービスの創造によって、それを実現しようというものだということです。

とりわけ、日本においては、被災地の復興のみならず、地盤沈下が進む各地方・地域も含めて、高齢化や人口減少、産業空洞化の一層の深刻化等々、解決していかなければならない課題が山積する中で、SCという概念のもと、社会・生活のあり方や関係性について再定義することによって、こうした課題を解決していこうというものであり、それが必須な時代になっているということでもあります。前述したとおり、現行のSCプロジェクトがエネルギーや環境関連にとどまることなく、モビリティや医療・健康、教育も含めた行政サービス等を包含する非常に幅広い内容となっているのは、直面するこうした課題を解決するための実現手段として、SCが重要な概念かつ方策の位置づけになっているからに他ならないのです。

3. 目的はクオリティ・オブ・ライフ(QOL)&サスティナブルの実現

日本の課題解決にとって、重要な役割を担うSCの推進・実現において、忘れてはいけないポイントが2つあります。その1つは、あくまでも主役は市民・住民であるという点です。ともすると、エネルギーマネジメント基盤としてのスマートグリッドや、それを実現する手段としてのスマートメーター等の機器類、また、その機能面に目を奪われがちですが、非常に乱暴な言い方をすれば、ハードウェアは、あくまでも市民・住民の『生活の質(クオリティ・オブ・ライフ;QOL)』を向上させるための手段でしかないということです。どんなに優れたハード機器や機能があったとしても、それをどのように利活用して、どう市民・住民のQOLを高めるのか、さらには、それを実現していくためにどのような運用や運営を行って維持継続していくかという、ソフト面やサービス運用面、さらには、市民・住民のライフスタイルのデザイン面の視点が伴わなければ、SCの実現は非常に難しいということであり、こうした視点が、SCを推進していく上での重要な鍵になっているということです。

SC推進・実現において欠かせないポイントのもう1つは、サスティナビリティ(持続可能性)をどのように実現し、発展させていくかという点です。QOL向上のために、社会基盤の利活用と運用・運営視点が重要であることを上述しましたが、単にそれを維持継続するのみならず、どのように展開・発展させていくかの方策、つまり、「こと」創りへの取り組みをどのように図っていくかが、もう1つの重要な鍵になってきます。

現状においても、世界各地の魅力的な都市には、いくつもの優れた特質が備わっています。歩いていて心の安まる街路樹や街並み。商店街やカフェ、公園などの雑踏の賑わい。整備された地下鉄や都市交通システム。幸な家族が暮らすであろう家々が立ち並ぶ郊外の住宅街と里山等々。そうした生活環境や社会空間は、人々の生活にある種の温かみを感じさせ、その魅力を植えつけることにもなります。しかしながら、こうした環境や空間というのは、作ったまま放置しておいてもできるものではありません。都市計画に基づいた街区の開発とそれを維持していくための仕組み作り、人々の移動をスムーズにする道路や公共交通の整備とその運営。上下水等のライフラインの確立と恒常的な提供。定期的なゴミ収集の仕組み等々。いずれも専門家たちによる計画と施策の運営・運用がなくては実現できませんし、日々の社会的なサービスによって、初めて形になる人為的な環境だとも言えます。逆に、そうした施策や運営がうまく実施できなければ、交通渋滞を招き、街にはゴミが散乱し、不衛生な水の提供といった様々な問題が発生することにもなりかねません。結果、人々が集まるどころか街を離れ、活気は失われ、街はさびれ、最後には廃墟に化すことにもなりかねないのです。

市民・住民の健全な社会生活の営みは、エネルギー基盤はもとより、その地域や都市において、交通や水、ゴミ、セキュリティ、教育・福祉等といった公共的なサービスが、一定水準で提供され続け、発展して行ってこそ、成立するものであるということです。さらに加えるならば、将来にわたって、こうした一定水準の公共サービスが、安定的に提供可能な財源(税収や資金)が確保されていることが重要になるということです。

4. プロシューマーとのミューチュアル・リスペクトを

QOLの向上とその持続可能性の2つの視点に、今後どのように取り組むべきか?特に、市民・住民の価値観の多様化が進展し、インターネットやケータイ・スマホの普及により、市民社会において情報流通が日常化し始めている今日の日本において、それにどのように向き合うべきかの答えは、SC自体が技術と利用者との相互関係によって成立するイノベーションであることに着目すると、主役である市民・住民とのミューチュアル・リスペクト(相互尊敬)を基軸に据えた取り組みを積極的に行っていくことに他ならないと考えるのです(【図2】)。

【図2】技術と市場の共創メカニズム~イノベーションメカニズムの世代交代~
【図2】技術と市場の共創メカニズム~イノベーションメカニズムの世代交代~

例えば、エネルギー関連プロジェクトの主たる取り組みに、各家庭に設置した太陽光パネルによる再生エネルギーの活用がありますが、言うまでもなく、パネルを設置した市民・住民は、エネルギーの利用者・消費者(コンシューマー)ですが、生産者(プロデューサー)としての立場も持っています。市民・住民は、自らが設置した太陽光パネルで発電し、蓄電池や電気自動車にそれを蓄電し、余剰な電力は値段が高い時に売却したり、個人や地域内で融通したりすることが計画されているからです。生産と消費が密接に連携した仕組みによって、それが成立する仕組みになっているのです。見方を変えると、相互尊重による連携の中で、市民・住民はプロシューマーとして生まれ変わり、成長し、自らのQOLの向上を追求しながら、維持発展していくことになるということです。

食品残渣や食品廃棄物、下水汚泥、家畜糞尿などを活用したバイオガスによる熱電併給システムにおいても、形は異なりますが、類似の枠組みがあります。メタンガスを発酵させる資源の一部は、直接的に市民・住民が担っていますし、それがシステムとして循環することで、発生した熱電の利用者になっていくからです。

SCの推進においては、今後まさに、市民・住民のプロシューマー化が事業やビジネスの重要成功要因になるということであり、これまでの提供者中心の論理のみでは、実現しにくい枠組みや仕組みが多数存在しているということなのです。したがって、生産者としても利用者・消費者としても主役である市民・住民とともに、一緒にQOLの向上を考え、創造し、維持・発展させていくことが重要になるということです。

高齢化社会を目前に控え、『公助・共助・自助』の取り組みへの重要性が言われて久しい今日ですが、程度問題はあるにせよ、ミューチュアル・リスペクト(相互尊敬)を基軸に置いた取り組みこそが、SC推進・発展の原動力であるということです。

行政が実施するサービス(公助)を維持して行くにしても、自治体等の置かれている今日の財政状況を踏まえると、市民・住民との新たな協調・連携による財政・税制面からの下支えの仕組み作りが必要になるでしょう。また、公共サービスと民間サービスのサービス連携による共助の枠組みにおいても、市民・住民との共創を前提にしたものにならざるを得ないと考えます。さらに、自助を支えるサービスについては、民間ビジネスの主戦場になることは想像に難くないですが、これまで述べてきたとおり、生産者としても利用者・消費者としても主役である市民・住民とともに、一緒にQOLの向上を考え、創造し、維持・発展させていく取り組みでなけれ、決してうまくいかないと考えます。

現在、世界中で推進されているSC実現に向けての取り組みの中で、事業化やビジネス化として実現・展開できているものは、まだまだ多くはありません。その取り組みの多くは、技術検証や政策環境も含めた実証検討が行われている段階であり、資金面においても、国等の補助金などに依存した形のものが多いのも事実です。SCを実現し、事業から産業として発展させていく上でも、プロシューマー化する、本当の意味での主役である市民・住民とともに、ミューチュアル・リスペクトに基づく共鳴を積極的に図っていくことこそが重要と考えます。

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佐々木 一人

佐々木 一人(ささき かずと)
(株)富士通総研 執行役員 第二コンサルティング本部長代理 兼 環境事業部長
(株)長銀総合研究所を経て、1998年(株)富士通総研入社。2004年取締役、2011年4月から現職。
著書に、『ケータイビジネス2001』(監修著作;ソフトバンク・パブリッシング)、『ブロードバンドビジネス2002』(著作;ソフトバンク・パブリッシング)など。
その他、雑誌、新聞等に記事原稿を多数掲載するほか、通信・放送メディア産業、同関連事業、並びに、MOT(技術経営)関連の各種調査・研究、コンサルティング、アドバイザー等に従事。