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  4. 企業の競争力を高めるICTの新たな活用法とマネジメント 第2回

企業の競争力を高めるICTの新たな活用法とマネジメント 第2回

~サービス・ドミナント・ロジック視点でのビジネスを支えるICT~

2013年2月1日(金曜日)

第1回では「マクロ経済からICT投資の価値を考える」と題して、日米のICT投資の差異を経済成長への貢献という視点から分析し、米国のICT投資の経済成長への寄与度が日本と比べて高いことを示した。米国ではサービス・ドミナント・ロジック視点でビジネスが行われ、それを支えるICTも価値を生み出し経済成長に貢献してきたと考えられる。

第2回ではこの「サービス・ドミナント・ロジック」という概念を具体的な事例で説明するとともに、それを支えるICTの特徴を考えてみたい。

1. サービス・ドミナント・ロジック視点でのビジネスとは

まず、サービス・ドミナント・ロジックという考え方を改めて整理しておこう(【図表1】)。

【図表1】グッズ・ドミナント・ロジックとサービス・ドミナント・ロジック 【図表1】グッズ・ドミナント・ロジックとサービス・ドミナント・ロジック

かつての製造業においては、商品自体の魅力を高めるため、生産工程を効率化して価格価値を提供するとともに、技術開発や綿密なマーケティングを通じた機能やデザインの向上などを通じて商品自体の魅力を高め、付加価値を提供してきた。このように、商品自体に価値を埋め込み、その交換価値を重視する考え方を、マーケティングの世界では「グッズ・ドミナント・ロジック(GDL)」と言う。しかし、多くの製品が溢れる中、モノ自身の価値だけで顧客ニーズを満たし差別化を図ることは難しくなってきている。

その中で、しばらく前から多くの製造業企業がサービス分野に乗り出してきており、「製造業のサービス化」が進んできた。そのサービスについても、買った後の使い勝手の向上、保守を含む関連サービスの提供に始まり、ソリューションの提案、ネットワークビジネスの展開など、その領域が広がってきている。モノとサービスを一体化させ、顧客が買ってくれた後の使用価値や経験価値を高めることを重視する「サービス・ドミナント・ロジック(SDL)」の考え方へとビジネスの視点が移ってきていると言えよう。ここでは、顧客との関係性構築を通じて、いかに顧客と価値を共創していくことができるかがポイントとなる。一言で言えば、「モノ」づくりから「コト」づくりへの発想の転換である。

iPodはサービス・ドミナント・ロジックの例としてよく取り上げられる。2001年、アップルはiPodという製品を顧客に販売するに先立ち、iTunesというジュークボックスソフトウェアを用意した。誰にでも使いやすい優れたインターフェースと豊富な機能により、人々がオリジナルのミュージックライブラリを作り楽しむことができるような、顧客との価値共創の場を用意したのである。さらに2003年にはiTunes Music Storeをオープンし(現在ではiTunes Storeと改称して、音楽だけでなく映画やゲームも配信)、顧客は好きな音楽を欲しい時に購入して自らのライブラリに加えることができるようになった。アップルはiPodという製品だけでなく、音楽を楽しむという体験そのものを価値として提供しているのである。

では次に、アメリカにおけるもう少し具体的な事例でサービス・ドミナント・ロジック視点のビジネスの特徴を見ていこう。

2. 顧客は「医療機器」ではなく「適時的確な診断」を求めている

グローバルに展開するGEヘルスケアは、医療機器、特にCT、MRI、超音波等の画像診断機器の大手である。GEヘルスケアでは1990年代から、こういった機器に通信機能を内蔵させ、顧客である病院の各機器と同社のテクニカルアシスタンスセンターを通信回線で結んで、遠隔で診断・点検・修理などを行うリモートメンテナンスサービス「InSite」を提供してきた。今では通信速度の向上に伴い、遠隔アプリケーションサポートやオンライントレーニング(TipVA)といったインタラクティブなサービスも提供できるようになっている。また、定期的に出される稼働状況に関する解析レポートは、より効率的・効果的な機器の活用にも役立っている。これらにより顧客は、機器購入後も安心かつ効果的に使用することができるという使用価値を得られている。

一方で、画像診断機器等から生まれる大量のデータを管理し、活用するシステムにも力を入れている。院内のあらゆる画像や文書を一元的に管理、ネットワーク化するだけでなく、電子カルテともシームレスに連携をとれるようになってきている。これにより、医療現場が効率化されるとともに、様々な医療シーンでの画像確認や遠隔診断が可能になり、よりリアルタイムで適切な診断に結びつく。GEヘルスケアが提供する医療機器を購入後も有効に活用できるようにすることで、その使用価値を一段と高めるだけでなく、より質の高い医療という経験価値を創り出すためのソリューションも提供していると言えよう。最近では、スマートフォン、タブレットといったモバイル端末を通じて、病棟や手術室、救急医療現場でも、必要な時に画像のやりとりや確認、遠隔診断ができるようになり、診断や治療の質がより高まっている。

GEヘルスケアはこの他にも、これまでの診療データとリアルタイムの患者情報を組み合わせたビッグデータ活用の診断支援システムを提供するなど、医師がよりよい診断・治療をより多くの人に届けることができるようなソリューションを展開している。また、先に述べたモバイル・ソリューションや小型医療機器の開発を通じて、在宅医療や遠隔地医療、地域医療連携にも積極的に取り組んでいる。医療機器というモノをサービスと一体化させ、顧客と共に医療の質の向上という価値を創り出しているという意味で、まさにサービス・ドミナント・ロジック視点でのビジネス展開と言えよう。

【図表2】GEヘルスケアにおけるサービス・ドミナント・ロジック視点でのビジネス 【図表2】GEヘルスケアにおけるサービス・ドミナント・ロジック視点でのビジネス

3. サービス産業でもサービス・ドミナント・ロジック視点でビジネスが行われている

サービス産業における「サービス」も、それが1回限りの提供にとどまる場合、サービスを「モノ」と同様に見ていると考えることができる。ここでは単体のサービスそのものの魅力を高めたり、業務を効率化したりしてサービスの交換価値を上げることが企業にとっての目的となり、視点としてはグッズ・ドミナント・ロジックの発想にとどまる。その一方で、製造業だけでなくサービス産業においても、サービス・ドミナント・ロジック視点でビジネスが行われてきている。以下、アメリカの事例で見てみたい。

米国シカゴ近郊に本社を置くピーポッドは、1989年世界初のオンライン専門スーパーとして産声を上げた。最初はモデムとソフトウェアを顧客に配布し、同社のシステムに接続して注文をしてもらい、契約スーパーの実際の店舗で従業員が買い物をして配達するという形から始まったが、1996年にはウェブサイトwww.peopod.comを立ち上げ、徐々にサービスエリアも拡大しながら右肩上がりの成長を続けている。特売やクーポンの使用といった価格面での訴求に加え、価格比較機能、レシピ紹介、配達日時の指定、生鮮品配送の工夫などにより、その価値を高めてきた。

このように、ピーポッドのウェブサイトでは1回限りの買い物でも十分にその利便性を感じられるが、さらに登録アカウントを持てば、過去の買い物履歴の参照、パーソナル買い物リストの作成と、それを活用したエクスプレス・ショッピングなど、より個々の顧客に対応した便利な機能を活用することができる。こうした工夫は顧客の使用価値を高めるものと言えよう。

さらに、ピーポッドのサイトでは、脂肪分や糖分が少ない商品、特定の栄養素を含む商品、特定のアレルギー食品を含まない商品など、健康によい商品を選択してくれるニュートリフィルターという機能も提供し、多様化する顧客ニーズに対応している。食事制限のある人、健康志向の人の買い物を簡単にするだけでなく、肥満傾向の子供達に向けた食育への応用も期待されている。多くの食材の中から条件にマッチするものだけを抽出するのはICTが得意とするところだ。ピーポッドは単なる食材の販売から、顧客の健康的な生活に向けたソリューションまで提供する形に進化している点で、サービス・ドミナント・ロジック視点の事例と言えるだろう。

また、米国ではスーパーが少ない貧困地域において、野菜や果物の摂取量が少なくなるという「食物砂漠」現象が問題視されている。こうした地域では、必要な栄養素がとれないだけでなく、塩分や糖分の摂取量が多く、子供の健康が問題となっている。ピーポッドはシカゴ地域の慈善団体と協力し、こうした地区に売場を配置し、新鮮な果物を低価格で販売するといった社会貢献事業も行っている。同社は「人々の生活を根本的に改善すること」をその“夢”として掲げているが、食の生活基盤という新しい価値も提供しつつ、その夢の実現に向かって進んでいると言えよう。

【図表3】ピーポッドにおけるサービス・ドミナント・ロジック視点でのビジネス 【図表3】ピーポッドにおけるサービス・ドミナント・ロジック視点でのビジネス

このように米国で先行して始まったサービス・ドミナント・ロジック視点のビジネスは、日本でも次々と出てきており、コマツのコムトラックスの事例はよく知られているところである。また、ヤマハも楽器を販売しつつ、音楽教室や楽器レンタル、イベントやコンサートの開催など幅広い視点から音楽体験という価値を提供してきた。最近ではアシックスも、メンバーシッププログラムを通じてナイトランイベント、計測サービスなどランニング体験そのものの価値を顧客と創り出している。

4. SDL視点のビジネスにおいてはICTの活用機会が増大

今まで見てきた事例からも分かるように、ビジネスがグッズ・ドミナント・ロジック(GDL) からサービス・ドミナント・ロジック(SDL)視点に変わる時には、いかに顧客とともに価値を作り上げていくかが重要である。そうしたプロセスにおいて、顧客との関係性を構築し、様々なリソースやデータを統合してソリューションを考案し、ビジネスを創造していくにあたっては、ICTの活用機会が増大する。特に顧客との接点を支えるフロントや社会のICTが重要だ。具体的には、アプリケーション・ソフトウェア開発を中心としたサービス商品の開発や、顧客との関係性構築のためのICTの活用、ビッグデータの分析と活用などがそれに当たる(【図表4】)。

【図表4】GDLとSDLにおけるビジネスの視点とICT投資
【図表4】GDLとSDLにおけるビジネスの視点とICT投資

SCMなどグッズ・ドミナント・ロジックを支えてきた基幹システムは、時間をかけてカッチリとした設計のもとに構築されてきた。しかし、サービス・ドミナント・ロジック視点のフロント・社会システムは、変化する顧客のニーズに対応するため柔軟な発想が必要であり、ICTのマネジメント方法も異なる。事業環境の変化、顧客のニーズの変化、技術の変化などの質的な変化に加え、事業拡大の量的変化も予測が難しい。また、他社に先駆けてのサービスインも重要な成功要因となる。そのため、サービス・ドミナント・ロジック視点のシステム投資は小さく始め、環境変化に合わせて柔軟に改良、追加投資を行っていくという、しなやかなマネジメントの仕方が望ましい。また、環境の変化を見極め、タイムリーに手を引くことも重要なことである。

このような新しいビジネスモデルやソリューションは、ビジネスプロジェクトとして現場部門が主体となって開発されることも多いであろうが、こうした柔軟な開発を促進し、支えていくには、各現場部門で進むICT投資を全社視点で捉える情報システム部門の役割も重要になる。まずは、最新の技術情報や必要な人材を提供したり、必要に応じて事業部門横断的なプロジェクトを立ち上げたりといった現場部門との連携が欠かせない。さらに、既存システムとの整合性やセキュリティの確保、全社横断的な情報管理と活用など、しっかりとした情報基盤を提供することも重要である。きちんとICTガバナンスを効かせることにより、フロント・社会のシステムの柔軟性、拡張性はより高まっていくのである。

こうしたサービス・ドミナント・ロジック視点のICTをマネジメントの観点から見れば、従来型のICT投資とは異なる考え方が必要となる。グッズ・ドミナント・ロジック視点のICT構築では、導入するシステムに対して予算を確保して投資し、それがどれだけコスト削減や利益向上に貢献したのかということが論点となった。しかし、サービス・ドミナント・ロジック視点のビジネスでは、企業が提供するソリューションやサービスの中にICTが最初から組み込まれており、ICTだけを別に取り出して考えることは難しい。必然的に、ICT投資という概念はなくなり、ICTは1つの部品、原価の一部として費用的に捉えられることになる。こうした領域においては、投資対効果を見極めることよりも、いかに商品やサービスの価値を高めるかという視点から、効果的なICTの活用を考えていくという発想で、ICTをマネジメントしていくべきであろう。

シリーズ

企業の競争力を高めるICTの新たな活用法とマネジメント 第1回

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富士通総研には産業系シンクタンクとしての長年に渡る調査・研究・分析の実績があります。さらに、コンサルティング・サービスを通して培ったノウハウで「お客さまの現場で役立つリサーチ・サービス」をご提供します。


田中 秀樹(たなか ひでき)
株式会社富士通総研 ビジネス調査室 室長代理
マーケティング戦略支援コンサルティング業務に従事。ネットビジネス領域では、ビジネストレンドと生活者動向を踏まえた上で、ECビジネスや企業のWebサイト活用を支援。
著書に『インターネット広告実践法』(共著)の他、『インターネット白書』等に記事原稿を多数掲載。

倉重 佳代子(くらしげ かよこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
金融系シンクタンク、ブランドコンサルティング会社を経て2010年11月富士通総研入社。
仏国立ポンゼショセ大学院国際経営学修士(MBA)。
最近の研究テーマは、企業におけるICT活用動向、超高齢社会対応など。