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成長か分配か?悩む先進国と日本の選択

2013年1月16日(水曜日)

年末の総選挙で、衆議院の議席の6割以上を自由民主党が獲得し、民主党は壊滅的敗北を喫しました。3年前に民主党政権ができたとき、これでやっと日本でも二大政党による政権交代が現実のものになったと誰もが思いましたが、新たな政治が始まるという高揚感は今回の総選挙の結果とともに蜃気楼のように消え失せてしまいました。

1.成長か、分配か

民主主義を機能させるためには、政権交代の可能性は常に開かれていなければなりません。欧米先進国では戦後10~15年ごと程度で政権交代が行われてきました。最近では2012年5月のフランスでの社会党政権の誕生や、2010年のイギリスにおける労働党から保守党への政権交代が挙げられます。米国では2008年に共和党から民主党への政権交代がありました。経済政策の面から見ると、いずれの先進国でも成長を重視する政党と分配を重視する政党の2党が主流を成しており、政策面での対立軸を形成しています。成長か分配かで、それ以外の政策もかなり決まってきます。保守派といわれる政党はおおむね成長重視であり、小さな政府、市場重視の政策となります。他方、分配重視の政党は政府の再配分機能を重要視するので、大きな政府、大きな社会保障志向となります。前者は業界団体、後者は労働者や消費者を支持母体とします。米国では共和党が前者であり、オバマ大統領が率いる現政権は後者です。年末の韓国の大統領選挙も、成長か格差是正かが主要論点でした。

2.日本は成長重視の自由民主党が支配してきたが

わが国の場合、自由民主党は本来、成長重視の政党で、所得分配の公平性には関心が薄かったと言えます。遅れて先進国の仲間入りを果たした日本は、戦後、長期にわたり高度成長を続けることができたため、その間、自由民主党は政権の座に留まることができました。農協、医師会、郵便局、土木建築会社など、いわゆる業界団体が強力に自由民主党を支援しました。幸いなことに、その間、所得格差は大きくなることはなく、むしろ「一億総中流」と言われるように、国民の間でも平等感が高まりました。世界中見渡しても、これはかなり珍しいケースといってよいでしょう。

しかし、成長と分配をともに達成できるハッピーな時代は1990年前後のバブル崩壊で終焉を迎え、以降、日本は低成長の中で所得格差が拡大するという困難な時代に入りました。それとともに自由民主党の政治基盤が弱くなり、1993年に初めて下野しました。その後、再び政権を奪取しましたが、それは公明党という、福祉国家的な理念を持った政党との連立という形となりました。2009年には再度、政権を失うことになりましたが、その後の民主党政権の相次ぐ失政、不手際もあり、今回の選挙で再び政権を任されることになりました。特に、かつて自由民主党の支持基盤であった諸々の既得権益を取り込もうとした結果、民主党の本来の存在意義がわからなくなってしまいました。リーマンショック以降の低成長に苦しんだ国民が再び成長戦略に長けた自民党を選んだのは、単なる気まぐれではないでしょう。

3.すべての問題は少子高齢化から来る

しかし、日本は成長することだけを考えればよいのでしょうか? デフレや低成長、財政赤字など、今日本で起こっているほとんどの問題は突き詰めていくと少子高齢化に突き当たります。出生率が2を下回る状態が続けば人口構成は高齢化し、やがて人口は減り始めます。そして、いずれは日本人という人種が地球から姿を消すことになります。このことは100%確実に言えることです。それにもかかわらず、わが国はこのような状態をもう40年も続けています。日本はなんとしてもこの出生率を2以上に引き上げる必要があります。ヨーロッパではフランスやイギリス、北欧諸国が出生率の引き上げに成功していますが(【図1】)、これらの国に共通なのは、女性が育児をしながら働くことを可能にする仕組みを確立したことです。強力な子育て支援制度が鍵になりますが、この点でわが国の取り組みは極めて不十分です。

【図1】主要国の出生率
【図1】主要国の出生率

例えばフランスにおける家族手当の支払額はGDP比で3.7%ですが、日本は1.3%です(【図2】)。

【図2】主要国の家族手当のGDP比
【図2】主要国の家族手当のGDP比

この背景として、ヨーロッパでは第二次大戦後、福祉国家的な理念が浸透しており、「将来世代の育成は社会全体で支援していく」という考え方が定着していることが挙げられます。待機児童などという言葉があるのは日本だけです。仮に日本がフランス並みの家族手当を実施するとすれば、毎年10兆円の財源が必要となります。

4.あらゆる資源を少子化対策に集中せよ

民主党が2年前に子供手当ての拡充を図った際、自由民主党との間で所得制限をめぐって論争になりました。自由民主党は、「子供を育てるのは本来、家族がやるべきこと」という理念を前面に立てて、所得制限を設けることを主張しました。どちらの理念が正しいか議論するつもりはありません。しかし、毎年子供の数が減っていく今の日本の現状を何とかしようと考えるのであれば、子育て支援を強化することが必要なのではないでしょうか。要するに、高齢者世帯から子育て世代への大規模な所得移転です。そのためには、ヨーロッパ並みの租税負担も必要になってくるでしょう。フランスでは消費税率は20%、所得税の最高税率は75%です。昨年秋、三党合意で消費税引き上げを決めましたが、これだけでは十分ではありません。金持ち高齢者にはさらなる負担の増加も受け入れてもらわなければなりません。育児休暇や休暇後の職場復帰を保障するなど、企業の取り組みも変わらなければなりません。日本人は長い間「日本は最も平等な社会だ」と思ってきました。しかし、国際比較をすれば、今や日本は米国や韓国に次ぐ不平等社会です。

民主党の理念はとりあえず敗退しました。これから景気を良くするために大 型補正予算が組まれ、公共事業が復活しますが、財政赤字も拡大します。円安が進み、輸出企業は息を吹き返すでしょう。そして、一時的には日本経済は成長を取り戻すかもしれません。しかし、そこで止まってしまえば、少子化はさらに進み、少しずつ、しかし着実に日本の衰退は進みます。2013年はこのような一時的な景気浮揚策を講じつつも、長期的な少子化対策の基礎を固める年でもあります。社会保障制度の改革は、このための不可欠な課題です。しかし、この問題は社会保障制度という再配分機能だけでは解決できません。地域社会や企業にも変革が求められます。その地域住民も企業経営者も高齢化し、変化を嫌うようになっています。既得権を恐れていては何も進みません。遅れるほど問題解決は難しくなります。今ほど強力なリーダーシップが求められている時はありません。

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根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2010年 経済研究所エグゼクティブ・フェロー
【著書】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など