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  4. 台頭する中国の国有企業の深層

台頭する中国の国有企業の深層

2013年1月10日(木曜日)

1.内外から注目される中国の国有企業の功罪

金融危機以降、中国の民営企業経営の厳しさが増す一方、マクロ経済不安定化の下で、中国政府の経済運営はますます国有企業に依存する方向に傾いてしまっている。国有企業経営が民営企業を圧迫し、資本の自由化や国有企業の民営化の議論が再び台頭し、「国進民退」(国有企業の拡大、民間企業の縮小)の議論が白熱化している。このような経済環境と経営環境が変化する中で、中国では、これまで下火になってきた国有経済の存在意義、国有企業改革の方向性、国有企業の収益性・競争力などに関するイシューが再び前面に出てきている。

他方、海外では台頭する中国経済に対する警戒が高まっている。米国を中心とする西側諸国は、政府主導の経済開発モデルを「国家資本主義」と捉え、中国の影響力向上によって自分たちが推奨する市場競争モデルが脅かされるのではないかと疑心暗鬼になっている。特に、国内市場で台頭してきた中国の国有企業は、自主ブランドの輸出攻勢、海外での資源獲得・企業買収、海外市場での資金調達、海外人材獲得に積極的に関わってきたが、国内市場成長のペース鈍化で海外市場への進出がさらに加速されている。海外では、このような国有企業の経営戦略の背後に政府の思惑が働いているのではないかと疑問視し、中国政府の国家戦略と国有企業の経営戦略を結びつかせ、国有企業を「トロイの木馬」と見なす考えが根強く存在している。反対に、国有企業の台頭は、安い賃金、人民元レートの低めの設定、政府の支援によるもので、競争力自体は強くないという見方もある。

しかし、中国における国有企業という企業制度は、国のガバナンスシステムと同じように改革途上であり、先進国のような成熟した制度が確立されているわけではない。絶えず変化する「国有企業」を動的な視点で捉えるべきではないかと考える。

2. 世界の大企業の仲間入りをする国有企業

中国の国有企業の台頭は、世界企業の長者番付に表れている。米国『フォーチュン』誌は、毎年世界企業の売上高に基づく「フォーチュン・グローバル500」というランキングを発表しているが、1996年に中国企業は2社しかランクインしていなかったものの、2001年のWTO加盟後、ランクインする企業が増え続け、近年増加のペースが速まってきている。2012年では、【図表1】が示すように、ランクインする国別の企業は小幅な変化にとどまっているが、唯一の例外は中国だった。中国は、世界大企業トップ10に3社(5位、6位、7位)も入っており、ランクインする企業数は9年連続で増加している。2012年は12社も増えて69社となり、日本の68社を超えた 。2010年には日中のGDPに逆転が生じたが、2012年にはミクロレベルの大企業数も日中逆転が生じた。

【図表1】「フォーチュン・グローバル500」における主要国・地域の企業数の変化(社)
【図表1】「フォーチュン・グローバル500」における主要国・地域の企業数の変化(社)

ランクインした中国企業69社のうち、64社は中央政府所管か地方政府所管の国有企業である。民間企業を中心とする世界他国とは大きく異なる資本所有状況にある。ランキング上位に位置している中国国有企業には、石油3社(中国石油、中国石油化学、中国海洋石油)、通信キャリア3社(中国移動、中国電信、中国聨合通信)、4大国有銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行)、2大送電企業(国家電網、中国南方電網)、3大国有自動車メーカー(上海汽車、第一汽車、東風汽車)、3大国有鉄鋼会社(宝山製鉄、首都製鉄、武漢製鉄)などの基幹産業が含まれている。

「フォーチュン・グローバル500」にランクインする中国企業は急増したが、中国社会からの反応は喜べないものであった。特に、規模の大きさを追求してきた国有企業への風当たりは厳しい。例えば、国有企業、特に中央企業の多くは資本規制で形成された「独占的な」地位にあり、行政的な手段で経営資源を「独占」し、規模の大きい企業になっただけで、自社の努力によって強い競争力を獲得した企業にはなっていないと批判する声をよく耳にする。

しかし、これらの企業が属している産業は、民間企業も数多く参入している分野(例:鉄鋼業、自動車産業等)もあれば、民間資本参入が規制されている分野(例:通信、石油、金融等)もある。資本規制が少ない分野では、国有企業と民間企業の収益性に大きな差はない。他方、同じ規制産業でありながら今の国有企業は、非効率で赤字を垂れ流す国営企業のイメージとは様変わりしたように感じる。実際、「フォーチュン・グローバル500」にランクインしている日中同業の経営パフォーマンスを比較すると、中国の国有企業は、企業規模、成長性や収益性などの財務データでは日本企業と互角のレベルに達しているとわかる。

中国の国有企業は変わったのか、豹変する国有企業を探るには、30年以上にわたる国有企業改革で変わる国有企業のガバナンスシステムを検証する必要がある。

3. 競争力向上を目指した国有企業改革の推進

1) 身軽くする負の遺産の処理

中国は、1992年に「社会主義市場経済体制」確立を掲げ、市場化に向けた国有企業改革に着手し、国営企業を国有企業の名称に改めた。特に、1996年に登場した朱溶基首相は、国有企業改革を金融改革、行政界改革と並べて、いわゆる三大改革に取り組んできた。2005年までの10年間の任期中に行われた国有企業改革は、国有企業の整理統合、過剰債務、過剰人員などの負の遺産の処理であった。その後、国有企業改革の掛け声は小さくなってしまったが、整理統合のプロセスは続けられた。

「抓大放小」(基幹産業は国家が所有、中小企業は民営化)の政策により整理統合で残された企業(金融サービス、郵政、鉄道サービスなどを除く)は、所有と経営の分離で出資者(株主)としての代表である中央と地方の国有資産監督管理委員会に集約され、企業制度改革や株式化改革による上場、海外や民間の戦略投資家の迎え入れによりコーポレートガバナンス強化や収益性向上・競争力強化が図られている。特に、「政府と企業の分離」、「政府機能と資産管理機能の分離」、「経営と所有の分離」が謳い文句として進められてきている。

2)経営業績評価システムの革新

「公有制」の制約から資本レベルでのガバナンス体制は中国特有のものにならざるを得ないが、ミクロレベルでは、国務院国有資産監督管理委員会は、国際的に通用するコーポレートガバナンス制度を確立しようとしている。これはセカンドベストと言える。つまり、国有資産管理監督委員会は、企業の経営管理に直接管理監督を行わず、出資者(株主)として取締役会に対してのみ権利を行使するように制度設計しようとしている。

【図表2】国有企業の経営監督概念図
【図表2】国有企業の経営監督概念図

例えば、PDCA方式の業績考課制度(年度考課と3年任期考課)の導入が挙げられる。経営者は数量化(Key Performance Indicators, KPI)された計画を提出し、株主たる国有資産監督管理機関とコミットして実行する一方、国有資産監督管理機関はモニタリングを行い、そしてKPIに基づく評価や賞罰を行う仕組みになっている。評価の点数はA、B、C、D、Eの5段階に換算される。評価の結果は、奨励金(Dランク以上、基本給の0~3倍の範囲内で、中長期奨励を支給する(60%は即支給、40%は任期満了支給)。任期評価D、Eランクを受けた経営者は40%の残存支払金から減額するとともに、ポスト調整・解雇などのアクションを伴う。もちろん、2期連続の赤字を出せば、退陣される罰規定も用意されている。つまり、目標へのコミット、経営実行、報告・モニタリング、評価・アクションの順でPDCA型のガバナンス制度が確立されている。ここで、年度考課の基本指標は、利益総額と株主資本利益率(ROE)(2010年以降は経済的付加価値:Economic Value Added, EVA )の2つを指すが、業種別、企業別に国有資産監督管理委員会と経営責任者との間で取り決めがなされる。3年任期考課の基本指標は、株主資本の増加率と売上高の平均増加率の2つである。業種によっては省エネルギー・廃棄物減少の指標やイノベーション指標も盛り込まれている。また、業界ベンチマーク (Industry Benchmarking) 管理手法を取り入れている。つまり、石油、通信など国内企業が少ない場合は海外同業の業績をベンチマークに、国内に同業の多い分野は企業間相互をベンチマークに、その他は、過去の実績にその他の要素を考慮して国有資産監督管理機構が定めた標準値をベンチマークに考課を行う。

「第12次五か年計画」から、中国の国有企業改革の目標は、「規模の拡大」から「強くて超優良の、国際競争力を持つ世界一流企業」へシフトさせており、中央企業に対する年度評価は、1)2010年に始まった経済的付加価値(EVA)と、2)海外有力同業とのベンチマーク評価、をより重視するようになってきている。特に、EVA指標はコア指標となっている。

2010年から年度考課得点の算式は以下のとおりになっているが、基本点数の加重指数では、利益総額30%、EVA40%、分類指標30%となっている。EVA評価はすでに最も重要な評価指標になっている。2013年からは、加重指標を、利益総額20%、EVA50%、分類指標30%に変更させて、EVA評価をより突出させている。

年度経営業績総合得点=(利益総額指標得点+EVA指標得点+2つの分類指標得点)×経営難度指数+奨励点数-減点数

上述EVAの算出式は以下のとおりである。EVA評価の制度設計は、これまでの資本コストを無視する経営スタイルを改め、出資者への企業価値提供経営スタイルを形成させるとともに、研究開発重視という革新的企業への変身や、コア事業への専念(例えば、不動産や株式市場への財テクへ走るのを防止すること)にインセンティブを提供するように目指されている。2013年から非経常収益調整項の加重指標は50%から100%に変更され、コアコンビタンス経営が一層求められるようになっている。

EVA=税引き後純営業利益-資本コスト=税引き後純営業利益-調整後資本×平均資本コスト

税引き後純営業利益=純利益+(利息支出+研究開発費用調整項-非経常収益調整項×50%)×(1-25%)

このように、中央企業に対する経営業績評価の客観性や透明性が格段に高まってきたのにとどまらず、評価を通じて国有企業の効率的で持続的な成長モデルへの転換が図られようとしており、かつての計画・命令という国有企業のガバナンス手法からインセンティブという市場メカニズムに基づくガバナンス手法への政策変化が読み取れる。

国務院国有資産監督管理委員会によると、2010~2012年の第3任期の中央企業の資本年増加率は13%で2007~2009年の第2任期より5.7%低下した。また、研究開発投資は3,123億元に達し、第2任期の2.5倍に増加した。また、実現したEVAは1.1兆元で第2任期より46%も伸びた。思うに、2013年から中央企業に対して、EVA経営やコアコンビタンス経営が一層求められたのは、上述したガバナンス改革の成果が表れたからであろう。

このように、国有企業に対する経営業績評価は、「国有」に対してではなく、もっぱら「企業」に対する評価に重点を置かれており、基本的に市場経済のルールに基づいていると評価されよう。以上のAランクに評価された中央企業は、今後の国有経済再編の主導的な存在となり、逆にランクの低い企業は整理統合される可能性が高いと思われる。

3)中央企業経営チームおよびリーダーに対する総合考課

ただ、国有企業に対する中国的ガバナンス制度には、「党管幹部」(共産党が国有企業の経営幹部人事権を有すること)の原則が貫かれており、経営業績に対する評価にとどまらず、経営チームおよび経営幹部に対する総合考課も行われなければならなくなっている。かつて国有企業は行政の一部を構成していたので、国有企業幹部に対する共産党の人事管理は自然の成り行きと言えよう。もちろん、【図表3】が示すように、中央レベルで中国共産党組織部による直接人事管轄に入っている国有企業は、主要基幹産業に属している大型国有企業のトップだけである。

具体的な企業や幹部ポストは、中国共産党組織部によって制定された『中共中央管理的幹部職務名称表』(以下名称リスト)で明らかにされている。現在、国務院国有資産監督管理委員会に管轄されている中央企業116社のうち、50社が名称リストに入っている。また、国務院国有資産監督管理委員会の管轄に入っていない金融業やその他の総合企業も25社が入っているので、大型で重要な国有企業75社のリーダー人事は中国共産党組織部に属している。

中国共産党組織部と共産党国務院国有資産監督管理委員会委員会はともに『中央企業リーダー管理暫定規定』および『中央企業経営チームおよびリーダー総合考課評価弁法(試行)』に規定されるルールに基づいて人事管理を行っているが、ルールには、経営トップや経営幹部になれる資格条件、任期、選抜任用、考課評価、モニタリング・インセンティブ、キャリアパス、退任などが置かれている。前述した業績考課と同じように、任期考課と年度考課に分かれるが、経営チームと経営トップ個人に対する評価が分かれている。

例えば、経営トップへの評価は、業績、素質、能力に置かれている。業績指標は前述した経営業績評価と個人貢献の2つ、素質指標は政治素質、職業素質、汚職に対するクリーン度の3つ、能力指標は意思決定能力、実行能力、革新能力の3つに分解される。また、定量的な評価においては、業績(2指標)は50%、素質(3指標)と能力(3指標)も50%のウェイトを占めるが、業績ウェイトはさらに、経営チーム業績70%、個人貢献30%に分解される。素質と能力の6指標のウェイトは等しく各8.3%を占める。ほかには、評価は360度評価により民主的な方法を取っている。経営チームメンバーからの評価(ウェイト25%)、中間マネジャー(同25%)、従業員代表(同25%)、所管部門(同25%)、監査会(同15%)からなる。 これらの定量評価と定性評価を踏まえて、経営トップへの任用、年度評価と任期評価、再任用などを決定するとされている。

【図表3】中央企業リーダーの人事管轄概念図
【図表3】中央企業リーダーの人事管轄概念図

このように、「党管幹部」の原則があるとはいえ、経営者に対する評価は、透明で厳しい評価システムになっている。ただし、コーポレートガバナンスの観点から見れば、上述した評価システムは指数が多すぎ、必ずしも優秀な経営者が選ばれるとは限らない。また、政治素質のような評価指標は、人為的経営介入を許してしまい、経営効率を低下させる可能性がある。

4. 市場化に向けた国有企業システム改革の継続

以上で見てきたように、中国では、30年以上の市場経済化推進により、出資関係の多様化、市場メカニズムに基づくコーポレートガバナンスの改革、イノベーションシステムの構築や活動の推進、海外からの「引資、引智、引制」(多国籍企業からの資本導入、人材導入、制度導入)による企業システムのグローバル化が大いに推進されてきている。これらの企業システムの改革により一部の国有企業は、成長性や収益性が改善されているとともに、革新的な体質が鍛えられているのも事実である。

しかし、「公有制」にこだわった資本構造の存在、「党管幹部」原則の徹底、出資者としての「国有資産管理監督委員会」による国有企業経営への介入など、市場経済国家では存在していないガバナンス制度も存在している。これら中国特有の制度は、国有企業成長を制約し、市場競争を歪曲させていると内外から懸念され、批判されている。

中国政府は、市場化に向けた国有企業改革のさらなる遂行を通じて内外の懸念や批判に応え、あるいは内外の懸念や批判は杞憂であると証明する必要がある。この意味で、再び加速される中国の国有企業制度改革に大いに注目し、これら企業の経営パフォーマンスを引き続きモニタリングしていきたいのである。

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【調査・研究】


金 堅敏(Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。