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全要素生産性の重要性が高まる中国

2012年12月19日(水曜日)

1.転換期を迎える中国経済

80年代以降の「改革・開放」政策によって、高成長を続けてきた中国経済が曲がり角を迎えようとしている。同時に2012年に中国の最高指導部は10年ぶりの政権交代を行い、経済、政治ともに中国のこれからの行方に関心が集まっている。

これまでの30年間の中国経済発展をマクロ経済データで見ると、2010年の名目GDPが1981年比で31倍と約5兆9,000億ドルにまで増加し、実質成長率は年平均10.1%に達した。

その結果、1980年当時、日本の名目GDPの5分の1にも満たなかった中国経済は、わずか30年で日本を抜き、世界第2位の経済大国になった。1人当たり名目GDPで見ると、金額も順位もまだ低いものの(2011年は5416.7ドル、世界90位)、30年前と比べ、金額32.2倍にまで拡大した。

しかし、一見輝かしい数字が並ぶが、その裏に過去30年間の経済発展一辺倒政策の結果による貧富の格差や環境公害問題等が生じており、深刻な社会問題が顕在化している。中国のこれまでの経済発展モデルを振り返ってみれば、労働集約型輸出製造業が主導するモデルであり、安い労働力と外国からの直接投資のハイブリッドによる大量生産はその特徴で、要素投入主導の発展方式と表現されている。一方で、ここに来て人口伸び率は縮小し、人口ボーナスが終わりに近づいていると見られている点を考えると、大量かつ安価な労働力はもはや確保できなくなる可能性がある。また、経済成長一辺倒の過剰投資による弊害も露呈し、投資効率の低下や投資依存の体質は個人消費に結びつかないことも指摘されている。

結論として、労働集約、大量投資による大量生産に依存したこれまでの経済成長路線はもはや限界を迎え、中国経済には全要素生産性の向上、すなわち経済の効率化による成長が求められる。

2.全要素生産性とは

ここで、全要素生産性(Total Factor Productivity, 以下TFP)とは、資本ストックと労働の供給と同じように生産高を高めるのに重要なファクターである。近年、日本などの先進国において、少子高齢化による労働力不足のもとで、TFPの上昇、すなわち資本・労働効率の改善による競争力の維持・強化が重要であると指摘されている。実は、中国もこれからまさに同じ問題に直面することになる。

上で述べたように、中国経済の持続的発展を実現するには労働力と資本の増加以外に非要素投入の増加が不可欠であり、すなわちTFPの向上が求められる。これについて2008年のノーベル経済学受賞者であるポール・クルーグマン教授は、1997年に起きたアジア通貨危機の教訓として、中国に対して同様な指摘をしている。一方、中国国内の研究者によれば、1979から2004年までの中国のTFPについて、1993年以前はTFPの上昇と低下が混在しており、1993年から2000年までは低下傾向が続き、2000年以降ようやく上昇に転じている。全体的に1979年から2004年までTFP平均上昇率は0.891%であり、それによる経済成長への寄与度は9.46%と極めて低く、中国の経済成長は主に要素投入増加によるところが大きいことが分かる(【図表1】)。

【図表1】中国経済成長におけるTFP(下段)と要素投入(上段:資本と労働)の寄与度
【図表1】中国経済成長におけるTFP(下段)と要素投入(上段:資本と労働)の寄与度

3.全要素生産性向上という課題

去る11月14日に閉会した中国共産党第18回党大会で、習近平総書記が選出され、習近平新政権の顔ぶれが明らかになった。習近平総書記は「人民の生活を豊かな方向に向かわせることこそが我々の奮闘目標である」と語った。習近平新政権にとって、問題が山積している中、その「奮闘目標」を実現するために、結局、鄧小平が言うところの「発展こそが道理にかなう」に帰結せざるを得ない。ただし、今後2桁の経済成長は望めないため、より合理的に成長の質を追求すべきであり、TFP向上による経済の持続的な発展に努めることが重要である。

技術進歩はTFPを議論する上で重要な概念である一方、TFPには広範な要因(労働の質の向上、生産効率の改善、産業構造の高度化、制度改革等)も含まれるので、TFPを引き上げるための手段は多岐にわたる。中国経済成長に対するTFPの寄与度はまだ小さいので、逆にTFP向上による持続成長実現の可能性が十分あり得るとも言える。勿論、中国経済をそういう方向に向かわせることが重要であり、習近平新政権の急務である。

中国におけるTFPの向上について、強調したいことがある。それは技術革新によって生産効率を向上させることである。具体的に、まず、研究開発(R&D)活動を見ると、中国の2011年のR&D費用は8687億元(約11兆円、1元=13円で換算)であり、GDPに占めるR&D割合は1.84%と、2000年の水準と比べ2倍になっている。しかし、先進国と比べると、まだ低い水準にある。ここで重要なのは、R&D費用の投入増加により、まず応用研究を通じて企業の競争力を高めながら、基礎研究も次第に拡大させ、国全体の科学技術基盤を固めていくことである。同時に、同業他社等からの技術スピルオーバー(技術溢出)を積極的に取り入れた上で、それを活かし、自前のR&D活動とのシナジー効果を発揮させるべきである。

更に教育レベルの向上に力を入れ、人材育成戦略を強化し、人口ボーナスから人材ボーナスにシフトすることが重要である。中国での博士卒業者は1995年の4000人弱から次第に増え、2011年に約50000人になった。博士課程修了後の進路を見ると、大学や研究機関のポストに就く人が約60%で過半数を占めており、博士制度は研究型人材の育成に傾いている状況である。その一方、博士人材を企業のニーズに合ったイノベーション人材に育成し、企業のイノベーション能力の向上に貢献させることも重要である。科学技術の成果と企業で行われている実践的なR&D活動をよりスムーズにつなぎ、優れた人材を企業側に送る体制をもっと強化し、企業内でのポスドクステーション(*)の設置を加速すべきである。同時に効率向上に導く公平な人材評価制度を設けるべきである。公平な人材評価システムを保証する制度がなければ、モチベーションが低下し、企業のR&D投資もうまくいかない。

TFPの重要性が高まりつつある中国で、TFPの向上による経済成長の実現には多くの課題を抱えているが、それなりに中国経済発展の華麗なる変身を期待したい。

注釈

(*)ポスドクステーション : ポスドクステーションは、中国国内の大学、研究機関、企業に設置されている。1985年にノーベル賞受賞者である李政道教授の提言に基づき、ポスドク人材の活躍の場として設置されたもの。ポスドクステーションは人事部(現人力資源・社会保障部)管轄の政策であり、在籍するポスドクには国から直接給与が支給される。

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【調査・研究】


趙 瑋琳(チョウ イーリン)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
【略歴】
2002年 中国大連海事大学卒業、2002年 株式会社プロシップ入社。2008年 東京工業大学大学院社会理工学研究科修士博士一貫コース修了。2008年より早稲田大学商学学術院総合研究所 助手、研究員。2012年 富士通総研入社。
専門領域:中国における産業クラスター発展の課題、中国等新興国を対象に社会経済体質、産業競争力と持続発展の関係分析、など。