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米国大統領選挙を受けて日本はどう変わるべきか?

2012年12月14日(金曜日)

1.誰が大統領になっても米国政治は変わらない

2012年米国大統領選挙は接戦の末、ロムニー氏の敵失とハリケーンSandyにも助けられてオバマ大統領が再選された。だから、この命題について言えば、「何も変わらない」ということになるが、ロムニー氏が当選しても同じように何も変わらないという結論を私は導き出しただろう。

それにしても、今回は稀に見る大接戦だった。もし、フロリダ、オハイオ、バージニアの3州をロムニー候補が勝ち取っていたら、新しい大統領はロムニー氏だった。フロリダ州でオバマ大統領への投票数がロムニー氏のそれを上回ったのは、たったの0.9%、オハイオ州では1.5%にしか過ぎない。ウオール街では、投票前からロムニー氏勝利を決めつけて、富裕層への減税継続と財政支出減額の見送りを織り込んだ株価をつけていた。オバマ大統領勝利のニュースで株価が暴落したのは、オバマ大統領の経済政策に失望したからではなく、既にロムニー勝利と見て織り込んだ株高の修正に過ぎない。

さて、それでも米国の政策は何ら変わらないという理由は、大統領制をとっている米国は日本と違って、行政府の各省の長官を真のプロフェッショナルから選出できるということと、政策立案に関しては、膨大な数の優秀な研究者を抱えるシンクタンクが関わっているからに他ならない。日本のように議員出身の素人の大臣が唐突な思いつきで出してくるような奇策・愚策は出て来ない。つまり大統領には誰がなっても国策が大きくぶれることがないのだ。だから、実際、戦後、米国は、大統領が誰になろうと、極めて安定した経済成長を続けてきた。

ロムニー氏が「オバマ大統領は市民運動家上がりで、経済の専門家ではない」と批判していたが、実際はオバマ大統領在任中の4年間で、S&P500株価指数(*)で見ても倍近くに上昇しており、経済運営においてオバマ大統領の大きな失策は見られない。一方、市民運動家出身として貧困層が期待していたオバマ大統領の貧困対策や格差是正政策については大きな成果が上がっていない。

それは、今度の選挙でも見られるように、大統領選挙には巨額の資金が必要であり、それをスーパーPACと呼ばれる富裕層からの青天井の献金制度が支えていることと関連している。結局、米国の政治は、選挙が終われば、ワシントン在住の既得権者が支えるロビイストの影響から大統領も議員たちも逃れることはできないのだ。だから、民主党やオバマ大統領も、貧困層の期待には、これまでも応えられてこなかった。

それらが、オバマ大統領が再選されても、ロムニー氏がオバマ大統領を破っても、基本的に米国の政治は大きく変わらないという理由である。しかし、唯一の超大国である米国も世界情勢の変化に対しては、やはり対応せざるを得ない。それも、民主党であろうと共和党であろうと、その対応の基本方針は、おそらく大きくは変わらない。

2.米国人が認識する「World」と「Rest of World」

米国で生活している人々が世界をどう見ているかを推し量る良い言葉がある。日本で言う「国内」と「海外」という区別を、米国では「World」と「Rest of World」と言い分ける。つまり、米国=「世界」であり、米国以外は、「その他の世界」であり、米国政府の最優先政策は国内政策であって、外交政策は、あくまで米国の国益を守るための二次的な政策に他ならない。

特に、米国は、ソ連邦の崩壊以降、国家の存続を脅かすイデオロギー的な対立軸を意識する必要がなくなった。9.11以降に、イデオロギー問題に替わって台頭してきたのは、対テロリスト向けの安全保障政策である。この点に関して、米国は、チェチェンを抱えるロシアや、チベットやウイグルを抱える中国とは、対立と言うよりは、むしろ課題を共有する「同盟国」とも言える。

そして、国土の保全という以外の、米国の安全保障政策の基本はエネルギー政策にある。米国エネルギー省は、核兵器の開発まで関与していることから見ても、米国が、いかにエネルギーを安全保障政策の基本に置いているかがわかる。だから、米国は軍事リソースの殆どを世界の石油の宝庫である中東に置いてきた。

そして、米国を悩ます最大の問題が財政収支の赤字と経常収支の赤字という双子の赤字である。日本のように、経常収支が黒字のうちは、財政収支が赤字でも、まだ問題は深刻ではない。こうした米国の貿易赤字も、エネルギーが絡んでいる。かつての米国は、食糧輸出と石油輸入が拮抗してバランスが保たれていた。ところが、中国の旺盛なエネルギー需要により石油価格が高騰し、そのバランスが崩れた。アメリカは食糧も石油と同様に価格を上げるべく、バイオエネルギー政策を推進したが、そのコスト高が災いし、うまくいっていない。

こうしたジレンマに加えて、もっと深刻な問題は雇用の問題、即ち高止まりした失業率である。このためにオバマ大統領は5年間で輸出を倍増すべく、米国製造業の復活戦略を立案した。これら米国が抱える諸問題、過度に中東に依存したエネルギー問題、貿易収支の巨額の赤字問題、雇用拡大を狙った製造業の強化および輸出の拡大という課題が、一挙に解決しそうな状況が出てきている。

3. シェールガスで米国の外交政策はどう変わるか

それは、シェールガス、シェール石油であり、米国にとってはかけがえのない強烈な追い風が吹いてきたからである。上記アメリカが抱える、全ての課題が一気に解決しそうな雰囲気だ。そうした時に、「米国の外交政策はどう変わって、それが日本にどう影響を与えるか」を考えてみたい。少なくとも、自国の資源で最低100年は賄える国となった米国は、今後、中東から軍事面で手を引くことだろう。そして、中東のシーレーンをアメリカに代わって守るのは、相変わらず中東にエネルギー資源を大きく依存する中国になる。こうした状況は、中東の石油・ガスに大きく依存している日本にとっては、きわめて深刻な問題となる。

そして、アメリカの製造業復活、輸出拡大施策は、アメリカの雇用拡大という、当面の最も重要な課題を解決する施策である。シェールガス革命はアメリカの生産コストを大幅に引き下げる。その競争力を武器に世界市場に打って出ようとするアメリカにとって、その施策を阻む最も大きな存在は、中国の国営企業だとアメリカは考えている。バランスシートを公開せず、損益度外視で世界市場を荒らし回る中国国営企業は、アメリカにとっては絶対に許せない存在に違いない。

将来、中国とアメリカ、日本、韓国、豪州、ASEANを含む、環太平洋FTAであるFTAAPは、アメリカ主導のフェアで公正な商習慣で行われるべきだと、アメリカは考えている。そして、アメリカにとって、その前哨戦がTPPである。アメリカは、FTAAPはTPPをベースに構築したいと考え、その貿易協定の主要なパートナーとして日本を考えている。しかし、日本の現政権は、そうしたアメリカの意図が読めず、国内問題を障壁としてTPP参加を未だに表明できていない。

沖縄問題も同様である。アメリカの国益から見て、沖縄問題を考えると、アメリカは中国のミサイルの射程距離に入った沖縄から、軍の大半をグアムまで引きたいと思っている。中国と沖縄の距離はあまりに近く、ミサイル防衛システムもうまく動作しない恐れがある。そんな危険な場所に、司令部や将校を置いていくわけにはいかないのだろう。そのために、前線である沖縄と司令部を置くグアムとの間をヘリコプターより高速で移動できるオスプレイは絶対に必要な存在である。オスプレイは、将来、沖縄からグアムまで対中国防衛線を後退させるための高速輸送手段として、アメリカは極めて重要だと考えている。

4. 日本が変わるべきは依存体質

我々日本が、アメリカが日本のために何をしてくれるかと期待することには所詮無理がある。アメリカは当然のこととして、全ての外交政策はアメリカの国益を第一義に考えて立案する。だから、日本は、アメリカはアメリカの国益のためだけに行動するという大前提を置き、そのアメリカの外交政策の中で、日本の国益と一致すべき点を見い出して、共に遂行していくしか道はないと思った方が良いだろう。

大統領が変わっても、アメリカの政策の基本は何も変わらない。変わるべきは、アメリカに過度に期待する日本のアメリカ依存体質である。アメリカに日本への協力を期待するなら、アメリカの国益に協力をする覚悟が日本の側に必要である。例えば、その一番身近な例がTPPだと思ったら間違いない。

オバマ大統領は、もはや、次の選挙を気にすることなく、今後の4年間を自らの信念に基づき政策遂行ができるようになった。そして、来年1月から始まる新政権では、国務長官、財務長官、国防長官の3閣僚が変わるだろう。これらのスタッフで取り組むアメリカの最重要テーマは財政再建になる。新財務長官も、欧州の経済問題より、まずは国内問題に専念することになるだろう。

5. ミニラテラリズムの同伴者としての日本への期待

新たな国務長官によって行われるアメリカの外交政策は、国防政策とも密接に絡んでくる。アメリカはもはや財政上の制約により、アフガニスタンから撤退した後は武力による他国への介入、干渉をする力はないし、オバマ大統領も全くその気はない。そうした状況の中で、アメリカがこれから重要視していく外交政策としてはミニラテラリズム(minilateralism)が挙げられる。ミニラテラリズムとは、バイでもマルチでもなく、同じ利害を持った少数メンバーによる政策対話である。特に、アジアにおけるミニラテラルの同伴者として日本に期待する思い入れは極めて大きい。

まずは、日米韓、次に日米インドである。さらには、日本と親密な関係にあるカザフスタン、ウズベキスタンを中心とした中央アジア。また、オバマ大統領が選挙後に直ぐ訪問するカンボジア、タイ、ミャンマー、インドネシアとの関係においても、日本を含めたミニラテラル会話ができれば良いとアメリカは望んでいる。

もちろん、こうした一連の会合は中国封じ込めを意識したものでは全くない。アメリカは先日2週間訪米した習近平新総書記には、深い親近感を持つに至ったし、英語に堪能な李克強氏とは、オバマ大統領との2人だけの直接対話の可能性にも大きな期待を持っている。

こうしたアメリカの日本に対する期待とは裏腹に、ワシントンの日本に対する最大の懸念は、日本の政治の不確実性である。日本がどういう方針を選択するかは日本国民の自由だが、政権交代の度に基本的な方針がコロコロ変わるのがアメリカとしては一番困る。そして、アメリカとしては、日米関係において、重要なアジェンダをワシントンから東京へという一方通行ではなくて、東京からワシントンへも持って来るバイラテラリズムが基本であって欲しいと考えている。今年中に新たに発足する日本の新政権に、ゆっくり熟考している暇はない。

注釈

(*)S&P500株価指数 : アメリカ合衆国の投資情報会社であるスタンダード・アンド・プアーズ社が算出しているアメリカの代表的な株価指数。ニューヨーク証券取引所、アメリカン証券取引所、NASDAQに上場している銘柄から代表的な500銘柄の株価を基に算出される、時価総額加重平均型株価指数である。機関投資家の運用実績を測定するベンチマークとして利用されている。

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伊東千秋

伊東 千秋(いとう ちあき)
(株)富士通総研 相談役
【略歴】
1947年生まれ、1970年 東京大学工学部電子工学科卒業、富士通株式会社入社、1998年 FUJITSU PC CORPORATION (USA) Chairman & CEO、富士通株式会社パーソナルビジネス本部長などを経て、2001年~常務理事、執行役、経営執行役常務、取締役専務、2006年 代表取締役副社長、2008年 取締役副会長、2010年 株式会社富士通総研 代表取締役会長、2012年 相談役
【社外団体】
日本経済団体連合会 産業問題委員会 産業政策部会 部会長、日・EUビジネス・ラウンドテーブルICT-WG 共同主査