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習近平政権指導と2013年の中国経済の行方

2012年12月12日(水曜日)

中国経済は2010年まで北京オリンピックや上海万博などの国際イベント関連の公共投資によってけん引され、高成長を実現した。それ以降、成長率が低下し、2012年に入り、実質GDP伸び率は第1四半期8.1%、第2四半期7.6%、第3四半期7.4%と、急速にスローダウンしている(【図1】参照)。なぜ中国経済は高成長から急に減速するようになったのか?

【図1】中国の実質GDP伸び率の推移(2003-2013年)
【図1】中国の実質GDP伸び率の推移(2003-2013年)

中国政府の公式見解では、欧米諸国の金融・債務危機の影響による輸出の伸び悩みが景気減速をもたらした一番の原因と言われている。しかし、2012年1-10月の貿易収支は1,802億ドルの黒字で、前年同期比45.6%も増えた。明らかに国際貿易は景気減速をもたらした一番の原因ではない。

一方、専門家の間で中国経済をけん引してきた人口ボーナスが終わりに近づいていると言われている。確かに、家電やエレクトロニクスの部品などのOEM生産を行う労働集約型の工場を見ると、労働力が不足しがちになっている。しかし、実情は労働力が不足しているというよりも、現行の低い賃金のもとで働きたくない出稼ぎ労働者が増えているということである。

したがって、景気が減速しているのは、外需が弱くなっているからではなく、中国経済にとっての人口ボーナスが終わったわけでもない。

1. 景気減速の原因

端的に言えば、今回の景気減速は政策の失敗によるところが大きい。2009年、リーマンショックの影響を心配して、中国政府は急遽4兆元の景気対策を実施したが、そのほとんどが国有企業に落ちた。後になって分かったことだが、国有企業はこれらの財政資金のかなりの部分を財テクに使い、不動産に投資した。結果的に、2011年に入って、不動産バブルが引き起こされた。

不動産バブルは膨らみ続けると、マクロ経済に深刻な影響をもたらす恐れがある。また、不動産バブルにより住宅価格が高騰し、低所得層がマイホームの夢を実現できず、深刻な社会問題に発展している。ちなみに、一般的に住宅価格は勤労家族の年収の6倍程度が適正といわれているが、中国の住宅価格はすでに25倍を超えてしまっている。

こうした不動産バブルの悪影響を心配して、温家宝首相は断固としてバブルをコントロールする姿勢を示し、不動産関連の融資を中心に商業銀行の信用創造を厳しく制限することにした。温家宝首相が進めた不動産規制政策こそ景気の減速をもたらした一番の原因である。

無論、中国経済と中国社会の実情を考えれば、不動産バブルをこのまま放置すべきではない。問題は、いかなる政策を以て不動産市場の発展をリードするかにある。

中国では、不動産投資は富裕層の資産運用の主な手段になっている。実需でない富裕層の不動産保有の増加により、住宅価格は上昇する一方であり、すでに販売された不動産のうち、実際に住んでいない住宅の空室率は大都市では40%に上ると言われている。結論的にいえば、中国の不動産バブルはかなり危険な状態に陥っていると言える。

2. バブルに対する対症療法の弊害

温家宝首相の考え方は、景気をある程度犠牲にしても、不動産バブルをコントロールしなければならない、ということのようだ。目的は間違っていないが、手段は正しくない。たとえば、実際に実施された政策の中で、2戸目の不動産を購入する者に対して、その頭金の割合が高めに設定されるようになった。

結局のところ、不動産バブルをコントロールする温家宝首相の断固とした姿勢は土地を払い下げする地方自治体と不動産開発のデベロッパーと商業銀行に浸透し、主要都市で不動産取引が止まってしまった。それによって、鉄鋼、アルミ、セメントなどの建材産業および家具などの住宅関連産業はいずれも成長が減速するようになった。

本来ならば、不動産バブルをコントロールする正しい政策としては、金利を引き上げるなど引締政策を実施すべきだった。また、不動産を大量に保有する富裕層に対して、固定資産税を課税しなければならない。しかし、実際のところ、金利はまったく調整されていない。住宅に対する固定資産税の課税も導入されていない。13億人の中国で土地資源が不足するのは明明白白であり、値段の安いうちにたくさんの物件を保有すれば、いずれ住宅価格が大きく上昇するだろうと期待されているから、不動産市場はオーバーヒートしてしまう。

反対に、今年に入ってから景気が明らかに減速しているにもかかわらず、景気を刺激する金融緩和政策も実施されていない。実施に、7月と8月にそれぞれ1回ずつ利下げが実施されたが、景気が下げ止まらず、ついに第3四半期の経済成長率は政府が掲げる7.5%の成長目標を下回ってしまった。

3. 2013年の中国経済の動向

しかし、現状において7%台の成長は中国経済の本領発揮を意味するものではない。世界銀行が試算した中国の潜在成長率は8%台後半と言われている。上で述べた政策の失敗がなければ、中国経済は8%台の成長を持続することができると思われる。

去る11月上旬に開かれた共産党大会では、発展改革委員会張平主任は記者会見で「第4四半期の成長率は少し良くなるだろう」と楽観的な見通しを示した。確かに、10月に入ってから、鉄鋼やアルミなどの建材産業では、景気がいくらか良くなっているとの報告がある。同じ時期に、主要70都市のうち、35都市の住宅価格は上昇に転じたと言われている。

実は、こうした景気改善の背景には政権交代がある。10月に入り、温家宝首相の引退を目前に地方政府は不動産取引を再び活発化させている。2013年3月に首相に就任する予定の李克強筆頭第一副首相は1度だけ不動産バブルのコントロールを続ける発言をしているが、そのメッセージから断固とした姿勢が感じ取れない。

中国政府系エコノミストの多くは第3四半期に景気が底打ち、第4四半期はわずかながら良くなると見ているようだ。今年の経済成長率について7.7%になるだろうとの見方が一般的である。

では、2013年の中国経済はどうなるだろうか?

国内の政権交替とグローバル経済危機の動向など種々の不確実性があるなか、確かな予測は難しいが、12年より景気がいくらか改善し、8%台半ばの成長になるとの見方がある。言い換えれば、温家宝首相の引退とともに、中国経済は本来の潜在成長率に回帰するとのことである。ただし、問題は残る。現在の政府主導・輸出依存の成長モデルを改めないといけないが、胡錦濤国家主席が提唱した「科学的発展観」は実現していない。

最後に、こうした中国経済の景気動向が日本経済および日本企業にどのような影響を及ぼすかを明らかにしておきたい。今般の尖閣危機の出口は未だに見い出せていない。それをきっかけに、中国に進出している日本企業にとって、中国人消費者の日本製品離れが懸念事項となっている。実際に、反日デモ以降、日本の自動車メーカーの販売は大きく落ち込んでしまった。こうした動きが今後も続くかどうかが心配されている。

ここで、過度な心配と悲観は無用と強調しておきたい。なぜならば、消費者の消費行動は常に合理的であるからだ。逆に心配なのは、反日デモが起きる前から、日本の自動車メーカーの販売が伸び悩んでいたことである。中国における日本企業全体のパフォーマンスは必ずしも良くない。今回の反日デモは、日本企業にとって対中投資戦略を練り直し、チャイナリスクのコントロールを強化するきっかけになれば、危機はチャンスに転ずるものと信じている。

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柯 隆

柯 隆(カ リュウ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】:1994年3月 名古屋大学大学院経済学修士取得。 1994年4月より (株)長銀総合研究所国際調査部研究員。1998年10月より現職。専門領域は開発金融と中国経済論。
【著書】:「中国が普通の大国になる日」日本実業出版社 2012年10月、「チャイナクライシスへの警鐘 2012年中国経済は減速する」日本実業出版社 2010年9月、「2010年中国経済攻略のカギ」PHP研究所『Voice』編集部 2010年1月、「華人経済師のみた中国の実力」日本経済新聞出版社 2009年5月、「中国の不良債権問題」日本経済新聞出版社 2007年9月