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  4. 過度な期待のピーク期に入る「ビッグデータ」と情報システム部門の役割

過度な期待のピーク期に入る「ビッグデータ」と情報システム部門の役割

2012年11月13日(火曜日)

「ビッグデータ」というキーワードがICT業界で注目されている。昨年まで は「クラウド」が話題だったが、2011年後半から2012年にかけ、ビッグデータ がブームとなった。ただ、日本におけるビッグデータは「過度な期待のピーク 期に入る直前」と調査会社のガートナーは位置づけており、今後、幻滅期に 入ることが予想される。情報システム部門はビッグデータにどのように取り組 めばよいのだろうか?

1. ビッグデータへの取り組みの本質は「量」ではなく「分析」

最初に、ビッグデータの特徴と期待が高まった背景を整理しておこう。ビッグデータには明確な定義はないが、量が多く(Volume)、多様(Variety)、そして処理が速い(Velocity)というデータを指し、この3つの英単語の頭文字から特性を3Vで説明することが多い。これに、価値(Value)もしくは、正確性(Veracity)を加えて4Vとする場合もある。このように複数の特性があるにもかかわらず、ビッグデータは「大きなデータ」というその単語の意味から、データ量(Volume)が強調されがちだ。

調査会社のIDCは、世界で生み出されるデータ量はICTの発達に伴って増加し、2009年の0.9ゼタバイト(1兆ギガバイト)が2020年には35ゼタバイトになると予測している。個別企業でも、例えばフェイスブックでは1日500テラバイト(1,024ギガバイト)以上のデータを処理するなど、厖大なデータを扱う企業は増えている。このような大量のデータがあれば、そこから何らかの価値が生まれると考えられ、ビッグデータが注目されるようになった。

ただ、データ量は必ずしも価値を意味しない。データにはシグナル(有益な情報)とノイズ(雑音)がある。例えばソーシャルメディアの書き込みなど、データを増やしていくとシグナルだけでなくノイズが増えてしまうことがあり、ノイズに埋もれたシグナルを探すには手間がかかる。ビッグデータを扱う上では、データの「量」だけでなく、データの中から価値を見い出す「分析」を重視する必要がある。では、どのようにデータ分析に取り組めばよいのだろうか?

2. 目的設定と業務への組み込みがデータ分析のポイント

データ分析においては、「何を実現するか」、「何に活用するか」という目的(=成果)を設定することが重要になる。そもそもデータを活用する時は、ビジネスにおいて何らかの意思決定を行う目的があるはずだ。大量のデータがあれば何らかの価値が生まれるはず、と考えるのではなく、目的を基点としてデータ分析に取り組む必要がある。

具体的には、目的を設定した後、業務のどの意思決定にデータ分析を活用するか、【図1】に記述したプロセスを右から左へ検討を進める。データ分析結果が出たら、今度は左から右へとプロセスを実行していく。

【図1】データ活用・分析を成功させるためのプロセス 【図1】データ活用・分析を成功させるためのプロセス

そもそもデータ分析の価値はどのような業務で引き出しやすいのだろうか?データ分析の観点で業務を2軸で分類した(【図2】)。縦軸はデータ分析の頻度で「Ad hoc」と「Routine」とした。「Ad hoc」というのは、定常的には行わない業務であり、例えば配送計画における物流拠点の立地場所を検討するようなものが該当する。「Routine」は、刻々と変化する日々の業務に分析結果を都度適用していく業務であり、コンビニエンスストアなどの日々の発注業務をイメージして欲しい。

横軸は分析のアプローチだ。データマイニングのようにデータに語らせ、データからビジネスに価値を与える何らかのパターンを発見するアプローチを「Find」とした。逆に、仮説をベースにデータで検証・解決していくアプローチを「Solve」とした。

この2軸の4象限で見ると、当然どの領域でもデータ分析の価値は得られるが、日々の業務の中で意思決定に適用する(2)の領域が、継続的に価値が得られる取り組みやすい領域であると言える。では、業務への組み込みとはどのようなものか、ビッグデータの特性と合わせて具体的な事例で見ていこう。

【図2】データ分析における業務側とICT側のアプローチ

【図2】データ分析における業務側とICT側のアプローチ

3. データ分析を業務に組み込み成果を上げた事例

データ分析を業務に組み込んで成果を上げた事例として有名なのが、アメリカのスーパーマーケットTargetだ。Targetは膨大な(Volume)顧客の購買データを使い、多くの商品購入が期待される妊娠初期の女性の購買パターンを発見した。Targetによると、妊娠初期の女性はマグネシウム、カルシウムといったサプリメントや、無香料の保湿剤を多く購入すると言う。さらに、出産が近づくと急に無香料の石鹸や、手の消毒ローションを購入するそうだ。Targetでは、発見したパターンに合致する顧客に対し、関係のないディスカウントクーポンに紛れさせて赤ちゃん用品のクーポンを送付している。このプロモーションの結果、10億ドル以上の成果を上げている。

日本でもデータ分析を業務に組み込んでいる企業は多い。ローソンでは、POSデータと会員カードPontaの属性データを組み合わせ、1日約1,600万個の商品購買データをマーケティング企画部で分析している。「いつ何が買われた」から「誰がいつ何を買った」へと分析の視点を変えることで、特定顧客のリピート状況などを分析し、勘頼りの発注から、具体的なお客様を想定した発注に進化させている。ローソンでは、今後Yahoo!のクチコミを組み合わせることにより、データの多様さ(Variety)を増やし、SCM、CRMといった業務へ活かそうとしている。

パンの直営小売店を展開するアンデルセンはデータ分析の処理速度(Velocity)を向上させて業務に組み込みんだ。ビッグデータ処理の代表的な技術であるHadoopを原価計算に使い、これまで4時間かかっていた処理を20分でできるようにした。この結果、為替や小麦価格が変動した際、即座に製品価格のシミュレーションを行い、生産計画や原料調達を即座に見直せるようになった。

4. データ分析における情報システム部門の役割とは

データ分析は情報システム部門ではなく、事例のようにマーケティング部門などの現場部門主導でビジネス・プロジェクトとして行われることが多い。確かに分析の目的設定やパターン発見はビジネスの現場の方がやりやすいだろう。ただ、発見されたパターンの業務への組み込みや他部門との連携は現場部門だけでは難しいかもしれない。実際、「データ分析そのものではなく、データ活用のための環境作りに知恵を絞らないといけない」といった声が情報システム部門から聞かれる。

データ活用の環境作りはデータ分析のアプローチを業務側とICT側に分けて考えると分かりやすくなる。業務側では、データをもとにパターンを探索し、パターン検証・モデル構築の後、業務に導入するという流れになる。この時ICT側の準備として、非構造化データを含めた未整理データの収集、DB化、そしてモデルの手順を加えたアプリケーション化を行うことにより、円滑にデータ分析が業務に組み込まれる。

キーワードとしてのビッグデータは、ガートナーが指摘するように、ピーク期を過ぎて幻滅期を迎えるかもしれない。ただ、その本質であるデータ分析はビジネスにおいて欠かせないものだ。データ分析を現場だけでなく情報システム部門が行う場合もあるだろう。しかし、情報システム部門が意識しなければならないのは、現場がデータ分析を行いやすい環境作りと、ICT投資としての妥当性のマネジメントが求められている点である。この個社でしか対応できない盲点となりそうなテーマに取り組むことで、情報システム部門の存在価値を発揮すると同時に、データ分析から価値を生み出すことができるはずだ。

【図3】データ分析における業務側とICT側のアプローチ 【図3】データ分析における業務側とICT側のアプローチ

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田中 秀樹(たなか ひでき)
株式会社富士通総研 ビジネス調査室 室長代理
マーケティング戦略支援コンサルティング業務を従事。2011年4月より新設のビジネス調査室でICTの先進的な活用の分析と提言に取り組む。著書に『インターネット広告実践法』(共著)の他、『インターネット白書』等に記事原稿を多数掲載。