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中国経済減速の深層を読む

2012年10月29日(月曜日)

中国の第3四半期経済成長率は世界中から大きく注目された。これらのマクロ経済データは、不動産価格の高騰への対策を維持したまま、2010年後半に始まった欧州債務危機の影響を受け、減速し始めた中国経済の底入れを判断する有力な材料になるからである。つまり、中国経済の成長速度が徐々に低下し、安定成長へ向かうソフトランディングができるか、それとも成長速度が急低下し、破壊的なハードランディングになるかが、俄かに議論されている。

中国自身は、経済成長の安定化(「穏成長」)と経済の構造調整(「調結構」)の目標が達成されて初めて経済のソフトランディングができると理解されている。したがって、中国経済減速の背後にあるものはGDP成長率に止まらず、経済産業構造に関係しており、その深層は読みづらいのである。

1. 安定の兆しがあった一方、「底入れ」の判断は時期尚早

中国国家統計局の発表によると、第3四半期のGDP成長率は7.4%となり、7四半期連続で減速が続いている一方、輸出、投資、消費など、GDP成長を支える各種のマクロ経済データは好転の兆しを見せた。温家宝首相は、「中国経済の成長率は安定しつつあり、2012年の経済成長目標である7.5%は達成できると宣言し、政策運営の自信を見せた。他方、日本のメディアは、7四半期連続のGDP成長の減速に着目し、「中国の減速がより鮮明になった」などと、中国経済成長力の弱さを強調した。

【図1】中国の四半期別GDP成長率の推移
【図1】中国の四半期別GDP成長率の推移

発表された経済データを見ると、第3四半期のGDP成長率は第2四半期より0.2%低下したが、低下の度合いは第2四半期の0.5%より小さくなった。輸出の伸び率では、7月~9月に1%から2.7%、そして9.9%と次第に加速してきた。債務危機の収束が見えない欧州への輸出伸び率は、-10.7%で相変わらず深刻さに見舞われているが、米国や日本への輸出は安定しており、ASEAN、ロシア、南アフリカなどの新興国への輸出は持ち直している。また、固定資産投資の伸び率でも、7月の20.4%から僅かながら20.5%まで高まった。固定資本形成の2割を占める不動産投資の伸び率は、価格抑制対策で15.4%に止まっているが、財政支出の拡大によるインフラ投資や低所得者向けの住宅整備が固定資本形成を支えている。さらに、消費のパラメータである全社会小売総額も7月の13.1%から9月の14.1%まで加速された。物価影響を除いた実質消費動向は比較的安定した伸びを見せている。最低賃金の引き上げなどの所得向上に伴う購買力の育成政策や全国民を対象にした社会保障制度の整備に伴う消費環境の整備などが功を奏したと言える。

そのほかにも、鉱工業生産指数、財政収入、消費者信頼指数など、いずれの指標・データも安定した兆しを見せてきた。したがって、中国当局に限らず、欧米のメディアやアナリストの大部分は、中国経済は底入れしつつあると見ており、第4四半期は若干上向くという見方が多い。

しかし、景気の先行きを観察する購買担当者指数 (PMI)の9月値は、なお景気拡大と景気後退の分かれ目である50%を下回っており、同じマクロ経済の先行指標となる電気消費量においても、9月の伸び率は年初来最低の2.9%に止まっている。また、経済活動の活況振りを表すモノの流れも緩慢になっている。緩慢さを表す鉄道貨物輸送量の伸び率は、8月から再びマイナス圏に陥り、9月にもマイナスの度合いは深まっている。

【図2】鉄道貨物輸送量伸び率の推移
【図2】鉄道貨物輸送量伸び率の推移

このように客観的に中国経済に関するマクロ経済データを吟味すれば、減速し続けている中国経済の成長率の底入れにいくつかの兆しは見られたが、「底入れ」の判断は時期尚早と言わざるを得ない。

2. 中国政府はなぜ経済減速を「容認」したか

これまで、中国では経済成長による雇用問題の解決が最優先されたため、効率を犠牲にしてまでも高い経済成長を追求してきた。本来なら、今回の経済減速に対しても、金融政策の緩和や大規模な財政出動による経済成長率の引き上げも考えられるが、中国政府には、長年に及んだ高度成長、そして3年前の金融危機対策で生じた負の遺産である不動産バブル問題、格差問題、環境問題、構造的不均衡問題、汚職問題などの解決を優先させ、経済成長の減速を「容認」したスタンスが見られた。

現在、中国政府に経済運営上の「余裕」ができたのは、雇用問題の優先順位が低下し、むしろ格差解消、環境・省エネの実現、産業の高度化などに政策の優先度が高まってきているからである。【図3】が示すように、中国の直近の有効求人倍率(*1)は1.05で、引き続き高位を維持しており、中国では経験則上、人手不足の状況を示す0.9前後を大きく上回っている。逼迫した労働市場環境は、内陸部にまで見られた。実際、2012年1月-9月までの都市部新規雇用者数はすでに1,024万人に達しており、今年の目標雇用人数900万人を大きく上回っている。

【図3】中国の有効求人倍率の推移
【図3】中国の有効求人倍率の推移

中国当局が3年前の米サブプライムローン危機の時ほど経済減速に慌てなかった、もう1つの理由は、金融システムが比較的安定しているからであろう。近年、中国商業銀行の不良資産額と不良資産比率はともに大幅に低下し、国際的に比較しても健全なレベルに達していた。2012年6月末現在の不良債権額は4,564億元(約5.7兆円)で、不良債権比率は0.9%となっている。経済成長の減速により2012年9月末までに不良債権額は若干増えてきたが、不良債権比率は1.0%以内に安定している。経済減速の長期化で不良債権額と不良債権比率の拡大も予想されるが、約300%に上る引き当ての準備額や2012年上期の純利益額は6,616億元(約8.3兆円)を有していたことを合わせてみれば、金融システムが急速に不安定になることは考えにくい。

このように、政策の優先順位の交代を見据えた中国当局は、経済成長率のある程度の低下を「容認」して緊急性の高い社会問題、環境問題、経済構造問題の解決に政策の優先度を置き、質の高い経済成長を目指すに違いない。

3. 政策の重点は「穏成長」(安定成長)から「調結構」(構造調整)へ

これまで見てきたように、中国経済の減速はすでに緩やかになっており、底入れに近づきつつある可能性が高くなってきた。歴史的に見れば、中国経済が不動産バブルを退治して再び自発的な成長軌道に乗るまでには調整は暫く続くと思われていた。例えば、1992年の鄧小平「南巡講話」を契機に生じた不動産バブルの退治には、経済成長の減速に伴う調整期間が7年もかかった。欧州債務危機の収束時期や2013年の習近平体制の本格始動を併せて考えれば、今回の中国経済の調整期間は2014年までかかるだろう。

他方、中国では、適当なインフラ投資の拡大や消費刺激政策により経済成長の減速を食い止め、安定成長を図るという「穏成長」政策が功を奏しつつある環境を踏まえて、不動産バブルを退治して格差是正、内需主導、産業高度化に伴う経済成長の質の向上を図る構造調整という「調結構」へ政策がシフトしつつあると考えられる。つまり、経済成長率が7.5%前後でインフレ率が3%以内に安定したとしても、中国は満足せず、むしろ、内需主導、特に消費主導の経済成長パターンや、省エネ、環境配慮で生産性の高い産業構造が形成されて初めて「調結構」政策が開花したと評価されよう。

実際、【図4】が示すように、日本も1956年代半ば頃からオイルショックが発生した1973年頃での高度経済成長(年平均9.1%)より、1974年からバブル経済が終焉した1990年までの安定成長を経験した。日本経済にとって、安定経済成長の時期は、省エネや環境保全、産業の高度化、生産性の向上など、経済の質が抜本的に改善された期間でもあった。日本の経験から中国政府が経済成長率の低下を容認し、7%前後の安定成長を目指すのは容易に理解されよう。

11月に開催される第18回中国共産党大会で指導者の交代が行われるが、次期習近平政権の経済政策が、安定成長という短期経済対策から持続的な経済成長という構造改革と調整に政策の重点を移されることが予想されよう。「穏成長」から「調結構」への政策調整は、中国に止まらず、世界経済のリバランスにもプラス影響をもたらすものであり、注目されるべきである。

【図4】質の高い安定成長を目指す習政権
【図4】質の高い安定成長を目指す習政権

注釈

(*1)求人倍率 : 経済指標の1つ。求職者1人あたり何件の求人があるかを示すもので、たとえば求人倍率が1.0より高いということは、仕事を探している人の数よりも求人のほうが多いということである。一般に求人倍率が高い社会は、企業がより多くの労働者を求めており、つまりそれだけ経済に活気があると考えられる。

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【調査・研究】


金 堅敏(Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。