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「風」「林」「火」「山」によるビッグデータの見立て方

2012年10月30日(火曜日)

データの分析や利活用を通じた新しい価値を創造して行こうという取り組みが盛んになってきている。ビッグデータに対して機械学習や時系列分析を行い、事象解析を行う取り組み、高速フィルタリングによってビッグデータから特定の事象を抽出するイベント処理、構造化データと非構造化データを統合的に解析したり、それらを紡いでナラティブ(物語)を生成する取り組み、等々、各方面でのチャレンジが行われている。 しかし、それらチャレンジのすべてが期待レベルの成果を得られているか、つまり価値創造がなされているかというと、必ずしもそういう状況にはなっていない。本稿を読まれている方の中にもそういう模索を重ねている方やチャレンジに躊躇している方も多いはずである。

そこで、どうすればデータ分析や利活用を通じて価値創造ができるか?ということをここで整理したいと思う。 その手がかりが、タイトルに付けた「風」「林」「火」「山」である。

1.風林火山は“コト”を見立てるテンプレート

風林火山は戦国武将武田信玄の旗印であり、元来は軍を率いる要諦とされるものであるが、ここでは森羅万象(コト)を表現(情報化)する際の類型として用いてみる。

  • 「風」 : 風というのは日常的に起こりやすい事象であり、一方でその変化は一定ではな く、むしろ不安定であり変化量が大きい。
  • 「林」 : 林というのはゆっくりと四季を移ろう。毎々年そのシーズンになると予定調和的な景色を見せてくれる。変化は起こりやすく、その変化は比較的安定している。
  • 「火」 : 火というのは自然界ではめったに起こらない事象である。めったに起こらないが、一度発生すると、その前後は全く異なる相となる。そういう意味で変化量は大きい。
  • 「山」 : 山というのは「不動如」のとおり、ほとんど動かないという意味で変化はめったに起こらず、その変化量も小さい。

【図1】で整理すれば明らかであるが、風林火山というアナロジーは情報量計算や期待値計算に用いられる発生確率と変化量を基準にした類型であり、これ自身が斬新なアイデアというわけではない。では何故こんな類型を持ち出すのかというと、データの価値というのは事象の変化期待値に大きく左右されるということを、データ利活用に際して先ずは初期の段階で確認することが重要だと考えるからである。

【図1】風林火山のアナロジー
【図1】風林火山のアナロジー

2.風林火山によるデータ価値の見立て方

「山」のように変化の乏しいデータを山のように所持していたとしても、その価値は保存が中心となり、長期、超長期のトレースをかけるといったものが一般的である。まれにはこうしたデータに対して新しい解析手法が考案され、動かないデータが動き始めるというケ―スがないわけではないが、こうしたチャレンジは一般のビジネス分野ではやや冒険的と考えた方が良い。

「林」のように予定調和的な変化をみせるデータは、それら事象の予測やコントロールにフィットし、これまでも販売予測や品質管理、顧客分析によく用いられている。この分野のチャレンジの中心は、機械やネットワークのログといった、これまでの分析対象と比べ、そのデータ量が2桁も3桁も違うような巨大データの分析や構造化されていないデータを用いて予測精度や管理精度をさらに高めるといったものが中心になると思われる。

しかし、こうした事象の予測精度や管理精度が飛躍的に向上したとしても、(林の四季が五季や六季にならないように)売上げや利益がそれだけで倍になるわけではない。そういう意味で、この分野の価値は限界(習熟)的であり、飛躍よりは漸進を期待する分野であろう。

「火」のような事象はめったに起こらないため、一般的には予測や管理は困難である。しかし、一度ことが起これば、そのインパクトは不測であることが多く、ロスにしろリターンにしろ重大な影響を及ぼすことが多い。リスクの分野では最近ヒューマンエラーが注目されていると聞く。ヒューマンエラーとは人為的ミスのことであるが、簡単に言えば、一度起こった事故の原因が解明され、その対策がなされると、その次に同じ事故が起こればヒューマンエラーとなり、損害賠償等を伴う場合、その瑕疵責任が拡大して行くということである。ロスリスクが時間とともに増加するということである。技術的な困難はあってもデータ価値創造という視点では魅力的な分野である。

「風」のような事象はデータ価値創造という点ではさらに魅力的である。なぜなら、この分野は往々にしてデータそのものが金銭的価値を生むからである。株価情報や競馬情報はその典型で、予測や予想といった解析的なデータはもちろんであるが、株価であれば前日終値、競馬であれば直前の追い切り情報など、事実そのものが価値を生む。

「風」の分野は投資やギャンブルといった特定の事象に限らない。例えば消費分野においてもアパレルファッションなどはその類例であろう。ファッションの価値というのは交換、機能、効用といった経済的価値よりは主観、観念的な価値であるが、常に新たな価値創造を行い、それを情報とともにビジネスにしている。(【図2】)

同じような分析を行っても分野によって価値創造の期待レベルが異なることを整理して、「風」「林」「火」「山」どの分野の事象かということを見立てることの必要性を説明した。

【図2】データ価値の見立て方
【図2】データ価値の見立て方

3.重要なのは価値創造の目的

この「風」「林」「火」「山」の見立てには、実はもう1つ大事なポイントがある。最後にそれを説明しておきたい。それは同じ分野、フィールドであっても価値創造の目的によってそのデータは「山」にもなれば「風」にもなるということである。

例えば、あなたが百貨店で顧客データの分析を命じられたとする。分析できるデータは 顧客基本情報や購買履歴などのデータの他、商品情報やプロモーション履歴、さらに市場調査情報やSNSなどの情報も扱えるとする。

そこから先、あなたはどのような分析をするのか?(ちょっと考えてから先を読んでください。)

恐らく一番危険なのは、「とにかく分析してみよう。分析すれば何かがわかる。」というやり方であろう。データの内容や百貨店のビジネスをあなたが不知であれば、そういう回り道が多少は必要かもしれないが、闇雲に分析して出てくるのはせいぜい基本統計量であったり、解釈困難なパターンでしかない。

無目的な分析はなしとして…

  • もし、顧客の基本構造を理解することを目的に、氏名・性別・年齢など基本属性を中心とした分析を考えたとすれば、それは「山」のアプローチである。分析の手続きとしては必要なお作法ではあるが、目的をそういうところに定めたとすれば、相当にセンスが悪いと思って間違いない。分析を受託する立場であったとしても、その程度の分析は既知であるというところからスタートさせないと、いつまでたっても価値創造にたどりつかない。
  • もし、顧客の購買力(例えば来月どれぐらい買ってくれるか)、特定商品の購入確率計算、 離反休眠になりそうな顧客の抽出、といった予測やスコアリングを行い、少しでも多く売り上げたい、あるいは商品回転率を高めたいと考えたのであれば、それは「林」のアプロ―チである。技術的には面白い分野であるので、あなたがそれを経営に提案すれば「面白いやってみろ」と言われると思う。しかし、そこには条件がある。こうした分野は先に述べたように、効率向上や品質向上が目的となるため、今までやったことがないという場合以外はそれほど大きな財務的インパクトを生まないのが普通である。経営は「ただし、投資や費用は効果見合いで行うこと」と条件をつけるであろう。
  • もし、顧客の生活や消費行動のスイッチを見つけ、いち早くそのon/offを見つける、あるいは、そのスイッチを入れるサポートをするというような目的を考え、そのためのデータ分析や利活用を考えたとすれば、それは「火」のアプローチである。 「火」というのは統計的には例外・外れ値となりやすく、従って、それらを見つけるというのはより細部にわたり定常的にローコストで把握する必要が出てくる。そこで、こういう分野にはセンサーやスマートフォンなどの活用が生きてくるわけである。
  • もし、あなたが展開する商品やその売価を猫の目のように変え(例えば1時間毎に売価が変わる)、顧客の意識を百貨店に釘付けにし、常に気になってしかたがない存在にしたいと考え、そのためにデータの分析・利活用を考えるならば、それは「風」のアプローチである。これはあくまで例え話でしかないが、先に述べたようにアパレルファッションが本来そ ういうモノ(コト?)であったことを考えれば、必ずしも空想の向こう側の話ではなく、単に顧客とビジネスのレイテンシーギャップの調整問題であることに気がつくはずである。

本稿では、データ利活用による価値創造の見立て方を信玄公の旗印を使って論じてみた。ビッグデータの分析、利活用は今、話題の分野であるが、一部の潤沢な資金を持つ企業以外は、他のITと同様に投資や費用は価値見合いであるはずである。従って、その価値探索をできるだけスマートに行うことが求められる。

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渡辺事業部長顔写真

渡辺 南(わたなべ みなみ)
株式会社富士通総研 執行役員 第二コンサルティング本部長代理
【略歴】1979年 富士通入社。1988年富士通総研へ出向。
流通ビジネス分野コンサルタント、ビジネスサイエンス分野コンサルタントを経て現在に至る。
【著書】「差延の戦略」(共著 富士通ブックス 1995年)、「流通ネットワーキング革命」(共著 富士通ブックス 1996年)、「リレーション・プロセス・マネジメント」(共著 ダイヤモンド社 2000年)