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日本企業が現場発のイノベーションで復権するには

2012年10月18日(木曜日)

日本企業のイノベーションを知識創造の観点から探究し、はや40年近くになります。様々な企業の経営者との対話や、製造・生産の現場を見て回る機会に恵まれ、それらの経験から確信しているのは、日本の現場は世界に類を見ない「暗黙知」即ち、身体性を伴い言語にとらわれない豊かな「知」の宝庫であるということであります。ホンダの本田宗一郎や、ソニーの盛田昭夫らの日本の経済成長を現場から支えた経営者達は、現場の豊かな暗黙知を「概念=コンセプト」にまで昇華させ、多くのイノベーティブな製品、サービスを世に送り出してきました。

ところが、近年、過去の成功体験が、組織を硬直化させ、ルール偏重やオーバーコンプライアンスが形式主義を生み、前例主義に甘んじたマインドが、組織の思考と行動を縛り、日本の現場に存在した豊かな暗黙知が活かされないという大変不幸な状況が続いています。

反面、日本に追いつけ追い越せと、模倣から始めた台湾、韓国、中国勢が今や日本企業を追い越して、グローバルにビジネスを展開し、成功を納めています。彼らは「今、ここ」で何が大切なことなのかを常に組織の知を総動員して問い続けながら、プラグマティック(実用主義的)に俊敏に判断を下し、グローバル競争のただ中で成長を続けています。日本企業はこのようなダイナミズムを失ってしまったように見えます。

ここで申し上げたいのは、単純に「過去/他者に学べ」ということではありません。グローバル化、情報化が進んだ現在、現場に眠る暗黙知を以前にも増して大きな関係性の中で捉えることこそが重要です。日本には豊かな暗黙知が知識資産として企業の現場に脈々と蓄積されています。この個別具体の暗黙知を企業の組織、地域、国家の枠を超えて相互に影響し合っているというエコシステムの中で捉え直し、大局観を持って関係性を洞察し、知識創造とイノベーションを実現していくことが重要です。

組織的にこのような視点を身に着けて、イノベーションの渦を巻き起こしていくためには、組織内におけるミドルマネージャーの役割が改めて問われていると言えるでしょう。ミドルマネージャーが現場の最前線で何が起きているかを熟知し、それを大局的な視点で捉え直すことができるかどうかに、今後の企業・組織の将来はかかっていると言っても過言ではありません。

近視眼的な数値目標達成に没頭し、本来担うべき大局観の伝達と現場の暗黙値の繋ぎ手としての役割をミドルマネージャーが失っていては、現場主義から脱却できず、ボトムアップからのイノベーションは望むべくもありません。企業は現場経験豊かなミドルマネージャーに大幅な権限移譲を促し、俊敏に行動ができるよう、組織の構造改革を断行せねばなりません。

残念ながら日本に残された時間は少ないかもしれませんが、実業とかけ離れてマネーゲームに陥ってしまった市場資本主義のあり方が問われている今こそ、暗黙知豊かな日本企業がボトムアップでイノベーションを巻き起こす、最後のチャンスであると肝に銘じて、組織の在り方を問い直す時ではないでしょうか。

関連オピニオン

「知の構造改革の担い手としての実践知リーダー」

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【実践知研究センター】


野中 郁次郎

野中 郁次郎(のなか いくじろう)
(株)富士通総研 経済研究所 理事長、実践知研究センター長
一橋大学名誉教授、クレアモント大学大学院ドラッカー・スクール名誉スカラー
【略歴】早稲田大学政治経済学部卒業。カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にて博士号(Ph.D)を取得。2008年5月のウォールストリートジャーナルでは、「最も影響力のあるビジネス思想家トップ20」に選ばれる。
【執筆活動】『知識創造経営のプリンシプル』(共著)2012年 東洋経済新報社、『流れを経営する』(共著)2010年 東洋経済新報社、『イノベーションの知恵』(共著)2010年 日経BP社、その他多数