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電力は成長産業だ

2012年7月18日(水曜日)

2011年3月の福島第一原子力発電所の事故以降、電力会社への風当たりが強まっている。事故を防げなかった東京電力の未熟な対応、「原子力ムラ」の閉鎖的な体質、さらに電気料金値上げと「権利」発言が国民の強い批判を浴び、総括原価方式や地域独占といった電力システムの根幹についての改革を望む声も高まっている。このような中で、東京電力が実質的に国有化されただけでなく、多くの電力会社が 巨額の赤字を計上した。電力といえば日本を代表する超優良産業であったが、今や未来のない衰退産業のような扱いを受けている。しかし、3.11後の電力こそ、技術革新や新市場の可能性を秘めた、国内最大の成長産業ではないだろうか。

1. 原子力から再生可能エネルギーへ

まず発電分野だが、原子力発電という事業が衰退していくのは避けられないだろう。日本では安全性の議論が中心だが、脱原発ではないアメリカでは、主として経済性の観点から、過去30年以上の間に原子炉の新設は1基もない。しかし、電力需要がなくなるわけではないから、発電事業はこれからも必要である。原子力を代替するのは、短期的には天然ガス、長期的には再生可能エネルギー(再エネ)であろう。

天然ガスについては、アメリカではシェールガス革命で大いに盛り上がっている。日本では残念ながらシェールガスそのものは期待できないが、アメリカから輸入することにより世界一高い価格を下げることができる。サハリンとのガスパイプラインを建設することも、価格低減につながる上、安定供給面からも意義が大きい。温室効果ガスの排出量が比較的少ないことを考えれば、今後20年程度の間の基幹電源として期待したい。

長期的には、やはり再エネである。再エネは「純国産」であり、枯渇も価格高騰もない。原発同様にゼロ・エミッションであり、安全性は言うまでもない。現在の発電単価は高いが、固定価格買い取り制度により普及速度を高めたい。再エネへの投資の多くが国内に落ちるため、化石燃料の輸入と比べれば地方経済への波及効果も大きい。再エネは世界のどこにでもあり、最貧国でも開発が容易であるから、大きな輸出産業になるだろう。

原発についても、やることはたくさんある。今後20年程度かけて脱原発するとしても、事故から学んで世界最高の安全技術や事故対応ノウハウを確立することが、再稼働の前提となる。と同時に、廃炉ビジネスが重要になり、メルトダウンした原子炉の廃炉技術の開発も不可欠である。これらは日本だけに必要なのではなく、大幅な新設を見込んでいる発展途上国への技術輸出も期待できる。

2. 送電ビジネスと発送電分離

再エネを普及させる上でも鍵となるのは、送電ビジネスである。これまでの日本では、発送電一貫という前提があるため、電力会社は他社の再エネ発電を送電網に接続させることを渋ってきた。また、地域独占でもあるため、競争を促す恐れのある地域間送電網は細いまま放置されてきた。出力の不安定性という再エネの弱点を解消するには、広い地域で需給調整を行う広域運用が有効だが、風況の良い北海道から東京へ送電するといったことが行われてこなかった。ネットワーク外部性を考慮しない運用を続けてきたのである。

従って今後は、送電網への投資を拡充するとともに、運用のあり方を大幅に見直さなければならない。その鍵が発送電分離である。送電ビジネスを専門とする会社を作り、地域間の統合を進めてネットワークの全体最適を追求してもらう。送電会社にとって火力発電会社も再エネ発電会社も等しくお客様であるから、系統接続の問題は解消され、広域運用により需給調整も容易になる。

とはいえ、大量の再エネを送電システムに統合することは容易ではない。これに対してスペインでは、送電会社に再エネ専門の運用部門を設け、気象予測なども組み合わせて不安定性を吸収するノウハウを積み、20%以上の再エネ導入率(発電量ベース)を誇っている。日本でも元々送電技術の水準は高いのであるから、送電専門の会社が 前向きに取り組めば、再エネの問題を解消できるだろう。長期的には国際連系も進めたい。欧州では国境を越えて電力を融通することが一般的であり、それが再エネの統合にも寄与している。まずは韓国と送電網をつなぎ、電力の相互融通を始めることにより、再エネの導入に寄与するだけでなく、市場やサービスの拡大にもつながるはずだ。

3. デマンド・レスポンス(DR)と小売りサービス

最も大きな市場拡大が期待できるのは、需要家向けサービスである。これまでの需給調整は、発送電一貫の電力会社が保有する余剰の供給力に頼ってきた。しかし今後は、需要家の協力が欠かせない。インセンティブと引き換えに需要家にピークカットしてもらうのが、DRである。

これを実現するには、スマートメーターを始めとしたICTによる「見える化」が前提となる。また、ピーク時料金といった需給状況を反映した料金メニューや、ピークカット分を発電に相当するとみなす「ネガワット取引」も重要である。需給を媒介するものとして、EV(電気自動車)を含む蓄電池にも期待が集まっている。日本にはこれらの技術や製品が揃っているが、アメリカなどに比べてサービス化が出遅れていた。その背後には、既存のビジネスモデルが崩されることを恐れる、電力会社の消極的な姿勢があった。

3.11後、すべての原発が停止した日本では、需給逼迫が現実のものとなり、DRが不可欠になった。東京電力はDR事業を公募し、今夏に計40万kWのピークカットを見込んでいる。関西電力もネガワット取引を始めるという。それらは電力会社の表面的な売上を低下させるかもしれない。しかし、ピーク時の余剰供給力を効果的に削減するだけでなく、小売りサービスという新たな市場を開拓し、多数の新規参入を促すはずだ。電力産業は、電気を供給する以外の真の「サービス業」へと転換するのである。

4. 構造改革により電力産業の再生を

このように、日本の電力産業には様々な成長の種がある。しかし、それらが芽を出すには、構造改革が不可欠である。発送電分離を行って送電網をあらゆるプレーヤーが使えるようにするとともに、発電や小売り分野で競争政策を徹底する。卸電気事業者や公営水力の供給力の市場への開放、リアルタイム市場の創設、30分同時同量ルールの緩和、小売り全面自由化などの施策が不可欠であろう。

このような構造改革の結果、これまでの「集中管理型」の電力システムは、「自律分散型」へと変容する(【図1】)。再エネを中心として多様な分散型電源が供給力の主役になる一方で、無数の需要家もピークシフトや蓄電池を通して需給調整に協力する。これら多様なプレーヤーを柔軟に包含するために、物理的なインフラとしての公正に開放されたスマートな送電網と、経済的なインフラとしての健全な取引市場が不可欠なのである。そして、これらプレーヤーの間を繋ぐために、サービス事業者の活躍が期待されている。

  【図1】集中管理型から自律分散型へ【図1】集中管理型から自律分散型へ

いつの時代にもどの分野でも、イノベーションや新市場を先導するのは新規参入者である。すでに再エネ発電分野には、商社、太陽光パネルメーカー、通信キャリア、コンビニ、地方自治体など様々なプレーヤーが参入を計画している。小売り分野については、新電力の市場シェアが大きくなるとともに、料金メニューや節電アドバイスなどのサービス競争が激しくなるだろう。サービス専業のベンチャー企業にも期待したい。

既存の電力会社にも大きなチャンスがある。特に送電ビジネスは、新規参入者が一朝一夕で手掛けられるものではない。規模の経済を追求するとともに、再エネを統合した系統運用ノウハウを積んで海外進出することに期待したい。分離された発電会社も、これまでのノウハウや技術力を考えれば、圧倒的な優位にあることは間違いない。コスト削減を徹底すれば、簡単に新電力に追い付かれるはずがない。市場が拡大する中国などへの進出も有望である。

3.11以降、原発の問題や電気料金値上げなど、電力産業では後ろ向きの議論ばかりが目立つ。これまでの国内に閉じた、競争のない産業秩序から発想転換し、政府はエネルギー政策の、経営者は経営方針の長期ビジョンを早急に示して欲しい。明るい未来を展望できれば、電力会社の社内も活性化するだろう。それが、お客様である国民からの信頼の回復をもたらし、電力産業の再生と成長に繋がるだろう。

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高橋主任研究員顔写真

高橋 洋(たかはし ひろし)
【略歴】1993年 東京大学法学部卒、ソニー(株)入社、1999年 タフツ大学フレッチャー大学院修了、2000年 内閣官房IT担当室主幹、2007年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、東京大学先端科学技術研究センター特任助教、2009年より(株)富士通総研経済研究所主任研究員。2011年10月より経済産業省総合資源エネルギー調査会 基本問題委員会委員、2012年2月より電力システム改革専門委員会委員。
【著書】『イノベーションと政治学 情報通信革命〈日本の遅れ〉の政治過程』勁草書房 2009年、『電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生』日本経済新聞出版社 2011年