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エネルギー情勢の変化が世界経済の不均衡を是正する

2012年6月29日(金曜日)

世界経済の不均衡といえば、所得格差や肥大化した投機マネーの不安定な動きなど、諸々の側面から検討することができるが、最も重要なのが経常収支の不均衡である。OECDやIMFなどの国際機関が「グローバル・インバランス」と言うとき、それは国や地域ごとに経常収支の黒字と赤字が拡大していることを指している。経常収支が均衡していることは、その国全体として政府、家計、企業部門を合計して見たときに、外国から借金をしていないということであり、黒字であれば稼ぎが支出を上回っている状態で、差額を外国に貸していることを意味する。逆に、経常収支が赤字なら借金をしていることになり、世界全体としてはプラスとマイナスが同額でゼロとなる。不均衡は、このプラスとマイナスの額がともに拡大している状態を指す。ある国が長期にわたり経常収支の赤字を続ければ、借金が累積していくことになり、いずれ返済能力を疑われ、金融危機に落ち込んでいく。国際的な金融危機を避ける観点からは、経常収支の不均衡、すなわち特定の国の赤字や黒字が長期にわたって続くことは好ましいことではない。

かかる視点から過去30年の経常収支の不均衡を図示したのが【図1】だ。一見して明らかなように不均衡は今世紀に入って以降に急拡大している。その中でも基軸通貨国である米国の赤字は顕著であり、これこそが国際経済体制が不安定化してきた最大の理由だ。それ以前にも中南米やアジアで金融危機、通貨危機と言われた事態は何回も発生しているが、規模的に見て世界経済を揺るがすような規模ではなかった。2007年の米国におけるサブプライムローンの大量焦げ付きに端を発する金融危機は、各国の財政当局による大量の資金投入によって一時的には克服されたかに見えた。しかし、その結果、各国の財政赤字が拡大し、2011年以降、南欧の国々で国債に対する信用不安が発生することになった。

【図1】世界の経常収支不均衡
(IMFデータより富士通総研作成) 【図1】世界の経常収支不均衡

1. 2008年を境に減少に転じたグローバル・インバランス

しかし、経常収支の不均衡は2008年をピークに減少傾向に転じた。最大の赤字国である米国で景気が急激に落ち込んだ結果、海外からの輸入が減少した。また、中国の成長が輸出主導から内需を中心とした成長に転換し、中国の黒字の拡大も止まったからである。加えて日本の黒字も世界的な景気後退と原発に代わる火力発電用のガスの輸入の増大の結果、減少し、全体として不均衡は緩和されつつある。ただし、ユーロ圏内部ではドイツとそれ以外の国の経常収支不均衡は改善の方向が見えず、これが共通通貨であるユーロの将来に関する大きな不安定要素になっている。将来的に見て、経常収支の不均衡は今後とも是正の方向に進むのであろうか、それとも再び不均衡は拡大するのであろうか? 筆者は今後の国際エネルギー情勢を展望すると、不均衡を是正するような力が今後働くのではないかと見ている。以下理由を述べてみたい。

2. 急速に改善する米国のエネルギー需給

【図1】からも明らかなように、グローバル・インバランスは米国の赤字と日本と中国、および産油国の黒字がどうなるか、がポイントである。ドイツも巨大な黒字国であるが、現在時点ではユーロ圏内のほかの諸国の赤字とほぼ見合っており、ユーロ圏全体としてはほぼバランスしている。世界最大の赤字国である米国の経常収支の赤字幅は4600億ドルであるが、これに対して原油やガスなどのエネルギーの純輸入額は3300億ドルと、経常赤字額の7割を超える。米国の赤字はエネルギー分野の赤字が原因であるといっても過言ではない。エネルギーの輸入依存度が下げられれば、安全保障だけではなく、経済的な観点からも好ましい。

米国エネルギー省情報局は6月末に2012年版アウトルックを公表したが、それによると、今後、様々な要因により、米国のエネルギー輸入は長期的に減少していくとの見通しだ。【図2】がそれをグラフにしたものであるが、2005年をピークにしてエネルギー純輸入量はかなり急激に減少しており、今後とも長期にわたり減少傾向が続く。そのように考える根拠として、第一に、米国の国内での原油生産は2005年を境にそれまでの減少傾向から増加に転じている。これはシェールオイルと呼ばれる非在来型の石油の生産が本格化したことによるものであるが、米国エネルギー省はこのような拡大傾向が今後とも続くと見ている。2020年までに日量100万バレルの増産が見込まれるが、これは1バレル100ドルとしても年間365億ドル(ほぼ3兆円)の節約になる。シェールガスの生産も急拡大しており、2035年までに現在の3倍近くに増えることになり、2016年からはガスの純輸出国になる。2009年時点で天然ガスの輸入額は160億ドルであるが、これは近々ゼロになるであろう。バイオ燃料でも2024年までに日量100万バレルの生産増加が見込まれており、再生可能エネルギーの拡大も加えれば、金額にして1000億ドル程度のエネルギー輸入削減が可能となる。他方で、需要サイドでは自動車の燃費改善や、産業構造の変化などのエネルギー原単位の改善により、原油の消費量はほとんど増えない。こうして現在4600億円ある経常収支の赤字は2035年には3600億円くらいに減少する可能性がある。米国エネルギー省のシナリオは年率1%程度の緩やかな原油価格上昇を見込んでいるが、それを超えるようであれば、米国の経常赤字削減はこれよりも遅れるし、逆に現在のように100ドルを大幅に下回る状態が続けば、米国の赤字はもっと小額になる。以上の予測は標準ケースによるものであり、今後予定されている自動車の燃費規制の強化が実施されれば、エネルギーの輸入はさらに大幅に減少するであろう。

【図2】米国の石油生産と輸入量
(出典:米国エネルギー省) 【図2】米国の石油生産と輸入量

3. 原発停止で急増する日本とドイツのガス輸入

日本の場合には、原発停止により、火力発電を大幅に拡大する必要のあることから、化石燃料、特にガスの輸入が大幅に増えざるを得ない。2011年度の鉱物性燃料の輸入総額は21兆円と、前年度から5兆円増大し、かつ大震災による輸出の減少も加わって、経常収支の黒字幅も前年度の17兆円から8兆円に急落した。現在、大飯原発が再開に向けて動いているが、ほとんどの原発は長期にわたり停止の状態が続くであろう。また、日本企業による輸出から海外生産への代替は今後とも進むことは確実と見られるので、将来的には日本の経常収支が大きく拡大して大震災以前の水準に戻る可能性は少ない。

ドイツは福島の原発事故の直後、2022年までにすべての原発を閉鎖することを決めた。この結果、日本と同様に天然ガスの輸入量が現在に比べて倍増する、と国際エネルギー機関(IEA)は見ている。これは価格上昇がないものとして260億ユーロの追加負担になる。ドイツの経常収支は2011年で1500億ユーロの黒字なので、原発停止によりドイツの経常収支も大幅に減少することになろう。加えて現在ユーロ圏では、フランス、スペイン、イタリア、ギリシャなどで厳しい緊縮財政がとられており、景気は長期にわたって低迷するであろう。ドイツの輸出の過半はユーロ域内国に向けてであり、ドイツの輸出、ひいては経常黒字もマイナスの影響を受けることになる。ドイツの経常収支黒字もこれからは減少する、と見るのが妥当ではないか?

4. 中国は内需中心の経済成長に転換

中国経済の内需転換が静かに進行している。【図3】に見るように、2008年のリーマン・ショック以前は中国の経常収支は急増していたが、その後は変動しつつも全体として見れば横ばい状態で増加傾向は止まっている。その間、燃料の輸入は着実に増えており、輸出の増加があっても経常収支の拡大は見られていない。IEA(国際エネルギー機関)の昨年の見通しによれば、中国の原油輸入は2010年の4.7Mbd(Million Barrels per Day)から2035年には12.8Mbdに拡大する。金額に換算すれば、1バレル100ドルとして、3000億ドルの負担増となり、これは2010年時点での経常収支を完全に打ち消すだけの額である。中国の輸出は今後とも堅調に伸びていくであろうが、急速な工業化と乗用車利用の拡大から見て、中国のエネルギー輸入量はそれを上回る勢いで増加すると見られ、したがって経常黒字は将来にわたって大きく増加することはないであろう。

中国の経常黒字が増加し続けることはない、と考えるもう1つの理由は、賃金と人民元の上昇である。中国では、このところ賃金の上昇が2桁で進んでおり、低賃金を武器とした輸出品は急速に競争力を失い、製造工場は東南アジアのより賃金の安い国々に移転しつつある。中国の第12次五か年計画では所得の倍増が謳われているので、今後とも賃金の2桁上昇は続くと見られる。為替レートについても中国政府は緩やかな人民元高を許容してきた。その結果、中国商品の価格競争力は毎年減殺されており、貿易収支や経常収支の拡大は、このような面からも抑制されることになる。

【図3】中国の経常収支と原油・石油輸入額
(富士通総研作成) 【図3】中国の経常収支と原油・石油輸入額

5. 強いドルの復活か

このようにエネルギーという視点から、経常収支インバランスの将来動向を考えると、米国における国内石油、ガスの生産拡大、日本とドイツにおける原子力発電の縮小、中国におけるエネルギー輸入の拡大などの要因により、不均衡は長期的には徐々に縮小していく可能性が高い。このことは米国経済にとってのアキレス腱と言われたエネルギー問題が解消の方向に向かうことを意味しており、ユーロ圏経済の混乱が長期にわたって続くことを考えれば、再び『強いドル』に向かう動きが出てくるのではないか。

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【調査・研究】


根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2010年 経済研究所エグゼクティブ・フェロー
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など