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リオ+20をいかに企業戦略に活かすか

2012年6月14日(木曜日)

いよいよ6月20日から3日間の日程で、ブラジルのリオデジャネイロにて国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催される。1992年に同じ場所で開催された国連環境開発会議(地球サミット)では、気候変動枠組条約や生物多様性条約が署名され、その後の環境政策に大きな影響を与えた。10年前のヨハネスブルグ会議を経て、20年ぶりに再びリオデジャネイロで開催される今回の会議には、約120か国の首脳レベルの参加を含む約5万人が集結し、今後10年間の持続的な経済・社会・環境のあり方が議論されることになる。リオ+20の主要テーマは、環境保全と経済成長の両立を図る「グリーン経済」である。グリーン経済への移行を巡るリオ+20の議論の行方は、グローバル市場における中長期的な企業戦略に、大きな影響を及ぼす。

1. 環境と経済の調和を目指す

地球環境は有限である。世界の人口は70億人に達し、2050年には90億人を超えると予想されている。世界的な人口増加に比例する形で、従来どおりに経済活動を拡大すれば、資源枯渇、環境破壊、さらには健康被害の増大を招くことが強く懸念されている。その結果、経済成長が制約され、さらには貧困問題も改善されないことで、社会経済システムの不安定化が進むおそれがある。このような悪循環を断ち切り、持続可能な成長を実現するための解決策として、環境保全と経済成長の調和を目指す「グリーン経済」あるいは「グリーン成長」という考え方が注目されるようになってきた。

国連が主導する「グリーン経済」は、途上国開発の視点が色濃い。リオ+20で議論されるグリーン経済への移行の主目的は、持続可能な開発と貧困撲滅である。国連環境計画(UNEP)が2011年2月に発表した「グリーン経済レポート」によれば、世界全体のGDPの2%(2010年であれば約1.5兆ドル)を毎年グリーン投資に充てることで、2050年までに経済成長と環境的持続性の両立が可能となるという試算が行われている。国際的な合意と取り組み次第で、グリーン経済への移行は決して困難ではないことを強調している。

一方、先進国は、成長戦略の文脈で、環境と経済の調和を重視し始めている。OECDが提唱する「グリーン成長」は、環境分野のビジネスを育成してイノベーションと雇用の創出を図り、新たな成長の源泉としようとする考え方である。このグリーン成長戦略推進のリーダーを自負しているのが、韓国である。2010年6月には、OECDとUNEP等の協力のもと、グローバルグリーン成長研究所(GGGI)の本部をソウルに誘致することに成功した。その後、コペンハーゲンとアブダビに支部を開設したGGGIは、2012年5月に国際会議(グローバルグリーン成長サミット)をソウルで開催し、グリーン成長の研究・情報発信拠点であることをアピールしている。

2. 新興国・途上国が主要プレイヤーに

OECDが今年3月に発表した「環境アウトルック2050」には、将来の持続可能性を巡る主要プレイヤーが先進国から新興国・途上国にシフトする姿が如実に描かれている。例えば、世界の人口は、2010年から2050年の間に約22億人増加すると予測されているが、21億人分は非OECD諸国での増分である。2050年には世界人口の86%を占める79億人が非OECD諸国に居住する見込みである。

都市への人口集中は特に深刻な問題である。OECDの予測では、2010年から2050年までの都市人口の増分を28億人と見込んでいる。全体の人口増を3割近く上回る増加ペースである。特に非OECD諸国の都市人口は26億人から51億人とほぼ倍増となり、全人口に対する都市人口の比率は、2010年の45%から2050年には65%に急増する。急速な都市人口の増加は、持続的な都市生活の維持を脅かす。都市における大気・水質・土壌の汚染防止、廃棄物処理などの環境問題への対応や、エネルギー供給や上下水道などのインフラ整備などの取り組みが急務となる。

経済活動における非OECD諸国のプレゼンスはますます強まる。2010年から2050年までの年平均GDP増加率は、OECD諸国の2.1%に対して、非OECD諸国は4.5%と見込まれている。世界全体のGDPに占めるOECD諸国のシェアは、2010年の51%から2050年には29%に下落する。中でも、BRIICS(ブラジル、ロシア、インド、インドネシア、中国、南アフリカ)と呼ばれる新興国の2050年のGDPシェアは45%に達すると予想される。OECD諸国の1.6倍の規模である。

持続可能な成長の実現のためには、国際的な枠組みや国・地域レベルの取り組み、技術・サービスのイノベーション、生活スタイルやビジネス行動の変革が望まれる。これらの取り組みは、今後、人口増と経済成長によって持続可能な成長を脅かされる新興国・途上国でこそ必要となる。経済のパワーバランスが新興国等にシフトしていることを考えれば、先進国が途上国を一方的に支援するという構図から、新興国(および一部の途上国)自らが、持続可能な成長に向けた取り組みの主体となることが強く求められる。

3. リオ+20の論点

リオ+20では、グリーン経済と制度的枠組みに関する成果文書が策定されることになっている。成果文書自体には法的拘束力はないが、今後の環境政策の国際的な枠組み作りの基盤となるものであり、国・地域レベルの政策にも大きな影響を与える。

4月時点の成果文書案には、グリーン経済への移行のために取り組むべき優先分野として22項目が具体的に記されている。日本政府が具体的イニシアチブを主張している「持続可能な開発実現に向けた9つの提案」に示された分野(防災、エネルギー、食糧安全保障、水、環境未来都市、教育、地球環境システム、グリーン・イノベーション、生物多様性)よりも対象は広い。グリーン経済への移行を図るためにどれだけ具体的な方策が議論されるかが注目される。

リオ+20の準備会合では、グリーン経済の位置づけや責任と負担のあり方を巡って、先進国と途上国の間で考え方が対立した。先進国は、すべての国がグリーン経済に移行すべきであるという立場をとり、各国が戦略を策定することを求めている。一方、グリーン経済が開発の制約となることを懸念する途上国グループは、グリーン経済への移行は選択肢の一つという立場をとっており、ODAの拡充などによる先進国からの支援を前提としている。

資金や技術移転の手段の具体化は、グリーン経済への移行にとって不可欠であるが、実効性を担保する合意が得られるかどうかは予断を許さない。地球サミットでも設定された「先進国の国民総生産(GNP)の0.7%を途上国の政府開発援助に充てる」という目標は未達成(2011年実績で平均0.46%)のままであり、この目標は継続される。とはいえ、経済危機下にある多くの先進国にとって、資金援助の増額は容易ではない。また、先進国からすれば、自国のグリーン成長戦略のカギを握る環境技術の移転を、最貧国はともかく、競争相手でもある中国やインドなどの新興国にまでコミットすることへの抵抗は大きい。

一方、2030年を目標年とする「持続可能な開発目標(SDG)」を策定することは合意されそうである。SDGは、現在の国際合意である2015年目標(国連ミレニアム開発目標:MDG)を更新する位置づけとなる公算が大きく、グリーン経済の移行への取り組みの優先分野との関連づけが求められている。SDGの策定期限は2015年とされ、リオ+20後に策定プロセスが立ち上げられることになる。利害が対立する具体的な議論はこれからである。

4. 持続可能な成長に向けた企業の役割と期待

このように、リオ+20の成果文書は、利害の対立を回避した玉虫色のものとなりかねず、今後の実効性が問われることになる。このため、少なくとも直近の企業活動に大きな影響を及ぼすことは考えにくい。しかし、持続可能な成長を実現するために、環境と経済の調和を目指す国際的な潮流は変わらないとすれば、リオ+20を巡る議論から、中長期的なグローバル戦略を検討する企業が留意すべきポイントを、以下のように整理できる。

まず、環境政策がさらに強化されることは間違いない。資源の過剰消費や、土地利用やサプライチェーンを含む事業活動に伴う排出物等による汚染、地球レベルでの環境負荷の抑制に対する要求は、さらに厳しくなる。特に、リオ+20において提示された「取り組むべき優先分野」については、今後、具体的な対策が求められる可能性が高い。法規制の有無に関わらず、自主的取り組みや社会貢献のレベルでも、環境問題への対応強化が求められる。現行のMDGについても、グローバル企業を中心に、自社の貢献について報告する企業が増えている。SDGが新たに設定されることになれば、事業活動との関わりを精査し、個々の目標達成への貢献を説明することが望まれる。

次に、先進国の財政余力が乏しくなるなか、持続可能な成長の実現のために、民間企業を活用しようという機運も、さらに強まるだろう。例えば、2011年の「Fortune Global 500」のトップ企業であるウォルマートの売上高4,218億ドルは、ノルウェーの2010年の名目GDP(4,145億ドル:世界25位)を上回る。日本企業トップ(世界8位)のトヨタの売上高2,218億ドルでも、エジプトのGDP(世界41位)を上回る。中小規模の途上国の財政規模を超えるグローバル企業は数多く存在している。グローバル企業が有する資金力、技術力、人材、意思決定の速さを活かした課題解決力に対する期待は大きい。

さらに、今後、ビジネスの主戦場としての重要性が増す新興国・途上国は、持続可能な成長に向けた様々な課題に直面することになる。これらの国・地域においては、環境と経済の調和への貢献を考慮した事業活動がより重要となる。企業にとって、単なるリスク対応ではなく、自社の資源を活用して本業と関連づけながら、社会課題解決と自社の利益の両立をいかに目指すかということが、自らの競争力強化に向けた課題となるであろう。リオ+20の成果文書に示される「取り組むべき優先分野」は、将来のビジネスニーズのヒントでもある。

国内産業界の直近の関心は、今夏の電力需給逼迫と電気料金上昇への対応かもしれない。しかし、その一方で、グローバル市場における中長期的な企業競争力向上を図るという観点からは、環境と経済の調和を目指すグローバルトレンドを把握し、その対応を検討することが極めて重要である。リオ+20の議論を踏まえながら、日本企業がグリーン成長に向けた取り組みを進めることで、自らの持続可能性を高めることを期待したい。

  【表1】リオ+20成果文書案(共同議長提案)における取り組むべき優先分野
※下線は日本政府の提案イニシアチブに直接該当すると思われる項目【表1】リオ+20成果文書案(共同議長提案)における取り組むべき優先分野

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生田上席主任研究員

生田 孝史(いくた たかふみ)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員
1990年 東北大学大学院修士課程修了、(株)長銀総合研究所入社、
1998年 米国デラウェア大学大学院修士過程修了、(株)富士通総研入社
専門領域:エネルギー・環境政策 、環境・CSR関連経営戦略、環境ビジネス・関連市場動向、環境シナリオ・ビジョン、グリーンIT