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東京電力の「ピークシフト料金」に異議あり!

2012年6月6日(水曜日)

1. 東京電力がピークシフト料金を導入

本年6月から東京電力が一般家庭向けにピークシフト料金(ピーク抑制型季節別時間帯別電灯)メニューの導入を始めている。これまでの一般的な家庭向け電気料金は、時間帯に関わらずフラットレート(*1)が大半であった(*2)。実際には夏の午後と夜間とでは2倍以上もの需要量の差があり、電気の市場価値は大きく異なるのだが、独占市場におけるフラットレートではピークシフトも進まなかった。しかし、【図1】のように1日を3つの時間帯に分け、最も需給が逼迫する午後の料金単価を高額(53.29円/kWh)にすれば、より低額な時間帯(12.13円/kWh)へのシフトが進むだろう。

  【図1】ピークシフト料金のイメージ図【図1】ピークシフト料金のイメージ図

これは、福島原発事故後の計画停電や昨夏の一律で強制的な節電命令や節電要請への批判を受けて、東京電力が考案したものである。市場メカニズムを効果的に活用した料金メニューを導入することは、消費者の選択肢を広げ、無理なく節電の効果を高める試みであり、筆者は高く評価していた。しかし、その実態には大きな問題があることが明らかになってきた。最もピークシフトができている家庭でも、ピークシフト料金を採用すれば大幅な値上げになるのである。

2. 多くの家庭が得をしないピークシフト料金

東京電力のウェブサイトには、このピークシフト料金を選択した場合に各家庭の電気料金がいくらになるか、簡単に分かるシミュレーションが用意されている。そこでは、平日の昼間に「在宅している」か「在宅していない」か、夏のピーク時間にエアコンなどを「よく使う」か「あまり使わない」か「どちらともいえない」かを選択するようになっている。すなわち、需要パターンに応じて家庭を2×3=6通りに分類し、それぞれの電気料金を試算してくれる。

当然、「在宅していない」「あまり使わない」家庭は、ピークシフトに最も貢献しているのであり、ピークシフト料金を採用した場合の電気料金は他の家庭よりも安くなる。ところが、その場合でも大半の家庭は、現在申請中の値上げ後の料金からさらに高くなるのである(【表1】)。

  【表1】ピークシフト料金を導入した際の電気料金
出典:東京電力ウェブサイトを基に筆者が試算。家計調査を基に各世帯の電気料金などを仮定した上で、シミュレーションを用いて計算した。(1)「単身」と(2)「夫婦共働き」については「在宅していない」かつ「あまり使わない」を、(3)「夫と専業主婦と子供2人」については「在宅している」かつ「よく使う」を選択。【表1】ピークシフト料金を導入した際の電気料金

その理由の1つは、基本料金が一律1260円(6kVAまで)と高くなることである。通常のアンペア契約は大きくなるにつれて基本料金が高くなるが、40A契約でも1092円であるため、これ以下の家庭はピークシフト料金を選ぶことにより、この部分が自動的に値上げになる。換言すれば、基本料金が1365円の50A契約では値下げになるのだが、この場合でも最終的にはすべての需要パターンで値上げになる。50Aまでで東京電力の従量電灯Bの全契約口数の93.6%を占めることを考えれば(*3)、そもそも各時間帯の料金単価が高すぎることに主たる理由がありそうだ。

このピークシフト料金の問題は、既に新聞などでも指摘され始めている。6月1日の毎日新聞朝刊によれば、「顧客からの問い合わせは約4400件寄せられ」たが、「恩恵を受けられる家庭は限られており、切り替えを申し込んだのは約120件」とのことである。ほとんどの需要パターンで今より損をするようでは、この新料金に移行する家庭の数は限られるのは当然の結果である。実際に筆者が東京電力の担当窓口に電話したところ、「在宅していない」「あまり使わない」家庭であっても、ピークシフト料金を「お勧めしない」との返事であった。

3. 東京電力の狙い

東京電力は、なぜこのようなピークシフトが進まない料金設定にしたのか? 恐らくこのように考えたのではないか。

本来ならば、「在宅していない」「あまり使わない」家庭は、ピークシフトを既に実行しているのだから、料金メニューを移行しただけで値下げになるべきである。しかしそれでは料金収入が下がるだけで、さらなるピークシフトが実現されるとは限らない。そもそも認可料金(フラットレート)の値上げをしなければならない台所事情なのだから、よほどピークシフトを増やしてもらわなければ、値下げは割に合わない。その結果、殆ど採用されないような高額な料金設定になったのである。

それを裏付けるかのように、東京電力のウェブサイトのシミュレーションには、「かんたん節電チェックシート」というページが付随しており、具体的な節電行動についてアドバイスが示されている。例えば、エアコンを「夏の午後は28℃設定」、「夜間にまとめて洗濯・乾燥」といった具合であり、それぞれを実行すれば、いくら電気料金が下がるかが分かるようになっている。そして大変興味深いことに、これらすべてを実行すれば、【表1】のすべてのパターンで電気料金は値下げになる。だから、これだけピークシフトをやって下さいと言いたいのであろう。

しかしながら、この「かんたん節電チェックシート」は非常に簡易なもので、実効性に疑問が残る。例えば、その節電(値下げ)効果は、【表1】の世帯構成にかかわらず、概ね同じ数値が列挙されている。家族の人数が違えば各機器の電力消費量が、従って節電効果が違うと考えるのが普通だろう。また、「在宅していない」「あまり使わない」家庭は、既にピークシフトをしているはずであり、そうでない家庭と比べれば「夜間にまとめて洗濯・乾燥」の効果が低いはずだが、同じものとして加算しなければ値下げにならない。ウェブサイトには、「一般的なご利用状況をもとにした目安です。お客さまのご利用状況と相違する場合がございます」とただし書きがあるものの、このシミュレーションを信じてピークシフト料金に変更した家庭が、結果的に値下げにならなかったと抗議することになれば、東京電力としても困るだろう。

4. 意欲的な料金メニューの導入を

東京電力は、昨年の福島原発事故以来、様々な批判を浴びているが、このピークシフト料金の導入以外にも、デマンド・レスポンスの外部募集など、需要側の対策に積極的に取り組んできた。今後、原発を巡る政策がどうなろうとも、短期的に需給逼迫の状況が改善するとは思えず、新たな消費者目線のサービスを他の電力会社に先駆けて取り組むのは素晴らしいことである。であるならば、逆効果になりかねない料金設定を見直すべきではないだろうか。

具体的には、もう少しピーク時以外の時間帯の料金単価や基本料金を下げ、ピークシフトを普通にすれば見返りがあるようにするとともに、節電行動のアドバイスを精緻に行うことが欠かせない。この料金メニューを採用した消費者向けに、例えば月額500円といった追加料金できめ細かな節電アドバイス・サービスを展開することも考えられるだろう。このようなサービス・ビジネスは、近い将来にエアコンの直接制御やEV(電気自動車)の充放電管理などにもつながる可能性がある。

東京電力は、様々なものを失ったが故に、大胆な自己改革を行いやすい環境にある。確かに短期的に料金収入はマイナスとなるが、中長期的に供給力への投資を削減しつつ、需要側を重視した新たなビジネスモデルを開拓することは不可避である。多様で使いやすい料金メニューを提供することは、消費者からの信頼の回復にもつながるはずである。折角前向きなことをしているのだから、「顧客の立場に立ったサービスや説明をする意識が欠けている」(前述の毎日新聞)と批判されるようでは、逆効果となってしまう。今からの変更は混乱を生むかもしれないが、意欲的な料金メニューに改定され、大きくピークシフトが進むことを期待したい。

注釈

(*1) : フラットレートと言っても、厳密には月間の総消費電力量に応じて料金単価が段階的に上がる仕組みになっている。そのため消費抑制効果はあるが、時間帯とは関係ない。

(*2) : 以前から 「おとくなナイト8」、「おとくなナイト10」などの時間帯別料金はあるが、2段階式でその料金の差も小さく、オール電化の家庭など限定的にしか採用されてこなかった。

(*3) : 60A契約(基本料金:1638円)の場合(5人家族・消費電力量481kWh/月を想定)、「在宅していない」を選択すれば、ようやくピークシフト料金に変更するだけで値下げとなる。ただし、その場合でも値下げ幅は83~209円で、月額料金の0.6~1.5%に過ぎない。

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高橋主任研究員顔写真

高橋 洋(たかはし ひろし)
【略歴】1993年 東京大学法学部卒、ソニー(株)入社、1999年 タフツ大学フレッチャー大学院修了、2000年 内閣官房IT担当室主幹、2007年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、東京大学先端科学技術研究センター特任助教、2009年より(株)富士通総研経済研究所主任研究員。2011年10月より経済産業省総合資源エネルギー調査会 基本問題委員会委員、2012年2月より電力システム改革専門委員会委員。
【著書】『イノベーションと政治学 情報通信革命〈日本の遅れ〉の政治過程』勁草書房 2009年、『電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生』日本経済新聞出版社 2011年