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国民負担率、計算が間違っていないか?

2012年5月28日(月曜日)

国民負担率は増税の根拠だが…

税と社会保障一体改革など財政に関連する議論の中で、よく取り上げられる概念が「国民負担率」である。これは租税や社会保険料(場合によっては財政赤字を含む)を国民所得(要素価格表示)で割った値とされ、財務省のホームページでは、日本の国民負担率の時系列変化や国際比較が掲載されている。

OECD諸国を見てみると、デンマークの69.9%、フランスの61.1%、スウェーデンの59.0%、ドイツの52.0%となっており、韓国や米国などを別にすれば、日本の40.3%という数値は国際的には低いことが知られている。(数値はいずれも2008年度で財務省ホームページによる。なお、以下断り書きがない限り2008年度の数値を用いる。)

これが増税の有力な根拠の1つのようであるが、筆者は最近、そもそも国民負担率の計算式に誤りがあるのではないかと考えるに至った。何人かの専門家と話をしたところ、「言われてみれば指摘のとおり変だが、気づいていない人がほとんどではないか」という反応であった。筆者は日本は税金が安い国であると認識しているし、増税の必要があると考えているが、誤った計算式で議論が進められるのは望ましくない事態なので、本稿でどの点が誤っているのか指摘したい。

国民負担率計算式の分母、国民所得とは?

国民所得とは、その国に居住する人が1年間に得た所得の合計と考えてよい。こうした一国全体の経済状況を計算するルールをSNA(国民経済計算)と呼び、現在の日本では1993年に国連が勧告した93SNAが使用されている。このルールに従って、国民所得を計算する過程を以下に説明しよう。

まず、皆さんがよくご存知のGDP(国内総生産)を計算する。GDPとは、一定期間内(1年あるいは四半期)に日本国内で生み出された付加価値を合計したものである。私が630円で小麦粉を仕入れ、1050円のパンにして売れば、その付加価値は1050-630=420円である。このように考えて日本全体の付加価値を合計すると490兆円(名目値)であった。

次に、GDPとは日本国内で生み出された付加価値であって、日本に居住する人が生み出した付加価値ではない。日本に居住する人が生み出した付加価値をGNP(国民総生産)と呼ぶが、GDPとGNP両者の違いを調整するためには、GDPから海外に居住する人が日本で生み出した付加価値(海外に対する所得)を除き、日本に居住する人が海外で生み出した付加価値(海外からの所得)を加えなければならない。この差を調整すると日本のGNPは505兆円(名目値)であった。

さらに所得を求めるために調整しなければいけないのが、「固定資本減耗」である。日本には様々な生産設備があるが、毎年これは老朽化する。また、生産設備が物理的に動く場合であっても、用をなさない場合もある。20年前に製造されたパソコンが正常に作動したとしても、それを使って仕事をするのは不可能に近い。このような生産設備の老朽化を「固定資本減耗」と呼ぶが、その金額は108兆円であった。これを差し引いた394兆円を国民所得(市場価格表示)あるいは国民純生産と呼ぶ。(3兆円ほど計算が合わないのは統計上の不突合や四捨五入の関係による。)

そしてこの国民純生産から間接税を差し引き、補助金を足したものが国民所得(要素費用表示)である。これは以下のように考えるとよい。

先ほどの事例では、630円で小麦粉を仕入れ、1050円のパンにして売った際の付加価値は1050-630=420円としたが、消費税率が5%とすると、内税表示の場合、消費税として20円分を差し引き、所得を400円と考えるのが妥当であろう。同様の論理で間接税はすべて差し引くのである。また、補助金を足す理由は以下のとおりである。例えば補助金によってパンの購入代金が半額助成されたとしよう。小麦粉からパンを生み出した際の付加価値は1000/2-600=-100円(消費税抜き)と考えるべきだろうか。実際には補助金の分も所得が存在すると考えるべきであろう。このようにして2008年度の国民所得(要素費用表示)を計算すると、394兆円-42兆円+3兆円=355兆円となる。同年度の租税負担と社会保障負担の合計を355兆円で割った40.3%が国民負担率であると財務省ホームページに記載されている。

  【図1】国民所得の計算過程
内閣府「国民経済計算確報」より、平成20年度(2008年度)の名目値。単位は兆円。
一部で数値の合計が一致しないのは、統計上の不突合および四捨五入の関係による。
【図1】国民所得の計算過程

さて、租税負担と社会保障負担の合計を国民所得(要素費用表示)で割るというのは、おかしな話ではないのか? 間接税は個々の国民にとっては所得ではないので国民所得(要素費用表示)に含まれないが、日本国内から消えているわけではないのだから、負担の比率を求める際には分母に参入するべきではないのか? また、租税負担には消費税など間接税が含まれている。分母から除外したものを分子に参入するのはおかしな話ではないのか? さらに直接税が分母に含まれているのに間接税が分母に含まれないという非対称的な取り扱いをするのは誤っているのではないか? 

分かりやすい例え話をしよう。水100mlとオレンジ果汁100mlを混ぜた飲み物は果汁何%なのであろうか? 社会通念上はオレンジ果汁の容積/飲み物全体の容積=100ml/200ml=果汁50%の飲み物であろう。これを、オレンジ果汁の容積/(飲み物全体の容積-オレンジ果汁の容積)=100ml/(200ml-100ml)=果汁100%の飲み物だと表示をすれば不当表示になろう。

なお、計算上、歪みが発生していても、比較対象すべてに歪みが発生しているのなら問題ないと考える人もいるかもしれない。しかし、国民純生産がまったく同じで、税収も補助金もまったく同じだとしても、税収に占める間接税(消費税など)の割合が高い国の国民負担率は見かけ上高くなる。

このような問題点を解決するには、分母を国民純生産(国民所得(市場価格表示))や国内総生産(GDP)にするべきではないのか? 

仮に分母を国民純生産(国民所得(市場価格表示))として、日本の国民負担率を計算し直すと、36.3%となる。また、分母をGDPにして再計算した結果がないか検索したところ、日本の国民負担率は29.2%(財務省ホームページ)、スウェーデンの国民負担率は43.7%(21世紀政策研究所資料)となる。分母をGDPに変更するだけで、日本の国民負担率は11.1%、スウェーデンは15.3%、それぞれ下がったことになる。

国民負担率の時系列変化や国際比較に際しては、このような計算上の問題が存在することを頭に入れておいた方がよいだろう。

参考資料

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河野顔写真

河野 敏鑑(こうの としあき)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
2006年 (株)富士通総研経済研究所入社。
2010年 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学)。
東京大学ジェロントロジー・コンソーシアムに参加。
専門領域は公共経済、社会保障・医療経済。