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ソーシャルメディア分析から世間の声を掴むことができるか(2)

~隠される本音:声の偏りの発生メカニズムと対処方法~

2012年5月21日(月曜日)

1. はじめに

2011年12月のオピニオン「ソーシャルメディア分析から世間の声を掴むことができるか」で述べた、課題と解決策は次のような内容でした。

ソーシャルメディア上に表明された意見(声)を分析することで、マーケティング、特に市場調査の代替として活用したい、と考えるメーカー企業が増えています。しかし、実行上まず問題になるのは「ソーシャルメディアに書き込んでいる人々(ユーザー)は、世間の人々とは異なる、偏った人なのではないか」という点です。対象となる母集団が、世間とは異なる集団であれば、いくら分析をしても市場(世間)を調査したことにはならないからです。

ソーシャルメディアユーザーを調査した結果、ユーザー層は世間(リアルな人口構成)と大きく乖離していないものの、属性を公開しているユーザーに限定すると、若年層に偏ってしまう、というものでした。従って、市場調査に活用する場合には、属性によってユーザーを世間の縮図になるようにサンプリングする、「箱庭」のような仕組みが必要である、という結論に至りました。

2. 残された課題:声の偏りに対する懸念

ユーザーの偏りに対する懸念については、解決策を見い出すことができました。次に問題になるのは、「ソーシャルメディアに書き込んでいる内容は、果たして本音なのか」という「声の偏り」に対する懸念です。

現実世界でも、私たちは本音と建前を使い分けることが多いはずです。同様に、ソーシャルメディアの世界でも、本音ばかりではなく、建前としての意見が書き込まれている可能性が高いのではないでしょうか。本音と建前が混ざっている場合、いくらソーシャルメディアの声を分析したところで、世間の本音を把握できたとは言えないでしょう。

今回は、ソーシャルメディア上に書き込まれる意見と本音には、どれくらい乖離があるのか、そして声が偏る(本音がストレートに書き込まれない)状況とは、どのようなときに発生するのか、またどのような人であれば、本音をストレートに表明するのか、といった点を明らかにすることを目的に研究を行いました。

3. 仮説と調査方法

ソーシャルメディア上で意見を表明するにあたって、本音ではないことを書き込む状況として、次のような仮説を立てました。

  1. 利用状況による偏り
    ソーシャルメディアを利用する際に、ユーザーは「実名」か「匿名」を選択することができます。また、書き込みの公開範囲を「すべて公開」か「友達に限定公開」を選択することができます。実名で利用していたり、仲間内のみに限定公開していたりする場合には、読み手との関係を考慮して、本音を隠すことがあるかもしれません。
  2. 文脈による偏り
    ソーシャルメディア上では、複数のユーザー同士が意見を交し合う場面が見られます。ある物事に対する意見の大半がポジティブに偏っている文脈に書き込む場合、ネガティブな本音をもっていても、その文脈に合わせて表現のトーンを変えてしまう場合があるかもしれません。

上記仮説を検証するために、普段ソーシャルメディアを利用しているユーザー2,700人に、次の事項をアンケート形式で調査しました(実施時期は2011年12月)。

  • 普段のソーシャルメディアの利用状況(実名or匿名、公開or限定公開)
  • 指定したテーマに対する本音(ポジティブ⇔ネガティブの5段階)
  • 実際に書き込む時の表現
  • 本音と反対の文脈に意見を追加する際のトーン変更の有無
  • 文脈による本音の変更の有無

さらに、書き込んだ表現を第三者に解釈(ポジティブ⇔ネガティブの5段階評価)してもらうことで、本音と書き込み内容がどれくらい乖離して見えるか、どのような利用状況の時に乖離が発生しているか、検証を行いました。

選定したテーマは、「スマートフォン」、読売ジャイアンツの原監督の甥である菅野選手を日本ハムファイターズがドラフト1位指名した「日ハムドラフト事件」、「復興増税」の3つです。

4. ネガティブな本音が隠される限定公開

本音がストレートに表現されていれば、第三者は正しく解釈できるはずです。しかし、なんらかの形で表現のトーンが変更されていると、正しく解釈できなくなります。

第三者による解読率(本音通りに解釈できた割合)を利用状況別に集計した結果(【図1】)、「友達に限定公開」しているユーザーで、ネガティブな本音をもっている時に、解読率が低くなることが確認されました。つまり、仲間内ではネガティブな書き込みは遠慮して隠してしまう傾向にあると考えられます。これを「限定効果」と呼ぶことにしました。

  【図1】解読率の比較
【図1】解読率の比較

5. 文脈による影響を大きくする実名登録

本音と反対の意見が大勢を占める文脈に意見を追加する場合であっても、表現のトーンを変更しない、と回答した割合(維持率)を集計した結果(【図2】)、「実名登録」しているユーザーで、ネガティブな本音を持っている時に、維持率が低くなることが確認されました。つまり、書き手個人を特定される場合には、ポジティブな文脈に影響されやすく、表現のトーンを意図的に変更しようとする傾向にあると考えられます。これを「実名効果」と呼ぶことにしました。

  【図2】維持率の比較
【図2】維持率の比較

また、そのトーン変更は、ポジティブ寄りに婉曲な表現にする「トーン抑制」だけでなく、ネガティブ寄りに強調する「トーン強化」に向かうユーザーも20%いる(【図3】)ことが確かめられました。

  【図3】トーン変更内訳
【図3】トーン変更内訳

6. メディアによって異なる声の偏り

限定公開、実名登録のユーザーが多いか少ないかは、メディアによってかなり異なります。今回の調査では、Facebookは、限定公開・実名登録のユーザー割合が高く、反対にTwitterは、全公開・匿名登録のユーザー割合が高いことが確かめられています(【図4】)。

【図4】メディアによって異なる利用状況
【図4】メディアによって異なる利用状況

前述した限定効果、実名効果を考慮すると、Facebookでは、ネガティブな本音は隠されやすく、また文脈にも影響されるため、市場調査には向かないといえるでしょう。また、集めたFANに、自社の商品やサービスを売り込むため、意図的にポジティブな文脈をFacebook上で仕掛けたとしても、当該商品やサービスにネガティブな評価をしているユーザーがいる場合、文脈に反発してネガティブトーンを強化する危険性もあります。

反対に、Twitterは、ネガティブな本音がストレートに表現されやすく、リスク検知(ネガティブワードのモニタリング)には最適であるといえるでしょう。しかし、Twitterでは個人属性を登録・公開しているユーザー割合は非常に低いため(前回調査では全ユーザの2.6%程度)、市場調査に向いているとは言えません。

実名効果や限定効果の影響が小さく、ユーザーが個人属性を登録・公開している割合が高いメディアとなるとAmebloのようなブログメディアが候補に挙がります。ただし、ソーシャルメディアの声を分析して、世間の声を掴むためには、単にメディアを選ぶだけでなく、「本音を語ってくれているユーザーなのか」を見極める必要があるでしょう。

7. ソーシャルメディアユーザーの4タイプ

今回の調査から、本音と反対の文脈を読んだ後の態度から、ユーザーを4タイプに分類し、その割合を算出することができました。(【図5】)。

【図5】ソーシャルメディアユーザーによる4タイプ
【図5】ソーシャルメディアユーザーによる4タイプ

本音と反対の文脈を読んでも、書き込みの表現トーンを変更しない「マイペースタイプ」は50%、表現トーンを抑制するが、本音は変わらない「空気を読むタイプ」は27%、文脈に影響されて本音も変わってしまう「流されるタイプ」は15.8%、文脈に反発する「自己主張タイプ」は6.4%となりました。

もちろん、この割合は対象となるテーマによって変動します。例えば、日ハムドラフト事件のような、野次馬的テーマになると「流されるタイプ」の割合が増加しますし、復興増税のような思想や主義のテーマになると「自己主張タイプ」の割合が増加します。スマートフォンのような体験に基づく評価では、本音が変わらず「空気を読むタイプ」の割合が増加しました。対象となる物事の種類によって、1人のユーザーであっても、タイプが変動する可能性があると言えるでしょう。

今回の研究の目的は、マーケティングにおける市場調査ですので、文脈に影響されず、本音をストレートに表現する「マイペースタイプ」を対象にすればよいと考えられます。

8. 各タイプの特徴

「マイペースタイプ」を抽出するためには、ソーシャルメディアの属性や書き込み内容から、タイプを推定する必要があります。今回の調査では、推定に役立つ、各タイプの特徴についても分析しました。「マイペースタイプ」は、ソーシャルメディアに個人的な出来事をよく書き込む傾向が高く、反対に「空気読むタイプ」と「流されるタイプ」は、個人的な出来事を書き込まない傾向が見受けられました。また、「自己主張タイプ」は50代以上に多いという結果でした。ソーシャルメディアに書き込んでいる内容や、ユーザーの属性情報から、これらの特徴を識別することができれば、ユーザーがどのタイプかを、ある程度推測できる可能性があります。

9. まとめと今後の課題

これまでの研究結果から、ソーシャルメディアから世間の声を掴むには、ユーザーの偏りをサンプリングなどで調整すること、そしてAmebloなどの限定効果・実名効果の影響の少ないメディアを選択し、本音を語ってくれる「マイペースタイプ」のユーザーを抽出することが必要であることと導き出されました。

次の課題は、「マイペースタイプ」のユーザーを特定する具体的な方法論を開発することです。書き込み内容やプロフィールから、ユーザータイプを推定するだけでなく、ユーザーの興味・関心事、ライフスタイルなども推定できると、マーケティング活用への有用性はさらに高まるでしょう。

これまでは、ソーシャルメディアの実態を調査する研究を行ってきましたが、今後は具体的な解析方法の確立に向けて、さらに研究を行っていきたいと考えています。

関連オピニオン

「ソーシャルメディア分析から世間の声を掴むことができるか ~メーカーA社との“箱庭”研究より~」

関連サービス

【調査・研究】


安藤 美紀(あんどう みき)
(株)富士通総研 流通・サービス事業部 マネジングコンサルタント
1995年日本電信電話(株)入社、法人部門において流通企業向けコンサルティングに従事。
2005年富士通(株)入社、コンサルティング事業本部を経て、2007年(株)富士通総研出向。
小売業、サービス業、製造業の企業向け業務改革等のコンサルティングに従事。現在はBI、CRM、顧客分析を担当。