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企業の競争力を高めるICTの新たな活用法とマネジメント 第1回

2012年4月2日(月曜日)

米国等の先進国と比べ日本のICT投資額が少なすぎるとの意見がある。ただ、それは、ICTを投資額という数値で捉えるだけで、活用方法の差異には言及していないことが多い。そこで、ICT投資を経済成長への貢献という価値の視点で捉え、日米差異の要因を考察してみた。さらにこの要因を見据えた上で、企業が競争力を高めるために必要なICT投資とマネジメント方法を解説していく。

第1回 マクロ経済の視点からICT投資の価値を考える

1. ITバブル以前は日米のICT投資は同水準だった

まず、日米のICT投資水準をマクロ経済の視点で確認しておこう。2008年のリーマン・ショック以降、世界経済は短期間で激変したので、ここでは2007年までの安定的な時期を選んでトレンドを分析する。国内で新たに生産されたモノやサービスの付加価値の合計額を示すGDPに占めるICT投資の比率は、2007年は米国が3.6%であったのに対し、日本は3.1%と0.5ポイント低かった(【図表1】)。ただし、常に日本のICT投資比率が低かったわけではなく、過去には日本の方が高い時期もあった。日米のICT投資比率を時系列で比較すると、大きく3つの時期に分けられる。当時の状況からICT投資比率の差を解釈していく。

【図表1】日米ICT投資水準比較(名目ICT投資/名目GDP)
出所:出所:EU KLEMS Database、JIPデータベース2011、内閣府資料よりソフトウェア投資の条件を揃えて富士通総研作成 【図表1】日米ICT投資水準比較(名目ICT投資/名目GDP)

(1)日米ICT投資同水準期

1989年~1995年までは日本と米国のICT投資比率が3%前後でほぼ同じ水準の時期だ。1990年代初めは米国が景気後退に陥っていたこともあり、日本のICT投資水準が若干上回っていたが、米国の景気が回復するにつれ、米国のICT投資比率は徐々に上がり始めた。

(2)米国ITバブル期

Yahoo!が株式公開を行った1996年頃、米国では情報スーパーハイウェイ構想(NII)が本格化し、光ファイバーやインターネット関連を中心としたICT投資が積極的に行われた。大手通信事業者のワールドコムは約70兆円の投資を行い、総距離1億6,000万kmの光ファイバー網を全米に張り巡らせた。PCがインターネットで接続されたことにより、それまでの電話やファックスと比べて簡単に通信が行えるようになった。日本でも1999年にiモードが始まり、インターネットへの関心は高かったが、米国ほどのインフラ投資が行われなかったので、日米のICT投資比率に差が付き始めた。米国のICT投資比率はバブルが弾けた2000年に4.7%のピークに達し、日本との差は1.1ポイントにまで広がっていた。

(3)日本ICT投資低迷期

米国ではバブルが崩壊するとICT投資比率は急速に低下し、2005年には3.4%となった。ワールドコムは2002年に破綻したが、敷設した光ファイバー網は不良資産にはならず、企業の業務効率向上に貢献するようになっていた。米国ではこの頃からICTによって生産性が向上することが示され始めている。その後の米国のICT投資比率は横ばいであるが、水準はITバブル以前の3.0%前後より高いものとなっていた。日本も米国のバブル崩壊に合わせるようにICT投資比率は低下した。米国が2004年頃から横ばいになったのに対して日本は低下し続けたため、2007年にはITバブル前と同水準の3.1%に落ち込んだ。

2. 日本のICT投資は経済成長への貢献度が米国より低い

次に、ICT投資の経済成長への貢献を分析していこう。経済成長は、古くは労働投入と生産設備などの資本投入で説明されてきた。これは、生産を増やすには労働力や機械設備を増やすのが基本だったことに加え、労働量や設備投資が把握しやすかったことが理由だが、これではICTの効果も分からず、人や設備を増やさずに効率を上げるカイゼンや技術革新への取り組みを分析することもできない。

そこで、「資本投入」をICT資本と非ICT資本に分けて詳細に分析するようになり、また、労働者の習熟度向上、技術進歩、経営効率の改善などを全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)として分析する考え方が取り入れられた(【図表2】)。ただし、全要素生産性は直接計測することが難しいため、経済成長から労働投入や資本投入の貢献分を差し引いた残差という形で算出される。

【図表2】経済成長の分析概念図 【図表2】経済成長の分析概念図

それでは、日米の経済成長とICT資本の貢献を具体的な数字で見ていこう。【図表3】は上の概念図を実際の数字で表しグラフ化したものである。棒グラフ全体が経済成長率を示し、それを労働投入の増加、ICT資本投入の増加、設備投資(非ICT資本投入)の増加、全要素生産性の上昇の各要因に分解した(*1)。2003年から2006年の平均経済成長率を日米の全産業で比較すると、米国は日本より1ポイント程度高い。経済成長への貢献を項目別に見ると、米国は労働投入、ICT資本、そして全要素生産性が日本より大きく、日本が大きいのは設備投資(非ICT投資)だけとなっていた。

【図表3】ICT資本の経済成長への寄与(日米比較・2003年~2006年平均) 【図表3】ICT資本の経済成長への寄与(日米比較・2003年~2006年平均)

米国は依然として労働投入が成長に貢献していたのと同時に、経営効率改善などの全要素生産性で差がついていることが分かる。また、ICT投資の寄与度を算出すると、日本の10.3%に対し米国は13.0%と高く、GDPに占めるICT投資比率の差以上に、ICT投資の寄与度で差がついていることも注目に値する。では、個別の産業ではどのような差があるのだろうか?(【図表4】)

【図表4】業種別ICT資本の経済成長への寄与
(日米比較・2003年~2006年平均)

出所:EU KLEMS DB Nov.2009 Release (March 2011 update)より富士通総研作成 【図表4】業種別ICT資本の経済成長への寄与(日米比較・2003年~2006年平均)

(1) 製造業

米国は全要素生産性が大きなプラスとなっている一方で、労働投入と非ICT資本(設備投資等)はマイナスになっている。これに対し、日本は非ICT資本が大きなプラスでICT資本も米国より少し大きい。2003年から2006年は円安トレンドの時期であり、日本では自動車を中心とした輸出が増加していた。これに対応するように工場などの設備投資や関連するICT投資が積極的に行われ、成長を牽引していたことが読み取れる。逆に米国の製造業は自国での生産を縮小して海外の生産を拡大し、研究開発やマーケティングに力を入れていた。この結果、付加価値を獲得して全要素生産性の向上に貢献したと考えられる。米国では分業が進み、生産以外の領域でもICTを積極的に活用していたようだ。

(2) 流通業

流通業では、日本は労働投入が大きなマイナスとなり、米国は全要素生産性とICT資本が日本より大きいのが特徴的だ。米国では在庫管理にICTを使い、納入業者と一体的に効率化を進めると同時に、アマゾンに代表されるECへの取り組みが日本より進んでおり、顧客の望む商品・サービスを提供する仕組みが優れていた。業務改善や顧客接点でICTを積極的に活用し、技術革新に結びついた結果として全要素生産性も大きくなったと考えられる。

(3) 運輸倉庫

日米共に労働投入が成長に貢献しているが、流通業と同様に全要素生産性とICT資本で日米に大きな差がついていた。国土が広大な米国では、輸送効率を向上させるためにICTを積極的に活用している。配送管理だけでなく、ドライバーの安全教育の仕組みもICTを使ったトレーニングツールが提供され、事故率の減少などに役立ち、全要素生産性向上に結びついていた。また、航空会社も予約システムで積極的にICT投資を行っていた。

(4) 金融

日本では金融機関の集約が進んだ時期であり、拠点が減少したため、非ICT投資がマイナスとなっていた。これに対し、米国では証券化などが進み、ビジネスが拡大したため、労働投入がプラスと大きく異なっていた。金融業は日米共にICT資本の寄与度が高いのが特徴的である。ただ、日本は主に金融機関のシステム統合に使われたが、米国ではコスト削減目的の投資だけでなく、投資銀行中心に商品開発、投資リスク判断、経営資源を適切に配分するツールにも使われていたため、全要素生産性で大きな差がついていた。

(5) 福祉医療

日米共に労働投入と非ICT資本の貢献が大きい。福祉を支えるのは人によるサービスであり、高齢化が進む日本において、全産業の中で労働者数が増えている数少ない分野の1つとなっている。ただ、対面サービスであり、機械投入もしにくく、トレーニングで生産性を伸ばすのも容易でないため、日本の全要素生産性はマイナスとなっている。米国はブッシュ政権が医療ICTの導入を強化した時期で、EMR(電子カルテ:Electronic Medical Records)、EHR(電子健康記録:Electronic Health Record)の導入が広がったため、ICT投資が成長に貢献したようだ。

このように、米国の製造業では分業構造が変化し、自国での生産が減っているため、労働投入ではなく全要素生産性が成長を支えている。また、金融業を除く流通業・サービス業では米国のICT投資の寄与が高く、これが顧客へのサービスレベル向上という形で価値向上に結びついていると考えられる。この日米の違いはどこから来ているのだろうか?

3. 差異の要因はサービス・ドミナント・ロジック

先進各国における産業構造の大きな変化の流れを見ると、一様に製造業中心から、サービスを主体とした産業にシフトしている。しかし日本は、製造業におけるモノづくりの競争力が強く、相対的にサービスはあまり重視されてこなかった。しかし、こうした流れに変化が見られる。その背景には、特にアジアなどで拡大する中間層市場において、日本のエレクトロニクス製品等の競争力に陰りが見え出したことが挙げられる。

一般に日本の製品は高品質で多機能・高機能型の製品が多く、このような製品特性が先進国の顧客中心に評価・支持されてきた。顧客はすでに製品知識もあり、お金と交換し購入した時点でそのモノの価値を説明しなくてもわかる「交換価値」型の商売でよかった。このモノそれ自身に価値があるとする考えは「グッズ・ドミナント・ロジック(GDL)」といわれ、日本の製造業の中核的な考えだった。

しかし、今拡大している市場では、顧客ニーズは多様化しており、モノだけで顧客ニーズを満たし差別化を図ることは難しくなっている。そこで、顧客との関係性を強化し、顧客が買ってくれた後の使い勝手向上や関連サービスなどの価値を提案する「使用価値」型の商売が求められる。この販売した後の顧客の使用満足度にまで価値を追求する姿勢は「サービス・ドミナント・ロジック(SDL)」と呼ばれる。モノとサービスが一体化し、顧客との関係性構築というサービス活動が重要性を持ってきたわけである(【図表5】)。

【図表5】グッズ・ドミナント・ロジックとサービス・ドミナント・ロジック
【図表5】グッズ・ドミナント・ロジックとサービス・ドミナント・ロジック

日本の製造業では、モノづくりに絶対の自信を持つがゆえにこの視点が弱く、アップルなど米国企業などと比べサービス活動の対応が甘く、競争力を失ってきた面がある。同じようにモノづくりに自信を持つドイツでは、中堅の製造業がコンサルテイングなど専門的サービスを提供し、モノを売るだけでなくサービスも含めてビジネスをすることで、アジア市場をはじめ各国での競争力を高めている。

米国では製造業だけでなく流通・サービス業においてもサービス・ドミナント・ロジック視点でビジネスが行われており、それを支えるICTも成長への貢献という価値を生み出したと言える。では、サービス・ドミナント・ロジック視点のビジネスとはどのようなものだろうか?

第2回は、具体的な事例で説明するとともに、サービス・ドミナント・ロジックを支えるICTの特徴とマネジメント方法を解説していく。

注釈

(*1) : なお、それぞれの要因について投入が減少、生産性が低下すればマイナスの寄与、すなわち成長の足を引っ張ることとなり、【図表4】にあるようにグラフの0%の線より左側に表される。

シリーズ

企業の競争力を高めるICTの新たな活用法とマネジメント 第2回

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田中 秀樹(たなか ひでき)
株式会社富士通総研 ビジネス調査室 室長代理
マーケティング戦略支援コンサルティング業務に従事。ネットビジネス領域では、ビジネストレンドと生活者動向を踏まえた上で、ECビジネスや企業のWebサイト活用を支援。
著書に『インターネット広告実践法』(共著)の他、『インターネット白書』等に記事原稿を多数掲載。

倉重 佳代子(くらしげ かよこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、(株)長銀総合研究所、(株)長銀総研コンサルティング、(株)インターブランドジャパンを経て、2010年11月富士通総研入社。
フランス国立ポンゼショセ大学院国際経営学修士(MBA)。
最近の研究テーマは、産業動向、企業戦略(グローバルガバナンス、ICT投資動向、超高齢社会対応)など。