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  4. ITにおいてもグローバルガバナンスが急務に(後編)

ITにおいてもグローバルガバナンスが急務に(後編)

2012年2月20日(月曜日)

1. グローバル対応に向けた情報部門の課題

前編でも見たとおり日本企業の海外進出が進む中で、昨今、日本企業の経営課題の上位に「グローバル化への対応」を掲げる企業は少なくない。そういった状況下、情報システム部門においてもグローバル化への対応を求められるが、その際、以下の課題に直面することが考えられる(【図1】)。

【図1】グローバル化対応の問題 【図1】グローバル化対応の問題

第1に、「経営方針とICT戦略の整合と、その海外への浸透」が挙げられる。海外売上高比率が20%前後で、今後グローバル展開を図る企業にとっては、海外進出先に情報部門を担当する日本人スタッフがいないケースもあり、海外拠点のシステム構築までは手が回らず、現地拠点任せとなることが多い。情報システム運用でさえも、海外拠点のベンダーに過度に依存している状況で、日本での管理スタイルを海外拠点に浸透することができない状況が挙げられる。また、海外売上高比率も50%を超え、グローバル進展の加速に伴い、事業部門が個別(独自)に情報システム(機能)を海外に設け、事業部門の必要とする情報システムを構築することも少なくなく、本社機構もしくは情報システム子会社などと、機能やシステム自体が重複するケースが見られ、グローバル化の進展に応じて組織形態、役割・機能を定義する課題が生じる。

第2に、「情報システムに関わる人の採用・育成」である。日本以外は、転職文化が当たり前であり、現地ICT要員の採用・育成・定着が難しい。日本企業独自に制度化したキャリア制度を展開しようとしても、現地では経験・スキルに基づいた転職によるキャリア形成が一般的なため、キャリア制度自体の運用負荷が高くなり、海外拠点に展開することは考えにくい。そのため、1社にとどまった継続雇用ができず、ICT要員に培われたノウハウや雇用を維持することに費用がかかる。 特に、日本企業はコミュニケーション手段として日本語を求めるケースが多いが、日本企業を理解し日本語が話せる人材が少ない半面、日本国内のICT要員も海外での習慣・業務に精通している人材は稀で、現地拠点とのコミュニケーションに苦慮している企業は多い。

第3に、「情報システムの共通化・標準化」である。国ごとの文化、商習慣の違いを考慮し、グローバルでの共通化、標準化が経営層から求められるが、予算やICT計画が現地各社に閉じられており、共通化・標準化が困難である。また、現地の通信インフラやセキュリティ対応は国ごとに法制度が異なるため、異なった対応が求められる。

グローバル化初期の段階では、各部門の管理方法(原価管理、販売計画策定)が異なり、統一的な仕組みを構築することができず、グローバルレベルでのアプリやインフラの標準化を推進できず、権限がない。たとえ権限があったとしても、現地情報システムの実態把握ができておらず、情報システムの実態把握ですら苦慮することが多く、共通化・標準化しにくい状況となる。

第4に、「ICT予算策定および投資・費用管理」である。ICT投資予算の主管やICT投資の効果責任、そもそも本社と現地のICT費用に関わる配賦や負担ですら、設定されていないケースが多い。そのため、全体のICT予算を把握すらことはできず、経営層からはICT投資に対する効果を求められるが、効果を提示することができない。さらに、事業拡張の実績が確立してからICT投資を検討するため、拠点の規模が小さいとICT予算が相対的に大きくなり、ICT投資申請が認められない場合が多く、拠点のICT支援に苦慮することがある。

2. グローバル化に対応するための情報部門としての方向性・取り組み施策

前章の課題に対し、グローバル展開のパターンを考慮し、前編同様に、ヒト・モノ・カネ・戦略の要素を踏まえ、以下の5つの視点(機能・役割、予算、標準化、セキュリティ、サポート、人材)から解決するための対策やアプローチについて各社の事例を交えて述べる。

【図2】グローバル展開パターンに応じたガバナンスのスタイル 【図2】グローバル展開パターンに応じたガバナンスのスタイル

(1)「ICT戦略・ビジョン」の策定と浸透(役割・機能)

組織形態(機能)に関しては、グローバル展開の初期段階では、経営方針や戦略との整合を図るため、集権的な組織形態をとることが望ましく、展開地域が拡大するにつれ、ある程度の分権化もしくは連邦化された組織形態に移行し、「現地拠点のニーズに適した情報システム部門を設置」するなど、段階的に進めることが望ましい。その際、思い切って「拠点のトップは現地の人材を配置」し、ある程度の「人事権を付与」するなど、現地の人材育成を図ることがマネジメントのポイントと考える。特に、不明確になる傾向がある現地拠点の権限・責任は、ヒト・モノ・カネなどの意思決定範囲をどの程度まで本社から移譲し、それに合わせて責任範囲をどこまでに設定すべきか、現地の事業環境に合わせながら細かく設定し、責任者の成果項目に織り込み、合意することが重要である。

グローバル展開の初期段階、役割と責任範囲が不明確になる現地拠点に関しては、第三者によるコーディネートのもと、特定課題や特定テーマについて議論する組織横断によるワークショップセッションなどを実施し、お互いの考え方や認識違いを共有し、課題解決に向けた方向性合わせに組織横断で取り組むことが有効であると考える。

また、グローバル展開に合わせて管轄地域を分け、地域毎にICT責任者を設置し、本社機構へ一本化したレポートラインを確立すると同時に、四半期ごとにグローバルICT会議などを定期的に開催し、幹部同士のみならず、担当者を交えた相互コミュニケーションと意思疎通により、信頼関係を構築することが重要である。

(2)安定的なICT構造(標準化)

「標準化すべき領域と拠点ローカル特有の領域をしっかりと定義」することが望ましいが、アプリケーションは、言うまでもなく、事業、業務、地域色が強く、地域個別に展開することが要求されるケースが多い。海外でも通用するグローバル標準パッケージを導入することで標準化を推進することが第一に考えられるが、グローバル展開の初期段階では、海外拠点に適用するには導入コストが高く、安価な各国標準パッケージの活用や日本ベンダーが新興国向けに提供する「簡易パッケージ」などを活用し、インフラレベルでの標準化を図ることが好ましいケースもある。

単一事業をグローバルに展開する企業ならまだしも、複数事業をグローバルに展開する企業においては、グローバル標準化により規模の経済が働きやすいインフラ領域でさえ、新興国では、インフラ費用が割高になる傾向があり、統一した情報システムを拠点地域に展開できないことが多い。その際は、アプリケーション同様、「導入費用を一旦、本社が負担」し、インフラ(専用線等)の確保を行い、拠点事業の展開レベルに合わせて費用を回収するスキームを構築することが考えられる。定期的に発生するインフラ費用に関しては、「提供地域の経済規模を考慮したサービス提供価格を設定」し、全社共通の標準インフラサービスとしてグローバルに提供していく工夫も考えられる。

海外展開初期の段階では、たとえ、熟練したICT人材であっても現地の事情を把握しているとは言えず、情報セキュリティやコンプライアンス管理、または保守・メンテナンス、さらに人事・給与といった間接業務などは、現地に詳しい専門家やICTベンダーに委託することが得策なケースもある。昨今は、日本企業のICTベンダーによる海外展開に向けた「間接業務の業務委託サービス」なども提供されており、こういったサービスを活用することが得策である。

特に、セキュリティに関しては、早期にグループ「全体の会社のガイドライン」を作成すると同時に、「セキュリティ教育を実施」することが重要である。

(3)ICT投資の客観的評価の実践(予算)

グローバル展開初期の段階においては、インフラ投資ならまだしも、情報システム部門が主導で情報システム予算を確保し、各拠点に展開することは稀であり、ICT予算執行後におけるICT投資の評価が把握できない状況に対し、(国内でさえも苦慮されている企業は多いが)、経営企画などの全社組織とタッグを組み「ICT投資監査委員(仮名)」といった組織を設置するか、情報部門単独では、「コンプライアンス・情報セキュリティ」といった側面からICT投資後の実態をグローバルで監査する組織を設置するなどして工夫しているケースも参考になる。

グローバル展開の発展に伴い、予算管理は、(1)で述べた「権限・責任」や「組織形態」に依存することになる。しかしながら、事業会社もしくは現地子会社側に予算権限があり、情報システム部門として現地拠点にICT投資する権限がない、もしくはルールを設定している企業は少ない状況であり、グローバル展開を加速することが求められているなら、海外展開を実施すると同時に、「ICT投資予算範囲および権限規程を見直し」、予算権限でグローバルに対して統制をきかせることが重要である。仮に、現地拠点にICT投資の予算権限を委譲したとしても、レポートラインを定めること、または、最終承認に情報部門を関与させるなど、グローバルでの統制がとれる仕組みを作ることが肝要である。

(4)ICT人材マネジメント

海外拠点に「グローバル人材を育成する意義について本社が強く認識」し、例えば、昇格のタイミングで海外採用人材を国内へ派遣したり、国内採用人材を駐在員として派遣したりするなど、「計画的なローテーション」を行うことを制度化する企業もある。その際は、継続的に雇用を維持するインセンティブモデルや、海外を含めた「キャリア開発のロールモデル」を策定し、人材育成のガイドとして明確化することが重要である。特に、「日本に留学経験のある人材」は、日本に対して好印象を持っていたり、日本に人脈もあったりするため、日本で採用し、海外拠点のマネジャーとして日本から派遣するなどが考えられる。

(5)海外サポートマネジメント

特に日本企業においては、海外拠点の情報システムであっても、日本同等もしくは同様レベルでのシステム品質や管理レベルを求めるケースが多い。しかし、情報システム管理者そのものの負荷が増大した上で、継続的な安定稼働と適正な品質を実現するには、コスト的な負担が求められる。日本のICTベンダーでは、海外拠点のサービス網を活用し、例えば、PCに関する資産管理・保守・故障対応を実施し、煩雑なPC管理をライフサイクル(企画・導入・展開・運用)に従ってトータルにサポートし、日本語だけでなく主要な言語を扱い、ツールおよび運用フローの標準化によってグローバルに均質化されたサービスを提供しているため、海外展開の進出レベルに関係なくサポート管理を委託することも考えられる。

3. 情報部門のグローバルITガバナンスの構築に向けて

グローバル市場での販売・生産体制の強化に伴い、情報システム部門においても、展開地域を支える経営・業務基盤やICT基盤に対するグローバルレベルでの役割・対応が求められている。しかしながら、前述のとおり、商習慣・言語・セキィリティや働き方などの考え方が異なり、また電力やネットワークなどの社会インフラの整備状況が未発達な地域もあり、日本での情報システム開発、保守・運用、マネジメント方法を展開し、成功する保証もないため、情報部門はグローバル化への対応に多くの問題を抱えている。

ICTは企業価値を高める単なるツールではあるが、国内に閉じた経営環境からグローバル化に向けた経営環境に変わる状況下で、今後、企業が成長して競争に打ち勝ち、生き残っていくためには、ICTを活用したグローバルでのICTマネジメント策定は不可欠である。半面、ICTを軸にグローバルで経営革新に取り組む先進的な企業はあるが、「仏作って魂入れず」のように、推進する仕組みだけを作り、実業務に定着化するまでに至っていない企業が多い。ICT革新の取り組みは、単なる情報部門の取り組みではなく、ICTを活用した抜本的な企業の構造改革なのである。

特にグローバル展開を進める企業におけるシステム構築の場合は、情報部門の「グローバルでのICTガバナンス」を検討すべきであり、情報部門の業務のあり方やアプリケーション、ハード、パートナーのあり方など、組織的な改革を行う必要がある。

富士通総研では、「経営・事業環境動向」を鑑み、「情報部門の問題や課題」をまとめ、中期的な取り組み施策の策定に向けた「テーマ抽出」を行い、具体的実施に向けた「企画書」の策定と合意形成を図ることをゴールに4回のセッションを実施している。ワークショップ形式(共同議論形式)で4回の検討会を週次で実施し、今後のグローバルITガバナンスの取り組みに向けた具体的な施策検討を支援するものである。本オピニオンがグローバルITガバナンスを課題とする方の一助になれば幸いである。

【図3】「グローバルICTガバナンス」検討の進め方 【図3】「グローバルICTガバナンス」検討の進め方

シリーズ

ITにおいてもグローバルガバナンスが急務に(前編)

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富士通総研には産業系シンクタンクとしての長年に渡る調査・研究・分析の実績があります。さらに、コンサルティング・サービスを通して培ったノウハウで「お客さまの現場で役立つリサーチ・サービス」をご提供します。


小川 敬造(おがわ けいぞう)
株式会社富士通総研 産業事業部 シニアコンサルタント
カリフォルニア州立大学 経営学修士
製造業のお客様を中心に、新規事業や情報戦略策定、グローバルITガバナンス等のコンサルティング活動を多く手掛ける。