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ITにおいてもグローバルガバナンスが急務に(前編)

2012年2月20日(月曜日)

少子高齢化やデフレなどの影響で国内市場の成長が見込めない中、新たな市場を求める企業の海外進出の動きが目立っている。海外に拠点を構え、他国の企業との競争の中でビジネスを展開する企業においてグローバルガバナンスの必要性が叫ばれているが、その中でもITのガバナンスはまだ緒についたばかりである。

富士通総研ではそうした問題意識の下、海外進出企業のグローバルでのITガバナンスについて、調査を通じた課題の把握を行い、今後の方向性についての議論を積み重ねてきた。本オピニオンでは2回に分けてその内容をご紹介したい。まず「前編」で日本企業の海外進出の動向を整理した後、調査結果をご紹介し、「後編」で課題と方向性を議論する。

1. 日本企業の海外進出が多様化、複雑化している

歴史的な円高の長期化が懸念される中で、日本企業の海外進出が改めて取り上げられている。日本国内は、円高、高い法人税、貿易自由化の遅れ、労働規制、環境規制、電力不足の“六重苦”を抱えていると言われ、製造業の海外進出に伴う空洞化も懸念されている。

しかしながら、企業の海外進出の流れは今回の円高や震災の前から続くものである(【図表1】)。企業の成長や収益性の確保という観点から見れば、内需拡大が見込めない現状において、新興国などの成長市場を取り込むための海外生産販売の拡大は自然の流れであろう。

【図表1】製造業企業の海外生産比率と海外売上高比率の推移
出所:国際協力銀行『我が国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告』各年度版より富士通総研作成 【図表1】製造業企業の海外生産比率と海外売上高比率の推移

実際、製造業では生産拠点とともに販売拠点への投資も増大し、業種も多様化して、これまで内需型と言われていた企業も海外市場に打って出始めた。また製造業だけでなく非製造業の海外進出も活発化している。これらの結果、大企業だけでなく中小企業も海外で事業展開を進めるようになってきた。また地域別に見れば、北米やEUが頭打ちになる中、中国、ASEAN、その他アジアにおける現地法人数が増えている。さらには、豊富な手元資金や昨今の円高を活用し、M&Aの形での進出も増加しており(【図表2】)、海外拠点の状況は複雑さを増すばかりである。日本企業は人材面、IT面も含めてグローバルガバナンスがうまくいっていないという話もよく耳にするが、海外進出の効果を最大限に高めるためにも、今後はこの問題を避けて通れない。

【図表2】日本企業によるIN-OUTのM&A件数推移
出所:『MARR』2012年2月号より富士通総研作成 【図表2】日本企業によるIN-OUTのM&A件数推移

2. 「グローバルITガバナンス」とは?

では、そもそも「ITガバナンス」とは何か? 私共はこれを「企業が競争優位を構築し強くなることを目的に、IT戦略を管理し、強くなる方向へ導く『攻め』と『守り』の組織能力をつけること」と定義した。ここで「攻め」とは、儲けるための業績マネジメントであり、「守り」とは、リスクコントロールである。「ITガバナンスを効かせる」というと、統制を効かせることに主眼が行き、仕組みや形が先行した議論になりがちである。しかし、ここで大切なのは、企業の競争優位を構築するために活用するという目的指向型のガバナンスでなければならないということである。どのような競争優位を構築するのかという戦略に則り、そのために必要なIT戦略、すなわち業績マネジメントの仕組みとリスクコントロールの仕組みを作っていく。そうすれば経営戦略との整合性や、組織内への浸透も図りやすくなると思われる。

企業の海外進出が進めばこの「ITガバナンス」も複雑化する。先に見たように、一口に海外進出と言っても、その進出形態や拠点のあり方は実に多様化してきている。地域により言語や文化、商慣習も異なる。また、進出の歴史も異なり、すでに数十年の歴史を持つ企業から、新たに拠点を構えたばかりの企業まで様々である。このように拠点の地域や機能、成り立ちが多様化すれば、当然ながらガバナンスにおける課題も変わってこよう。

3. アンケート結果に見られる企業のグローバルITガバナンスの実態

そこで富士通総研では、海外に進出している企業を対象に「グローバルITガバナンス実態に関する調査」と題するアンケート調査を実施し、海外進出に伴う課題について伺った。回答企業195社の内訳は、製造業116社、流通・サービス業57社、その他22社である。

【図表3】グローバルITガバナンス実態に関する調査

【図表3】グローバルITガバナンス実態に関する調査

(1) 海外展開状況

回答企業の海外展開状況を見ると(【図表4】)、海外売上比率は25%未満が65%、25~50%未満が23%、50%以上が11%となっている。また海外拠点数は、1拠点が21%、2~4拠点が25%、5~9拠点が27%、10拠点以上が23%となっており、全体的にまだ海外進出初期の段階にある企業が多いものと推察される。

【図表4】回答企業の海外進出状況
出所:富士通総研「グローバルITガバナンスの実態に関する調査」(2011年9月実施) 【図表4】回答企業の海外進出状況

(2) 海外におけるIT支出状況

それでは各企業は海外展開にかかわるIT支出をどのように振り分けているのだろうか? 本調査では、IT支出を日本を含めた各地域に配分する(%表示)形で回答していただいた(【図表5】)。

【図表5】回答企業の海外IT支出
出所:富士通総研「グローバルITガバナンスの実態に関する調査」(2011年9月実施) 【図表5】回答企業の海外IT支出

その結果、約3割の企業が海外ではIT支出をしていない一方で、海外でのIT支出がIT支出全体の30%以上となっている企業も15%に上り、平均すると海外IT支出は約10%となっていることが分かった。また、海外IT支出のうち最も支出の多い地域を「海外IT支出メイン地域」と名付け、その分布を見ると、中国をメインとする企業が34%、ASEANをメインとする企業が13%と、アジア地域中心にIT支出を行っている企業が約半数を占めている。その一方で欧米及びアジアにまんべんなく支出している企業も11%と少なくない。

これら全地域支出型の企業、また、欧州や米州中心に支出をしている企業(あわせて11%)も、その拠点分布を見るとグローバルに大きく展開している。こうした企業は連結売上高も海外売上比率も高い企業が多く、業種別には組立系製造業に多い。海外拠点数だけでなく海外IT支出比率も高く、海外展開の盛んな企業と言えよう。

(3) 海外におけるIT管理状況

海外におけるIT管理状況を知るため、まず各社の海外拠点にどの程度情報システム部門(以下、IT部門)が設置されているかを聞いたところ、【図表6】に見るように、海外拠点数が少ない企業では拠点にIT部門を置いていないところも多い。しかし、約半数の企業が海外拠点にもIT部門を設置しており、全ての拠点に設置している企業も8%存在することが分かる。また、海外拠点に対するIT管理体制を聞いたところ、「中央集権型」が48%、「分散型」が35%、「地域別連邦型」が11%、「事業部連邦型」が4%であった(【図表6】)。

【図表6】海外拠点におけるIT部門の設置状況とIT管理体制
出所:富士通総研「グローバルITガバナンスの実態に関する調査」(2011年9月実施) 【図表6】海外拠点におけるIT部門の設置状況とIT管理体制

【注】:IT管理体制については、以下の4パターンの中から1つ選んでいただいた。
中央集権型:本社IT部門が現地拠点を統括
地域別連邦型:各地域の統括拠点のIT部門がその地域の現地拠点を統括
事業部連邦型:各事業部のIT部門が傘下の現地拠点を統括
分散型:各現地拠点がそれぞれに機能

(4) まとめ:アンケートに見られるグローバルITガバナンスの状況

このようにしてアンケートを通じて見ることのできた海外におけるITガバナンスの実態を、海外展開の状況別に分析し、パターン分けを試みた結果が【図表7】である。

【図表7】アンケート結果から見える海外展開パターン
出所:富士通総研「グローバルITガバナンスの実態に関する調査」(2011年9月実施) 【図表7】アンケート結果から見える海外展開パターン

この表から、海外展開の状況に応じてIT支出の状況や管理体制も変わってくることが分かる。拠点が少ない立上期には日本の本社が中央集権的に管理し、海外拠点へのIT支出も限定的である。海外展開が進むにつれ分散型の管理体制となるが、やがて、現地の状況が把握できない、一体的なIT戦略を進めにくい、といった反省から、その規模により中央集権型または地域別連邦型に移行する。事業規模や事業形態によっては事業部連邦型に移行する企業もあるが、その数は少ない。なお、実際には、事業セグメント、進出の時期や経緯、ビジネスモデル等により企業の海外進出状況は異なり、必ずしもこのようにパターン分けできないことも多い点には注意を要する。

4. アンケート結果から見えてくるグローバルITガバナンスの課題

こうした状況を踏まえ、グローバルITガバナンスにおける課題についてアンケートから得られた結果を分析してみる。本調査では、あえて「ガバナンスがうまくいっているか」を直接問うのではなく、ヒト(=人材)、モノ(=システム、インフラ)、カネ(=予算)、戦略の4つの要素に分解し、グローバルITガバナンスの課題はどこにあるのかを探ることを試みた。

【図表8】グローバルITガバナンスにおける最重要課題
出所:富士通総研「グローバルITガバナンスの実態に関する調査」(2011年9月実施) 【図表8】アンケート結果から見える海外展開パターン

【図表8】に見られるように、戦略面の課題を1位に挙げる企業が最も多く、次いでシステムの共通化、現地インフラ対策といったモノの面の課題が重視されていることが分かる。一方、カネ、ヒトにかかわる課題は優先順位としてはあまり高くないことが明らかになった。

こうした優先課題を先ほどの海外展開パターンと比較し、課題の変化をイメージ的に図式化することを試みたのが【図表9】である。(上述の5つの課題について、それぞれの課題の優先順位を面積の大きさで表現した。各パターンにおいて特に重要となる課題は色調を濃くしている。)

【図表9】海外展開パターンと課題の変化
出所:富士通総研「グローバルITガバナンスの実態に関する調査」(2011年9月実施) 【図表9】海外展開パターンと課題の変化

進出当初は予算を確保し、インフラを整えて拠点を立ち上げ軌道に乗せることが優先課題となろう。その後、事業が拡大し拠点数も増えてくると、システムの共通化といった課題が顕在化し、それをまとめるためのIT戦略が重視される。さらに海外展開が成熟化した段階に来ると、全体最適化のための戦略構築が最重要課題となり、それを実行するために高度なIT人材を最適に配置していくことが課題となってこよう。

このように、海外展開のパターンによりグローバルITガバナンス上の課題も変化していくことが推測される。したがってIT戦略を構築するにあたっては、今後の展開を見据えた戦略の策定が肝要となる。そこで重要なのは先に述べた「経営戦略との整合性」である。ITガバナンスの目的は企業の競争優位構築であり、形を整えることに追われることなく、事業戦略上必要な業績マネジメントの仕組み、リスクコントロールの仕組みを整えていくという視点に立ったIT戦略の構築が肝要である。

さらに自由回答を細かく追っていくと、進出地域、拠点の成り立ち、拠点の種類によるITガバナンス上の課題も見えてくる。例えば、欧米拠点では経済合理性がなければ納得せず日本本社の意思を通しにくい、合弁や買収で取得した拠点において相手先システムとの共通化がより大きな問題となる、生産拠点よりも販売拠点の方が各国市場の独自性に左右されやすく標準化が難しい、といった点である。実際の戦略策定においては、これらも重要な要素になってこよう。

以上、アンケート結果を中心に企業のグローバルITガバナンスの課題を概観してきた。それらの課題が具体的にどういったIT部門の実態と関わっているのか、また、どのような方向性・施策を検討しなければならないのかといった点に関しては、「後編」で詳しく議論を進めることとする。

シリーズ

ITにおいてもグローバルガバナンスが急務に(後編)

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富士通総研には産業系シンクタンクとしての長年に渡る調査・研究・分析の実績があります。さらに、コンサルティング・サービスを通して培ったノウハウで「お客さまの現場で役立つリサーチ・サービス」をご提供します。


倉重 佳代子(くらしげ かよこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
1991年 東京大学教養学部卒業(国際関係論)
1999年 フランス国立ポンゼショセ大学院修了(国際経営学)
株式会社長銀総合研究所、株式会社長銀総研コンサルティング、株式会社インターブランドジャパンを経て、2010年11月富士通総研入社
最近の研究テーマ:産業動向、企業戦略(グローバル戦略、ICT投資動向、超高齢社会対応)