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日本は経常赤字国になるのか

~経常黒字を維持するための条件~

2012年2月17日(金曜日)

1.貿易赤字に転落した日本

2011年の貿易黒字が赤字となり、経常収支も10兆円を割り込んだことで、日本経済の競争力が失われているとの懸念が高まっている。2011年の貿易収支の赤字については、震災やタイの洪水によるサプライチェーンの寸断で生産に支障を来して輸出がストップした時期があったことと、原発停止により火力発電に使う液化天然ガスの輸入が膨らんだという、輸出・輸入両面の特殊要因によるところが大きい。ただ、今回の赤字が特殊要因であるにしても、より長い目で見ると、日本の貿易黒字が縮小傾向にあることは明らかである(【図】)。一方で、海外投資から得る利子・配当などの所得収支の黒字は増加傾向にある。

この背景には、プラザ合意以来、断続的に円高が続く中、海外に生産拠点を移し、輸出の増加を抑制してきたことがある。海外投資の増加は、海外からの受け取りを増やし、所得収支を増やす要因になってきた。加えて、今後は、貯蓄・投資差額(ISバランス)が経常収支に等しくなるというマクロ的な恒等式(貯蓄-投資=経常収支)からも、経常収支が減少していくことはしばしば指摘される。

2.マクロ経済の恒等式と経常収支

すなわち、高齢化に伴い貯蓄率が低下していくことは、(貯蓄-投資)を縮小させ、結果として、これと等しくなる経常収支を減らすこととなる。ただ、ここで国内における投資も同時に減れば(貯蓄-投資)は必ずしも縮小しない。これについては、一見、日本経済が縮小均衡に陥るように見える。しかし、この背後で、国内投資に代わって海外投資が増え対外純資産が増加しているとすれば、対外純資産の増減が経常収支に等しいという、もう一つの恒等式(対外純資産の増減=経常収支)から、対外純資産の増加が経常収支の維持につながっているという関係を見出すことができる。

換言すれば、国内投資を減らし海外投資を増やすことで対外純資産を増やせば、結果として、貯蓄が減っても(貯蓄-投資)は減らず、対外純資産の増加によって経常収支が増えることで、経常収支の水準が維持されることになる。これは、経常収支(=ISバランス)が一定水準で維持される場合、国内投資と海外投資は代替的な関係になることを意味する。こうした関係を考慮に入れると、貯蓄が減少しても、経常収支は必ずしも赤字にならないことになる。

【図】経常収支の推移
(出所)財務省・日本銀行「国際収支統計」【図1】経常収支の推移

3. 経常黒字維持のシナリオ

日本の場合、少子高齢化で国内投資の収益率が下がって国内投資が減っていくことは自然なことであるが、他方、近隣には世界経済の成長センターであるアジアが存在し、高収益が期待されるアジアに直接投資を行うことが容易である。したがって、海外投資を今後より一層増加させ、海外からの受け取りを増やせば、貯蓄が減り、また国内投資が減っても、経常収支は赤字にならず、黒字を維持することができることになる。

結論部分だけを取り出せば、貿易で稼がなくても投資で稼げば経常黒字は維持できるという、ごく当たり前のことを言っているに過ぎないが、この関係をマクロの恒等式に即して言えば、これまで説明してきたようになるということである。

ここで得られるインプリケーションは、少子高齢化で貯蓄が減り、国内投資の収益率も下がっていく中では、海外でより有利な投資機会を探せば、決して経常赤字国には転落しないということである。つまり、高齢化で貯蓄率が低下し、経常赤字国になるというのは間違いではないが、その関係がすべてではない。

日本の所得収支の黒字は、長い目で見れば増加傾向にあり、海外投資の増勢は、近年さらに強まっているため、これが将来において所得収支のさらなる増加をもたらす可能性が高い。とすれば、日本は高齢化で貯蓄率が低下したとしても、経常黒字はなおしばらく維持できると考えられる。

4. 収益率の高い対外直接投資を増やすことが必要

ただし、このシナリオが実現されるためには、海外投資でも、証券投資に比べより収益率の高い直接投資の比率を増やしていく必要がある。日本はこれまで、対外資産に占める証券投資や外貨準備の比率が高く、直接投資の比率は低かった。

対外純資産残高がマイナスであっても、対内投資と対外投資の収益率格差によって所得収支がプラスになることはあり得る。対外投資で受け取る収益が対内投資で支払う収益を大きく上回っているケースであり、アメリカやイギリスは、対外投資で収益率の高い直接投資の比率が高いため、そのようなことが可能になっている。アメリカやイギリスが投資大国である所以である。

現在の日本は、世界最大の対外純資産を有しており、対外投資の増加が所得収支の増加につながるようになっている。しかし将来において、対外純資産の増加ペースが鈍化していった場合でも、所得収支を維持していくためには、対外投資の収益性を高めていくことが必須となる。つまり、収益性の高い直接投資を維持してくことが、少子高齢化で貯蓄率が低下していく中でも、日本が経常黒字を維持していくための条件になる。

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米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】
1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員
【執筆活動】
デフレの終わりと経済再生(ダイヤモンド社 2004年)、少子高齢化時代の住宅市場(日本経済新聞出版社、2011年)ほか多数