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中国におけるスマートシティの建設と課題

2012年2月2日(木曜日)

中国では、スマートシティのブームが起きています。もともと温家宝首相の故郷天津市と河北省唐山市の曹妃甸(そうひでん)で「生態城」、すなわち、エコシティの建設が国家プロジェクトとして認可されました。国家プロジェクトゆえに、政府からの財政資金の注入も期待されます。

この2つのエコシティ建設をきっかけに、中国全土でエコシティやスマートシティの建設プロジェクトがまるで雨後の筍のように現れています。最新の集計によると、現在、全国に500か所以上もの「生態城」、「智慧城」と「知識城」の建設構想があるといわれています。

1. 間違ったスマートシティの建設構想

数か所の「生態城」の建設事務局を訪ねたところ、問題はほぼ明らかになりました。「生態城」の建設を名乗る地方政府の担当者の多くは、エコシティやスマートシティが一体どういうものか十分に理解できていません。ほとんどの地方では、IT研究・開発区の建設・強化をエコシティの建設と誤解しています。では、エコシティやスマートシティとは一体どういうものなのでしょうか?

簡単にいえば、人々のライフスタイルをICT利活用によって変化させ、環境に配慮し、電力などのエネルギー消費を節約し、CO2を削減するとともに、医療や介護サービスを向上させる、新しい生活空間のことを意味するものです。例えば、ITSシステム(高度交通システム)の導入によって都市部で慢性化している交通渋滞が緩和されると期待されています。また、電子医療システムの導入により、診療時間の節約やタイムリーな救急治療ができるようになります。さらに、スマートグリッドの構築で電力の供給と需要がバランスすることによって、電力やエネルギーの無駄を削減することができます。

しかし、エコシティやスマートシティを構築する場合の前提条件があります。それは企業の情報化と住民生活の情報化の促進です。エコシティやスマートシティの基本は、すべての住民と企業およびサービス事業単位がICTネットワークによって結ばれることです。これらの事業やサービスの情報と個人の情報を集中して処理し、かつ、その安全性を担保する必要があります。

このような視点から中国で進められているエコシティやスマートシティの構想をみると、ほとんど合致しておらず、まったく別物になっているように思われます。

 ここで、中国のICTサービス産業の現状をみると、次の問題点を指摘することができます。

  1. 業界のリーダー役のベンダーは存在せず、中小のベンダーが混在している。その結果、スマートシティのような大きなITプロジェクトのアーキテクチャーに弱くなる。
  2. 地場ベンダーのビジネスの中心は、依然として外資からアウトソーシングを下請けすることである。人件費の上昇と人民元の切り上げによりアウトソーシングビジネスはすでに限界に達している。
  3. 企業の情報化と住民生活の情報化が大幅に遅れている。

2. スマートコミュニティの実現に向ける日中の協力

中国政府は「数碼神州」(Digital China)の構想を打ち出していますが、それを実現するためのロードマップは明らかになっていません。中国がIT大国を目指すならば、少なくとも次のような努力が求められています。1つは行政のデジタル化です。もう1つは企業の情報化推進です。さらに、住民生活の情報化です。

中国では、すでに身分証明書が普及し、背番号制が確立しています。企業の情報化はIT技術のコストの問題であり、徐々に進展していくと思われます。問題は、行政のデジタル化が遅れていることです。その障壁は縦割り行政にあります。

一方、日本でも、スマートコミュニティの実現に向けた努力が全国で見られます。特に、震災以降、安心安全社会作りのためのICT利活用が強化されています。その中で、電力不足を軽減する節電努力として、スマートグリッドの実験が急ピッチで進められています。

また、高齢化社会の日本だからこその努力として、遠隔医療を強化するための電子カルテの普及も試みられています。患者は自宅にいながら遠隔医療システムによって診察を受けられるようになります。レントゲンや心電図などの医療情報も電子化され、複数の病院間で共有されるようになります。

日本で行われているこれらの試みは、中国にとっても重要な参考になります。中国は一人っ子政策を実施した結果、高齢化が急速に進んでいます。それゆえ、中国でも電子医療システムの導入は緊急な課題となっています。

中国政府は今年から始まっている第12次5か年計画において、経済構造と産業構造の転換を図るとしており、また、生態環境を改善し、都市化を推し進めるとしています。新しい都市の誕生はスマートシティ構築の機運を高めることになります。

最後に、こうした背景を踏まえて、中国でICT利活用を強化するための政策課題を次のように指摘しておきたいと思います。

まず、地場のベンダーを育成することです。現在、中小のITベンダーは研究・開発の力が不足しており、アーキテクチャーの能力も不十分です。そして、ICTの利活用にもスマートシティの構築にも人材育成が欠かせません。さらに、情報共有を阻んでいる縦割り行政の障壁を取り除くために、政府の強いリーダーシップが求められています。

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柯 隆

柯 隆(カ リュウ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】:1994年3月 名古屋大学大学院経済学修士取得。 1994年4月より (株)長銀総合研究所国際調査部研究員。1998年10月より現職。専門領域は開発金融と中国経済論。
【著書】:「チャイナクライシスへの警鐘 2012年中国経済は減速する」日本実業出版社 2010年9月、「2010年中国経済攻略のカギ」PHP研究所『Voice』編集部 2010年1月、「華人経済師のみた中国の実力」日本経済新聞出版社 2009年5月、「中国の不良債権問題」日本経済新聞出版社 2007年9月