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ソーシャルメディア分析から世間の声を掴むことができるか

~メーカーA社との“箱庭”研究より~

2011年12月7日(水曜日)

1.メーカーにおけるマーケティングの課題

コンシューマー向け製品を製造しているメーカーのうち、製品を購入してくれる生活者の実態や声を把握している企業はどれくらい存在しているのでしょうか? もちろん直営店のような販売機能を保有しているメーカーであれば、生活者との接点も多いため、どのような客層がどのような理由で製品を購入しているのかという購買理由や、不満や要望などの改善や商品開発のヒント情報を収集することができるでしょう。

しかし、自身は販売機能を持たず、卸・小売、代理店などの他社が販売機能を担っている企業の場合、生活者の実態や声をタイムリーに把握することは困難です。お客様相談室を設けてクレームやご意見等を収集したり、オーナーズホームページを開設して満足度を計測したり、最近ではFacebook上に企業サイトを立ち上げてFANと交流したりするなどの努力が行われていますが、一部の顧客の声を集めているに過ぎません。

マーケティングの観点から、広く生活者のニーズを拾ったり、隠れた商品カテゴリを探ったりするには、こうした工夫だけでは不十分と考えられます。

2. ソーシャルメディアの繁栄に伴う期待

多くのメーカー企業が、生活者の実態をタイムリーに収集できる媒体としてソーシャルメディアに着目しています。数年前に話題となった価格コムやアットコスメに代表されるクチコミを中心としたCGM(Consumer Generated Media)とは異なり、最近のソーシャルメディアは、圧倒的なユーザー数に加えて、ユーザーが個人の属性を公開して意見(声)を表明することが多くなってきているからです。2011年9月に実施したアンケート調査では、mixiで3人に1人、YoutubeやTwitterは4人に1人、Facebookでも6人に1人の割合でソーシャルメディアを活用し(【表1】参照)、そのうちの10%~25%のユーザーが個人属性を登録・公開していることがわかりました(【表2】参照)。

【表1】主要ソーシャルメディアの利用割合と利用頻度【表1】主要ソーシャルメディアの利用割合と利用頻度

【表2】主要ソーシャルメディアの属性登録公開率【表2】主要ソーシャルメディアの属性登録公開率

3.ソーシャルメディアの偏りに対する不安

しかしながら、ソーシャルメディアを活用した生活者分析が、本当に生活者実態を反映した精度の高い結果を導けるかどうかについては不安が残ります。CGMが流行した時にも、多くのユーザーに影響を及ぼすユーザーを「インフルエンサー」と呼んだように、一部のユーザーの意見が大勢を占めるのであれば、ソーシャルメディアを分析したところで、結局特殊な一部のユーザーの声を把握するだけになってしまいます。また、個人属性を公開して意見を表明するようなネットユーザーは、特定の趣味・嗜好を持っている一部の生活者である可能性もあります。一般の生活者と、ソーシャルメディアユーザーの構成が異なるのであれば、生活者実態を分析する対象として相応しくありません。

ソーシャルメディアユーザーの偏りに対する不安を払拭することができなければ、企業がマーケティング等のビジネス活動に活用しようとは本気で考えないでしょう。

4.偏りを補正する仕掛け「箱庭」コンセプト

メーカーA社も、ソーシャルメディア分析に期待しつつも、ユーザー層の偏りに対する不安を抱えていた企業です。A社は、ユーザー層の偏りを補正して世間の縮図となるような仕掛けとして、「箱庭」というコンセプトを立案しました。「箱庭」とは、ソーシャルメディアそのものを直接分析するのではなく、リアルな世間の人員構成と近似するように、意図的にユーザーサンプリングを行い、そのサンプリングされたユーザーの声だけを対象に分析するというものです。

A社と富士通総研は、この「箱庭」の実現可能性について共同で調査研究を行いました。単純にリアルな世間の人員構成と近似させるといっても、どの粒度(例えば、居住地属性は都道府県単位で実現できるのか、既婚・未婚といった属性を含めるのかなど)で近似させるか、どれくらいの規模の箱庭ならば構築可能で、どれくらいの声のデータが集まるのかといった検討・試算を行いました。

5.箱庭実現のハードル

箱庭ユーザーの属性とその粒度などを設定した後、実際にソーシャルメディアのユーザーがどれくらい偏っているのかを調査しました。具体的にはアンケート調査のほかに、実際にブログサイトのAmebloから、登録・公開されているユーザープロファイルデータを数千件収集して集計を行いました。

アンケートの結果から、ソーシャルメディアを利用しているユーザーの人口構成は、リアルな人口構成とそう大差ないことが分かりました。性別や年代以外にも、趣味・嗜好の観点からも構成に偏りがないことが確かめられています。しかし、Amebloのユーザープロファイルデータを調査してみると、属性を公開しているユーザーは、若年層(20代)に偏っていることがわかりました(【図1】参照)。

登録・公開されているユーザープロファイルデータから、リアルな人口構成に近似させようとサンプリングすると、集めたデータに対し、20代のデータが大量に溢れることになります。この溢れ率は集めたデータの85%にも上ることがわかりました。

【図1】ユーザー構成比比較【男性のみ】
(20代~50代の男女を100とした時の割合)【図1】ユーザー構成比比較【男性のみ】

箱庭を構築するにあたっての課題は、それだけではありません。例えばTwitterでは、ユーザープロファイル情報は「自己紹介欄」のみで、フリーテキストの中から、性別や年代を識別することは困難です。Blogなどでは、事細かな自己紹介欄が設けてありますが、フリーテキストで入力するスタイルの場合、「性別:男らしい女」などの表記が存在し、システム的に全てのデータを正しく判別するには限界があります。Amebloのユーザープロファイルデータ数千件のうち、性別・年代・居住地・既婚/未婚という4つの属性を正しく識別できたのは60%でした。

箱庭を実現するためには、属性データの識別率を上げることと、効率良くユーザープロファイルデータを収集するための仕掛けが必要になります。現在、Facebookなどでは、属性条件からユーザーを検索することができるサービスが提供されるなど、日々進化しています。こうしたサービスのAPI(Application Program Interface)を利用すれば、効率良くサンプリングできる可能性があると考えられます。

6.今後の課題

現在A社では、実際に箱庭を構築して、サンプリングされたユーザーの声を収集しようという段階になっています。もちろん、現在のソーシャルメディアのアクティブユーザー数、登録・公開率、識別率、溢れ率を考慮すると、最初に構築できる箱庭の規模はそう大きくはありません。今後のソーシャルメディアの発展に合わせて、徐々に大きくしていくことになるでしょう。

また、ユーザーの声のデータを集めてみなければわからないことはたくさんあります。今回の調査研究で、ソーシャルメディアユーザーの構成の偏りは表面上のものであること、意図的サンプリングを行えば、その偏りは解消されることがわかりました。しかし、声の質について、偏りがあるかないかは確かめられていません。

匿名であるから本音を書き込むことができた過去のCGMと異なり、友人や知人が見ている前提で表明された意見は、本音とは異なるかもしれません。また、ソーシャルメディアのコミュニティ内における意見の流れ(文脈)に左右されて本音を隠すかもしれません。ソーシャルメディアならではの「声の偏りを発生させるメカニズム」があるのだとしたら、箱庭は世間の声を代表することにはならないでしょう。

ソーシャルメディア分析の可能性を広げるために、今後はこうした声の偏りに着目して研究を継続していきたいと思います。

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【調査・研究】


安藤 美紀(あんどう みき)
(株)富士通総研 流通・サービス事業部 マネジングコンサルタント
1995年日本電信電話(株)入社、法人部門において流通企業向けコンサルティングに従事。
2005年富士通(株)入社、コンサルティング事業本部を経て、2007年(株)富士通総研出向。
小売業、サービス業、製造業の企業向け業務改革等のコンサルティングに従事。現在はBI、CRM、顧客分析を担当。