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Startup Acceleratorの出現から考えるイノベーション

2011年11月29日(火曜日)

近年、起業家やVC(Venture Capital)の間でStartup Acceleratorと呼ばれる新たなプレイヤーが注目を集めている。Startup Acceleratorは、創業間もない、あるいはこれから創業するような段階のベンチャー企業や創業チームに対して小額の資金を投資し、2-5%程度の株式を取得する。そして、メンターと呼ばれるシリアルアントレプレナーを中心とした企業経験者や業界の識者による2-3か月間の短期集中の育成プログラムを実施し、プログラムの最後にはエンジェルやVCを集めて追加投資を得るためのイベントを開催する。こうしたStartup Acceleratorが世界中で数多く生まれ、新たなICTベンチャー企業を次々と生み出し、その存在感を増している。

こうしたことは日本にも起こり始めている。日本のベンチャー企業に関する専門の調査会社であるJapan Venture Research(JVR)は11月に、「ICTスタートアップ・アクセラレーター元年 -2011年インキュベーションの新潮流」というレポートを発表した。このレポートでは、2011年が2000年以来のICTベンチャーのスタートアップブームであると指摘した上で、国内で活動を始めたStartup Acceleratorを分析している。

富士通総研では、先に米国で特に注目されている13社のStartup Acceleratorと、そのプログラムを詳細に分析し、この新たなプレイヤーの出現がもたらす意味を考察した(*1)。Startup Accelerator が注目を集めているのは、ICT分野における起業の形が変化しつつあることを意味する。

1.変化するICTビジネスでの起業

ベンチャー企業に対する資金供給者やアドバイザーという点からみると、現在Startup Acceleratorの行っていることは、これまでVC(Venture Capital)によって行われてきた。一般的なVCとStartup Acceleratorの違いは、Startup AcceleratorはVCに比べ投資金額が極端に少ないことと、特定期間に集中して一箇所で教育プログラムを行うことであろう。創業期の企業専門に投資を行うVCも存在するが、一般にVCの投資額は100万ドル以上であることを考えれば、Startup Acceleratorはその50分の1程度の投資しか行わない上、その資金は事業資金というよりは、創業者たちの生活費となる。

VCもベンチャー企業の経営に参画する、いわゆる“Hands-on”型の投資を行うこともあるし、人的ネットワークを駆使して支援することもあるが、Startup Acceleratorのように短期集中型の支援は行わない。もちろん、二者択一という場合は少ないだろうが、創業期のベンチャー企業からみれば巨額とも思えるVCからの投資と、小額の投資と積極的な育成プログラムを選択するとなれば、VCを選ぶ企業が多くても、全く不自然ではないだろう。実際にVCとStartup Acceleratorを比較し、Startup Acceleratorを活用することは、起業家にとって高コストになるとの指摘もある。

しかし、現実にY Combinator(YC)は大成功を収めており、これまでみてきたように、同様のプログラムを実施するStartup Acceleratorが全米で生まれている。これは、ICTビジネスにおいて起業すること自体が、以前と異なるものになりつつあることを示唆している。

Exciteの創業者であり、後にJotSpot(エンタープライズ向けのソーシャルソフトウエア。2006年にGoogleに買収)を設立したJoe Krausは2007年に「今ほど安上がりに起業家になれる時代はない。」と語っているが、その後も、amazonやGoogleの提供するクラウドサービスを活用することで、資金面ではより簡単に起業することが可能になっている。こうした変化は2000年代後半から語られ始めている。

さらに近年では、AndroidやiPhoneを始めとするモバイル端末向けのマーケットは、開発中のアプリケーションを簡単に世界展開することを可能にしており、10年前と比べれば、ICTベンチャー企業にとって、開発コストだけでなく流通コストも劇的に低下している。Startup Acceleratorが注目されているのは、こうして起業にかかるコストが低下したため、成功するためには資金よりも実質的には正確なアドバイスやネットワークの提供が求められ始めているとも捉えることができる。

Startup Acceleratorの共通点として、その創業者やパートナーが起業家やシリアルアントレプレナーであること、メンターによるトレーニングがプログラムの中心であることが挙げられる。こうしたパートナー達は、自己の起業経験を通じて培った人的ネットワークを新たな起業家たちに対して開放することで企業を育成しようとしている。

多くのベンチャー企業は、創業後、同じような時期に同じような問題に直面することが多い。そして、その際に企業経験をもつ他の起業家からアドバイスを受けられることは、以前から資金的援助にも増して重要なことだとも考えられてきた。しかし、現在、ICTベンチャー企業を創業する場合、以前よりもさらにアドバイスの価値が資金の価値よりも高くなっている可能性がある。

また、多くのStartup Acceleratorは、プログラム参加者を募集する際にビジネスモデルの提出というより、アイデアを基にプロトタイプや実際のプロダクトを完成させられるかどうかを重視している。

これは、クラウドコンピューティングや、各種のアプリケーション流通プラットフォームを活用して起業する場合、資産を持たないままビジネスを始めることができるため、ビジネスモデルの修正が以前よりも容易になったためだろう。ビジネスモデルよりも、自らのアイデアの正しさを迅速にマーケットに問い、修正を加えながらユーザーを増加させることの方が重要視され始めていると思われる。こうしたことから、ICT分野での起業は以前と比べて、よりカジュアルなものになり始めている。

2. Startup Acceleratorの本質

近年あまりに多くのStartup Acceleratorが活動を開始したため、今後は不透明な部分もあるが、重要なのは、この新たなプレイヤーの行く末よりも、このようなプレイヤーが生まれ、ベンチャー企業の成長に寄与していることの本質を見極めることであろう。

Startup Acceleratorの分析からは2つの示唆が得られる。1つは、ICTベンチャー企業が成長するために必要な要素の重みに変化が始まっているということである。先に、Startup Acceleratorの発展の背景として、起業が安価になり始めており、それに伴い、起業家にとって資金よりも実質的なアドバイスの価値が向上していることを述べた。このことを逆に考えれば、Startup Acceleratorのような新たなプレイヤーが出現したのは、ICTベンチャー企業の成長に、資金よりも知識が重要になりつつあるためである。

もう1つは、起業が以前よりも容易になると共に、ICTベンチャー企業が短期間に成長することが可能になり始めているということである。Startup Acceleratorが成長を促しているのは、いずれも創業間もないものばかりであるが、短期間のプログラムを経た後、すぐに次の資金調達を行い、その後に大企業に買収される企業も生まれている。例えば、Startup Acceleratorの嚆矢となったY Combinator(YC)のパートナーであるPaul Grahamは、2011年5月に登壇したカンファレンスで、YCが当初500万ドル程度を投資したベンチャー企業の企業価値が既に30億ドル程度に上ると述べている。

今回我々が分析したStartup Acceleratorだけでも、それらのプログラムが生み出した、あるいは現在生み出しつつあるベンチャー企業は、すでに数百社を超える。今後しばらく、こうして生み出される企業が増加すると考えれば、ICT産業全体に影響を与える変化が生まれつつあると思われる。

ベンチャー企業とは、一般的には自らが創出したイノベーションを基に急成長するものである。起業の形が変わり始めているということは、イノベーションの発生方法が今までと異なるものになりつつあることを示す。今後、大手ICT企業やVCといったベンチャー企業に関わるプレイヤーは、こうしたICT分野におけるイノベーションの変容を踏まえて行動する必要があるだろう。ビジネスモデルを長期間吟味し、リスクを極力避けて新事業を開発するという、これまでの企業活動が変わろうとしている。

注釈

(*1) : 研究レポート「Startup Acceleratorの現状と展望 ―変化する起業の形から考える今後のICTビジネス― 」

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湯川 抗(ゆかわ こう)
(株)富士通総研 経済研究所 主任研究員
2005年東京大学工学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。1996年コロンビア大学大学院 修了(MS)。1989年上智大学法学部卒。
現在、SBI大学院大学教授、玉川大学経営学部非常勤講師、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、国際大学GLOCOM客員研究員などを兼任。
著書に、「進化するネットワーキング」(共著、NTT出版)、「起業の教科書」(共著、東洋経済新報社)など。