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韓国企業の競争力の源泉を正しく認識せよ

2011年10月26日(水曜日)

日本企業を凌駕する韓国企業

日本企業から技術を導入して発展し、あるいは日本企業をベンチマークしてきた韓国企業は、1998年のアジア通貨危機に伴う構造改革を契機に、グローバル市場で業績を大きく伸ばして台頭してきた。実際、韓国を代表するリーディング企業のパフォーマンス(売上高や利益率)は、「先生」であった日本同業を凌駕するレベルまで達しており、キャッチアップモデルを「卒業」し、新たな飛躍を模索する段階に入ろうとしている。

【図表1】日韓代表企業の経営パフォーマンス(2010年)
出所:グローバルフォーチュン500Web

  パナソ
ニック
サムソン
電子
トヨタ
自動車
現代
自動車
新日鉄 ポスコ
売上高(億ドル) 1,015 1,338 2,218 974 480 525
純利益(億ドル) 9 137 48 47 11 36
売上高利益率(%) 1.0 10.0 2.0 5.0 2.0 7.0
総資産利益率(%) 0.9 11.5 1.3 4.5 1.8 6.0

日本では、韓国企業の競争力は韓国政府の支援、国内独占的な産業構造、通貨ウォン安などに由来しているとよく耳にする。最近では、韓国政府による韓欧、韓米FTA推進で韓国企業の価格競争力がより優位に立つと、多くの日本企業は懸念している。確かに、上述した外部経営環境は、ある程度、韓国企業の経営パフォーマンスに影響を与えている可能性はあろうが、海外市場における韓国企業の経営活動や韓国トップ企業へのインタビューによる調査研究を通じて、韓国企業の競争力の源泉はむしろ、企業内部の経営力にあるのではないかと筆者は見ている。中でも、グローバル経営力、スピード経営力、技術経営力(MOT)はもっとも重要な競争力の源泉になっていると考えている。

グローバルなネットワーク経営力

韓国企業にとって自国市場は比較的小さく、労働力供給や資源・素材供給も限られているので、企業の成長は海外市場に求めるしかない。しかし、このような制約は、むしろ韓国企業がグローバル経営に踏み出す原動力になっている。日本企業の間では、自国の少子高齢化が企業の成長に不利であるという暗い話がよく聞かれるが、同じ自国の少子高齢化に直面している韓国企業の間ではこのような話はあまり耳にしない。なぜなら、韓国の有力企業が想定している市場範囲はワールドワイドであり、ワールドワイドで市場を捉えた場合、人口は増加する一方(現在の67億人から2050年は92億人に拡大する)なのである。

実際、筆者が調査した韓国企業、サムソン電子、LG電子、暁星グループ、ポスコの海外売上高(2010年)は、それぞれ総売上高の約83.5%、87.0%、70.0%、35.2%となっている。したがって、日本市場を軸にした大部分の日本企業の経営と違って、韓国企業は常に軸なしのグローバル・ネットワーク経営を余儀なくされており、サプライチェーンマネジメント、市場戦略、労務管理に関しては常にグローバル的なアプローチで取り組まなければならない。サムソン電子の「地域専門家育成制度」も、このようなグローバル経営戦略から生まれる発想であろう。特に、新興国などの成長市場への感性も日本企業より身につけられている。また、高い語学力が日本企業より要求されている理由も理解されよう。

オーナーに依存しないスピード経営力

日本では、韓国企業の意思決定の迅速さはオーナー企業だからであるとよく言われる。オーナー企業の意思決定は、日本のワンマン企業のように鶴の一声で行われると理解されているかもしれない。しかし、アジア通貨危機を契機に行われた構造改革は、韓国企業の所有構造を多様化させ、市場経済に見合ったコーポレート・ガバナンス構造に変身させており、意思決定はオーナー個人に頼るより経営トップ(チーム)に依るようになっている。例えば、かつて政府が出資したポスコは完全に民営化されており、今や外国株主が多く、その所有構造は非常に分散化されている。

仮に、オーナーが経営トップに立っている場合にも、経営トップが迅速に決定できるように、経営スタッフによる完成度の高いストーリーを用意する必要がある。実際、事務局と化している一部の日本企業の経営戦略室と違って、筆者が訪問した韓国企業の経営戦略担当役員や経営戦略室のスタッフは相当洗練されており、自社の経営戦略についてロジカルに語ってくれている。

また、韓国の有力企業は既にグローバルな巨大企業となっており、スピード経営を実現するためには、企業組織の透明性(権限・責務の明確化等)と構成員全体の迅速な判断と行動が必要である。日本企業のボトムアップの意思決定プロセス(しかし、多くの日本企業は円滑な下意上達組織にはなっていない)と比べ、韓国企業ではトップダウンの意思決定プロセスと風通しのよい組織、迅速に行動する構成員がうまく噛み合っているように感じる。実際、韓国企業の現場では、「Fast Strong & Smart」(速く、強く、賢く)が会社構成員の行動のキャッチフレーズになっている。

経営戦略をサポートする技術経営(MOT)

事業戦略と技術戦略の兼ね合いにおいて、韓国企業は基本的に事業戦略が優先される。経営戦略である事業戦略が決定されれば、次の技術戦略は、1)M&Aによるか、2)外部からのライセンスによるか、3)自社R&Dによるか、について比較検討して決定される。例えば、韓国のSKホールディングス(売上高784億ドル、韓国第3位の大企業グループ)では、1980年(化学分野)と1994年(電気通信分野)におけるM&Aによって飛躍を遂げた。現在、SKは、経営トップに直属する「Growth & Globalization」(GG)と「Technology Innovation Center」(TIC)を設置して、市場志向のアプローチ(GG)と技術志向のアプローチ(TIC)の両面から新成長戦略を模索している。技術志向のアプローチにおける技術ソーシングは、1)M&A、2)ライセンス(あるいはJV(joint venture)設立)、3)自社R&D、について比較検討して決定されるという。近年、サムソン電子も外部企業とのJV設立による技術導入を図っている。

一般的に日本企業は、技術戦略が優先され、社内の技術蓄積があるかどうかによって事業戦略が決定される傾向にある。また、日本企業の技術戦略は自社開発が中心となっており、また、技術経営(MOT)についても、成長戦略のためというより、研究開発の効率化、オープンイノベーション推進など、研究開発部門のマネジメントであると理解されがちである。

日韓企業のアプローチに優劣をつけることはできないが、成長戦略としての技術経営の視点からは、韓国企業のアプローチの方がより合理的であり、限られた研究開発のリソースも有効活用できると思われる。

また、韓国企業の研究開発部門は単に要素技術の開発にとどまらず、会社のM&A活動および外部からの技術ライセンス活動を技術的な側面からサポートするまで拡大しており、R&D部門と事業部門との連携が日本企業より密接になっている。

成長の持続に苦慮し始めた韓国企業

しかし、世界金融危機を契機に急成長してきた韓国企業の多くは、現在のビジネス・ポートフォリオで高成長を持続することはできなくなり、次の飛躍に必要なエンジン探しに苦労している。例えば、サムソン電子の売上高(ドルベース)は3年連続で足踏み状態になっている。LG電子の売上高はむしろ急減少傾向にある。また、現地調査では、成長ペースが落ちてきているSKホールディングスや暁星グループも次期成長分野を探すことに苦慮しており、鉄鋼分野で収益性や成長性が突出しているポスコでさえも、鉄鋼以外の次世代成長分野探しに真剣に取り組み始めている。これまで蓄積されてきた資本力の次期成長産業への投資(M&Aを含む)に攻勢をかけると考えられる。

また、市場攻略に経営戦略の重点を置いていたこれまでの経営手法に加え、技術力に成長のエンジンを求めていく戦略が明確になってきている。つまり、市場ベースの成長戦略一点張りから、市場ベースと技術ベースの両輪で成長を支えていく戦略に変わってきている。しかし、成長性と収益性を求め続けた韓国企業の技術力は、生産技術や製品開発・設計に偏っており、中長期的な成長戦略を支えていく基盤技術の蓄積や取り組みは緒に就いたばかりである。

基盤技術で優位性に立つ日本企業は、「技術で勝って、事業で負ける」という弱い体質が改善されなければ、技術力の優位性もいずれ韓国企業に抜かれてしまう。一刻も早く経営革新に取り組むべきである。

関連サービス

【調査・研究】


金 堅敏(Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。