GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. コラム >
  3. オピニオン >
  4. 現実を直視したエネルギー戦略

現実を直視したエネルギー戦略

2011年10月13日(木曜日)

1.崩れ去った原子力発電中心のエネルギー戦略

原子力発電を除く日本のエネルギー自給率は、たったの「4%」にしか過ぎません。食料の自給率が「40%」しかないとして、国家としての安全保障上の問題で騒がれている割には、エネルギーの自給率の問題が真剣に議論されたことは、これまであまり聞いたことがありません。これは、ある識者に言わせると、「4%」という数字が広く国民に知れ渡るとパニックになって暴動が起きるため、メディアも協力して国民にひたすら隠しているのだということです。

もちろん原子力発電にしても、ウラン燃料は100%輸入に頼っていますが、国家間の長期購入契約があり、またウラニウムを燃やした後に生成されるプルトニウムを不純化したMOX燃料を燃やすプルサーマル運転が本格化すれば、原子力発電に関しては日本は半永久的にエネルギーの自給化が可能となるという、夢のようなシナリオがありました。

さらに、鳩山元首相の、2020年までにCO2 25%削減というアグレッシブな宣言もあって、昨年7月に菅前首相のもとで発表された、2030年に向けての日本の新エネルギー戦略は、まさに原子力発電中心に展開がなされていました。つまり、2020年までに新たに9基の原発を新設し、日本全体の原発の稼働率を85%にまで高め、2030年までには、さらに14基の原発の新設を追加し、そして稼働率は90%にまで高めようとするものでした。

もちろん、この計画では、風力、太陽光を含む再生可能エネルギーを2030年までに現行の倍以上に増やし、CO2フリーの発電容量を原子力含め70%にまで高めるとともに、同じく原子力を含む自主(自給)エネルギー比率も併せて70%にするという、まさに「ばら色」の計画でした。それは2030年の原子力発電の総発電量に占める割合を50%まで高めるというものでしたが、よく考えてみれば、関西電力は現在、既に原発比率が48%にもなっているので、「2030年の日本」を既に先取りしていたことになります。

しかし、2011年3月11日の東日本大震災によって、その完璧なストーリーは脆くも崩れ去ってしまいました。「原発は絶対安全」という神話が崩れてしまったからです。私の中学の先輩でもある石橋克彦氏によると、東日本大震災は決して未曾有の災害でも何でもなく、この日本列島では度々ある普通の出来事のようです。それにしては、東京電力の安全対策は極めてお粗末でした。日本国民はもう二度と「原発の安全神話」を信じることはできないでしょうから、昨年のエネルギー計画で述べた2030年までに23基の原発を新設することは極めて困難となりました。

2.原発全停止は可能か?

さて、「原発はもう嫌だ」という国民感情はよくわかりますが、新設を止めるというのはともかく、現在稼働中の原発を全て止めるというのは可能なのでしょうか? 東京電力の総発電量に占める原発の割合は23%なので、需要者側も目一杯の協力をして皆で頑張ったら、ひょっとしたら可能かもしれない、という想像はつきます。しかし、関西電力の48%、九州電力の41%、北海道電力の40%、四国電力の38%という原発比率を見ると、明日にでも原発に依存しない社会を実現することは全く無理だと言ってよいでしょう。もう西日本は原発にどっぷり浸け込まれた社会になってしまったのです。

だからこそ、風力や太陽光による再生可能エネルギーを活用した発電を急いで増やすべきだと、菅内閣は最後に再生可能エネルギーの強制買取法案を決めましたが、実態はそう簡単ではありません。例えば、日本で少し前まで原発は53基稼動していたわけですが、原発1基分の100万キロワットを太陽光発電で置き換えると、いくらお金がかかるか、という試算をした人がいます。大体4兆円だといいますが、そう大きくは違わないでしょう。しかし、この際、安心と安全はお金には代えられない、借金をしてでも、いくらでも使ったら良いと言う方もおられるに違いありません。

それはそれで1つの意見ですが、原発1基分=100万キロワットを太陽光発電するために必要な土地は、東京の山手線の中の全ての面積が必要だと聞けば、原発を全て太陽光発電で置き換えるというのは、いかに実現性のない話をしているかお分かりになるでしょう。ちなみに、風力で100万キロワットを発電するには、山手線内3.5個分の土地が必要です。つまり、国土の狭い日本では、太陽光と風力だけで必要な電力を賄うことは全く無理だということです。地熱や潮力、小水力、間伐材を使ったバイオマスや、一括収集で集めた家庭ゴミを用いた火力発電など、いずれ枯渇するであろう化石燃料を代替するためには、考えつくありとあらゆる可能性をこれから追求していかなければなりません。

【図1】原発1基分=太陽光発電山手線敷地分=風力発電山手線3.5個分

【図1】原発1基分=太陽光発電山手線敷地分=風力発電山手線3.5個分

3.当面の有効策は天然ガス(LNG)火力発電

さて、風力や太陽光だけで減原発ができないとすれば、当面、最も有効な策は、天然ガス(LNG)火力発電です。もちろん、LNGも化石燃料なので、いずれ枯渇するし、燃やせばCO2も出します。しかし、石炭や石油に比べてCO2排出量が圧倒的に少ないことと、シェール(頁岩)の採掘が技術的に可能になったことで、採掘可能埋蔵量が飛躍的に増えています。とうとうアメリカが世界最大の産出国となりました。欧州でも、莫大な埋蔵量を有するガス田が次々と発見されていますが、世界に一番大きな影響を与えたのはアフリカです。アフリカの天然ガスは、これまで主としてアメリカに輸出されてきましたが、アメリカは天然ガスを輸入する必要がなくなりました。それで、アフリカ諸国は破格の安値で欧州への売り込みを図っています。

ご存知のように、これまで欧州は天然ガスの供給でロシアに大きく依存してきました。これがアフリカから安価に天然ガスを輸入できれば、不安定な政策を持つロシアに依存する必要がなくなるわけで、渡りに船です。さて、これで困ったのがロシアです。ロシアは、天然ガスの輸出に大きく依存した経済構造を持っています。ですから、ロシアは、今、天然ガスの売り込み先を必死になって探しています。金正日を呼んで北朝鮮経由で韓国に天然ガスパイプラインを敷くための交渉を始めたのです。韓国もそれに乗るために太陽政策に若干戻ろうとしています。あのメドベージェフ大統領が、突然、北方四島に来たのも領土問題だけではありません。そろそろ領土問題を棚上げにして天然ガスを含む経済問題を話し合いたいというサインです。

ロシアはサハリンで産出された天然ガスを北海道から東北を経由して関東までパイプラインを敷きたいのです。実際にかつて、そういう提案を日本政府にもしたといいます。でも、それは東京電力を始めとする電力業界が猛烈に反対したので断ったそうです。一体、何故でしょう? 実は、天然ガスの価格は石油より圧倒的に安いのですが、現地でマイナス160度にまで冷やして液化するプラントが必要であり、それを運ぶ専用タンカーが要ります。また、それを受け取る港湾は深度が深い特殊な埠頭が必要で、さらに超低温で保持する高価な貯蔵設備まで要ります。要は、LNGというのは原料単価は極めて安いのに、運搬と貯蔵費用がべらぼうに高いのです。従って、天然ガスを取り扱うことが出来るのは、東京電力や東京ガスといった、高価な設備投資が出来る大企業に限定されてしまいます。

ロシアから欧州各地まで、延々数千キロにもわたって天然ガスパイプラインが敷かれているのは、液化に伴う莫大なコストをセーブするためです。もし、サハリンから北海道、東北、首都圏まで天然ガスのパイプラインが敷かれたら、どうなるでしょうか? 十分なお金もない地方自治体でも、中小企業の工場でも安価なLNG火力発電設備が自分で出来てしまうでしょう。東京電力からも東北電力からも高い電力を買う必要がありません。日本のあるITサービス企業がインドネシアに大規模なデータセンターを計画しているのも、現地のタダみたいに安いLNGを使って自分で発電すれば、電力代だけで巨額のコストダウンが出来るからです。つまり、天然ガスパイプラインは、日本のエネルギー供給構造を大きく変えることになるでしょう。

東京都の石原知事が、独自にLNG火力発電所を作ると言い出したのは、エネルギー問題は民間だけの問題ではなく政府や地方自治体も深く関与すべき問題である、と言いたいのです。現に、フランスは原子力発電所の警備、使用済み核燃料の運搬と保管は全て軍の警備のもとで国が主体的に管理していますし、ドイツの送電網は全て国家と地方自治体が管理運営をしています。つまり、エネルギーは国家の安全保障の問題であり、民間企業に全て責任を持たせる話ではないとしているのです。

4.再生可能エネルギーを主役にするためのLNG火力発電

さて、原発をLNG火力発電に置き換えることは、地球温暖化問題、とりわけ、CO2削減問題に対して進歩なのか退歩なのか、ということをよく考えてみたいと思います。原発がCO2を出さないのに対して、LNG火力は石炭や石油に比べて少ないとはいえ、とにかくCO2を排出します。しかし、その道は険しいとはいえ、いずれ人類としては、再生可能エネルギーに大きく依存することを目標にしなくてはなりません。さて、その再生可能エネルギーの主役になるであろう、風力や太陽光は、なにしろ風任せ、お日様任せで、安定しないエネルギーです。もちろん、電池で蓄えることは出来ますが、全て電池というわけにもいきません。そうなると、再生可能エネルギーとベストミックスできる補完エネルギーが必要となります。

その意味で、出力固定の原子力発電では再生可能エネルギーの補完は出来ません。私もつい最近まで知りませんでしたが、原子力発電所には必ず複数の揚水発電所がペアで必要だということです。先日、会津から福島市へのドライブの途中で数多くの東京電力の揚水発電所を見ました。だから、今後、再生可能エネルギー比率を増やすためには、ベース電源を原子力ではなく器用に出力変動できる火力に置き換えなくてはなりません。そうすると、短期的に見て、CO2排出を増やすLNG火力発電所は、再生可能エネルギーを主力とする将来のエネルギー供給のベストミックスを図るためには絶対に必要な存在だということになります。

以上、電力供給側からの問題を取り上げましたが、消費側からの問題提起は、さらに多くあります。こうしたエネルギーに関する諸問題の解決には、多くの規制緩和が必要です。しかし、規制緩和は常に既得権者との戦いでもあります。韓国政府は済州島を、現在の経済特区から、さらに規制緩和を推し進めるために、中国における香港のように一国二制度化することを考えています。東日本大震災で、もはや何も失うものも無いほどの大被害を受けた東北地方に、ぜひ、この一国二制度を適用し、未来の日本を先取りした政策を施すのも一考だと思われます。

関連サービス

【調査・研究】
富士通総研には産業系シンクタンクとしての長年に渡る調査・研究・分析の実績があります。さらに、コンサルティング・サービスを通して培ったノウハウで「お客さまの現場で役立つリサーチ・サービス」を実現してきました。


伊東 千秋

伊東 千秋(いとう ちあき)
株式会社富士通総研 代表取締役会長
1947年生まれ、1970年 東京大学工学部電子工学科卒業、富士通株式会社入社、1998年 FUJITSU PC CORPORATION (USA) Chairman & CEO、富士通株式会社 パーソナルビジネス本部長などを経て、2001年~常務理事、執行役、経営執行役常務、取締役専務、2006年 代表取締役副社長、2008年 取締役副会長、2010年 株式会社富士通総研 代表取締役会長