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大震災で起こった3つの想定外

2011年10月12日(水曜日)

東日本大震災から7ヶ月が経ちました。地震と津波の惨禍の大きさもさりながら、互いに助け合い、耐え忍ぶ日本人の姿も世界に感動を与えました。通常このような大災害が起こると、先進国でも泥棒や窃盗事件、破壊行為が起こり、治安が悪化しますが、日本ではそのようなことがほとんどありませんでした。他方で、原子力発電所の爆発事故は政府や東京電力の不手際もあって、大気や海水に大量の放射能を撒き散らし、地域社会を混乱させたのみならず、日本が長年にわたって築き上げてきた「安全かつ安心な国」という貴重な無形資産を破壊してしまいました。この修復には十年単位の時間が必要でしょう。しかし、復興活動の過程で喜ぶべき想定外のことが起こりました。

1.早かったサプライ・チェーンの回復

産業が受けた影響は深刻でしたが、震災の結果、改めて分かったのは、日本の製造業を支えるサプライ・チェーンが国内のみならず、広く海外にも伸び、日本の工場が止まると米国や中国の工場まで止まる、ということです。日本の原料や部品の性能や品質が高く、容易には他社が複製できないことがはっきりし、日本企業の競争力が健在であることを世界に示した格好になりました。予想外だったのは、その回復の速さです。4月の経済産業省の調査では、7月末までに9割が回復、年末には完全に復旧する、というテンポでしたが、時とともに復旧は加速し、自動車などサプライ・チェーンが長い自動車も含め、8月末には震災前の生産水準に戻ったようです。これからは年度前半の遅れを取り戻すべく、更なる増産が続くでしょう。生産設備を破壊された企業は、韓国や中国企業に顧客を奪われてしまうのではないか、という懸念もありましたが、幸いそのような事例は聞かれていません。

2.為替は史上最高の水準に

もう1つ予想外だったのは、為替レートの動きです。これだけの大震災があれば、当然その国の通貨は安くなるはずです。まして我が国の場合、巨額の国の借金や高齢化など、不利な条件が揃っています。円が暴落してもおかしくない状況でしたが、実際には全く逆で、円高が加速しました。政府は各国とも協調し、為替市場に円安介入しましたが、その効果は数日で消えてしまい、今日に至るまで史上最高の円高水準が続いています。

その理由は、欧米先進国経済がこの春から我が国以上に悪化したからです。米国は雇用情勢と住宅市場の悪化が止まらず、さらに8月になって格付け会社が米国債の格下げを行ったため、 株価はさらに下落しました。ヨーロッパでは3年前から問題になっていたギリシャ政府の債務問題が収束するどころか、スペインやイタリア、さらにはフランスにまで広がる気配を見せ、投資家はユーロを売り始めました。このように、米国もヨーロッパも巨額の政府借金をコントロールできず、通貨不安になっていました。

かかる不安の背後には、経済問題のみならず、大統領や首相というトップの指導力不足と、我が国と同様、議会もねじれ現象を起こしており、大胆な決断を迅速に行うことができない、という事情があります。欧米が日本に似てきたわけで、最近「Japanification(日本化)」という言葉が欧米の経済誌に出てくるのはこのためです。こうしてドルもユーロも信じられなくなった投資家はとりあえず円に換えておこうという動きに出ます。

これが大震災にも拘わらず円が高くなる理由です。中国や韓国がいくら元気だといっても世界の投資家は円の方が安心なのです。「国家の品格」の為せる業かもしれません。輸出企業には苦しい話ですが、国力の象徴である通貨の価値が上がっているのは、決して悪いことではありません。

3.高い節電効果

3つ目の予想外は、節電の効果です。福島と女川の原発が停止したことで夏の電力不足が明らかになり、東京と東北電力管内で15%の電力使用制限が実施されました。これは9月9日に終了しましたが、実際には20%近い節電を実現し、設備稼働率も東京電力管内では90%を超えた日は1日でした。この経験を通じて、今まで照明や冷房などで無駄な電力の消費があったこともはっきりしました。もちろん休日の振替など無理な節電は止めるべきですが、電力制限令が解除されても節電の効果は永続的に続くのではないでしょうか。仮に半分の10%の節電が全国的に可能なら、それだけで原発20基分くらいになります。これから電力不足が長期にわたり見込まれる我が国にとっては貴重な朗報です。

【図1】東京電力管内の電力需要

【図1】東京電力管内の電力需要

東日本大震災は未曾有の大災害でしたが、その中から日本の強さを思い知らされるようなことも数多く起こりました。これを長期的な日本の国力につなげていけるか、それはこれからのわれわれの努力にかかっています。

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富士通総研には産業系シンクタンクとしての長年に渡る調査・研究・分析の実績があります。さらに、コンサルティング・サービスを通して培ったノウハウで「お客さまの現場で役立つリサーチ・サービス」を実現してきました。


根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2010年 経済研究所エグゼクティブ・フェロー
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など