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震災復興に向けた視点

2011年8月12日(金曜日)

今回の大震災災害の復旧・復興を早急に行うことは当然です。同時に、これまでの我が国の常識の延長上にはない新たな視点で対応を考えることが、再出発には不可欠です。そうした点から特に重要と思われる視点を2つほど挙げさせていただきます。

我が国ではこれまで、イデオロギーが強く対立し、簡単に解決し難い問題では思考を停止させてしまい、深く突き詰めて考えない、本質的な対策を取らないで済ませてきたことが数多くありました。対立を嫌う国民性が、対立点を覆って本質追求を避け、かえって傷を深めてきました。福島第一原発の事故は、そうした構図の一環をあぶりだしました。リスクがゼロの安全な原子力発電、使用済み核燃料の後処理もいずれは解決するから今は考えなくていい、机上で設計されたことは現場でその通りに運営されるはずだ等、当然気づいていたであろう科学技術界の「専門家」さえ思考停止を続けて問題を曖昧にし、一般の人の疑問を封印し、あまつさえ権威を押し付けてきました。

今、こうしたやり方を反省し、権威を盲信するのでなく、できるだけ自分や同じ疑問を持つ人と一緒になって客観的に物事を見て、突き詰めて考えようという動きが、じわじわと起こっています。この動きを、我が国の新たな思考態度として定着させる必要があります。その第一歩は、事実(エビデンス)を公表する、リスクを明示することから始まります。判断は我々が衆知を集めてチェックし合いながら責任自覚を持って行います。その時、ソーシャルメディアは、情報公開でも意見集約でも重要な要素になります。もちろん、専門家の力は必要ですが、上から目線でなく、衆知の一角として一般の人たちに寄り添ってエビデンスの解釈に参加することが求められます。不都合な事態が起こり得る確率と、それによる被害額・対策費のバランスを、イデオロギーに左右されず、じっくり考える土壌を新たに作り出すことを、我が国再出発の原点にすべきです。

成長局面から「縮小局面での復興のあり方」が第二の転換視点です。これまでの我が国の災害からの復興は、すべて成長局面での復興でした。成長する都市や大企業からの配分や高い乗数効果で復興投資は見合っていました。今回は、我が国がもはや成長を望めない国になって初めての大きな災害です。従来の発想で復興を行えば、数年を経ずに施設はできても、仕事がなく若者が去り、高齢化は一層進み、たちまち施設の過剰さとの戦いに陥るでしょう。

進む高齢化や市場規模縮小の中で求められる政策は、国際競争の中でも競争力を持って強く生き延びる企業・地域を支援する政策と、高齢者や弱者の生きる場としての職場を維持する政策とを明確に峻別しつつ同時に行うことが重要です。そうしないと両者とも弱くなり、共倒れになる恐れが強いのです。特に農業や漁業では、高齢者の職場を競争市場とは別に守りつつ、国際競争の中でも競争力を持って強く生き延びる企業や地域を峻別して、少ない資金を集中して支援することが大事です。それは阪神大震災後に港湾などの国際競争力が低下したことから学んだはずです。復興の先にある日本が、新たな環境変化に対応したものになっていなければ、災害に遭われた方々の犠牲は報われないでしょう。

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安部忠彦

安部 忠彦(あべ ただひこ)
1976年 東京大学理学部、1978年 東京大学大学院修了。学術博士(金沢大学)。
(株)三菱マテリアル、(株)長銀総合研究所を経て、現在、(株)富士通総研 経済研究所エグゼクティブ・フェロー。
専門調査・研究分野は、企業の研究開発活動、国、地方自治体の科学技術政策、産業調査(リーデイング産業、空洞化問題、国際分業問題)、技術経営、サービスイノベーションなど。