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  4. 原子力発電所稼動停止によるわが国経済への影響

原子力発電所稼動停止によるわが国経済への影響

2011年7月15日(金曜日)

1. 原子力発電停止による影響

震災から約4か月が過ぎたが、福島第一原発の問題解決の目処は立っておらず、今後のわが国のエネルギー政策に関しても不透明感が強い。今回の大震災を受けて、直接被害を受けた福島第一原発等の被災地域に存在する原子力発電所のみならず、他地域の原子力発電所においても定期点検後に再稼動できず停止状態にあるものが多数存在する。このままいけば、2012年春にはすべての原子力発電所が稼動停止状態となり、不足分を原子力以外の発電方式で供給する必要がある。ここでは、2012年にすべての原子力発電所が停止状態になった場合の電力価格、経済への影響および温室効果ガス排出量への影響に関して、世界モデルを用いたシミュレーションを行い、今後のわが国の対応のあり方を示す。

2. 原子力発電所稼動停止による電力価格および経済への影響

本シミュレーションではすべての原子力発電所が停止状態になると仮定した場合の影響評価を行っているが、ここで考慮する原子力発電所停止に伴う費用負担は、(1)まだ使える原子力発電所を稼動させない費用、(2)不足する電力を供給するための費用の2つである。原子力発電と他の電源との発電費用の差のみではなく、まだ使える原子力発電所という資本を活用しないことによる費用負担も考慮する必要がある(*1)

シミュレーションの手法としては、富士通総研経済研究所作成の世界動学一般均衡モデル(発電部門技術バンドル付)を用い、すべての原子力発電所の稼動停止による電力価格への影響を計算した。その結果、2012年時点で電力価格が19.4%上昇することが明らかになった。総務省「家計調査年報」によると、年間の電力料金の世帯平均支出が117,410円(2008年)であるので、世帯平均での年間の電力料金の上昇は22,778円(1,898円/月)(*2) となる。

エネルギー基本計画(平成22年6月)では、2030年までに原子力発電所の新増設14基、設備稼働率90%を実現し、電力の約53%を供給する計画であったが、今回の震災で、その実現は非常に難しくなった。このシミュレーションによる原子力発電所の稼動停止による電源構成の変化は【図表1】の通りである。再生可能エネルギー等も微増するが、多くはLNG及び石炭火力発電所によって不足分を補うこととなる。電力価格の上昇によって電力需要は低下(*3)するが、火力発電で不足分を補う結果、わが国の温室効果ガス排出量は2012年時点で、14.3%増加(*4) する。

電源構成(原発全廃)

【図表1】電源構成(原子力発電所の稼動停止による変化)

この電力料金の上昇がわが国経済にどういった影響を与えるのかに関しても検討を加えた。【図表2】は電力価格上昇による2012年におけるわが国経済への影響を示しているが、GDPは0.9%低下するとの計算結果となった。これはGDPに占めるシェアが最も高い消費の低迷(1.1%減)が最大の原因であり、消費の低迷が企業収益を圧迫し、国内の投資活動も停滞する(2.9%減)。他方、輸出は3.6%の増加となったが、国内市場の縮小により製品の海外輸出圧力が増大する結果である。

【図表2】原子力発電所すべてが稼動停止した場合のわが国経済への影響(年)

(*)ベースラインからの乖離を示す
(**)GTAPデータベース(第7版)
    2012年(*)     2004年(**) 
 変化率   (100万ドル)    比 率  
 消費  -1.1% 2,628,873 56.4%
 投資  -2.9% 1,094,961 23.5%
 政府  -0.6% 818,648 17.6%
 輸出  3.6% 655,702 14.1%
 輸入  -0.7% -539,445 -11.6%
 GDP  -0.9% 4,658,738

3. 温室効果ガス排出量への影響

現在は電力の安定供給が注目されているが、中長期的には気候変動問題への対応も忘れてはならない。上述のシミュレーションでは原子力発電所が全て稼動停止した場合の影響に関してのみ検討を行い、温室効果ガス排出量に関しては制約を設けていない。ここでは、原子力発電所がすべて稼動停止するとともに、2020年までに1990年比で温室効果ガスを25%削減する条件を加えた。すなわち本シミュレーションでは、(1)まだ使える原子力発電所を稼動させない費用、(2)不足する電力を供給するための費用、(3)再生可能エネルギーの普及など温室効果ガス削減を実施する費用の3つの費用を考慮する。その結果は電力価格2020年に72.5%もの価格上昇が生じるという極めて厳しいものとなった(*5)

【図表3】は、その場合の電源構成を示している。温室効果ガス排出量削減目標達成のためには、大幅に再生可能エネルギー等のシェアを23%にまで高める必要がある。

電源構成(温暖化)

【図表3】電源構成(温室効果ガス25%削減の条件を加えた場合)

原子力はエネルギー安全保障の側面のみならず、震災前は温室効果ガス削減策として最も期待されていた技術である。2030年までに14の新設、稼働率90%で電力の半分以上(53%)を供給すると期待されていた。しかし、その原子力発電所が稼動しない場合、再生可能エネルギーの普及、省エネの推進などで温室効果ガス削減達成する必要がある。

【図表4】は、経済への影響を示している。ベースラインと比較して2020年でGDPは、2.5%低下する。電力価格が上昇することにより、消費が低迷する(3.7%減)が、それとともに、輸入も大幅に減少する(12.0%減)。消費の低迷は、国内企業の収益を圧迫することとなる。輸出が増加(14.6%増)するが、これは先ほどと同様、国内の消費が低迷した結果、輸出圧力が高まるからである。国内での投資はわが国企業の収益低下と余剰設備のため、減少する(13.6%減)。

【図表4】原子力発電所すべてが稼動停止かつ25%削減を真水で達成する場合の経済への影響

(*)ベースラインからの乖離を示す
   2020年   2004年 
 変化率   (100万ドル)    比 率  
 消費  -3.7% 2,628,873 56.4%
 投資  -13.6% 1,094,961 23.5%
 政府  -0.4% 818,648 17.6%
 輸出  14.6% 655,702 14.1%
 輸入  -12.0% -539,445 -11.6%
 GDP  -2.5% 4,658,738

4. まとめ

まず検討すべきは、既存の原子力発電所の今後である。本シミュレーションで示したように、まだ使える原子力発電所を稼動停止させ、電力不足分を他の電源で補うことは、電力価格の高騰につながる。電力価格の上昇は国民負担を増やすのみならず、日本企業にも大きな負担を強いることとなり、海外に移転しやすい産業から日本を抜け出てしまう可能性も考えられる。しかし、「電力価格が高くなるので、原子力発電所を再稼動しましょう」では、原子力発電所のある地域住民のみならず、国民の納得を得ることはできない。国民のコンセンサスを得るとともに、日本企業の活力を削がない対応という非常に難しい問題に日本は直面している。

今後の原子力発電所の新設も重要な論点である。原子力発電所の建設は、天然資源の乏しいわが国のエネルギー安全保障の一環として進められてきた経緯がある。また、昨今では温室効果ガス削減手段としてもその重要性は高まっていた。しかし、今回の震災により、国民感情として原子力発電所の新設は非常に難しいものとなった。では、今後の電力供給として、これまで通り原子力発電所の新設を前提とするのか、太陽光、風力といった再生可能エネルギー活用の拡充を行うのか、明確に方向性を示す必要がある。

最後に、地球温暖化問題への取り組みに関してであるが、震災復興、原子力問題の解決、エネルギーの安定供給が重要であり、地球温暖化問題は二の次であるという指摘は尤もであるが、地球温暖化への対応を後退させることなく経済成長も実現していく戦略(グリーン成長)の可能性に関しても検討する必要がある。韓国政府は、GGGI(Global Green Growth Institute)を設立するなど、地球温暖化への取り組みを通じた経済成長のあり方を模索している。地球温暖化への取り組みの遅れは、将来関連する分野での競争力を失う可能性もあり、日本版グリーン成長の検討も重要である。ある調査(*6)によると、2018年までに代替エネルギーの世界市場は3,159億ドルに達するとの試算もあり、グリーン成長が復興の早期達成及び次世代の成長エンジンとなる可能性は十分にある。グリーン技術の研究開発促進、グリーン市場の創出など、わが国に適したグリーン成長戦略の検討が必要である。

注釈

(*1) : ただし、ここでは震災によって生じる賠償費用、今後の安全対策などの費用に関しては考慮していない。

(*2) : 標準家庭の月額電力料金を約6,000円とした場合、月の負担増は約1,164円である。

(*3) : 2012年時点でベースラインと比較して7.1%電力需要は低下する。

(*4) : ベースライン比。エネルギー起源の二酸化炭素排出量を対象とする。

(*5) : 温室効果ガス排出に対して単位量あたり同等の費用負担を行うものとして計算。

(*6) : J. Bennett, “Are We Headed Toward a Green Bubble?”, Entrepreneur (April 2010): 51-54.

関連サービス

【調査・研究】


濱崎 博(はまさき ひろし)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
MSt (Master of Studies) in Manufacturing, University of Cambridge, Wolfson College, the United Kingdom.
MSc (Master of Science) and DIC (Diploma of Imperial College) in Energy Policy, Imperial College Centre for Environmental Technologies (ICCET), Imperial College of Science, Technology and Medicine, University of London, the United Kingdom.
1995年 富士総合研究所(現 みずほ情報総研)入社、1997年 富士通総研経済研究所入社、2007年~2009年 国際公共政策研究センター出向、2009年5月~ 国際公共政策研究センター客員研究員。