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交易条件から見る韓国経済の影

2011年7月14日(木曜日)

勢いづく韓国

2018年の冬のオリンピックは韓国の平昌で開催されることになった。大統領まで動員した国を挙げての誘致合戦を戦い抜いた韓国国民は興奮状態のようだ。先ずはおめでとうと言わなければならない。このところ日本経済の低迷をよそに韓国の元気さが目に付く。韓国には電気産業のサムスン、LG、鉄鋼のポスコ、自動車のヒュンダイなど世界的企業があり、目下日本のソニーやトヨタ、新日本製鉄といった超有名企業をも打ち負かさんばかりの勢いだ。輸出のGDP比率は40%と、日本の15%に比べてかなり高く、わが国企業とは異なり、初めから世界市場を意識した戦略を立て実行している点は尊敬に値する。韓国の若者の英語力や外国への関心は日本より高い。このような韓国の目覚しい発展を見て、経済産業省は昨年「韓国室」を新設し、韓国の成功要因を学ぼうとしているほどだ。つい10年前まではその逆だったのだが。

急速に悪化する韓国の交易条件

本当に韓国は日本が学ぶべき成功モデルなのだろうか? 韓国の交易条件の動きを見ると、韓国経済のもう1つの側面が見えてくる。交易条件の著しい悪化だ。ここで交易条件とは輸出価格を輸入価格で割ったもので、自国の輸出品の値段が高くなればこの数字は上昇し、貿易によって得られる利益も増大し、国民生活も豊かになる。逆に輸入品が値上がりし、自国の商品の輸出価格が下落すれば交易条件は悪化し、国民の所得水準も低下する。【図1】を見ると、韓国の交易条件が顕著に悪化し続けていることがわかる。韓国は1997年にアジア金融危機を被り、IMFの支援を仰いで国内で様々な構造改革を大胆に実行し、急速に回復した。だが、交易条件はそれ以前から継続的にかなりの勢いで悪化している。すなわち、輸入価格の上昇に対して輸出品の価格が下落し、同じだけの輸入をするために20年前の3倍もの輸出をしなくてはならない。これはわれわれの直感とも合致する。韓国は日本と同様に資源の無い国だ。原油や鉱物資源や食料など大半を輸入しなくてはならないが、そのような資源の価格は傾向的に上昇している。それに対して、輸出品は電気製品や自動車、鉄鋼など、価格競争が激しく値段が上げられない商品だ。もちろん、これらの製造品は生産性の上昇も速いから、価格が下げるのも合理性がないわけではない。

【図1】日本、韓国、米国、ドイツの交易条件

【図1】日本、韓国、米国、ドイツの交易条件

ドイツ、米国では交易条件は悪化していない

だが、もし原材料に乏しく製造業中心の経済では交易条件の悪化が避けられないとしたら、米国やドイツで交易条件の悪化が見られないのは何故だろうか? 米国は穀物や農産物などの輸出国だが、それでも輸出の2/3は製造品である。ドイツは日本や韓国同様、原材料や資源エネルギーを輸入して製造業完成品を輸出する貿易構造だが、交易条件の悪化は見られていない。輸入品の価格が上昇しても、輸出品の価格も引き上げており、利益を確保している。この図には入れていないが、スイスやスウェーデンのような強い製造業を持った国でも、わが国や韓国ほどの交易条件の悪化は見られていない。長期にわたる交易条件の悪化は韓国と日本に特有の現象のように見える。

特に電気機械と鉄鋼で交易条件の悪化が酷い

このように、同じ製造業中心の経済でも交易条件を維持できている国と継続的に悪化している国との差はどこから来るのか? それを解く鍵が【図2】である。これはわが国の交易条件の変化を主要産業について見たものだが、ここでは交易条件は産出価格を投入価格で除した指数である。この指数が下落しているということは原材料や中間品などのコストアップに対して販売価格がついていけず、賃金や企業利益などの付加価値が圧縮されていることを意味する。この図から明らかなことは、交易条件の悪化はすべての輸出産業で起こっているのではなく、電気機械と鉄鋼に顕著に表れており、それ以外の産業では悪化の度合いが少ないか、ほとんど悪化していない、ということだ。韓国の場合、輸出産業が電気機械と鉄鋼に日本以上に偏っているため、交易条件の悪化も顕著になったのではないか。

鉄鋼の交易条件悪化は理解しやすい。2004年頃から顕著になっているが、それは鉄鉱石や原料炭などの原料の急激な値上がりによるものだ。中国を始め東南アジア、中東、南米など世界中の発展途上国が成長を加速させ、その結果、鉄鋼原料への需要が急増したが、供給元は豪州とブラジルしかなく、原料価格が急騰した。鉄鋼企業としては当然製品価格も値上げしたいところだが、国際的な競争の中で製品の値上げは難しく、賃金や利益を犠牲にする以外に対処の術が無かったのだろう。韓国も同様の事情ではないかと思われる。

【図2】悪化する日本産業の交易条件

【図2】悪化する日本産業の交易条件

特に交易条件の悪化が著しい電気機械

電気機械産業はもっと根本的な問題に直面した。既に80年代からアジアにおける電子産業の勃興は始まっていた。繊維や雑貨から始まって、労働集約的な組立産業は賃金の安いアジア諸国に次々と移転し、電気機械産業もその例外では無かったが、かかるアジアへの生産拠点移転を積極的に進めたのは欧米の多国籍大企業である。設計やデザイン、研究開発や基幹部品は自国で生産しつつ、組立工程はアジアの低賃金国に移転することで価格競争力を高めたが、アジア諸国も自国の経済発展のため、先進国からの直接投資を積極的に受け入れた。すべてを自社で国内生産する日本企業はこのような流れに遅れ、価格競争力を失っていくことになった。このような傾向は情報革命が進んでデジタル技術が主流になった90年代後半以降、特に顕著となった。いわゆるモジュール化と水平分業が世界規模で進み、IT機器の急速な値下がりが始まったのである。その結果、わが国の電気機械企業も製品価格を引き下げざるを得ず、交易条件は悪化することになった。このような傾向は、すり合わせ技術を中心とする自動車や精密機械、一般機械ではそれほど見られていない。売って終わりの商売ではなく、売った後にサービスや保守で顧客を囲い込み、長期にわたる利益回収が可能なビジネスモデルが構築されている。

価格競争を避ける欧米企業

ドイツや米国などの先進国では企業は利益確保を日本企業よりも重視しており、自社製品のコモデティ化や新興国企業との価格競争は避けるという戦略がはっきりしている。鉄鋼では特殊鋼など高機能の鋼材に特化し、電気機械産業では値下がりの止まらないIT機器事業からはほとんど撤退してしまい、エネルギーや医療、環境など、システムやインフラ事業に経営資源を集中させている。日本企業はモノづくりへのこだわりが強く、結果的には韓国や中国などとの果てしない価格競争から脱することが出来ず、賃金カットや利益の圧縮により辛うじて生き永らえてきたが、それも限界に近づきつつある。薄型テレビや携帯電話、パソコンなどはほとんど海外に移転し、国内で残っているものは僅かだ。韓国はかつて日本が得意とした規格大量生産を、日本を上回る効率で実現したが、その結果は交易条件の悪化という犠牲をもたらした。日本からお株を奪った薄型テレビや携帯端末などではこのところ中国企業が韓国企業を脅かすほど成長し、サムソンの収益も悪化し始めている。韓国企業も今のやり方では遠からず日本が辿ってきた衰退の道を追うことになるのではないか。

為替レートの持つ意味

交易条件を決めるもう1つの要因は為替レートだ。例えば今、円高になったとすると、輸入品は円に換算すれば値下がりするので、輸出品は円建て価格を変えなければ交易条件は改善する。つまり輸入品の価格が下がった分だけ国民生活は豊かになるのだが、円高のため日本の輸出品は外国通貨建てでは高くなって売れなくなる。企業は円建ての価格を下げて海外市場での競争力を維持しようとするだろう。このように輸入品も輸出品も共に値下がることになるので、交易条件はあまり変化しない。逆に円安になれば、輸入品の円建て価格は上がるが、他方で輸出品の価格も円安の分だけ円建て価格を引き上げても、海外市場での価格は変わらない。輸出価格も輸入価格も上昇する結果、交易条件はそれほど変わらない。こうして為替レートは変動しても交易条件は変わらない、という状況が想定される。実際に【図1】で見るように、ドイツと米国では為替レートは日々変動するのに、交易条件はほとんど変わっていない。

しかしながら、輸出企業にとっては自国通貨が安いほうが商売は楽だ。競合する外国からの輸入品は値が上がるし、輸出品は自国通貨建ての価格を据え置けば、外貨建てに換算すれば値下がりして外国市場では価格競争力が高まることになる。もちろん、このとき交易条件は悪くなるのだが、自社製品にとっては好都合なのである。こうして輸出依存度の高い国では自国通貨を安くしたい願望に駆られる。日本の経団連が円高になると騒ぎ始めるのも同じ理由だが、韓国の場合、ウォンの名目実効為替レートをBISのデータベースで見ると、1997年のアジア通貨危機の際に大幅に下落したが、それ以降も低い水準が続き、元の水準に戻っていない。最近時点でも危機以前と比べると20%くらい安い水準にとどまっている。言い換えれば、韓国は自国商品の安売りをしていることになる。これでは、輸出は増えGDPは成長しても、交易条件は悪化し、韓国国民の所得の向上にはならない。 

日韓の貿易は圧倒的な日本の黒字

韓国産業の急速な拡大で日本の産業が脅かされている、というのはわかりやすい話ではあるが、必ずしもそうでもないようだ。日韓2国間の貿易を見ると、日本の対韓輸出は韓国の経済成長とともに増えているが、韓国の対日輸出はそれほど増加していない。日本企業が韓国に生産拠点を移せば、そこに向けて国内の原材料や部品の輸出が増える。韓国企業自体も日本の部材に頼っている面もあろう。これに対して韓国が日本に売れるものは完成品の電子製品や自動車などになるが、日本経済が停滞気味なのと、韓国品に対する日本国民の嗜好が強くないことが原因であろう。その結果、韓国の対日貿易赤字は拡大している。韓国側はこの点を不満に思っており、それが日韓自由貿易交渉に対して韓国が乗り気にならない1つの理由である。

韓国企業の決断力、行動力、選択と集中の徹底など、日本の経営者が見習うべき長所は多くある。だが、韓国も日本と同様に規格大量生産が中心で、ソフトやサービス、システムやインフラといった分野では欧米企業に遅れている。そして、今、成功している分野でも遠からず中国を始めとする近隣アジアの新興国の挑戦を受けることになろう。今までは交易条件を悪化させることで競争力を維持してきたが、それでは国民所得の向上は実現できない。このようなやり方はわが国として真似すべきではなく、また真似したくても出来るものでもない。わが国は耐久消費財の大量生産ではなく、環境や医療、システムやインフラ整備などの分野で高い付加価値を狙ったビジネスに転換し、低価格ではなく提供する商品やサービスの顧客価値で競争力を向上させていく必要がある。

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富士通総研には産業系シンクタンクとしての長年に渡る調査・研究・分析の実績があります。さらに、コンサルティング・サービスを通して培ったノウハウで「お客さまの現場で役立つリサーチ・サービス」を実現してきました。


根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2010年 経済研究所エグゼクティブ・フェロー
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など