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東日本大震災からの復興に向けての意見(2)

クラウドで災害に強い自治体システムの構築を

2011年5月6日(金曜日)

1.災害で明らかとなった自治体の弱点と注目されるクラウド

今回の災害はその規模や範囲において「想定外」という言葉が使われるが、自治体における防災や情報システムに関わる者にとっても、あらゆる意味で想定外のことが起きたといえる。例えば、防災の拠点となる自治体の庁舎そのものが被災し、自治体間を結ぶ防災用の行政無線も使えなくなり、災害対応へと出動する自治体職員の多くが被災したことも想定を超えていた。そして、多くの地域で固定回線や携帯電話がつながらなくなり、衛星回線以外の情報通信が完全に不通となった。地方法務局で保管していた戸籍副本などによって戸籍を復元したものの、宮城県南三陸町、女川町、岩手県陸前高田市、大槌町の4市町で庁舎が被災して戸籍の正本が流されたという事実は、今後このような事態も想定しなければならないことを我々に突きつけたのである。

その一方、民間ではいち早くクラウドで安否情報提供システムを立ち上げ、家族や親族などの安否情報を求める人々の要請に対応していった。Googleの「Person Finder(消息情報):2011日本地震」、赤十字国際委員会と日本赤十字社による「ファミリーリンク・ネットワーク」、twitterを使って収集した情報の提供、避難所の名簿情報の提供など、あらゆるクラウドを利用した支援サイトが立ち上がり、クラウドサービスの迅速さは目を見張るものがあった。

また、災害からの復興を支援するため、クラウドサービスを無償提供するという事業者が続々と名乗りを上げた。いずれも、システムを迅速に立ち上げることができ、急激なアクセス集中による負荷にも対応でき、情報はデータセンターで安全に管理されることが強調されている。特に外資系の事業者は、電源を安定供給でき、災害の心配がない海外のデータセンターが利用できることを謳い、災害や電源供給の不安に応えられるサービスとしてクラウドが一躍注目されることとなったのである。

2.被災の特徴とクラウドの強み

災害に対応する自治体の視点から、今回の大震災による被災の特徴を整理し、クラウドが災害に対してどのような強みを持っているのかを整理してみる。

(1)自治体庁舎の被災

通常は災害対策の拠点となるべき自治体の庁舎自体が被災するという事態になった。庁舎が耐震構造になっていても、電算室が水没すればコンピュータ機器や耐火金庫に保管されているバックアップデータのダメージはかなり大きい。システムを復元するとなると、遠隔地の外部施設に定期的に保管しているバックアップデータから復元しなければならない。

クラウドの場合、自治体庁舎が被災しても職員が他の施設でパソコンや通信回線を確保してクラウドのデータセンターにアクセスすることにより、業務を継続できるというメリットがある。クラウドのデータセンターとしては物理的に堅牢であることのほか、立地としては自然災害が少ないことが条件となる。また、今回の教訓から学ぶとすれば、原発から距離が離れていることも選択の条件になるだろう。さらに万が一を考えて、立地が異なる複数のデータセンターに物理的にコンピュータ資源を分散させる仕組みにしておくことも、より確実なリスク分散になる。

(2)自治体職員の被災や職員の不足

今回の災害では、多くの職員が被災した。被災を免れた職員は、まず住民の安全確保と安否確認に駆けつけ、被災者の当面の生活を支えなければならない。少ない職員で、住民の安全を確保するだけで手一杯の状況だと推測される。災害時の混乱が一段落しても、被災者の支援などでなかなか業務にまで手が回らない。このような場合、他自治体の職員が他所からデータセンターにある被災自治体のシステムに緊急支援のアクセスを行い、被災自治体の業務運用を支援することができる。特に、自治体業務のクラウド化で業務が標準化されていれば、より効果的に支援できるだろう。

また、交通手段が限られた地域で道路損壊などによって職員が孤立したり、交通機関のマヒ等で通勤できなくなったりというケースもあっただろう。このような場合でも、電源と通信回線が確保できれば、クラウドのデータセンターに接続することで自宅のパソコンなどでも業務が継続できる。

(3)自治体の移転

二次災害である原発事故による放射能汚染により、福島県の自治体では自治体機能を移転せざるを得なくなった。埼玉県加須市へ移転した双葉町をはじめ、大熊町、浪江町、富岡町、楢葉町、広野町、葛尾村、川内村の7町村が県内の地域へ移転している。

自治体が移転するとなれば、コンピュータシステムも同様に移転しなければならない。しかし、システムがクラウドのデータセンターに構築されていれば、システムを移転することなく、端末を回線経由でセンターに接続するだけで業務を継続することができる。

それだけでなく、自治体そのものが移転するような事態にあっては、移転先の自治体との調整、住民に対する生活の支援など職員の負荷が非常に大きくなる。このような場合は、前述したように他自治体の職員が他所からデータセンターにある被災自治体のシステムに緊急支援のアクセスを行い、業務支援をすることが可能となる。

(4)電力供給のストップ

広範囲に渡って電力供給がストップし、自治体のシステムが停止せざるを得なかった。UPS(無停電電源装置)を備えている自治体は多いが、自家発電装置まで準備している自治体は少ない。被災地以外でも、計画停電によって東京電力管内の多くの地域で停電が発生したことも記憶に留めておかなくてはならない。

データセンターでは通常、自家発電装置を備えているため、停電などがあっても対応でき、計画停電の影響も無い。停電が長引いた場合の燃料確保の問題については、別系統の電力会社が供給する複数のデータセンターにコンピュータ資源を物理的に分散しておくことで対応できるだろう。自治体側では、自家発電装置と端末・通信回線を確保できれば、業務を継続することができる。

3.クラウドの課題

このように万能のように見えるクラウドだが課題もある。クラウドのサービスは通信回線経由で提供されるものであり、今回のように有線や無線の回線がことごとく断絶した場合にはサービスの提供ができなくなる。総務省の発表によれば固定回線は最大で約100万回線が利用できなくなり、携帯電話基地局も最大で約14,800局が停波した。輻輳などによる影響だけでなく、地震や津波による基地局の被災や電源供給が途絶えたことによる停波が原因である。庁舎が被災したところでは防災用の行政無線も使えず、実質的に衛星回線以外の情報通信が完全に不通となった。

回線の断絶についてはクラウド化で対応できず、自治体や避難所となる学校など災害時の重要拠点には、衛星回線などの通信手段や発電機を配備し、いざという時の通信手段を確保しておかなくてはならない。

また、地震、津波、火山、台風、水害などの自然災害のリスクをなるべく避けたいとするなら、外国のデータセンターを利用するという選択肢もあるだろう。しかし、外国のデータセンターを利用すると、別の意味での課題に直面する。紛争やテロなどのリスクが新たに発生し、データセンター内のデータについては、日本の法律の制約を受けないという問題もある。

このような課題があることも踏まえた上で、クラウドを活用した災害に強い自治体システムの構築を提案したい。

4.災害に強い自治体システム構築の提案

(1)自治体業務のクラウド化推進

通常、自治体では日常業務のバックアップデータを電算室内の耐火金庫に保管しており、重要なデータについては定期的に遠隔地にある民間会社の外部倉庫等に保管するという運用を行っている。しかし、重要なデータを守り、必要な時にすぐにシステムを起動して情報を使うためには、自治体の基幹業務のクラウド化が必須である。

前述したように、自治体が個々に災害対策をするのではなく、堅牢なデータセンターにクラウドシステムを構築すれば、地震などの自然災害だけでなく停電などにも対応できる。自治体では発電機と端末、通信回線を確保しておくだけで、業務を継続することができる。

そして、庁舎が被災しても、被災していない施設でパソコンや通信回線を確保すれば業務が継続でき、職員が遠隔地にいる場合でも業務を続行することができる。職員が不足した場合にも、遠隔地の他自治体の職員に回線経由で業務の支援を依頼することもできる。また、被災者情報データベースなどのように急遽必要になったシステムを迅速に立ち上げることにもクラウドは適しており、トランザクションの急増にも耐えられる。

基幹業務以外の非定型的な自治体業務については、依然として紙ベースで運用されているケースがある。これらについては極力電子化を推進し、クライアント側ではなくファイルサーバで情報を管理するように変えていくべきである。ファイルサーバは遠隔地の堅牢なデータセンター内に設置することにより、情報の喪失を回避し、業務を継続することができる。クラウド型のシステムを構築する必要はないが、クラウドと同じ発想で情報はすべてデータセンター内のファイルサーバに格納し、そこにアクセスして事務処理を行うよう、業務運用のあり方を変えていくべきである。

(2)クラウド型戸籍ネットの構築

今回、特に問題となったのは戸籍システムである。岩手県南三陸町では戸籍データが消失したと報じられた。南三陸町では戸籍を電子化していたが、庁舎が壊滅状態となり、副本を管理していた仙台法務局気仙沼支局も津波で水没したからだ。後に気仙沼支局の戸籍の副本は間一髪流失を免れたことがわかり、戸籍は再製されたが、戸籍が流失していれば相続などの事務手続きがすべて滞るところであった。

戸籍の管理は戸籍法によって厳格に定められ、第8条で「正本は、これを市役所又は町村役場に備え、副本は、管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局がこれを保存する」となっている。さらに、戸籍法施行規則第7条では「戸籍簿又は除籍簿は、事変を避けるためでなければ、市役所又は町村役場の外にこれを持ち出すことができない」とされており、一部事務組合を設置して管理しているケース以外、戸籍のサーバを庁舎外に設置しているケースはほとんど無い。一部の自治体が管轄法務局と交渉を行い、既存の規制の範囲内でバックアップサーバを庁舎外に設置することが可能であるとの判断を引き出し、データセンターへの設置に踏み切ったのは3年前であり、ほとんどの自治体では副本を法務局で保存しているに過ぎない。

戸籍については、これまでも住基ネットのような戸籍のネットワーク化が構想されたことがあったが、自治体での電子化がまだ進行途中であったため、実現に至らなかった。しかし、現在では全国自治体の85%以上が戸籍システムを導入しており、ネットワーク化の条件が整ってきたといえる。住基ネットのように全国ネットワークを構築し、常にバックアップできるシステムとすべきである。

さらに戸籍については、住基ネットのような各自治体のシステムを接続するネットワークではなく、全国で1つのデータセンター内にデータを格納し、業務アプリケーションを稼働させるクラウド型のサービスを構築することを提案したい。というのは、戸籍の業務は業務運用が厳格に定められているため、自治体ごとのシステムの差がほとんど無いからだ。他の業務のように自治体によって帳票やデータ項目が異なることもなく、業務自体が標準化されているため、アプリケーションが一本化しやすく、コストメリットが大きい。さらに、業務を行う上でも、住民情報と異なって、本籍地で戸籍を管理しなければならない理由が無い。国籍と身分関係を証明する台帳のため、本籍地は全国どこに設定しても自由であり、全国で1つのデータベースで管理すれば(セキュリティ上物理的に分散するとしても)それで十分である。

それだけでなく、戸籍のクラウド化は国民にとっても大きな利便性を提供する。通常、居住する自治体以外の自治体に本籍地を有している国民は多く、遠隔地(本籍地の自治体)で管理している戸籍謄抄本および戸籍附票を入手するという行政手続きは非常に煩雑である。このような手続きに煩雑さを感じ憤っている国民は多いと思うが、生涯で頻繁に生じる手続きでもないので忘れがちである。これを機に、戸籍のクラウド構築を是非とも推進すべきである。

今回の災害では安否確認で住民情報が利用できないという事態が発生し、総務省の通知により県が慌てて条例を制定し、県下市町村へ本人確認情報を提供した。クラウドで迅速にシステムが構築できても、そこで使うデータが法律によって規制されて使えないようでは、クラウドの技術は活かせない。このような観点からも、災害時における自治体の情報システムの再点検が必要だろう。以上のようなクラウドを切り口とした視点が、災害に強い自治体システムの構築の一助になれば幸いである。

シリーズ

【東日本大震災からの復興に向けての意見】

(1) 復興財源は「埋蔵金」によって捻出できる

(3) 原子力発電を何で代替するか? ~「第4の道」としてのスマートグリッドの推進を~

関連サービス

【調査・研究】


榎並 利博(えなみ としひろ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
1981年富士通株式会社に入社、住民票システムや印鑑登録証明システムなど自治体のあらゆるシステム構築に従事する。96年から株式会社富士通総研に出向し、電子政府・電子自治体、地域活性化、行政経営に関する研究やコンサルティングを数多く手がける。また、政府委員会委員、研究機関の委員会委員などを歴任。主な著書『住基ネットで何が変わるのか』、『電子自治体 パブリックガバナンスのIT革命』、『電子自治体-実践の手引』、『自治体のIT革命』など多数。