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成果主義と社員の健康はどのように関係しているのだろうか

2011年4月20日(木曜日)

はじめに

近年、団塊世代の定年退職および労働力人口の減少を契機に、企業における人的資源の維持・管理はますます重要性を増しており、企業経営者の直面する喫緊の課題であろう。人的資源の強化は、労働生産性の向上により企業の業績に直結するのみならず、企業の持続可能性に関わる大問題である。人的資源の強化として、社員の健康管理は社員の教育と並ぶ重要なポイントとなる。

一方で、日本企業の経営環境は大きく変化し、短期的な成果が求められるようになった。雇用形態において、終身雇用を前提とした年功序列型の賃金体系から成果主義導入が進み、企業内格差は拡大したと考えられる。このような中、社員の健康への影響を把握し、長期的な視点から、経営を考え直す必要がある。

雇用環境の変化

近年、日本企業の経営環境は大きく変化した。グローバル化の進展、株式持合の解消の進展から、株主構成に変化が生じた。その結果、長期的な成果よりも短期的な成果が企業経営者に求められるようになった。雇用形態においても、終身雇用を前提とした年功序列型の賃金体系から成果主義導入への変化が進んだことが指摘されている。企業内での賃金格差、特に同一年齢内の賃金格差が拡大したと考えられている。

【図1】は実データを用いた企業ごとの賃金所得の格差の変化を示している。2003年度から2007年度までの観測期間において、企業内格差が拡大した企業が7割近くあることが確認された。企業内の格差として、6割の企業が年齢間格差を縮小したのに対し、年齢内格差を拡大した企業が8割近く存在する。

従来の日本の賃金体系は、年功序列の賃金体系であり、企業内の年齢内格差は小さく、年齢間格差が大きいと考えられていたが、【図1】の結果からは、従来型の賃金体系から乖離し、成果主義導入が進んでいることが示唆される。

企業内賃金格差の変化

【図1】企業内賃金格差の変化

社会的環境と健康

社会疫学の観点からは、社会的環境が健康へ与える影響が指摘され、地域単位での研究が行われてきた。そして、社会疫学の既存研究では、賃金所得の高い地域ほど健康状態が良く、賃金所得の格差が小さい地域ほど健康状態が良いということが確認されている。

我々は、社会的環境として職場環境に注目する。勤労者にとっては、居住する地域以上に職場環境との関わりが強く、社会的環境として、勤労者の健康に大きな影響を与えうると考えられるからである。また、職場環境として、賃金所得の格差に注目する。勤労者は、前述のような賃金体系の変化に直面しており、健康へ与える影響を把握することが重要である。

成果主義の導入は、インセンティブ・メカニズムとして有用であると指摘される一方、さまざまな弊害も指摘されている。社員の健康を害するような弊害は引き起こされていないのだろうか。勤労者の健康へ影響を与えうる社会的環境として、その効果を検証する。

実証分析の方法と結果

ここでは、職場環境と勤労者の健康の関係を分析するために、健康保険組合の月次報告データを用いた分析結果を紹介する。健康保険組合の多くは企業単位で構成されており、2003年度から2007年度までの1500の健康保険組合の月次報告が厚生労働省への情報公開請求により入手可能である。

このデータを用いることによって、【図1】のような企業内の賃金格差の他に、職場環境を表わす指標を測定することが可能であり、社員の健康を表わす指標を測定することが出来る。企業内の賃金格差は標準報酬月額等級の分布から測定し、社員の健康を表す指標として長期休業率や死亡率(*1)を測定する。

分析の結果、職場環境と社員の健康の間には、強い関係が存在することが確認された。企業内の格差として、年齢内格差が大きい企業ほど、社員の健康状態が悪いことが確認された。成果主義の賃金体系導入によって社員の健康を害するという弊害が生じていることが示唆される。

【表1】社員の健康と職場環境の回帰分析結果

+(-)は長期休業率や死亡率を統計的有意(5%水準)に増加(減少)させることを意味する
  平均給与 平均年齢 女性比率 企業内格差(男性) 企業内格差(女性)
年齢内 年齢間 年齢内 年齢間
長期休業率
死亡率

健康と生産性

社員の健康管理は、企業における労働生産性の向上や人的資源の維持・管理の観点から、経営者の重要な課題となる。社員の欠勤・休業による生産性の低下のみでなく、出勤時に体調が悪ければ集中力が落ちるなど、仕事の効率が悪くなることが予想される。

従来の日本経営では、終身雇用に基づく人的資源の確保により、長期的な成長のための基盤となっていた。企業の長期的な成長のためには、人的資源の維持・管理の視点が重要であり、団塊世代の定年退職および労働力人口の減少を契機に、その重要性は増してきている。

実証分析の結果からは、短期的な成果を目的として導入された成果主義の賃金体系は、社員の健康を害していることが示唆されている。社員の健康を維持して、長期的な成長を実現させるために、日本の従来型の経営のメリットを再認識する時が来ていると言えよう。

注釈

(*1) : 疾病に伴う長期休業で賃金補償されない被保険者への傷病手当金支給率から長期休業率を算出し、死亡した被保険者への埋葬料支給率から死亡率を算出する。

関連サービス

【調査・研究】


斎藤上級研究員

齊藤 有希子(さいとう ゆきこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2002年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、理学博士(東京大学)、富士通総研経済研究所入社、2006年 経済産業研究所 研究会委員、2008年 一橋大学経済研究所 特任准教授。


河野顔写真

河野 敏鑑(こうの としあき)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
2006年 (株)富士通総研経済研究所入社。
2010年 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学)。東京大学産学コンソーシアム「ジェロントロジー」に参加。
専門領域は公共経済、社会保障・医療経済。