GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. コラム >
  3. オピニオン >
  4. 東日本大震災が被災地以外の企業へ与える影響

東日本大震災が被災地以外の企業へ与える影響

~被災地企業との取引ネットワークによるつながりを意識せよ~

2011年4月15日(金曜日)

はじめに

千年に1度と言われる未曾有の大震災からひと月経過した。今なお余震が続き、被災地における救助活動、原子力発電所の事故への対応、放射性物質による汚染など、多くの問題が解決できずにおり、国全体の重要な課題である。

このような中、被災地以外の国民は長期的な視点から復興を考え、日本の活力を維持すべく経済活動を続けるべきである。まずは、被災地以外の地域における震災影響を正確に把握することが重要であろう。

東日本大震災の影響

被災地の企業においては、設備の崩壊などにより、物理的に生産活動を行えない企業が多いであろう。企業信用調査の会社である株式会社東京商工リサーチは、青森県、岩手県、宮城県、福島県の太平洋沿岸の44市区町村を被災地と考え、震災被害の影響として、被災地の企業の数や売上規模、従業員規模などを分析している。この分析によると、被災地の企業数は3万2,341社、従業員総数は36万3,796人であるとしている(*1)

しかし、震災被害の影響は被災地の企業のみでなく、被災地以外の企業にも大きな影響があると考えられる。例えば、仕入先の企業が被災地にあり、生産活動を行えなくなれば、他の仕入先を見つける必要があろう。仕入の製品が特殊な技術を要するなど、仕入先が他の企業に代替不可能な場合には、被災地以外の企業までも生産活動を行うことが出来ず、同じく致命的な被害を受けることとなる。また、販売先が被災地である場合には、新たな販売先を開拓しなければならないだろう。

被災地の取引先を持つために、震災の被害を受ける企業は被災地以外にも多く存在すると考えられる。さらに、取引先の取引先が被災地にあるなど、企業自身が認識していないうちに、震災の被害を受ける可能性も考えられる。

取引ネットワーク構造の重要性

企業の取引活動が地域を越えて行われていることは自明なことであろう(*2)。企業間の取引関係を通じて地域を超えた震災被害の大きさを分析する上で重要な視点は、企業間の取引ネットワークの構造にある。ネットワーク構造の違いによって、被害を受ける企業の割合は大きく異なってくるからである。

例えば、「世界中の誰もが6次のリンクでつながっている」と言われるような、社会学でよく知られているSmall World Network構造が、企業間の取引ネットワークに確認されるとしよう。このことは、被災地以外においても、企業自身が認識しないうちに、取引関係を通じて、被災地の企業の影響を受ける企業が非常に多く存在することを示唆している。

データ分析の方法

ここでは、企業間の取引関係を経由した被災地以外の企業の震災被害の影響について、東京商工リサーチの大規模な取引関係データ(*3)を用いた分析結果を紹介する。

まず、前述の44市区町村を被災地と考え、被災地の企業を0次の企業と考える。次に、0次の企業の取引先を1次の企業と考え、n次の企業の取引先をn+1次の企業と定義する。ここで、n次の企業はn+1次以降の企業にならず、複数次の企業への重複はないと考え、それぞれの企業の数を算出する。

すなわち、被災地の企業の数(0次の企業の数)、被災地の取引先企業の数(1次の企業の数)、被災地の取引先の取引先の企業の数(2次の企業の数)、被災地の取引先の取引先の取引先の企業の数(3次の企業の数)を求めるのである。

この分析により、被災地以外の企業のうち何社の企業が被災地の企業と取引関係によりつながっているか、被災地以外の企業の震災被害の大きさを算出できる。

【表1】企業間の取引関係により震災の影響を受ける企業の割合

   全体   北海道   東北   関東   中部  中国・四国  九州 
0次 2% 0% 17% 0% 0% 0% 0%
1次まで 5% 2% 34% 3% 1% 1% 0%
2次まで 57% 60% 82% 58% 53% 47% 43%
3次まで 90% 96% 97% 89% 89% 90% 88%

被災地以外の企業への影響

【表1】は、0次の企業の割合、1次までの企業の割合、2次までの企業の割合、3次までの企業の割合を表している。すなわち、被災地の企業の割合、被災地の取引先まで含めた企業の割合、被災地の取引先の取引先まで含めた企業の割合、被災地の取引先の取引先の取引先まで含めた企業の割合を意味している。分析結果から、以下の事柄が確認された。

まず、東北地方の企業の0次の企業(被災地の企業)の割合は17%であるが、被災地の取引先(1次の企業)まで含めると34%、取引先の取引先(2次の企業)まで含めると82%となり、多くの企業が関係することが分かる。

次に、関東地方の企業に注目する。被災地の取引先は3%に過ぎないが、取引先の取引先まで含めると58%になり、半数以上の企業が関係すること分かる。また、関東地方以外の東北地方から大きく離れた地域においても、取引先の取引先まで含めると、半数近い企業が関係することが分かる。

さらに、3次の企業(取引先の取引先の取引先)になると、すべての地域において、90%近くなり、被災地の企業と関係を持たない企業はほとんどないことが分かる。企業間の取引ネットワークは意外にも小さな世界であったことが確認された。

分析結果から得られる示唆

以上の分析結果から、被災地以外の地域においても、企業自身が認識しないうちに、大多数の企業が取引関係から何らかの影響を受ける可能性があることが分かる。個々の企業の影響の大きさは、代替不可能な仕入先であるのか、販売の多くを1つの企業に依存しているのかなど、企業間のつながりの強さによって決まってくる。

従来、日本の産業の競争力は、取引先とのつながりの強さに依存すると考えられてきた。しかしながら、このような競争力は、震災のようにつながりを断つ現象に対して脆弱であろう。

東海大地震も遠くない未来に起こると考えられている。震災に対する脆弱性は、小さな世界である取引ネットワーク構造、取引先との強いつながりに依存している。より安定的な取引ネットワークを構築させる、異なる地域に取引先を複数もつなど、リスクを分散させるための長期的な対策を考えるべきである。

注釈

(*1) : 詳細はhttp://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/2011/1209627_1903.htmlを参照されたい。

(*2) : 地域間の企業の取引活動については、富士通総研 研究レポートNo.306のp20を参照されたい。

(*3) : このデータの企業数は約80万社、約400万の取引関係を含む。2005年時点のデータである。

関連サービス

【調査・研究】


斎藤上級研究員

齊藤 有希子(さいとう ゆきこ)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2002年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、理学博士(東京大学)、富士通総研経済研究所入社、2006年 経済産業研究所 研究会委員、2008年 一橋大学経済研究所 特任准教授。