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東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓(7)

高齢社会における防災と地域づくりのあり方について

2011年3月30日(水曜日)

東日本大震災による死者は1万人を超えている。亡くなられた方々の名簿を見ていると高齢者(65歳以上)が多いようである。実際、読売新聞の集計によると年齢の判明している死者のうち65%以上が60代以上とのことである。(出典:読売新聞ホームページ

もともと壊滅的な被害を受けた地域は高齢者が多い地域であることは確かである。しかし、岩手県の大槌町や山田町では、人口に占める60歳以上の割合は約40%、高齢者の占める割合は約30%であり、(国立社会保障・人口問題研究所『日本の市区町村別将来推計人口』(平成20年12月推計)2010年時点)やはり高齢者が相対的に震災の犠牲になったことが分かる。

【表1】東日本大震災で人的被害が大きかった自治体の人口に占める高齢者の割合

(出典:国立社会保障・人口問題研究所『日本の市区町村別将来推計人口』
(平成20年12月推計)より2010年時点の数値。
死者が100名以上にのぼるものと思われる市町村。行政順。)

宮古市 30.0%
大船渡市 30.8%
陸前高田市 34.0%
釜石市 34.7%
大槌町 31.8%
山田町 31.5%
仙台市 18.7%
石巻市 27.1%
塩釜市 27.1%
気仙沼市 30.8%
名取市 20.0%
多賀城市 18.2%
岩沼市 19.3%
東松島市 22.8%
亘理町 22.8%
山元町 31.7%
七ヶ浜町 21.3%
女川町 34.1%
南三陸町 29.6%
いわき市 24.9%
相馬市 25.0%
南相馬市 26.7%
新地町 27.3%

高齢者が相対的に災害の犠牲になるのは今回の震災だけではない。阪神・淡路大震災では、6402人の犠牲者のうち、高齢者の占める割合は49.6%であった。(出典:兵庫県庁ホームページ)また、2009年の集中豪雨では、山口県防府市で特別養護老人ホームに土石流が直撃したほか、昨年10月に奄美大島で集中豪雨が発生した際には介護施設が濁流に飲み込まれた。

なぜ、高齢者は災害弱者になるのか

高齢者が災害弱者となる理由ですぐに思いつくのは体力の低下、自立度の低下である。老年社会学の研究者である東京大学特任教授 秋山弘子氏は、全国の高齢者を20年にわたって追跡し、自立度(機能的健康度)がどのように変化するのかを調査した。それによると、男性においては、亡くなるまで自立して生活できる人は1割程度に過ぎず、約2割の人が65歳前後から自立度が低下し、残りの約7割の人も75歳の後期高齢者となる前後から自立度が低下するという。さらに、こうした事情に加えて、建設コストなどの理由から高齢者施設が災害の危険性が高い地域に建設されがちだという社会的な要因が存在することも指摘できよう。

高齢者が人口の中で相当な割合を占めるとなると、地域や自治体でも、若年者が高齢者の避難を助けるということはなかなか難しいであろう。2010年2月にはチリで大地震があり、津波が三陸にも押し寄せた。地震発生から津波の到達まで1日近くあったものの、高齢者をすべて避難させることは容易ではなかったという。特に今回の震災のように津波が押し寄せるまでの時間が短い場合は尚更で、高齢者を避難させようとした消防団員や警察官が殉職するという痛ましい出来事もあった。

被災地の高齢化率は2030年の日本の高齢化率、2050年の中国の高齢化率

実は大槌町や山田町のように高齢者が人口の3分の1程度を占めるという人口構成は、20年後の日本全体の人口構成そのものである。2030年には人口の3分の1が高齢者になると予想されている。高齢化とその影響を見越して、医学や社会学、あるいは社会保障制度を中心に様々な議論が展開されている。しかしながら、医療が進歩し、年金が充実するだけでは、高齢者が元気に生活を続けていく上で不十分である。高齢者の居住できる住宅、街づくり、さらにはコミュニティづくりをどのようにするのかが、防災も含めて超高齢社会を安心して暮らせる社会にする上で重要と思われる。

防災という観点だけからみれば、高齢者に高台に移住してもらう、高齢者施設を高台に建設するといったことが良さそうに見える。しかしながら、城塞都市(ゲーティッド・シティー)のような高齢者施設や高齢者住宅では、高齢者と社会とのつながりが失われてしまう。社会とのつながりや人間関係、信頼関係などを総称してソーシャルキャピタル(社会関係資本)と呼ぶが、こうしたソーシャルキャピタルは地域経済の発展や地域の健康水準にもプラスの影響を与えていることが指摘されている。したがって、災害に強く高齢者の安全を確保するとともに、若年者も含めてソーシャルキャピタルの充実した地域をどのように作り上げていくのかということが、今後重要な課題となろう。被災地においては高齢者施設を高台に移す、あるいは高層化するという考え方もあるようだが、若年者も併せて高台に移る、あるいは漁業基地である海沿いの地域との間で、何がしかのモビリティ(移動手段)を確保する、ITなども利用して地域の一体感を失わないようにしたりする、などの工夫が必要であろう。

なお、韓国やシンガポールでも高齢化は進んでおり、中国でも一人っ子政策の影響により、やがては東アジア全体が超高齢社会を迎えることになる。被災地が超高齢社会の中でどのような地域づくりをしていくのかは、東アジアの農漁村において高齢化にどのように対応していけばよいのか、その道しるべを示すことになろう。東アジアの各国が日本の復興に着目している理由の1つはここにある。

シリーズ

【東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓】

(1) 巨大地震がわが国マクロ経済に与える影響

(2) 住基ネットを活用した迅速な安否情報提供

(3) わが国のエネルギー政策、地球温暖化対策へのインパクト

(4) 電力不足が日本経済に与える影響

(5) 東日本大震災後の日本産業

(6) 計画停電について考える:電力システムの再設計を

(8) 明日の日本再構築に向けて

関連サービス

【調査・研究】


河野顔写真

河野 敏鑑(こうの としあき)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
2006年 (株)富士通総研経済研究所入社。
2010年 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学)。東京大学産学コンソーシアム「ジェロントロジー」に参加。
専門領域は公共経済、社会保障・医療経済。