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東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓(5)

東日本大震災後の日本産業への提言

2011年3月28日(月曜日)

1.はじめに

大自然の力をまざまざと見せ付けられた今回の大地震で、東北や関東地方の広範囲にわたる工場・事業所が大きな打撃を受けた。尊い人命が失われた拠点もある。今現在も各社とも復旧に向け懸命の努力をされておられる。早期に復旧・復興されることを祈るばかりである。今回の震災が人知を超えた大きさであったことは間違いない。そうであるなら我々は、今回の地震前と地震以降とは、幾つかの点で別の日本になったと認識するくらいの気持ちで対応を考える必要がある。

2.地震後、何が変わったか

では、一体何が本質的に変わったのか。産業という側面から見てみたい。

第1は、日本だけでなく世界の将来のエネルギー源が不透明になった。原子力発電への不安が増し、これまでの強い期待が大きく低下し、政策の見直しが迫られる。原子力発電所の事故を目にし、最悪の事態におびえる時を過ごした人々にとって、これまで通りに原子力発電を受け入れることはできにくい。日本において2020年までに9基、30年までにさらに5基という原子力発電新設計画は当面凍結されると報道されている。

第2に、基幹的な部品や材料を世界、特に成長著しいアジアに提供してきた日本という生産拠点の立地リスクが世界で強く認識されだした。2004年ごろから日本の完成品も含んだ工業製品の輸出が急激に拡大している。それらは例えば韓国に輸出され、その部材が加工・組み立てられて完成品となり中国に輸出されるなど、複雑なサプライチェーンを構築しながら、特にアジア各国の生産を下支えしてきた。そうして完成した製品が中国からアップルの製品として出荷されたりもする。このサプライチェーンの要の拠点としての日本の信頼性が急速に揺らいでいる。対応を誤ると、基幹部材の世界の工場という地位を失い、貿易黒字の急減、生産海外移転の急増、対内投資の一層の減少ということになりかねない。

第3に、東北地域の地域活力低下の心配である。人知の及ばない力による災害なので、国が特例を含め総力を上げて復活させるという姿勢が必要だ。すでに被害を受けた東北の工場から他の地域の自社内工場に生産を移管する動きもみられる。また生活面でも、津波の被害で地域は大きく傷んだ。放射線被害も加わり、人の移動が生じる恐れもある。国の緊急支援対策と同時に、将来を睨んだ新たな産業創出が必要だ。

3.これからの日本産業に向けた幾つかの提言

こうした新たな状況に、我が国企業はどう対処すべきなのか。現場で必死になって復旧に向かっておられる人たちに早く目標となる姿を提示し、一層の努力の源になればという思いで提言させていただきたい。

(1)国内外のエネルギー対策

まず第1に、今後の国内外のエネルギー対策において、原子力発電の推進政策は転換されざるを得ない。しかし原子力発電の力を全く借りないというのも現実の発電源の割合を考えると非現実的だ。課題は、今回の問題の分析で明らかになるであろう原子力発電所の安全性を確保する方策で既存原子力発電所の発電を維持しつつ、代替エネルギー開発を進めることだ。世界の原子力発電にとって共通の課題が突きつけられたのであり、新規に原子力発電を導入した国には、そうした技術能力を開発できない国もあろう。今回の新たなノウハウを、そうした国に伝えることも大事だ。

今後の対策として、すぐにも強化すべきは放射線量の多い危険な状況での作業を行うロボット開発だ。作業にはセンシングから冷却のための作業など多様な作業があるが、それぞれに関し、オールジャパンだけでなく、米国の軍事技術なども導入して開発推進する必要がある。人類共通の課題であり、人知を総結集して行う必要があり、不幸にもこうした事故現場経験を持ってしまった日本が音頭をとることが強く求められる。ちなみに、テロなどで核汚染された現場の処理活動に利用できるロボットの技術的実現は2013年頃、社会的実現は2020年頃とされ、こうした耐放射線ロボット開発のスピードアップが必要だ。

また代替エネルギー開発においては、2つの視点が必要だ。第1に、脱化石燃料社会の構築という基本目標は外せない。単に原子力発電の危険性が高いからと言って、化石燃料には安易に頼れない。特に石油に関しては今後価格上昇や枯渇が見込まれ、石油火力発電増強は容易でない。そうなると再生可能な発電源として、これまで注目が少なかった地熱発電など、あらゆる手段を手立てする必要がある。特に東北地域は地熱発電拠点として有望である。

しかし、液化天然ガスなど化石燃料発電が今後も大きなウェイトを占めるのも現実的には避けられない。であれば、ここから放出される二酸化炭素を原料とした人工光合成など、新たな(二酸化)炭素産業創出に向けて腹を括った研究開発を積極的に進める必要がある。これも化学に強い日本が音頭を取って、世界全体で進めるべきテーマであろう。

(2)基幹部材の生産拠点としての日本の地位の維持

第2に、基幹部材の生産拠点としての日本の地位をどう維持するか。

すでに海外企業の中には、日本からの基幹部材調達が滞り、生産調整に入っている企業、現地で部材の買いだめが生じ、価格上昇でコスト高に陥っている企業、調達の多角化を開始し、日本企業から他の国の企業に調達をシフトした例も見られる。こうした動きによって、例えば電子機器分野で、韓国や台湾企業に日本製品代替のチャンス到来かといえば、否定はできない。だが、こうした国の企業の工場が日本企業の生産の欠けた穴を、生産能力からみても速やかに埋めきれるわけではない。また長期的には、現在日本にある生産拠点を海外の顧客の近くに立地する要請も強くなる。逆風は強まる。しかし、日本は今後とも石油や食糧の輸入資金獲得のためには一定額の輸出を確保する必要がある。このために各国企業が不可欠とする中核部材を生産し続けることは重要で、全力で国内拠点を維持する必要がある。特にサプライチェーンが世界的に複雑で、今後の電力供給不足の影響を多く受け、我が国の貿易黒字の中核をなす電機と自動車産業が重要だ。

そのためにも、すでに必死で行われているが、日本企業は世界の産業に対し、まず早急に供給責任を果たす必要がある。操業停止工場の早期復旧・早期供給再開を、自動車産業にみられるように1企業の対応としないで、産業全体の責任として捉え、オール産業で対応できるように各産業が体制作りをすることが必要だ。世界の供給拠点という日本ブランドを産業全体で守る必要がある。企業間で部品の生産融通も必要になるかもしれない。すでに中国は、日本の今回の地震からの回復を半年から1年と見て、その間に他力本願を脱しようとしている。

同時に、供給先に対して、素早く工場の状況、すなわち再開の目処がついている、目処が立たない、工場閉鎖・移転の可能性、生産の一部を他工場に移管し供給は維持、などの状況をしっかりと説明し、顧客をつなぎとめる努力を行うことが、すでに実施されているだろうが必要だ。国内外の顧客が欲しがっているのは、こうした正確で早い情報だ。

(3)太平洋側東北及び茨城地域における事業や産業育成のあり方

第3に、中期目標になるが、今回被害が大きい太平洋側東北及び茨城地域における事業や産業育成のあり方である。今まず必要なのは、道路や橋梁、鉄道などの産業インフラの復活だ。次いで当面の企業活動維持のための融資など、資金面の支援が必要だ。次の産業を担う貴重な機能・資源を失ってはならない。

青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県の県内経済活動を見ると、2007年度では、日本の製造業全体に占める当該地域の県内生産の合計は、名目値で見て約7.85%である。産業別に詳しく見ると、輸送用機械は2.26%と小さいが、電気機械で9.34%、精密機械で9.40%、一般機械では8.02%、金属では8.06%と、約8%の経済規模を呈している。したがって今回の地震で工場が操業停止となり、なおかつ今後の電力供給の見通しが暗いことを考えると、その供給不安が国内外に及ぼす影響はかなり大きいことが懸念される。したがって現状進められているような早急の供給復活を目指す必要がある。

しかし、残念ながら復旧が見込めなかったり、生産が海外も含めた他地域にシフトされることもあり得ようから、この地域に新たな商品や事業、産業を生み出すことを目指す必要がある。上記の当面の手立てとともに、将来に向けた新産業の大きな絵も描く必要がある。

今後の地域産業立地を考えると、グローバル競争の激化から、従来のような大企業の組み立て型大規模工場の立地は困難であろう。これからの状況を考えれば、各地域の工場が地域の独自の経営資源に基づき、それぞれが直接海外市場と自立的に結びつくようなあり方を見い出す必要がある。伝統的工芸をベースにしたり、地場の農産品や食料品をベースに商品化し、海外市場を開拓することも重要になる。

そうした視点で当該地域の産業を見ると、この地域においては食料品では日本全体の11.07%、農林水産業では15.83%と、産業全体の割合よりも相対的に大きな割合を示す食品・農林水産地域である。こうした意味からも、放射能汚染地域というイメージは大きな痛手になり、汚染が広がらないことを祈るばかりである。

自立型に転換する上で必要になるのは、海外における販路を開拓してくれるようなグローバルな人材である。それには日本の商社などの企業を退職した専門家を地域全体で招き、海外販路開拓を指導してもらうなどが有効だろう。日本が得意とする製品は、ひとつの製品に多様な要素技術が入り込んだ製品であることが多い。大学の教官などが核になって地域が持つ要素技術を寄せ集め、農業と工業、医療、サービスそれぞれの技術を融合した商品を生み出すことも重要で、そこでは実効性のある産学管連携で一体となって新事業・商品開発が必要になる。東北大学など東北の拠点大学をネットワーク化して、前述した高い放射線下での安全ロボットや二酸化炭素化学などの研究開発と事業への移管を地域の企業と進めるプロジェクト推進に国を挙げた支援をやってもらいたい。この場合も、地域だけでなく、日本全国さらには世界から人材を集めて再興に力を貸してもらうことが重要と思われる。

4.おわりに

中期的に重要なのは、今後長く続きそうな計画停電に産業がどう対処するかだ。日本全体で見て、電力が1単位減少すると、セメントや紙・パルプなどの装置型産業や熱供給業、鉄道貨物輸送、水道などのインフラがより大きな生産低下を示す。限られた電力をどのように配分するかが重要な論点になってくる。人命を優先することはもちろんであるが、インフラとしての重要性、より波及効果や、他製品への投入の割合が大きい製品などの視点から、単なる計画停電ではない配電の方向も検討される必要がある。企業が生産活動を立てやすくするような配電計画も必要だ。

同時に産業側も、自家発電、夜間操業、サマータイムシフト、IT活用と在宅勤務による移動の縮小など、多様な節電・省エネの工夫を繰り出し、働き方まで変える大きな変化を受け入れる必要があろう。

シリーズ

【東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓】

(1) 巨大地震がわが国マクロ経済に与える影響

(2) 住基ネットを活用した迅速な安否情報提供

(3) わが国のエネルギー政策、地球温暖化対策へのインパクト

(4) 電力不足が日本経済に与える影響

(6) 計画停電について考える:電力システムの再設計を

(7) 高齢社会における防災と地域づくりのあり方について

(8) 明日の日本再構築に向けて

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【調査・研究】


安部忠彦

安部 忠彦(あべ ただひこ)
1976年 東京大学理学部、1978年 東京大学大学院修了。学術博士(金沢大学)。
(株)三菱マテリアル、(株)長銀総合研究所を経て、現在、(株)富士通総研 経済研究所エグゼクティブ・フェロー。
専門調査・研究分野は、企業の研究開発活動、国、地方自治体の科学技術政策、産業調査(リーデイング産業、空洞化問題、国際分業問題)、技術経営、サービスイノベーションなど。