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東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓(4)

電力不足が日本経済に与える影響

~産業連関表から見た分析―停電のみでも1兆円を超える影響も~

2011年3月25日(金曜日)

今回の東日本大震災では、原子力発電所をはじめ多くの社会インフラが破壊された。物流の混乱や農作物からの放射性物質の検出などにより、実体経済にも大きな影響を与えている。物流や農業の問題も重要であることは間違いないが、ここでは電力不足が日本経済や各産業に与える影響を考えてみたい。

深刻な夏場の電力不足

電気事業便覧によると東京電力の発電所の最大出力は平成22年3月現在で6448万kWである。地震により発電を停止し、早期の復旧が困難とみられる発電所は福島第一(原子力、出力469.6万kW)、福島第二(原子力、出力440万kW)、広野(火力、出力380万kW)、常陸那珂(火力、出力100万kW)で、これらの発電所の出力合計は東京電力全体の最大出力の20%を超えている。

これらの発電所の停止により、4月頃までは東京電力管内では計画停電が避けられない状況となっている。しかし、以下の状況などから、東日本においては冷房需要が大きくなる夏場には再び電力不足が深刻な問題となることが予想されている。

  • 原子力発電所の復旧は安全面からの問題もあり、相当困難な状況であること
  • 他社の電力を融通するにしても、東日本と西日本では周波数が異なり西日本で発電された電力(60Hz)を東日本で利用する電力(50Hz)に変換する変電所は日本に3か所しかなく、その能力は100万kWに過ぎないこと
  • 今年中に運転を開始する予定の東日本の発電所は仙台4号(東北電力、LNG、44.6万kW、7月運転開始予定)、富津4号(東京電力、LNG、152万kW、10月運転開始予定)(出力が1万kW以上のものに限った。)のみであり、また、発電所の建設には相当な時間がかかること

産業連関表を用いた影響の試算

ここでは、最新の産業連関表(平成17年(2005年))を用いて、電力不足がどのような産業に影響を与えるのかについて考えてみたい。

具体的に経済に与える影響を以下のような仮定に基づいて算出する。まず、東京電力管内で電力供給が報道などから5,000万kWにとどまる一方、電力需要は東京電力が最大電力を記録した2001年7月24日(6,430万kW)の電気需要に基づくと仮定する。このとき、朝の8時台から夜の20時台にかけて電力需要が供給を上回ることとなり、その合計は1日で1億2,500万kWhになるものと推計される。このような日が60日間続いたと仮定すると、電力の供給不足は夏場の合計で75億kWhとなる。

さらに、「平成22年度 数表でみる東京電力」によると、平成21年度の電灯電力総合単価は21.18円/kWhなので、供給不足によって失われた電力の減少は1,663億円程度と推計できる。電力不足が家計での電力消費を抑制するのか(最終消費の減少)それとも企業での電力消費を抑制するのか(供給側の減少)は定かではないが、ここでは家計の電力消費は減少せず、そのすべてを企業が負担すると仮定した。その結果、産業連関表から1,663億円に相当する電力の供給不足が日本経済全体に与える影響を推計すると、産業連関表上のすべての部門に対する波及効果の合計は1兆500億円にのぼるものと推計される。

【表1】電力供給が1,663億円減少した場合に各産業の産出に与える影響

(平成17年(2005年)産業連関表より作成 単位:億円)

ソーダ工業製品 466
セメント 268
熱供給業 219
金属鉱物 209
紙・板紙 193
その他の無機化学工業製品 188
パルプ 173
ガラス繊維・同製品 163
鋳鍛造品 157
鉄道貨物輸送 151
合成ゴム 135
石炭・原油・天然ガス 126
化学繊維 124
その他の非金属鉱物 124
冷延・めっき鋼材 111
銑鉄・粗鋼 106
水道 105






【表1】は、このうち、特に電力供給の減少が産出に与える影響が大きい部門を順に示したものである。影響の大きい業種としては、ソーダ工業製品、セメント、熱供給業、金属鉱物、紙・板紙、その他の無機化学工業製品、パルプ、ガラス繊維・同製品、鋳鍛造品など、製造業が中心として挙げられる。なお、上位に入っている部門のうち、鉄道貨物輸送や水道はそう簡単に産出を減らす(輸送を止める、断水する)わけにはいかないと思われるので、実際には他の部門に皺寄せすることになるだろう。

経済損失を防ぐ対策

以上のような経済損失を防ぐには、どのような対策が考えられるのであろうか?設備投資をする時間がないことを踏まえると、現実的な策として思いつくのは節電である。しかしながら、夏場の節電は容易ではない。夏場の電力消費の3分の1が冷房需要と推計されている。東京電力が最大電力を記録した2001年7月24日の最高気温は38度、最低気温は28度であり、いずれもこの年の最高記録であった。今年の夏が酷暑にならないことを祈るが、このような環境下で冷房需要を抑制するとなると、クールビズ程度ではとても間に合わないだろう。企業単位で交互に夏休みを設け、従業員を出社させない、昼間は操業せず深夜操業を行う、などの措置を考える必要もあろう。

なお、東北地方や関東地方から、電力不足の影響を受けないと思われる西日本や北海道に生産拠点を一時的に移すなどの方策も考えられうる。しかしながら、こうした方策が長く続けば、東北地方や関東地方の雇用や所得を押し下げ、特に被災地の復興を妨げるおそれもある。個々の企業がこうした対応をとるのはやむを得ない面があるが、地域経済に与える影響を慎重に見極める必要があろう。

一方で、来年以降も見据えて、中期的な対策として設備投資をどのようにしていくのかについても検討する必要がある。電力に余裕のある西日本から東日本へ送電できるように周波数を変換できる変電所を増やす、ガスタービンやディーゼルエンジンなどを利用するコジェネレーション、太陽光や風力などの新エネルギーなどのさらなる導入、住宅の高断熱化などの設備投資について、早急な検討が必要であろう。

シリーズ

【東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓】

(1) 巨大地震がわが国マクロ経済に与える影響

(2) 住基ネットを活用した迅速な安否情報提供

(3) わが国のエネルギー政策、地球温暖化対策へのインパクト

(5) 東日本大震災後の日本産業

(6) 計画停電について考える:電力システムの再設計を

(7) 高齢社会における防災と地域づくりのあり方について

(8) 明日の日本再構築に向けて

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【調査・研究】


河野顔写真

河野 敏鑑(こうの としあき)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
2006年 (株)富士通総研経済研究所入社。
2010年 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学)。
専門領域は公共経済、社会保障・医療経済。