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東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓(3)

わが国のエネルギー政策、地球温暖化対策へのインパクト

~国際的な低炭素市場の構築により温暖化対策との両立は可能~

2011年3月24日(木曜日)

3月11日に発生した東日本大震災は、東北地方の原子力発電所にも深刻な影響を与え、周辺地域は今なお放射能漏れ等の危機にさらされている。このことは、我が国のエネルギー安全保障及び地球温暖化への取り組みに関して大幅な見直しを迫ることとなる。本稿では、今回の大地震による我が国のエネルギー安全保障・地球温暖化対策への影響に関して明らかとするとともに、今後の対応に関して検討を行う。

1.避けられない原子力発電量の大幅低下

【図表1】は我が国を含む主要国の原子力発電所設備稼働率を示している。2009年の我が国の設備稼働率は64.7%と他国と比較して非常に低い。この原因としては、事故などによる停止から通常運転復帰までに非常に長い時間を要することと、他国と比較した場合の運転間隔が短いことが挙げられる。原子力発電所の定期検査は、原子炉およびその附属設備、蒸気タービン設備など発電の用に供する電気工作物の事故・故障の未然防止、拡大防止を図るため、また電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにするため、定期的に行う検査であり、電気事業法第54条の規程に基づき義務づけられている。この法律によれば、経済産業大臣に定期検査申請書を提出し、原子力発電所の蒸気タービンについては、運転が開始された日または定期検査が終了した日から1年を経過した日以降13月を超えない時期までに、原子炉およびその他の附属設備については、総合負荷検査終了日の日以降13月を超えない時期までに、検査を受けなければならない(*1)。一方、米国では多くの原子力発電所の運転サイクル期間は、18~24か月となっており(*2)、我が国においても運転期間の延長による設備稼働率の引き上げが議論されてきた。東北電力は2010年10月15日、東北電力は、東通原子力発電所1号機(青森県東通村、110万キロワット)について、定期検査から次の定期検査までの運転期間を従来の13か月から16か月に伸ばす計画を発表する(*3)など、運転期間の延長による設備利用率を他国並みへの引き上げに関する検討が行われてきた。

【図表1】主要国の原子力発電所設備稼働率(%)
主要国の原子力発電所設備稼働率

また、温室効果ガス削減のロードマップを検討する環境省の審議会である中央環境審議会地球環境部会中期ロードマップ小委員会が2010年12月に発表した中間整理(*4)では、2020年の原子力発電に関して、設備利用率85%、新増設9基を前提するなど、地球温暖化への取り組みに関しても原子力発電所の設備稼働率の引き上げを考慮している。

現在、我が国には54基の原子力発電所が存在し、それによる総発発電容量は4,885万kW(2010年5月現在)であり、我が国の電力の26.3%(*5)(2007年)を供給している。今回の地震で被災した、福島第一・第二原子力発電所及び女川原子力発電所の総発電力は1,127万kWであり、全国の原子力発電所の発電容量の実に約23%を占める。地震発生後停止状態にある原子力発電所の早期再開は難しい状況であり、また運転間隔の延長に関しても、より一層の慎重な議論が必要となるであろう(*6)。2,022万kWの新規原子力発電所の建設が予定(*7)されていたが、現状では地域住民の理解を得るのは難しく、新規の原子力発電所の建設は非常に限定的なものになると言えよう。中間整理の中でも、前提どおりの原子力発電が推進されないリスクにも言及されており、設備利用率75%(1990年以降の平均相当)、新増設2基(現在建設中の発電所のみを考慮)を想定しているが、今回の地震のを受けて発電量は中間整理で最も低く見積もった量をも大幅に下回ることが予想できる。不足する電力の供給、省エネルギーのさらなる推進など、エネルギー安定供給に関する早急な見直しが必要とされる。

2.温暖化への対応と経済復興

原子力発電の発電量の減少は、電力供給不足というエネルギー安全保障の側面のみならず、温室効果ガス排出量という温暖化対策へも大きな影響を与える。ここでは、今回の地震による地球温暖化への影響、さらにはその対応策に関して述べる。

まず、温暖化対策への影響であるが、福島第一・第二及び女川原子力発電所の発電停止、新規原子力発電所の建設の凍結を仮定した場合、今後の地球温暖化問題への取り組みにどのような影響を与えるのか。富士通総研経済研究所はこのたび動学一般均衡モデルを用いて定量的評価を行った(*8)。その結果、2020年時点において地震が発生しなかった場合と比較すると、我が国の温室効果ガス(*9)排出量は4.6%増加(2004年比)する。この増加の原因としては、以下が挙げられる。

  1. 二酸化炭素を排出しない原子力発電による発電量が減少したため、他の発電方法で電力を供給する必要があるため(電源構成の変化)
  2. 今回の地震によって予想される電力料金が上がることによる他のエネルギーへのシフト

我が国は、2020年までに1990年比25%の温室効果ガス削減を目標としているが、この目標の達成には、地震前と比較してさらなる削減が必要となる。真水(国内削減)のみで25%削減達成を行う場合、我が国の削減費用は239.3ドル/トン・CO2(2020年)であり、現在の欧州排出量取引制度での排出権価格(現在16ユーロ、約20ドル)と比較すると非常に高い費用を支払うこととなり、その結果GDPが1.9%押し下げられる(【図表2】)。つまり、原子力発電所の停止と温室効果ガス削減の二重の重石が、震災からの復興を阻害する可能性がある。

3.負担軽減に効果を発揮するアジアワイドの排出量取引

では、こういった状況において、日本の採るべき道は何なのであろうか?地球温暖化への取り組みを契機に復興を促進する手立てはないのであろうか?以下、この問いに関して検討を行う。

ここでは、25%全量を日本国内だけで削減するのではなく、アジア地域全体での削減を実施することを目的に、アジア地域での低炭素市場を構築することにより、どの程度震災復興と温室効果ガス削減の両立が可能かに関して評価を行う。

コペンハーゲン合意(*10)に応じて、先進国は削減目標、途上国に関しては緩和行動(NAMA:Nationally appropriate mitigation actions by developing country Parties)を国連事務局に提出している。2010年末のカンクンでの合意においても、提出された削減目標・緩和行動に関して触れられており、2011年末に予定されているCOP17(*11)ではこれらをベースに議論は進展すると思われる。途上国の削減目標はインテンシティー目標(GDP単位あたりの温室効果ガス排出量(中国では、2020年までにGDP単位あたりの温室効果ガス排出量を40~45%減少(2005年比))、BAU(Business-as-usual)比での削減目標(韓国ではBAU比30%減))であり、先進国の絶対量での削減目標とは異なるが、削減に関しての具体的数値を示している(*12)。こういった削減目標・緩和行動を、各国が個別で行うのではなく、共同で行うことによって効率的な削減が可能になると思われる。

日本が単独ではなく、中国、韓国、インドと共同で温室効果ガス削減を行った場合(*13)には、その削減費用は28.3ドル/トン・CO2と大幅に低下する(【図表2】)。このことは、我が国の復興に対して2つの意味を持つ。1つは、削減のために家庭・企業が負担する費用が大幅に軽減されることである。これにより、復興へ向けての活力を損なうことを回避できる。2つ目は、中国、インドでの温室効果ガス削減が進むことにより、省エネ立国である我が国企業の有する省エネルギー等の低炭素技術が中国、インドで活用される、つまり大きな市場が創出される。これにより、温暖化対策への取り組みが日本経済活性化の起爆剤となる可能性が高まる。さらに同時に先進国として、地球規模での温室効果ガス削減に寄与することができ、気候変動に対する先進国の責務を果たすことも可能となる。今回の大震災による原発停止の影響は甚大なものがあるが、それを緩和するための道も残されている。日本の国際的な制度構築能力が今こそ試されている。従来の発想にとらわれることなく、国際世論をリードしていく努力を開始するべきだ。

【図表2】個別での削減と共同での削減による経済影響比較

(注)ベースラインからのかい離を示す。

個別での削減 日・中・韓・印共同での削減
限界削減費用(ドル/トン・CO2) 239.3 28.3
GDP変化(%) -1.9 0.1

注釈

(*1) : http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=10-07-01-08

(*2) : 永富、松尾、村上(2010)、“米・欧・韓の原子力発電所設備利用率向上に向けた取り組み -日本は何を学ぶべきか―”、IEEJ2010年6月掲載
http://eneken.ieej.or.jp/report_detail.php?article_info__id=3205

(*3) : SankeiBiz Web 版、“原発の定検間隔16カ月に延長へ 東北電、全国初”2010年10月16日05:00
http://www.sankeibiz.jp/business/news/101016/bsb1010160503000-n1.htm

(*4) : 中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会、「中長期の温室効果ガス削減目標を実現するための対策・施策の具体的な姿」(中長期ロードマップ)(中間整理)、平成22年12月

(*5) : 電気事業者発電分、日本エネルギー経済研究所、「エネルギー・経済統計要覧」(2010)より富士通総研算出

(*6) : 四国電力の千葉昭社長は15日、同社が検討していた伊方原子力発電所(愛媛県伊方町)の定期検査の間隔延長について、福島第1原子力発電所の事故を念頭に置いて「今のような状況を考えると、現時点は言及する時期ではない」と述べ、延長の早期実施は困難との見方を示した。愛媛県の中村時広知事との会談後、報道陣の質問に答えた。(日経新聞Web版、2011年3月16日5:58)

(*7) : 日本エネルギー経済研究所、「エネルギー・経済統計要覧」(2010)

(*8) : 発電部門を発電技術単位に分割した技術バンドルモデル。今回のシミュレーションは、現在入手できる情報を基に行った速報値であることに留意する必要がある。今後、事態の変化に応じてより詳細なシミュレーションを行う予定である。

(*9) : エネルギー起源の二酸化炭素のみを対象とする。

(*10) : 2009年にデンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15(気候変動枠組条約第15回締約国会議)で、留意された文書。

(*11) : 気候変動枠組条約第17回締約国会議(2011年にダーバン(南アフリカ)で開催予定)

(*12) : 京都議定書では、「共通だが差異のある責任の原則」を、先進国には削減義務を課す一方、途上国には削減義務を課さないことによって実現した。このことと比較すると、主要な途上国が数値での緩和行動を示したことは、先進国と途上国の温室効果ガス削減義務における差が埋まったと言える。

(*13) : 日本、中国、韓国、インドの削減目標、緩和行動で宣言している温室効果ガス削減目標を各国で共同して行うと仮定。つまり、各国が個別で削減するのではなく、この4国全体で削減目標を達成するものとする。多くの削減は、低い削減費用での削減機会が多く存在する中国、インドで削減は行われ、日本、韓国はその削減に対して削減費用、技術提供を行うものとする。

シリーズ

【東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓】

(1) 巨大地震がわが国マクロ経済に与える影響

(2) 住基ネットを活用した迅速な安否情報提供

(4) 電力不足が日本経済に与える影響

(5) 東日本大震災後の日本産業

(6) 計画停電について考える:電力システムの再設計を

(7) 高齢社会における防災と地域づくりのあり方について

(8) 明日の日本再構築に向けて

関連サービス

【調査・研究】


濱崎主任研究員

濱崎 博(はまさき ひろし)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
1995年 京都大学大学院工学研究科環境地球工学専攻気圏工学講座 前期博士課程修了、1995年 (株)富士総合研究所入社、1997年 MSc and DIC in Energy Policy, Imperial College Centre for Environmental Technology, Imperial College of Science, Technology and Medicine, University of London、同年 (株)富士通総研入社