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  4. 安全保障としてのスマートグリッド(2)

安全保障としてのスマートグリッド(2)

2011年2月4日(金曜日)

4. 日本のエネルギー安全保障

日本にも、エネルギー安全保障という考え方はある。あるどころか、欧米と比べてもその重要性において劣るものではない。なぜならば、周知の通り、日本のエネルギー自給率は極端に低く、多くのエネルギーを海外に依存している状況にあるからである。

【図4】は日本のエネルギー自給率のグラフであるが、1960年代に石炭から石油へのいわゆるエネルギー革命が起きてからというもの、日本の自給率は全体で20%前後を推移しており、元々乏しかった石油に限ればアメリカを遥かに下回る1%未満の状況が続いている。特に1970年代の石油危機の影響は深刻で、経済産業省が旗を振り、省エネルギーの推進や石油代替エネルギーの開発を進めてきた。その結果、確かに日本は世界有数の省エネ社会になったし、電源については、石油に対して原子力や天然ガスを増やすといった対策を進めてきた(【図5】)。

日本のエネルギー自給率の推移

【図4】日本のエネルギー自給率の推移
出典:『エネルギー白書』2010年版を基に、筆者作成。

日本の電源構成の推移

【図5】日本の電源構成の推移
出典:『エネルギー白書』2007年版を基に筆者作成。「地熱」と「新エネルギー」を併せて「再生可能エネルギー」と読み替えた。

しかしながら、日本のエネルギー安全保障は現在でも著しく脆弱といわざるを得ない。経産省の『エネルギー白書』2010年版では、これについて詳しく国際比較がなされているが、日本は、「国産資源の開発・利用」、「輸入先多様化」、「輸送リスク」、「供給途絶対応」など、いずれの基準をとっても低い。その中で、「需要抑制」、即ちエネルギー消費効率と、「国内リスク管理」、即ち停電時間の短さにおいては、他国よりも勝っている。換言すれば、国内でできることは全てやったが、結局はエネルギー源を海外に依存しているため、本質的な解決には至っていないと分析できるのではないか。

5. 日本における再生可能エネルギー

ここで1つの疑問が生じる。国内でできることが、もう1つあるではないか。それは、再生可能エネルギーの普及拡大である。前述の通り、欧州はこれに熱心であり、ドイツは「電力の16%を占める再生可能エネルギーの割合を2050年に80%に引き上げる計画」(日本経済新聞、2010年11月28日)という(*8)。太陽光や風力は「国産資源」であるため、これで電力などが自給できるようになれば、更に自動車のエネルギー源であるガソリンが電力に置き換われば、究極の安全保障に繋がる。

実は経産省も、安全保障という観点からの再生可能エネルギーの重要性を認識している。上記の『エネルギー白書』2010年版の第2章は、まさに再生可能エネルギーを特集し、「地球温暖化対策への貢献」と共に「エネルギーセキュリティ強化」に貢献すると明記されている。

そして実際に経産省は、1970年代から再生可能エネルギーの普及を進めてきた。特に1974年から工業技術院によって始まった「サンシャイン計画」は有名であり、1980年には石油代替エネルギー法を制定し、新エネルギー総合開発機構(NEDO)などの場で技術開発を支援してきた。その結果、シャープや京セラといった日本企業は太陽光発電に関する技術を蓄積して世界的メーカーになり、2000年前後には国内の導入量でも世界一の座を占めるようになった(【図6-1】)。

太陽光発電の各年導入量(1993~2000年)

【図6-1】太陽光発電の各年導入量(1993~2000年)
出典:IEA, Trends in Photovoltaic Applications, 2009を基に筆者作成。累積導入量から各年の導入量を計算した。

【図6-2】太陽光発電の各年導入量(2001~2008年)
出典:IEA, Trends in Photovoltaic Applications, 2009を基に筆者作成。累積導入量から各年の導入量を計算した。

にもかかわらず、現在の再生可能エネルギーの普及率は欧米諸国に遥かに劣る水準に過ぎない(【図2】)。更に、【図6-2】の通り、フィードインタリフ(Feed-in Tariff,固定価格買取制度)などの政策選択の失敗により、近年では太陽光発電でもドイツやスペインといった国々に追い抜かれてしまった。日本が最も競争力のある太陽光発電でもこの有様であり、世界的に導入が進んでいる風力や地熱については、比較にもならない。どうして日本では、再生可能エネルギーの普及が進まなかったのか?

6. 再生可能エネルギーが普及しない理由

その第1の理由は、発電コストが高いからである。【図7】の通り、再生可能エネルギーによる発電は、原子力や火力と比べて経済性が低い。いくらエコでも高ければ誰も買わない。だからデンマークでは、フィードインタリフなど様々な助成制度により、風力による電力の料金を実質的に下げることで、全発電量の20%にも上る水準までの普及を進めてきた。経産省も、ソーラーシステム普及促進融資制度などを用意して対応してきたが、上記の通り、決定打にはならなかった。

電源別の発電コスト

【図7】電源別の発電コスト
出典:再生可能エネルギーは総合資源エネルギー調査会(2009)、その他は電気事業連合会(2004)。

第2の理由は、系統接続の問題である。商用のソーラーファームやウィンドファームを建設する事業者にとって、発電設備が送電網に接続されなければビジネスにならない。しかし送電網を保有する電力会社は、分散型電源の系統接続に難色を示すことが多い。その表向きの理由は、前述の通り、不安定な電力の流入が電力網の安定制御を阻害するからである。そうならないよう、風力発電事業者らには周波数の変動幅の遵守を義務付け、接続できる電力量に制限をかけることになっている。

これに対して風力発電事業者は、そのような要求は技術的に必要である以上に厳し過ぎ、真の理由は電力会社による公正競争の阻害にあると主張している。即ち、日本の電力会社(一般電気事業者)は、送電網と共に発電設備も保有しているため、競合する発電事業者の系統接続を拒む誘因が働く。分かりやすく言えば、敵に塩を送らないように系統接続を拒んでおり、それが必要以上の負担になって風力発電の普及が進まないというのである。

このような問題に対してデンマークでは、1999年に送電網を発電部門からアンバンドルして、国営の独占送電会社であるEnerginet.dkを設立した上で、風力発電の優先接続を義務付けた。日本でも、垂直統合型の電力市場の構造分割については、経産省の審議会などで長らく議論されてきたが、未だにアンバンドルが実現されておらず、風力発電事業者から系統接続上の制約について不満の声が上がっている。

このように、主として2つの理由から日本では再生可能エネルギーの普及が進んでいないわけだが、その結果、石油から他の化石燃料への分散が進んだことを除けば、原子力に大きく依存する構造が強まっている(【図5】)。本稿において、原子力の安全性について議論するつもりはない。原子力発電は発電時にCO2を排出しないため、確かに地球温暖化対策に貢献する。そして発電コストも低い(【図7】)。純粋なコスト計算では、原子力は再生可能エネルギーより圧倒的に有利かもしれないが、安全保障というコストは十分に加味されているのだろうか?欧州では脱原発を掲げる国もあるが、そこまでいかなくとも、もう少し再生可能エネルギーを普及させる選択肢があっても良いのではないか。

7. 日本の安全保障としてのスマートグリッド

そこに海外から降って沸いたのが、スマートグリッドである。スマートグリッドは、再生可能エネルギーの系統接続の問題を解決する手段であり、地球温暖化対策になるだけでなく、結果的に安全保障にも繋がる。だから欧州では国を挙げて取り組んでいるわけだが、日本では後者の観点からの議論は聞いたことがない。

これまでの日本におけるスマートグリッドについての議論とは、アメリカのグリーン・ニューディールの盛り上がりが関連業界に伝わり、2009年初め頃に成長産業としての期待から火が点き、それを電力会社が電力の安定供給を口にして消して回り、しかし次第に家庭における太陽光発電の普及が無視できなくなってきたため、民主党政権の地球温暖化対策重視の姿勢と相俟って、一定程度の再生可能エネルギーは受け入れざるを得ないという姿勢に転じてきた。だから現在でも、電力システムにとってスマートグリッドはできれば避けたい負担という域を出ず、経産省の研究会では、「再生可能エネルギーの大量導入に伴う系統安定化対策コスト」として、需要家側に蓄電池を設置すれば50兆円かかるという試算が公表され、それを誰が負担するのかという議論がなされている。

それはなぜかと言えば、やはり経産省や電力会社にとって、再生可能エネルギーは安定供給を阻害する不都合な電源であるとの固定観念が強く、できる限り普及させたくないという意識が働いているからではないだろうか。同様に、再生可能エネルギーと親和性の高い自律分散型の電力ネットワーク、即ちスマートグリッドも信用されていない。スマートグリッドは、多様な分散型電源の接続のために送電網のアンバンドリングを、ピークシフトの実現のために電力料金の自由化を、電気自動車からのV2G(*9)のために電力再販を要求する。原子力など大規模な集中型電源を中心として、電力会社がシステム全体を中央管理し、認可料金に基づいた相対取引を基本とするシステムとは、設計思想が相容れない。既に配電自動化を成し遂げ、世界的に見ても高い水準で安定供給を成し遂げているのに、これを脅かす得体の知れないネットワークへの構造転換に、日本の電力会社は積極的になれないのである。

しかし、安全保障のためにもスマートグリッドが必要と発想転換すると、議論の順序が変わってくるのではないか。地球温暖化対策のためだけではなく、エネルギー上の安全を高めるために、我が国こそ再生可能エネルギーの大量導入が必要不可欠なのである。エネルギー源の海外依存を所与とした、停電時間だけで測る安定供給の空虚さを、そろそろ我々は認識すべきであろう。既存の電力システムは、包括的なエネルギー安全保障という観点からは全く脆弱なのである。

再生可能エネルギーの大量導入を所与とした上で電力網を再設計すれば、欧米が目指している自律分散的なスマートグリッドの姿になる。日本では、中央管理型の電力網や市場制度に出来る限り手を加えず、太陽光発電が急増している家庭に対策を限定し、蓄電池をばら撒いて自給自足してもらうことを目指している(*10)が、これをスマートグリッドと呼ぶのは無理があるのではないか。確かに大きな構造改革には時間もコストもかかるかもしれないが、エネルギー安全保障に係るコストを加味すれば、少なくとも長期的には、スマートグリッドの方が安上がりになるのではないか。昨年の中国によるレアアースの輸出停止による混乱を見ただけでも、その重要性は理解できるだろう。

地球温暖化対策も、産業振興も、エネルギー安全保障も、日々の安定供給も、スマートグリッドの重要な目的であり、各国はこれらをできる限り両立させた解を見つけようと努力している。アメリカで産業振興の観点から盛り上がっているから、それに追随するのではなく、環境保護のために嫌々取り組むのでもなく、日本独自の技術力などの強みを活かしつつ、安全保障という国家目的も含めて大きな絵を描き、その上で複雑に絡み合った目的を巧みに両立させ、国際標準化を含めて他国と伍していくだけの戦略性が、今日本の政府や企業に求められているのである。

安全保障としてのスマートグリッド(1)

注釈

(*8) なお、2011年1月25日のオバマ大統領による一般教書演説では、「2035年までにアメリカの電力の80%をクリーンエネルギーから発電する」との目標が掲げられた。ここでいうクリーンエネルギーには、太陽光や風力といった狭義の再生可能エネルギーの他、原子力、クリーンコール、天然ガスまでを含むため、その内訳次第では必ずしも野心的とは言えない。

(*9) V2G(Vehicle to Grid)とは、電気自動車などに蓄電した電気を、運転しない時に電力会社などへ売電することを指す。不安定な電源に対して需要側が持つバッファとして期待されている。

(*10) 経産省では、「新成長戦略」で全量買取とされたフィードインタリフについて、家庭用太陽光発電については、これまでの余剰買取を継続する方向で議論する一方で、分散型発電に対する出力抑制を検討している。2010年6月に発表された経産省の「エネルギー基本計画」。

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高橋主任研究員顔写真

高橋 洋(たかはし ひろし)
【略歴】1993年 東京大学法学部卒、ソニー(株)入社、1999年 タフツ大学フレッチャー大学院修了、2000年 内閣官房IT担当室主幹、2007年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、東京大学先端科学技術研究センター特任助教、2009年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、成城大学非常勤講師、(株)富士通総研経済研究所主任研究員
【著書】『イノベーションと政治学 情報通信革命〈日本の遅れ〉の政治過程』勁草書房 2009年