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TPPの戦略的意味と日本がとるべき対応

2011年1月31日(月曜日)

TPPの戦略的意味

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への交渉参加については、国内的には農業問題をどのように克服するかが最大の焦点となっているが、国際的には、アジア太平洋地域において、中国を牽制しつつ、日米が協調して経済及び安全保障面で、より密接な連携を保つことができるのか試金石になっていると思われる。

小国中心で進められてきたTPPにアメリカが熱心に取り組み始めたのは、急成長する中国がその経済力や軍事力を背景に対外的に強い姿勢を取り始めていることに対する警戒感がある。また、アメリカは東アジア地域においては、経済的な結びつきの強化が安全保障上の環境を補強するとも考えており、米韓のFTA交渉が昨年12月に合意に達したのも、そうした戦略の範囲内にあると考えられる。

東アジア地域においては、従来から、ASEAN+3(日中韓)やASEAN+6(日中韓に加え、オーストラリア、ニュージーランド、インド)の構想があるものの、実態としては進んでいなかった。こうした構想に先んじて、東アジアを含み、かつアメリカも参加できるアジア太平洋地域という範囲で連携を強化することができれば、アメリカはこの地域においてコミットする余地を広げることができる。かつそれは安全保障上の結びつきを強化するのに役立つ。中国の周辺地域への影響力強化を警戒するマレーシア、ベトナムなどは、アメリカとの貿易上のメリットを享受するという点もさることながら、TPPに参加することでアメリカとの安全保障上の結びつきを強めたいとの意図も持っている。

むろん、こうしたTPPの戦略的な狙いは、中国と無用に対立しようとするものではない。中国がその経済力を背景に、自国に有利なルールをこの地域で適用する姿勢を強める前に、共通のルール作りで経済関係を強め、そうした流れの中にいずれは中国を引き込もうという意図もある。TPP交渉では、関税のほか、知的財産権、投資、金融、電子商取引サービスなど24の広範な分野で議論が行われている。

こうしたルール作りの動きに対しては、中国は不快感を持つかもしれないが、日本を抜き、世界第2位の経済大国になった中国がいずれはアメリカに迫っていくのも時間の問題であり、中国がそうした圧倒的な力を持つ前に、現在の経済大国である日米や中国の周辺地域がそれにどのように対抗していくのかという点に対する、現時点における1つの解を見い出そうとする動きとして捉えることができよう。

アメリカにとっては、TPPに日本が参加するか否かは、このようなTPPの戦略的意味を高めることができるかどうかに大きく関わっており、日本にとってもこのような戦略性を強く認識すれば、TPPに参加することの意義を見い出せると考えられる。農業問題は決して小さな問題ではないが、日本がTPPに参加するどうかを決めるに当たって最も考慮すべき点は、その戦略的な意味がどこにあるのかを見極めることだと思われる。

農業にとってメリットは見出せるか

ただ一方で、ASEAN+3の東アジア共同体を重視する立場からは、当面は中国が加わる可能性が低いTPPに慎重な立場もある。TPPを推進すれば、おそらく、日中韓の経済の一体化については、交渉を進めにくい面が出てきて、短期的にはマイナスの影響が出てくる可能性がある。

また、農業関係でTPPに反対する立場からも、農業大国のアメリカやオーストラリアが参加するTPPに入れば、いくら生産規模を拡大したとしても土地条件が異なる日本では限界があり、到底対抗できないとの危惧も強く発せられている。こうした立場からは、現在もコメなど日本産の高級農産物に対する富裕層の需要があり、そうした作物の輸出可能性を高めるASEAN+3を推進すべきとの意見もある。

TPP交渉においては、農産物を含む高レベルの貿易自由化と市場開放の受け入れが前提条件となっており、これから農業の国内対策を進めるにしても、そのハードルは高いと考えられる。ただし、アメリカが前述のように、今後勃興する中国に対してどのように対峙していくかという戦略的意味合いをより重視するとすれば、実際の交渉では、農業分野については経過措置も含め、交渉において協議する余地は生まれてくる可能性がある。しかし、それもまず、TPP交渉に参加するとの決断を下した後でなければわからない。

ただ、現在交渉を進めている日豪EPAでは、オーストラリア米の生産量、増産余地のいずれも大きくないため、コメを関税撤廃の例外に出来る可能性もゼロではなく、日豪EPAでコメを例外扱いできれば、TPPでもその延長線上で交渉できるのではないかというかすかな期待も生まれている。

日本にとって、TPPが今後の日本の大きな方向性にとって意味があるとしても、農業に限ると、TPPの参加国の範囲だけでは、メリットどころか大きな打撃を受ける可能性が否定できないところがジレンマといえる。

TPPだけでは、日本が農産物を積極的に輸出できる攻めの農業に転換できるかは心許ないが、TPP交渉への参加が、これまで衰退の一途を辿ってきた日本の農業を再生させるための農政の大転換の契機となれば、それはそれで大きな意味がある。その際は、打撃を和らげるためのセーフティネット(戸別所得補償制度)の仕組みも再設計する必要があろう。また、日本としては、TPPに参加する場合でも、中国などとのEPAの協議を通じ、経済関係を深める努力をしていく必要はある。

TPPの戦略的意味に対する理解を深めた上、それに参加することが日本にとっても重要とのコンセンサスが形成できれば、農業問題を克服する対策も大胆に進めていくことができると思われる。しかし現在は、開国するか否かの二分法的な議論や、農業への打撃に矮小化された議論に終始し、そこで思考停止して一向に議論が進まないことは、日本にとって不幸なことだと思われる。

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米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員
【著書】デフレの終わりと経済再生(ダイヤモンド社 2004年)、 図解よくわかる住宅市場 (日刊工業新聞社 2009年)ほか多数