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クラウドサービスとお客様の経験価値(Customer Experience)その1

2011年1月28日(金曜日)

1.IT Doesn't Matter

少し前になりますが、2003年にニコラス・カーは“IT Doesn't Matter”との論文を発表しました。彼は「企業がITを競争優位の源泉と考えるならば、ITは希少な資源でなければならない、しかし最近のITはコモディティ化(日用品化)してしまって、その基本的な機能は誰にでも安価に入手可能となっている。ITはビジネスにとっては必要なものではあるけれども、(安価に誰もが入手可能なので)他社との差別化をもたらすものではなくなってしまった。それゆえ、『もはやITに戦略的な価値はない』」との理論を展開しました。

“IT Doesn't Matter(たいしたことないよ)”と洒落たのでありますが、ちょうどネットバブルがはじけた直後でもありましたので、「ITは重要ではない」とか「ITなんかどうでもよい」と解釈されてしまい、大きなセンセーションを巻き起こしました。彼のこの主張に対しては多くの反論が寄せられ、「ITを梃子として新しいビジネス手法のイノベーションが行われている。ゆえにITは十分に戦略的である」、「ITは企業を変革させる為には欠かせない存在で、企業の成長をITが支えている。先端のITを取り込むことで企業の得るメリットは計り知れない」等々の論争が多くありました。しかしながら、彼の意見は企業がそれとなく抱いていた問題意識を言い当てた部分もあったので、議論を呼んだのではないかと記憶しています。

2.ITのユビキタス化とコモディティ化

最近のITは至る所にICチップやメモリが遍在するユビキタス社会になってきています。また、モジュール化とかオープン化によりITが日用品化するコモディティ化も進んでいます。この状況をみると、ニコラス・カーの「ITに戦略的価値がなくなっている」との意見には疑問がありますが、「ITは希少な資源ではなく、誰にでも入手可能である」との主張については正しいと言える面もありそうです。ITベンダー各社にもコモディティ化による価格破壊への危機感もあり、顧客により高い付加価値の提供が必要との意識も強く、製品を単独で提供するのではなく、サービスと融合させた商品提供へとシフトしてきています。

3.顧客経験価値(Customer Experience)

この「製品とサービスの融合」は、一般的に産業のサービス化と言われ、多くの産業で取り組まれています。最近のIT業界においてクラウドが話題となっていますが、このクラウドの提供はサービス化への対応の1つと言えます。購入希望のIT製品の機能、性能、価格に大きな差があれば、お客様は違いを感じ取ることができますが、IT製品がコモティティ化されていると、その機能、性能、価格に対して同じような価値しか認められず、差異を感じ取ることができなくなってしまいます。そのような状況において、顧客経験価値が商品選択の重要なポイントになります。

【図1】日本の「おもてなし」

【図1】日本の「おもてなし」

顧客経験価値とは、利用者が購入するにあたって体験する経験を5つに分類した価値だそうですが、簡単に言うなら、商品を購入したり、利用したりする中で得られる感情的な価値と言えます。以前に「あの商品を購入しようとしたら、対応が非常に早かった」、「商品の内容がわかり易く、直ぐに理解できた」、「店員の対応も大変愛想が良かった」、「説明も簡潔で、良く相談にのってくれた」、「購入手続きが簡単で、わけなく購入できた」といった感覚と言えます。【図1】の日本旅館における「おもてなし」に通じると言っても良いかと思います。製品にサービスを付加することにより、お客様のこの感覚の価値を高めようとするものです。したがって、製品単独ではなく、提供するプロセス全体を商品として考える必要があります。購買者が製品単独では他社との差異を感じ取れないことに対して、この購買プロセス全体の価値を高めることは製品選択時に重要な要素となり、クラウドサービスの展開においても考慮すべき点となります。

【図2】クラウドの提供する3つのサービス

【図2】クラウドの提供する3つのサービス

4.クラウドの顧客経験価値

一般的にクラウドのサービス領域は【図2】に示すように、3つの階層があると言われていて、今のところ、IaaSやPaaSを中心に展開されています。IaaSの顧客経験価値はどこにあるのかを考えてみたいと思います。先に述べた通り、コモディティ化されると製品単独での差別化は難しくなるので、サービスを付加し、一貫性を備えた質の高いサービス商品として提供することにより、差別化を図りたいと考えています。IaaSで差別化を具体的に示すものとして、可用性、信頼性、性能、拡張性などをアピールします。その内容を具体的にSLA(service level agreement)として提案するのですが、そのSLAは各ベンダーで遜色のないものになっているのではないでしょうか。所詮ハードウェアに依存した部分が多く、可用性や稼働率等を比べても、他社との差異を大きく感じ取ることができるものではなくなっています。

そのような状況において、少しでも他社との差異化ができる部分の1つとして、運用や保守があります。人間の手足で提供するサービスは、常に一様ではなくムラがあります。そこで、この提供プロセスを強化し、徹底的に高いレベルを維持し、常に均一で提供することができれば、他社との差別化となります。例えばコールセンターでの対応の方法、システム運用の状況を知らせるレポートの内容、障害や不具合に対する事前の察知能力、メンテナンスやインストール時の速さや正確さ等々において、このサービス・プロセス・マネジメントがしっかりしていて、お客様が素晴らしさを感じ、質が高いサービスだと経験してくれれば、その商品を継続して購入してくれることになります。したがって、この部分を含めたSLAを構築しなければなりません。

ここにIaaSの顧客経験価値があるのですが、1点考慮しておかねばならないことがあります。コモディティ化された製品(ハードウェア)は市場シェアの獲得が必要で、その為には規模の拡大を考慮しなければなりません。この商品は、ハードウェアとサービスを組み合わせているのですが、組み合わせたサービスが高コストになってしまっては、規模の拡大に支障をきたします。なぜなら、この商品もハードウェア価格の影響でコスト競争からは逃げられないと想定されるからです。継続して勝ち続けるには、サービスの提供スタイルを労働集約型にさせずに、生産性を高く維持する努力が必要となります。その為にはオンラインサービスや遠隔サービスによって、複数顧客へのサービスを分散させることなく集中して提供する仕組みが必要となります。このような努力によってコスト削減を図り、利益を生み出すことが重要で、それが可能となれば、サービスの単価の引き下げも可能となります。その結果、規模の拡大もでき、さらに生産性も高めることが可能となります。つまり、徹底的なデジタル化・集中化によりコスト競争に勝つことが、ユーザー数の拡大につながり、強く考慮すべき部分です。

SaaSについては、サービスそのものがソフトウェアの中にプロセスとして組み込まれていることから、顧客経験価値を少し違った視点でみる必要があると思います。その点については、次回「クラウドサービスとお客様の経験価値その2」で考えてみたいと思います。

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藤原寛文

藤原 寛文(ふじわら ひろふみ)
株式会社富士通総研 執行役員常務
【略歴】
1973年 早稲田大学理工学部電気工学科卒、富士通株式会社入社。金融システム部にて都銀のオンラインシステム開発に従事。1999年以降、インターネット、CRM、ユビキタスのソリューション開発に従事。2005年 富士通総研 執行役員常務。