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BOPビジネスの正しい捉え方

2011年1月26日(水曜日)

世界金融危機以降、日本企業の間では、いち早くV時型回復を見せた新興国の中間層ビジネスが成長戦略の重要なファクターとなってきました。そして、メディアの報道や産業担当官庁の活動において、途上国の低所得層、つまり、BOP(Base of the Economic Pyramid)をターゲットにしたビジネスの話題が多く取り上げられるようになりました。しかし、先進国を中心とするハイエンド市場に慣れ親しんできた日本企業は、新興国や途上国のミドル市場開拓でさえ試行錯誤の段階にあり、BOPビジネスの収益性や持続性に大きな不安を抱いています。

【図】世界の所得別・1人当たりGDP別の市場構成の概念図

【図】世界の所得別・1人当たりGDP別の市場構成の概念図

そもそも一部の先進的な多国籍企業は2000年頃から、これまでビジネスの対象としていなかったBOP層をターゲットにしたビジネスを積極的に展開するようになりました。人口増加率が高く、経済成長率も先進国より高いことや、資源が豊富であることが、BOPビジネスを展開する理由でした。具体的には、市場育成の視点から将来のミドル層への早期投資、ブランディング戦略の先行活動として国際的なレピュテーションの向上、世界的な優秀人材の発掘、世界的な独自知識・技能に基づくイノベーションの活動、などの視点からBOPビジネスを積極的に展開するようになっています。このような発想は、大部分の日本企業が求めている収益の上がる市場の考え方とは一線を画しています。むしろ、BOP市場を独立市場とは見なさず、ハイエンド市場、ミドル市場、BOP市場を統合させたグローバル市場戦略を展開しているように思われます。

例えば、味の素は、アジア途上国で市場のハイエンド市場に絞った戦略からローエンド、ミドルエンド、ハイエンドを一気貫通した統合戦略に改め、ローエンドからミドル、そしてハイエンドへと消費者を誘導していく「台車戦略」を採用し、トータルで収益の上がる市場開拓に成功しました。

また、これまでの先進的事例から、短期的に収益性を見込めないBOPビジネス活動においては、世界銀行、UNDP(国連開発計画)等の国際機関や各国の政府開発援助機構、NGO・NPOなどの民間組織との連携を通じて、現地社会における高い信頼性、強いネットワーク、現地市場や社会に対する豊富な知見を活用し、ビジネスの効率やコストパフォーマンスを高めている戦略的アライアンスも数多くみられます。なぜなら、収益性よりも後発地域の社会問題解決や生活向上という公益性を実現させようとするこれらの公的機関や非営利組織も、民間企業の技術、人材、事業遂行能力を活かして、より効率的に社会課題解決を図るというインセンティブがあるからです。現地住民の購買力増強と企業にとって収益の上がる市場の創出は公的支援機関の望むところです。

実際、BOPビジネスの成功事例としてよく語られるP&GのPUR(Purifier of Water:水を浄化する粉末)事業、ユニリーバのインド農村での女性起業家支援と自社製品の普及事業、住友化学のオリセットネット(蚊帳)によるマラリア防止事業などは、いずれもUNDPなどの国際機関やインド政府との官民連携があってはじめて成功を収めたものです。

さらに日本では、BOPビジネスといえば途上国の低所得者向けのB2Cビジネスであるという理解が多いですが、BOPビジネスをより広くとらえ、低開発国向けのB2Bビジネスも含まれると理解すべきでしょう。途上国のインフラ整備や社会基盤整備などのB2Bビジネスは、B2Cより先行して市場性があると考えられます。実際、中国やインドの通信インフラ市場は、1人当たりGDPが300~500ドル前後となる段階で既に形成されました。したがって、日系B2B企業も後発地域や低開発国でビジネスの準備を開始すべきです。

以上で見てきたようにBOPビジネスへの取り組みはグローバル事業戦略として位置づけられており、海外事業と直結しています。他方、住友化学のマラリア防止事業などはCSR(企業の社会的責任) の一環として推進しています。実際、大部分の日本企業がBOPビジネスと関わる契機の1つは、国際CSR活動であります。日本経団連の調査によると、2009年度に回答した348社の日本企業は社会貢献活動に総額1,533億円、経常利益の2.57%を支出していました。戦略的な推進を行えば、これらの予算や活動はBOPビジネス開拓と両立する可能性が高いです。実際、グローバル的には、責任の目立つCSRよりも、社会と企業にWin/WinをもたらすCSV(Creating Shared Value、共有価値の創出)の考えが台頭してきています。日系企業にも意識変革が求められています。

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【調査・研究】


金 堅敏(Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。