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2011年の経済を展望する

2011年1月21日(金曜日)

2011年の経済を展望する上で考えておかなくてはならないことは、為替、企業の海外移転、内需、中国などアジア経済の状況、の4つが特に重要でしょう。私たち富士通総研では目下2010年度の実質経済成長率は2.4%、2011年度は1.2%程度と見ております。2010年度は前年の大きな落ち込みの反動で高い成長率になるものの、2011年度は日本の潜在成長率と同程度の成長になる、ということです。

1.為替は1ドル90円程度の円安に

為替については個人的には1ドル90円くらいまで円安になると見ています。もともと最近の円高は安全資産として短期的に保有しておこうという程度の消極的なもので、低成長で金利もゼロのような国に資金が長期に滞留することはありません。遠からずアジアの近隣諸国に移っていくでしょう。したがって、ゆっくりとではあっても円高は是正されていくと思います。ただし、円高になるとすぐに大騒ぎする風潮は良くないと考えています。日本は輸出と輸入の差はほとんど無く、輸入面でのメリットも同様にあるはずです。現に2011年3月に終了する会計年度での企業収益は、リーマンショック以前の高い水準にあと一息というところまで回復しています。

2.企業の海外移転は耐久消費財で特に進む

日本企業の海外移転はますます進むでしょう。長期的に見れば、どこの先進国でも国内企業が海外移転する傾向は避け難いものがあります。先進国で製造業の割合が低下しない国はありません。日本企業の場合、労働慣行が特殊であったり、言葉の問題もあったりして、米国や欧州企業に比べると、製造業の海外移転は遅れて始まりました。しかし、最近におけるアジア諸国の急激な成長と国内市場の低迷を受けて、日本企業の海外生産指向は急速に高まりつつあります。特に、自動車や家電製品など、規格大量生産の耐久消費財はその傾向が顕著で、輸出から現地生産、さらには逆輸入へと、企業戦略は急速に変化しており、それに伴って、日本経済の成長、雇用、貿易などへの影響はさらに大きくなるでしょう。しかし、製造業の海外移転が進んだからといって、わが国産業の空洞化が急に進み、原材料や食料品を買う金すら稼げない、というようなことにはなりません。生産基地が海外に移転しても、基幹部品や原材料は引き続き日本から供給されることになります。欧米諸国とは異なり、日本はアジアの国々に対して貿易収支は黒字です。バリューチェーンの肝心なところをしっかり押さえているからです。今まで築き上げた技術基盤はそう簡単に失われるものではありません。

3.内需主導の成長のためには所得引き上げを

内需は今のままでは、大きな期待は出来ません。一般の勤労者の賃金は過去12年間下落を続けてまいりました。これでは、GDPの55%を占める個人消費は増える見込みがありません。2010年度はエコカー、エコポイントという消費刺激策が大いに消費の拡大に貢献しましたが、これも2010年末には終了し、翌年度は需要先食いの反動で大きく落ち込む恐れがあります。消費の拡大が期待できなければ、企業としては国内での設備投資は抑え、海外投資に切り替えることになるでしょう。私は「日本人は金を持っていないから相手にしても無駄だ。これからはアジアで稼ごう」というような最近の風潮に懸念を持っています。生産性に見合った賃金を払い、日本人の所得を引き上げることにより、内需主導の成長は可能だと見ています。

【グラフ】日本の賃金と労働生産性

【グラフ】日本の賃金と労働生産性

4.アジア諸国の経済成長は順調

アジア諸国の経済成長は順調に続くでしょう。中国については北京オリンピックや上海万博など大イベントが終了し、国内での不動産投資の過熱やインフレなど調整要因もありますが、それが直ちに成長率の大きな下落に繋がることはなさそうです。それ以外のアジア諸国でも景気の行き過ぎはありえますが、ベトナムやインドを除けば各国の経常収支は黒字を維持していますから、かつてのアジア金融危機のようなことにはなりそうにありません。

5.経営者が率先してリスクをとり世界で戦う覚悟を

最後にひとつ申し上げたいことがあります。かつて日本の経営者は世界中で高い評価を受けていました。日本的経営は一時期、欧米のビジネススクールで最も人気あるテーマでした。今、日本人経営者について言われるのは、ビジョンがない、決断力がない、大胆さに欠けるなど、ネガテイブなことばかりです。

富士通総研経済研究所の野中郁次郎理事長によれば、日本の経営者は『大丈夫かシンドローム』に罹っている、ということです。部下から上がってきた提案に対して『おい、本当に大丈夫か』というようなことを言うので、社員全体が萎縮して大胆なことを考えなくなっているというのです。経営者がもう一度奮起し、率先してリスクをとり、世界市場で戦う覚悟を固めていただくことが、日本の未来にとって何よりも必要なことだと思っております。

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2010年 経済研究所エグゼクティブ・フェロー
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など